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日本代表キャプテン、富樫勇樹。“167センチのヒーロー”はなぜ活躍できるのか?「自分は自分」

8月25日より沖縄で開幕するFIBAバスケットボールワールドカップ。

世界最高峰の舞台を戦う日本代表でキャプテンを務めるのは、日本バスケットボール界を引っ張り続ける革命児、富樫勇樹(千葉ジェッツ)だ。

167センチと、B1リーグでもっとも低い身長の富樫。しかし、予測不能なパスやドリブルを駆使し、2メートル級の選手たちを相手にコートを支配する。

そんな姿に、バスケ少年たちも「富樫選手みたいになりたい」「富樫選手は僕たちのヒーローです!」と憧れの気持ちをとめられない。

富樫はなぜ、低い身長ながら誰よりも活躍できるのか。テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、167センチのヒーローに迫った。

◆コート外でも驚かされる“日常”

21歳で田臥勇太以来日本人2人目となるNBA契約を果たし、25歳ではBリーグでシーズンMVPに輝いた富樫。日本人初の1億円プレーヤーとしても注目を集めた。

その後も所属する千葉ジェッツを初のリーグ優勝に導き、今シーズンはB1史上初の24連勝、歴代最高勝率もマーク。さらに個人でも、歴代最多となる7年連続ベストファイブに選出されるなど、もはや“レジェンド”とも言われる存在だ。

そんな富樫について探るべく密着していると、コート外でも驚かされることが多い。

まずは足元。富樫は、「靴下があんま好きじゃない」という理由で、365日1年中裸足にサンダル姿だ。

また、トレードマークともいえるかっちり固めたヘアスタイルは、強くこだわっているのかと思いきや、分け目は「起きた時の寝ぐせ具合で」決めるという。

そして、豚汁を“大根抜き”で注文するなど野菜が苦手な一面も。ただし、こちらは「改善中」とのことで、ピーマンを食べられるようになるのが目標らしい。

さらに、ブースター感謝祭の“玉入れ競争”では玉を後輩選手にぶつけたり、取材中には変顔をしたりと、イタズラ好きでお茶目な性格も富樫の特徴だ。

◆「人それぞれ」“富樫流”の考え方

そんな“変わり者”の側面が印象的な富樫だが、スポーツにおいてはやはり「天才」という言葉を浮かべずにはいられない。

富樫はゴルフを趣味にしているが、たった6本のクラブを使いこなし、それでいて100を切ってしまうという。

そして本業バスケットボールでは、練習前のルーティンから非常に独特だ。

通常、トップアスリートは時間をかけて入念にストレッチに取り組むという印象があるが、富樫の場合、「1分かからないんじゃないですか」と話す。

実際に計ってみると、“股関節→開脚→もも裏→アキレス腱”と進めていき、その時間はわずか44秒だった。

また試合前の練習を見ていても、その独特さが目立つ。

多くの選手はさまざまな場所からシュート練習をするが、富樫は右45度の3ポイント1カ所のみ。毎試合変わらず、ここから打ち続けている。

さらに、トレーニング。

富樫ほど俊敏な動きができる選手はそうそうおらず、“きっと特別なトレーニングをしているだろう”と思いきや…。

バーベルを挙げる富樫は、トレーナーに「プラス5回くらいいく?」と聞かれると、「いけないっす!いかないっす!」ときっぱり。さらに「いけそう?」と尋ねられても、「いけるかどうかじゃない。いかないっす!(笑)」と断ずる。

このスタンスについて富樫は、「重いのをあげたいんじゃなくて、バランスよくやりたい。やりすぎないようにしてる。やろうとするトレーナーを止めることが仕事。立場変わってる!(笑)」と自ら笑った。

8月に30歳を迎えるが、身体のケアもほとんど受けないという富樫。

「たぶんアフリカで1年暮らしたら、胃が強くなるじゃないですか。なかなかくださなくなるじゃないですか。それと一緒です! ケアし続けたらケアしなきゃいけない身体になる」

アスリートとして意外な面ばかりが見えてきたが、そこには富樫ならではの確固たる考え方があった。さらにこう話す。

「僕は本当に、これが座右の銘っていうわけじゃないですけど、人それぞれだと思っている。正直これ大谷選手がやってるからといって別に真似したいと思わない。何がいい何が悪いは、自分が判断すれば良いかなという感じです」

自分は自分にあったことをやればいい。これぞ“富樫流”だ。

◆「この身長でここまでやって…まだ何か?」

では、そんな富樫勇樹のバスケは一体何で成り立っているのだろうか? 円グラフを使って本人に分析してもらうと、半分を占めたのは「楽しい」だった。

「もっ~とかなぐらいな感じですね。プロとして勝たなきゃいけないとか、そういうプレッシャーというか責任もありますけど、やっぱり子供のときからやってたときの気持ちというか、小学生のときに公園だったり、家の前のリングでバスケをしているそのときの“楽しい“っていう気持ちを、そのままプロの試合でも、同じ気持ちでやりたいなっていうのは、ここ数年でさらに強く思うようになったかなと思います」

リーグ戦の負けている息詰まる場面を振り返っても、「好きなシチュエーション」というポジティブな表現でとにかく楽しんでいることを話す富樫。

なぜ、そこまで強くいられるのか。理由のひとつに挙げたのは、意外にも“167センチ”という身長だった。

「自分に対してプレッシャーっていうのを全くかけてないんですよ。この身長でやってるって思ってるんで。誰々のほうがすごいとか、(代表などの)試合に出れば言われますけど、正直ほとんどっていうか全く気にならない。この身長でここまでやって、“まだ何か言いたいことあるの?”っていう気持ちです」

富樫はこのように、低い身長すらもメンタル面における武器として活用している。

そんな富樫を語るうえで欠かせない人物。それは、父・英樹さんだ。

新潟の開志国際高校のヘッドコーチであり、昨年チームをウインターカップ初優勝に導いた名将でもある英樹さん。

富樫が中学生のときには3年間指導もしており、中学3年生の全国大会で富樫は異次元の活躍を見せ父に日本一をプレゼントしていた。

富樫の原点を探るべく英樹さんに実家を案内してもらうと、さっそく驚きの逸話が。

英樹さん:「普通にワンハンドで打ってたから。“えっ”て感じ。2、3歳で。それで入れるんだよ。これが驚き!入れるのよ!」

2歳の富樫は、子供用のおもちゃのリングにいきなりワンハンドでシュートを入れ、周囲の大人たちを驚かせていたという。まるでバスケのために生まれてきたような天才児だ。

家の外には、原点というべきバスケットゴールもある。ここでは、父が誰よりも小さかった息子に“武器”を授けた。

英樹さん:「小さいんだから、浮かしてシュート打てと。そのままいったら大きい相手にはたかれるから、フワーっと」

“フローターシュート”だ。ディフェンスの上をフワっと浮かせるこのシュートは、プロにとっても難しいと言われているが、今まさに富樫の代名詞となっている。

英樹さんは、このフローターシュートを小学4年生の息子・勇樹に教え、息子はこの場所で自分の武器にしていった。

◆アメリカ留学で得た“信念”

「小さくてもできる」――。それをより強く思えるようになるには、もうひとつ大きなきっかけがあった。

「アメリカに留学したのがすごく大きかったなって自分では思っていて」

富樫は中学卒業後、強豪校からの誘いを断り、バスケ大国アメリカへ単身渡った。

英語も全く分からない中での異例の挑戦。順風満帆だった天才少年にとって、衝撃と同時に、初めて壁にぶつかった瞬間でもあった。

「本当に覚えているのは、留学して1試合目に出場したとき。全然何もできなくて、周りと比べていったら、特にこの身長っていうのもあって、なかなか気持ち的についていかないかなって。2試合目にベンチ最初座ってて、正直ちょっと出たくないって気持ちに人生で初めてなって」

2メートル近いアメリカの高校生の中でひと際小さい富樫にとって、さすがに厳しい世界。諦めるには十分だった。それでも、初めて挫折を感じ気づいたこと…。

「やっぱり自分は自分。自分の中でベストを尽くしてっていうのを心がけてやり始めてからは、あまり気持ちの上がったり下がったりというのがほとんどなく、常に一定の状態で試合に臨めるようになった」

人と比べるのではなく、自分は自分。小さいからできないんじゃない。小さくてもできることにベストを尽くそう。これこそが、今の富樫を支える“信念”となった。

たったひとりアメリカで挑戦してきた息子を、父・英樹さんは今も誇らしげに語る。

英樹さん:「15歳だからね。あいつ絶対苦労したはずなのに、それも言わないもんね。弱音とか愚痴を聞いたことないね。びっくりだよね。絶対苦労してるよね。あの身長で英語わかんなくてアメリカの高校行ってるわけだから」

そして富樫は、自身のバスケについて次のようにも語った。

「(小さい)自分が今のこの位置にいるのは、自分の実力はほんとにほんの数パーセントで、周りの選手が僕のことをさらに良い選手に見せてくれてるっていうのはほんとに思います。チームメイト、仲間、友達。そこに恵まれている」

この夏、頼れる仲間たちとともにワールドカップへ挑む富樫。日の丸を背負う167センチのキャプテンの躍動に期待せずにはいられない。

※「FIBA バスケットボールワールドカップ2023」W杯までの中継試合放送日程

・バスケW杯直前強化試合「日本×アンゴラ」
8月15日(火)よる6時50分 テレビ朝日系で生中継(※一部地域を除く)

・バスケW杯直前強化試合「日本×フランス」
8月17日(木)よる7時 日本テレビ系で生中継

・バスケW杯直前強化試合「日本×スロベニア」
8月19日(土)ごご3時 日本テレビ系で生中継

・バスケW杯1次ラウンド「日本×ドイツ」
8月25日(金) 日本テレビ系で生中継

・バスケW杯1次ラウンド「日本×フィンランド」
8月27日(日) テレビ朝日系で生中継

・バスケW杯1次ラウンド「日本×オーストラリア」
8月29日(火) テレビ朝日系で生中継