テレ朝POST

次のエンタメを先回りするメディア
menu

窪塚俊介、最新主演映画で一番大切にしたかった“雰囲気”。大好きな太宰治の原作だからこそ「スタッフとかなり話し合った」

2007年、大林宣彦彦監督の映画『22才の別れ Lycoris 葉見ず花見ず物語』に出演して以降、大林組の常連俳優となり、2017年に映画『花筐/HANAGATAMI』で主演俳優として起用された窪塚俊介さん。

2018年には映画『スカブロ』(矢城潤一監督)で、実弟でレゲエミュージシャンのRUEEDさんとW主演を務め、兄・窪塚洋介さんも出演。現在、映画『青すぎる、青』(今関あきよし監督)が公開中。

2023年12月15日(金)に主演映画『未帰還の友に』(福間雄三監督)の公開が控えている。

©GEN-YA FILMS 2023

◆主演映画で海外の映画祭へ

大林監督の現場では、俳優はマネジャーを連れずに監督と直接話すということでも知られている。

「それよく言われますよね。皆さんそういうエピソードを持っていたりとか。でも、僕の場合は、現場によってはマネジャーが来るときもありますけど、基本的にどこにでもひとりで動いてという感じなので、全然不自由はなかったです」

――お付きの人がたくさんいる人たちはつらいでしょうね。

「俳優さんによっては、マネジャーが現場にいないのはつらいかもしれませんね。だから大林組は自ずとああいうメンバーになっていくんですかね。僕自身は、大林組においてマネジャーがいない不便を感じたことはなかったです」

――『花筐』は、ニューヨークの「ジャパン・カッツ」(ジャパン・ソサエティーで開催されたイベント)でクロージングナイトを飾ったそうですが、いかがでした?

「僕は大林監督の代理で行ったのですが、やっぱり大林監督の人気はすごいなと驚きました。熱狂的というよりも、お客さんがすごくしっかり作品を見ているなって。

オランダの『ロッテルダム国際映画祭』にも行かせてもらったのですが、そちらもできれば大林監督にも来て欲しかったんじゃないかな。クロージング作品だったんですけど、長旅なので監督の体調もあったので。

映画祭に来てくれた観客が、鑑賞後に自分の意見を伝えたいんだというのをすごく感じたので、こっちもうれしいじゃないですか、その熱というか。『ちょっとそれは監督に聞いてよ』みたいなことを聞かれたりもしましたが(笑)。

海外は反応がやっぱり違いますよね。日本もだいぶ表に出るようにはなってきましたけど、それでもやっぱり国民性なんでしょうね。日本では音楽がかかるとつい踊っちゃうみたいな人のほうが少ないですから(笑)」

私生活では、2016年に結婚。2017年に第1子、2021年には第2子が誕生した。

「大林監督に結婚したことを報告したら、ひっそりとお祝いをくれました(笑)。僕自身としては、結婚してというよりも、子どもができて明らかにシーズンが変わったなと実感しています」

 

◆地元・横須賀で窪塚3兄弟が共演!

2018年、窪塚さんは、映画『スカブロ』(矢城潤一監督)で、実弟でレゲエミュージシャンのRUEEDさんとW主演を務めた。この映画は横須賀出身の監督・俳優らと「オール横須賀」を掲げて制作されたもの。

窪塚さんが演じたのは、東京で俳優として伸び悩んでいる兄・龍助。数年ぶりに横須賀に帰ってくると弟・虎太(RUEED)は数年前に龍助とはじめた便利屋を続けていた。二人はロスからやって来たナオミ(AISHA)のために、生き別れた彼女の母親を探すことになるが、そこでさまざまなトラブルに巻き込まれていく…という展開。

タイトルの「スカブロ」は、横須賀の“スカ”と英語のスラングである“bro(兄弟、仲間)”からなる造語だという。

――俊介さんとRUEEDさん、そして洋介さん、3兄弟の共演が話題になりました。好きな作品です。

「ありがとうございます。うれしいです。スタッフも横須賀にゆかりのある方が多くて。地元の先輩がきちんと仕切ってくれたおかげで、普通じゃできないようなことも融通を利かせてくれました。(小泉)進次郎くんと孝太郎くんも出てくれて。やっぱりああいう作品は、結果云々も大事だけど、好きだと言ってくれる方がいるということがすごくうれしいです。

自分の中でも節目というか、弟と一緒にできたというのも大きいです。そうしたら、途中で兄貴が『俺も出る』ってエキストラ出演(笑)」

――喫茶店の常連客で出てらっしゃいましたね。

「はい。すごく楽しかったです。あれは実家に泊まってやっていたんですよ。予算も時間も限られていて。弟はミュージシャンだから資質としては申し分ないんですけど、セリフを覚えてしゃべるというのはおそらく初めてだったので本業での表現とは、また違ったと思います。

実家で布団を並べて寝て、夜な夜な台本を広げていろいろやって、3時間ぐらい寝て起きて。母親に起こされて、『行きなさい』って言われて、二人で学生みたいな生活をしました(笑)」

――お母さまは息子さんたちが皆さん芸能界でご活躍されていて喜んでらっしゃるでしょうね。

「母親はそうかもしれませんが、父親はどう思っていたのでしょうね。父はまったくそういう畑の人間ではなくて、自動車関係の技術屋だったので、芸能界は別物みたいな感じだったと思います。父親が舞台を見にきていることに、しばらくちょっと違和感がありました(笑)」

――ご兄弟の共演作品が映画として残っているというのはいいですよね。公開されたときはいかがでした?

「横須賀の街は反響というか、すごく喜んでくれました。何よりもまず1本の映画を完成させられたということが良かったです。いろんな人が参加してくれたので、達成感と充実感がありました。

僕は作り手側になってやったことがあまりなかったので、ある意味中立的な立場で、芝居もやらせてもらいましたけど、その裏でも動くというのは、いい経験になりました」

『スカブロ』が公開された2018年、窪塚さんは出演予定だった舞台の稽古後に体調不良に襲われ、椎骨(ついこつ)動脈解離を発症。療養することに。

「びっくりしました。そんなに軽く言っちゃいけないぐらいご迷惑をかけてしまいました。舞台の稽古中で、もうすぐ本番っていうときだったんです。医者には病気というか、ケガみたいなものだという風に言われたのですが、大事をとって降板することになりました。

ラサール石井さんが演出で、初日まで1週間あったかな。本当はもう間に合わないレベルだったのですが、バトンタッチさせてもらいました。

あれはめちゃくちゃいい役だったから、絶対にやりたかったのですが、公演中に倒れでもしたらそのほうが迷惑をかけてしまうし、実際そういうこともありますしね。でも、めちゃくちゃ悔しくて、ちょっと泣きました」

今は、病気をしたことを忘れるくらい調子がいいそうで、健康のありがたみを実感したという。

現在、映画『青すぎる、青』が公開中。この映画は、オール鹿児島ロケのファンタジー。唯一の家族だった父が急死して喪失感を抱える美大生・美巳(上大迫祐希)がさまざまな出会いや不思議な体験を通じて、自分と向き合っていく様を描いたもの。窪塚さんは、港に現れる謎の男・佐野広大役を演じた。

「今関あきよし監督は、大林監督を心から尊敬されていて、“大林チルドレン”だという方で『花筐』にもエキストラで参加してくれていたらしくて。

僕は今関監督とはそれまで面識がなかったのですが、『青すぎる、青』を撮るということを聞いてオーディションを受けに行ったんです。僕を見て監督もびっくりしたみたいですが、『青すぎる、青』の話はほとんどせずに、大林監督の思い出話に花が咲いて終わったという感じでした」

――劇中、窪塚さんが船に乗って去っていくシーンが大林監督の作品とオーバーラップしました。

「たしかにそうですよね。この映画の撮影監督は、後半の大林監督作品を撮られていた三本木(久城)さんでしたから。それも参加させてもらった一つの理由です。大林監督の作品に近い画が展開していますよね」

©GEN-YA FILMS 2023

※映画『未帰還の友に』
2023年12月15日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
配給:トラヴィス
監督:福間雄三
出演:窪塚俊介 土師野隆之介 清水萌茄 萩原朔美

◆太宰治が戦争を描いた名作短編を映画化

2023年12月15日(金)から公開される主演映画『未帰還の友に』で窪塚さんが演じたのは、学生たちに慕われている小説家の先生。自分を慕う学生たちの中でも、特別の友情を感じる鶴田(土師野隆之介)が出征することになり、二人で酒を交わす。

「太宰治先生は僕も大好きですが、この映画をやるとなれば、太宰役なわけじゃないですか。でもそうじゃなくて、小説の中では『先生』という登場人物だと監督とプロデューサーとかなり話し合いました。太宰というのではなく、先生という役でできないかと。

監督たちは、やっぱり太宰のほうがインパクトがあるのか、太宰でやりたいとおっしゃって。全然違うじゃないですか。太宰治役と太宰を模した登場人物、先生役というのでは。

僕はある意味での逃げというか、太宰役となれば本当に寄せていかないとダメだし、見たときの先入観というのは、『太宰治役です』というところからスタートすると、僕が見る側だったら、それは結構気になってしまう。

あくまでフィクションを交えた短編小説ということで、先生役というところになったんですけど。『まあ太宰なんですけどね(笑)』っていう、ちょっと歩み寄りも含めながら、それで落ち着かせてもらった。

太宰治の原作でというぐらいの構えでいいんじゃないかと思って、良い意味で。そこにエネルギーを注ぎすぎてはいけないという直観がありました。このストーリーが大事なのか、太宰と明記されていない役で太宰になることが大事なのかって言ったら、映像化するなら前者のほうだなと。

監督たちは、そうは言っても太宰だからということを常に語尾につけてきましたが(笑)。最終的には双方が納得した状態でクランクインできたのでよかったです」

――見ている側からすると土師野(隆之介)さんとのバランスもとても良かったです。

「ありがとうございます。若者二人の話じゃないですか、青春というか恋愛の。彼は本当に素朴なというか朴訥とした感じの好青年で。上映時間が75分というのもいいなと思いました。2時間だと少し長く感じる可能性があるので、ちょうどいいんじゃないかなと思います」

――撮影は順調に進みました?

「撮影は1週間とかいうレベルで、限られた時間の中でしたが、その良さもやっぱりあるんです、今回。撮影は大きいトラブルはなかったです」

――ご自身で考えていたイメージ通りの先生でした?

「そうですね。出来上がりを見ると、何か自分が思っていたのとは多少、良くも悪くも違うというかズレはありましたけど、許容範囲の中での相違だったかなとは思います。『もっとこうしておけばよかった』というのはないですね。

生徒たちがこれだけ慕ってきて、いろいろな会話とかから紐解いていくと、かなり生徒との距離感が近いというか、親近感が持てる先生だと思うんです。それでいて先生としての威厳というよりも、先生たる雰囲気はもちろん纏(まと)ってなければいけない。

自分の容姿だったり、性格、演じ方などで、ああいうところにいきましたけど、今回大事にしなくてはと思ったのは雰囲気。そのストーリーというか、この作品の雰囲気を纏わなきゃいけない。

大体、雰囲気から入るとよくないじゃないですか(笑)。形から入っちゃうみたいな。そういう次元の話じゃなくて、この作品の雰囲気というのは、先生が一番纏ってなきゃいけないなっていうのは、意識して一番大事にしていました」

――あの距離感いいですよね。とても近いんだけど、やっぱり尊敬もされているし愛されている。

「いわゆる先生みたいな感じになってしまうと、また全然違う。ちょっとダメな感じでやる(笑)。太宰先生って映像がないので、写真だけなんですよね。写真を見て動いている姿を頭で想像する。普通に話しかけてくれて、笑って、酒飲んで酔っ払って記憶なくして…という人の感じがします。って、結局太宰役をやったのかってくらい考えましたが(笑)。

一般的なイメージって、『死に取りつかれた男』みたいなところもありますよね。ミステリアスというか。でも、そういう感じじゃないと思うんです。普通ではなかっただろうけど」

――今後はどのように?

「9月に舞台をやったのですが、舞台をやっていると、『舞台をもっとやりたい』って思うし、でも今は本当に映画でもドラマでもいろんなことをやりたいなって思っています。

自分としては、今芝居に向かう姿勢や、考え方などがすごく整っていて、精神的にすごくいい状態だなと感じるので、大小問わずさまざまやってみたいなという思いです」

主演映画の公開も控え、充実した日々が続いている様子の窪塚さん。さらなる活躍が楽しみ。(津島令子)

ヘアメイク:森田杏子