遠藤久美子、結婚のきっかけはひと目惚れ。「ひとりだけ光を放っている人が…」
2002年に初舞台『ダブリンの鐘つきカビ人間』を経験したことで女優として生きていく覚悟を決めたという遠藤久美子さん。
2008年には昼帯ドラマ『安宅家の人々』(東海テレビ)に主演。映画『五日市物語』(小林仁監督)、『田沼旅館の奇跡』(井手比佐土監督)、『警視庁捜査一課9係』シリーズ(テレビ朝日系)など多くの作品に出演することに。
◆16年間在籍した事務所から独立
2008年には『安宅家の人々』で昼帯ドラマの主役に。遠藤さんは、大富豪の御曹司と結婚し、“無償の愛”を貫こうと決意しながらも、さまざまな葛藤にさいなまれ、迷い苦しむヒロイン・宇田川久仁子を演じた。
――昼ドラは長時間の撮影で知られていますが、いかがでした?
「台本が1話から5話までくっついている分厚いものでビックリしました。『えーっ、こんなにセリフを覚えるんだ』って(笑)」
――昔はよく27時(午前3時)終了、(翌朝)8時開始とかもありましたよね。
「はい。当たり前でした(笑)。結構セット押しが多くて、セットでのシーンをバーッと撮っていくみたいな感じで、『今、どこ?』って確認しながらやっていました。
撮影が立て込んで睡眠時間が削られてくると、結構ピリッとした空気になりがちで、プロデューサーの方から『主役なんだから、もっとピシっとみんなをまとめなきゃ』って言われたんですけど、とてもそんな余裕はなかったです。
『私、セリフ覚えで精一杯なので、ごめんなさい、いっぱいいっぱいです。やってください』ってお願いしていました(笑)。
必死になってセリフを覚えるという毎日だったので、表現することが追いつかない感じがしていました。とにかく撮影が長時間だったので、スタッフの方たちも大変だったと思います」
2011年、遠藤さんは16年間在籍していた事務所から独立する。きっかけは東日本大震災。仕事の合間を縫ってボランティア活動で訪れた被災地で目にした状況に呆然となってしまったという。
「私の父方の祖母の家が福島にありまして、東日本大震災で大きな被害にあったんです。そういうことが身近にあったので、ずっと事務所や家族に守られてきた私がすべてを失ったとき、自分の足で歩くことができるのだろうかと考えるきっかけとなりました。
事務所の社長とも話し合って、舞台がやりたい私とバラエティ向けの若いタレントを育てたいという事務所との方向性もちょっと違うねということもあってフリーになりました。自分を厳しい状況に置くことで人としても女優としても成長していきたいと思ったんです」
――フリーで活動された期間はどれぐらいだったのですか。
「1年ぐらいだったと思います。マネジャーさんもいなかったので、パソコンやファックスを準備して、ホームページを作って、そこで繋がった方とお仕事をしていくという感じでした」
――ご本人とギャラ交渉をしたりするのは嫌がられたのでは?
「それは言われました。請求書を出すタイミングもわからなかったので、今思うとすごく失礼な出し方だったかもしれません。忘れちゃうので、仕事が終わったらすぐに出すという感じだったので。
それまで一緒にお仕事をしたことがなくて、初めてお仕事の話をいただいて会う方の場合は、その方が本当にお仕事をしている方なのかということもわからないので、会社をネットで調べて、ちゃんと会社があるとか調べたりしながらやっていました。プロデューサーさんとかには、『いくらフリーでも、マネジャーも付けていないのは、樹木(希林)さんと遠藤さんぐらいですよ』って言われました(笑)」
◆主演映画が独立のスタートラインに
事務所から独立した2011年、遠藤さんは映画『五日市物語』(小林仁監督)に主演。
秋川市と五日市町が合併して発足した東京・あきる野市の市政15周年を記念して製作されたこの映画で遠藤さんが演じたのは、番組制作に必要な情報収集を行っている会社で働く主人公・友里。
最初はそれまでと同じ仕事の一環として、かつての五日市を調査しはじめた友里だったが、ひとりのおばあちゃん(草村礼子)と出会ったことで変わっていく…という展開。
「この映画は、1年間を通して撮影したいというお話で、制作の途中で独立することになったのですが、前の事務所も寛大だったのでそのまま継続して撮影しました。独立へのスタートラインになった作品です。
五日市町を知ってもらいたいということで、市役所で働いていた方が脚本を書かれてメガホンも取ったのですが、もともと学生時代から映画製作をしたかった方だそうで、『夢が叶った』と仰っていました」
――撮影はスムーズに進んだのですか。
「市民で作り上げるという形だったので、朝から準備して、メイクさんとお菓子を食べながら待っていたら夕方になって、日が落ちちゃって撮れなくなってしまったということもありました。
でも、おいしいご飯を食べて、お風呂に入って、寝て…というのも、私が独立して個人でやっていたので融通がきくというか、フランクに対応できる環境だったので、市民で作品を作るという機会を一緒に楽しむことができました。
小道具の時計も思い通りのものがなかなかなくて、スタッフのお友だちとか親戚に電話して、持ち寄ってもらって、ブルーシートの上にいっぱい並べてみんなで選んだりしていたので、すごく手作り感のある作品でした」
――あの作品にふさわしい雰囲気のなかで撮られた作品だったのですね。
「はい。私は五日市の人間ではないですけれども、市民のひとりとして参加できたような温かい雰囲気で、とても心地良かったです」
約1年間フリーで活動していた遠藤さんだったが、2012年、東宝芸能に所属することに。
「『警視庁捜査一課9係』にずっとレギュラーで出させていただいていたんですけど、(主演の)渡瀬恒彦さんがとても心配してくださって。
マネジャーさんもいなかったので、東映のプロデューサーの方が私と直接ギャラとかスケジュールのやり取りをしていたのですが、正直ちょっとやりづらさがあると。それで、東映に入るかという話になったんですけど、東映は女優さんはあまり得意じゃないと。
ちょうどそんなときに日比谷公園で撮影をしていたら東宝さんの看板が見えて、渡瀬さんの(東映の)マネジャーさんが面接に連れて行ってくださって東宝芸能に入ることができたんです。だから東映のマネジャーさんが東宝に入れてくださったという不思議なことに(笑)。
私が女優としてやっていく覚悟を決めた初舞台『ダブリンの鐘つきカビ人間』のヒロイン役で、いろいろなことを教えていただいた水野真紀さんも所属されている雲の上のような事務所に入れていただいて信じられない思いでした」
◆映画の撮影現場で運命の出会い
2015年、遠藤さんは、映画『田沼旅館の奇跡』(井出比佐土監督)に出演。この映画は、寂れた温泉街で廃業寸前の田沼旅館をなんとか存続させようと奮闘する女性旅行雑誌記者(夏菜)と宿泊客たちが繰り広げる騒動を描いたもの。遠藤さんは田沼旅館の女将・田沼加恵を演じた。
「映画を撮ったことがないバラエティ番組のディレクターさんが監督して『沖縄国際映画祭』に出すということになって、主人が監督補としてサポートで入ることになったんです。
1階が撮影場所で、2階がモニターでスタッフがいたので、2階で何をやっているのかなと思って上がっていったときに、モニター前で手を組んで座っている人がいたんです。その人がひとりだけ光っていて…私のひと目惚れでした(笑)。それで、『あの人は誰ですか?』って聞いたら、『今回は監督が4人入っている』って教えてもらって。
すごく気になったので、すぐマネジャーさんに電話して、『横尾(初喜)さんという方がいらして、今度あの方と仕事がしたいんです』って、デビューして初めて自分から言いました。
主人は仲間4人で会社を立ち上げていて、映画祭にその会社の社長さんがいらしていたんですけど、私が横尾さんの話ばかりするから、『多分横尾のことが好きだよ』って言っていたみたいで(笑)。
完成披露試写会のときに、その横尾さんが映画を観に来ていて、『会社に遊びにきませんか』と言われて行ってみたら、カフェみたいなすごくおしゃれな制作会社で、ちょうど主人のお母さまがお掃除をしに来てらして。会社の隣にカフェがあったので、主人とお母さまとマネジャーさんと私の4人で入ったんです。
マネジャーさんは10分くらいしたら、仕事があると言って出ていったので、初めてお茶したのがお母さまも一緒の3人で(笑)。マネジャーさんは本当に仕事だと思っていたんですけど、あとで聞いたら、気をきかせてくれたみたいです。
お母さまは『特捜9』(テレビ朝日系)をよく観てくださっていて、役名の『妙子さん』とか言ってくださっていました」
――そのときにはお付き合いすることになると思っていたのですか。
「いいえ。まったく思っていなかったです。私は、やっぱりかっこいい方だなと思いましたけど(笑)。それで、お母さまともお会いできて、すごく良い方だったので良かったなあって。主人はそのとき具体的に動いている仕事もないし、私をキャスティングと言われてもどうしようかなって思っていたみたいなんですけど(笑)」
――お付き合いからご結婚まで早かったですね。
「はい。今でも覚えているんですけど、12月10日にお会いして、4月にはもう一緒に住もうかという話になっていたんですよね。何かスムーズすぎて、何の障害もなくて、こうやって結婚ってスムーズにいくものなんだって驚いたぐらいで。
誰かに反対されるとか、約束があってもことごとく会えないとか、お友だちに紹介したら、あまり良く言ってくれないとか…そういうことがまったくなくて、本当にスムーズでした」
遠藤さんは横尾初喜監督と2016年に結婚。2017年には第一子となる長男が誕生。同年、横尾監督は、映画『ゆらり』で長編監督デビューすることに。以降、『こはく』、『達人 THE MASTTER』、『大事なことほど小声でささやく』、2023年9月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開される『こん、こん。』など多くの作品でタッグを組むことに。
次回は撮影エピソードなども紹介。(津島令子)
ヘアメイク:佐々木彩
※映画『こん、こん。』
2023年9月29日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:BLUE.MOUNTAIN
監督:横尾初喜
出演:遠藤健慎 塩田みう 大橋彰(アキラ100%) 森あゆ 中山晴華 橋本和太琉
栄信 遠藤久美子
長崎県オールロケで描く対極的なふたりの恋の物語。何事も「フツー」な毎日を送る大学生・堀内賢星(遠藤健慎)は、同級生・七瀬宇海(塩田みう)と衝撃的な出会いを果たす。豪快な宇海と合理的な賢星。自分とは真逆な彼女に戸惑う賢星だったが、不思議な魅力に惹かれていき…。