遠藤久美子、20代を振り返り「仕事をしていて恋愛が遅かった」 夫・横尾初喜監督へのひと目惚れで「お花がパーッと咲いた」
17歳のときに出演したマクドナルドのCMで注目を集め、“エンクミ”の愛称で人気を博し、多くのドラマ、映画、舞台に出演してきた遠藤久美子さん。
2015年、映画『田沼旅館の奇跡』(井手比左士監督)に監督補として入っていた横尾初喜監督にひと目惚れをしたことがきっかけで、2016年に結婚。2017年には第1子となる長男、2019年には次男が誕生。
仕事面でも長編監督デビュー作『ゆらり』をはじめ、『こはく』、『達人 THE MASTER』、『大事なことほど小声でささやく』など多くの作品でタッグを組むことに。2023年9月29日(金)には、横尾監督最新作『こん、こん。』がヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開される。
◆念願叶った映画監督デビュー
横尾監督は、2017年に公開された映画『ゆらり』で長編監督デビューすることに。この映画は、石川県の老舗旅館を舞台に、「伝えられなかった思い」を抱える人々がときを超えて家族の絆を取り戻す姿を描いたもの。
遠藤さんは、交通事故を起こしてしまい、幼い娘・瞳と妻の元を去った高山(戸次重幸)の同僚・保科役。旅行雑誌で高山の成長した娘が旅館で働いていることを知り、高山を誘って旅館を訪れる。
――不思議なリモコンを手にしたことで、3つの家族にささやかな奇跡が生まれていく。亡くなった人に伝えたかった想いが救われる感じがしました。
「ありがとうございます。主人はずっと『映画が撮りたい』と言っていたので、念願の長編監督デビュー作でした。私はずっと出る側だったので、制作過程を初めて目の当たりにしたという感じでした。
脚本も製本になるまで何十回も書き直して作り上げるということ、スタッフの方との会話とか、カメラマンさん、照明さん…いろんな担当の方たちとどういう風に話し合って作っていくのかというのを初めてそこで知りました。
それまでいろんな作品に出させていただいていましたけど、あまり意識していなかったというか。たとえば、小道具のティッシュ箱一つにしても、このデザインでいいのかと話し合ってというのがすごく新鮮で。
『ゆらり』のときに、キャスティングの段階で『誰にしようかな』と言っていたので、『私、空いていまーす』って言ってアピールしていました(笑)。
『ゆらり』の撮影のときは、まだお付き合いしている段階だったので、みんなには秘密にしながらみたいな感じだったんです(笑)。あのときは、まだそのことを知っているのがカメラマンの方だけで、ほかのみんなは知らなかったので」
――現場で監督と女優さんとしてはいかがでした?
「プライベートでは、楽しくみんなと和気藹々として柔らかいフィルターで見てくれている人なのですが、その人柄がそのまま出ているような現場だったので、とても居心地が良かったです。多分皆さんもそうだったんじゃないかなと思います。
初監督作品ということで、最初はキャストもスタッフもお互い少し遠慮するようなところもあったのですが、日を重ねるうちに信頼関係が生まれてきて、みんなが同じ方向に向かって団結していくのを感じました。
監督モードの主人をこの作品で初めて見たんですけど、人間関係の構築の仕方とか、仕事の顔を見ることができたというのは、すごく良かったと思います。でも、結局のところ、いつもプライベートで私に見せてくれる人柄がすごく出たような作品になっていました。
初めての監督作品なので、あそこをもうちょっとこうしたいとか、きっとあったと思うんですけど、そこに参加することができて良かったと思いました。女優として、また一緒に仕事をしたいって心から思いました」
◆「井浦新さんが主人にしか見えなかった」
映画『田沼旅館の奇跡』の撮影で、初めて横尾監督と出会い、ひと目惚れしたと話す遠藤さん。横尾監督は、ひとりだけ光を放っていたという。
「そういう人と一緒になれているというのは、すごくラッキーだなって思います。主人は、母子家庭で育ったので、家族への愛というのが人一倍強いんです。
もともとすごいガキ大将でやんちゃで、高いところに登っては、『初喜くん、下りてきなさい』って注意されたり、元気いっぱいに、のびのびと育った少年だったらしいんですね。
なので、映画を撮ると言ったときには友だちが『やめておけ。みんなに迷惑かけるのか』って言われるぐらいやんちゃだったらしいんですけど、芯には、愛、家族への愛、人への愛みたいなものがすごくしっかりあって。そういうことを大事にしているので、そこを撮っていきたいって本人は言っています」
2019年に公開された映画『こはく』は、横尾監督の幼少期の実体験がベースで、幼い頃に姿を消した父を長崎で必死に捜し歩く兄弟の姿を描いたもの。遠藤さんは、バツイチの弟(井浦新)の現在の妻・友里恵を演じた。
――『こはく』は、監督がご自身の半生を投影させた作品だということなので、いろんな思いがあったでしょうね。
「それはあったと思います。『こはく』に関しては、自分を掘り下げていく作業だったと言っていました。より自分のことを知ることによって、いろいろなことが明確になって、芝居に対するOKの質が変わってきたと言っていました」
――監督がモデルの役を演じたのは井浦新さんでした。
「はい。本当に新さんがすばらしくて。撮影の最中、新さんは主人を見てすごく研究されていたみたいで、新さんが主人にしか見えなかったんです。それで、主人のほうはちょっと新さんに嫉妬しちゃうところがあったみたいです。まだ初々しい時期だったので(笑)。
だけど、現場では本当に新さんにたくさん支えていただきました。エキストラの方々とか、子役の方が泣きの芝居に入れるように、ただ傍にそっと立っていてくださったりしていたんですよね。
新さんは、ご自身が若いときに出会った監督に鍛え上げられたとおっしゃっていて、その監督の魂を受け継いでいるので、バジェットが小さい映画に参加したときは、自分ができることは自ら率先してやるというスタンスになっているらしくて、たくさんサポートしていただきました。
本当に神がかったような感じの現場で、天気まで『嘘でしょう?』っていうぐらいだったんです。最後のラストカットなどは、雨が降って雷が鳴って晴れて…という感じで心情を表すような天気になって。みんなで『映画の神様っているんだね』って言っていました」
2021年に公開された映画『達人 THE MASTER』では、出演者としてではなく主題歌を担当。この映画は、記憶を失った男が記憶を取り戻そうと奮闘する姿を描いたもの。
「実は、『達人~』は、私にSEXの達人役で出演させるかどうかですごく悩んでいました。『これはやらせたくないんだよなあ。でも、これしか役がないんだけど、やっぱりやらせたくない』とか言って(笑)。結局主題歌を歌うということになりました」
2022年には、映画『大事なことほど小声でささやく』が公開された。この映画は、「スナックひばり」に集う悩み多きジム仲間たちが、筋肉隆々のからだを持つ“ゴンママ”こと権田鉄雄(後藤剛範)と出会い、再生していくさまを描いたもの。
店に集う客にゴンママは、それぞれの悩みに寄り添うカクテルを用意し、“カクテル言葉”を小声でささやく。遠藤さんは、ゴンママのジム仲間の歯科医・四海(深水元基)の妻・由佳役で出演。幼い娘を亡くした悲しみに加え、夫が放った言葉で心が壊れてしまうという難役に挑んだ。「悲しいときは泣けばいいのよ」というゴンママの言葉が心に沁みる。
※映画『こん、こん。』
2023年9月29日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:BLUE.MOUNTAIN
監督:横尾初喜
出演:遠藤健慎 塩田みう 大橋彰(アキラ100%) 森あゆ 中山晴華 橋本和太琉
栄信 遠藤久美子
◆アピールしてキャスティング
2023年9月29日(金)には横尾監督最新作『こん、こん。』が公開される。この映画は、長崎県オールロケで、何事も「フツ―」な毎日を送る大学生・堀内賢星(遠藤健慎)と、明るくて誰とでもすぐに仲良くなる同級生・七瀬宇海(塩田みう)、対極的なふたりの恋を描いたもの。
最初は、自分とは真逆な宇海に戸惑う賢星だったが、不思議な魅力に惹かれていくが、若さゆえに素直になれず…という展開。遠藤さんは、宇海の母親役で出演している。
――横尾監督はコンスタントに映画を撮っていらして、『こん、こん。』が間もなく公開されますね。
「はい。この作品も『はーい、私空いていますよ』って言って出ることになりました(笑)。
主人は役ありきなんです。もちろん主人の仲間もいっぱいいて、ケンケン(遠藤健慎)も、みうちゃん(塩田みう)もそうなんですけど、横尾組は、アキラさん(大橋彰=アキラ100%)、井浦新さん、鶴田真由さん…ほかにもいっぱいいるんです。
最初は、その役にハマる人をキャスティングするので、私のことは(念頭に)ないんですよ。なので、思い出させるように『私、いますよ』って、ちょっとポソッと言うんです(笑)。
やっぱり役を重要視しているので、その役にハマらないとキャスティングしないんですけど、今のところはなんとなくハマって出させていただいているという感じです」
――今回の作品は、ポスターの美しいブルーがとても印象的ですね。
「そうですね。この“青さ”は、若さの青さと、空の青さ、海の青さと、海の美しさのブルーで。今回は、みうちゃんのお母さんの役をやらせていただいたのですが、ゼロから制作過程をそばにいて知っているので、撮影のときはものすごく緊張しました。
亡くなってしまった自分の娘(宇海)は失恋したわけですけど、目の前で娘が大好きだった彼が泣いている。宇海へのたくさんの思いが溢れて。それを受け止めたときに、彼には感謝の思いしかなくて。
幸せにしてくれたとかじゃなくて、そこまで宇海があなたの心の中にいてくれているということに『ありがとう』という気持ちしかなかったです。それは、脚本を読んでいるときにはわからなかったんですけど、撮影を通して初めて思ったことでした。歯車がちょっと合わなかっただけ、誰も悪くないというのがすごくよくわかって」
――もうちょっと素直に思いを打ち明け合っていたなら…と思うと切ないですね。
「そうですね。そこが青いというか。起きてしまったことは、もう取り返せないという後悔を描きたかったと言っていました」
――撮影は監督の地元の長崎で。
「はい。『こはく』に続くオール長崎ロケの作品になりました。長崎では、企業さん含め市民の方々にオーディションに参加していただいて、お祭りのようにして撮っていました(笑)。ひとりでも多くの方に観ていただきたいです。まずは知ってもらいたいという思いがやっぱり強いです」
現在は横尾監督と義母、6歳の長男と3歳の次男の5人で暮らしている遠藤さん。女優としてだけでなく、子育てにも奮闘中。取材当日は、監督が子どもたちと留守番をしていたという。
「6歳と3歳の男の子ですけど、パパっ子で、パパがいると留守番も平気なんです(笑)。全然何の問題もなく、今日も『いってらっしゃい』って言っていました」
――朝6時には起きて、ご飯やお弁当の準備をされているとか。
「はい。今日は台風で学校が休校になったので、主人と義母と家にいます。なので、朝起きてご飯を作って、お昼の分もちょっと多めに作って来ました。今同居しているので、おばあちゃんに負担がないように」
――ご夫婦で出演されているバラエティ番組を拝見したのですが、とてもいい雰囲気でステキでした。
「ありがとうございます。私は、本当に好きになった人が今までいなかったんだと思います。だから、多分お花がパーッと咲いたのでしょうね(笑)。
20代前半くらいで皆さんが経験されているであろうことがなかったのは、主人と出会うためだったんだと思います。皆さんがそういう恋をしていた時期に私は仕事をしていたので、恋愛が多分遅かったんだと思うんです。だから、何かキラキラキラッとしたのでしょうね(笑)」
横尾監督への愛と信頼が溢れ、大きな瞳がひと際輝く。見ているだけで幸せな気持ちになるチャーミングな笑顔がまぶしい。(津島令子)
ヘアメイク:佐々木彩