磯山さやか、ドッキリだと思った18年ぶり主演映画。心温まる台本を読んでも「本当に私が主演でいいんですか?」
高校2年生のときに芸能界デビューして以降、グラビアアイドル、女性誌モデル、女優、タレント、野球やボートレース番組など幅広いジャンルで活躍を続け、“志村けんファミリー”の一員としても知られている磯山さやかさん。
2021年、21年間在籍した事務所から独立して新事務所を設立。コロナ禍での独立だったが、2022年、『鎌倉殿の13人』(NHK)で大河ドラマ初出演を果たし、『再雇用警察官』シリーズ(テレビ東京系)、『君が、おにぎり好きだから。』(中京テレビ)、映画『虎の流儀 ~激突!燃える嵐の関門編~』(辻裕之監督)など多くのドラマ、映画、CM、ラジオ、バラエティ番組に出演。
2023年6月23日(金)から18年ぶりとなる主演映画『愛のこむらがえり』(髙橋正弥監督)が公開される。
◆初めての大河ドラマの撮影現場はドキドキで
2022年、磯山さんは大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)に晩年の北条時政(坂東彌十郎)の身の回りのお世話をするサツキ役で出演。
-初めての大河ドラマの撮影現場はいかがでした?-
「彌十郎さんが普段もとてもステキな方なので安心していられましたし、(脚本の)三谷(幸喜)さんもいろいろお話してくれて。
あと『志村魂』でずっと一緒だった野添(義弘)さんが『鎌倉殿の13人』の中に入っていたのも心強かったです。野添さんにも話を聞いてもらったり、『三谷組』みたいな八木亜希子さんに話を聞いてもらったりして、それで安心して撮影に入れたと思います。すごく楽しかったです。
私が出ているシーンがほのぼのとしたシーンで、その前後が殺伐としているシーンが多かったので、演者さんもスタッフさんも、『久しぶりにこんな穏やかな気持ちで現場にいられる。こんなに笑ったのは久しぶり』とおっしゃるシーンだったからこそ、すごく穏やかに撮影ができて。内心ドキドキでしたけど、皆さんにすごく優しくしていただいてうれしかったです」
-それまでが裏切りがあったり、かなり殺伐としていましたから、ホッとするシーンでした-
「そうですよね。最初に聞いたときは『妻が宮沢りえさんで、その次ですか?』と、恐れ多いと思ったんですが、すごく良い役をいただいて本当にうれしかったです」
-キレ者の奥さんも良いけれど、やっぱり男の人は癒されるというか、ホッとする女性のところに行きたいのかなと思いましたー
「それは思いました。やっぱりお母さんじゃないけど、そういう人が望まれているんだなというのを感じました。安心感が欲しいんだなって」
-大河ドラマ出演はご家族も喜ばれたでしょうね-
「はい。すごく喜んでくれました。本当にちょっとのシーンだったけど印象に残ってくれたので、本当に家族は喜んで、公式ホームページに私の写真と名前が載ったというだけで大騒ぎでした。『この中に載っているよ。すごいぞ』って(笑)」
-撮影が終わった後、彌十郎さんとは何かお話をされました?-
「はい。とてもステキな方なので、またお会いできたら良いなあと思っています」
※映画『愛のこむらがえり』
2023年6月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
2023年6月30日(金)よりシネ・リーブル梅田ほかにて公開
配給:ブラントフィルムズエンタテインメント
監督:髙橋正弥
出演:磯山さやか 吉橋航也 篠井英介 菜葉菜 京野ことみ しゅはまはるみ 浅田美代子 菅原大吉 品川徹 吉行和子 柄本明
◆18年ぶりの映画主演は“ドッキリ”だと思った
映画『愛のこむらがえり』で磯山さんが演じたのは、「幸せなお母さん」になるのが夢だった香織(磯山さやか)。
地元の鉾田メロン映画祭で受賞した無名の映画監督・浩平(吉橋航也)の自主映画に感動し、スクリプターになるべく上京。浩平と運命の再会を果たし、浩平にいつか誰をも感動させる映画を撮ってもらう日を目指して同棲生活をはじめる。気がつけば8年の月日が流れ、二人は一世一代の大勝負をかけることに。
-最初にお話を聞いたときは?-
「本当にびっくりしました。『私ですか?本当に私に言っているの?』と、ドッキリを仕掛けられているんじゃないかというぐらいびっくりしました(笑)。
台本を読ませていただいたら本当に心温まる内容だったんですけど、『私ですか?』って(笑)。役柄がどうこうというよりも、『本当に私が主演とかでいいんですか?』みたいなのがずっとありました。台本をいただいても、何か第三者みたいで、『これ私やれる?』みたいな感じでした」
-拝見させていただきましたが、ピッタリでしたね-
「ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいです」
-世の男性陣は香織のような恋人がいてくれたらと思うでしょうね-
「そう思いますよね。あんな人はなかなかいないよっていうぐらい(笑)。でも、なんとなく、そういう女性像みたいなものがすごく求められているし、磯山さやかにもそういう雰囲気があるのかなと自分を見返したというのはありました。
監督にもそう言っていたというか(笑)。監督はバラエティ番組を見て、私が香織役にいいんじゃないかと言ってくれていたので『私ってこういうイメージなんだな』というのをあらためて知ったというのはありました」
-どんな状況でも適応能力あって対応できそうな感じがしますね-
「そうですか(笑)。でも、香織は本当にすごいと思います。私も頑張りますけど、香織は、とにかくすごい人だなと思いました」
-幸せなお母さんになることが夢だったのに、浩平に映画を撮らせるために奔走することに-
「はい。出会っちゃったからこそというところではすごいですよね。でも、好きなモノ、好きな人にあれだけ自分を犠牲にして尽くせるのはステキだなって思います。多分彼女は犠牲にしているなんて思ってないからこそ、すごいなと思って。もう浩平と同じ気持ちで映画作りに挑んでいるので、それはすごいステキだなって思います」
-8年間ですからね-
「そう。8年間なんて普通は無理じゃないですか(笑)。結婚していたならまだしも結婚もしてなくて8年間ですから本当にすごいなって思います」
-浩平さんは映画祭で受賞後、助監督時代が結構ダメダメで-
「そうなんですよね。でも、香織は彼の才能を知っているからこそ8年間ずっと信じていたという強さ、優しさというか…。“信じる力”ってすごいなって思いました」
-まったく揺るがないところがすごいですよね-
「そう。多分ちょっとでも疑ってしまったら、あそこまで尽くすのは無理だと思うんですよ。でも、信じているからこそ動けるし、浩平の背中を押せるというのは、本当に押す人が強くないと無理なので、香織のその強さというのがすごいなあって。演じながらすごいなあって思っていました(笑)」
-監督が「応援する側が明るくて華があればあるほど、応援される側の人は行き詰まって気持ちが乱れていく。その対比を見せたい」とおっしゃっていたそうですが、その対比が見事に出ていましたね-
「吉橋さんが、そういう浩平らしくいてくれたから多分そう見えていたのでしょうね。すごくありがたかったです。本当に吉橋さんは、普段も浩平っぽいところがあるんですよ(笑)。
だからすんなり話せるというか。『初めまして』という感じがまったくないし、ずっと一緒にいたという感じで話せていたので、そのテンションで撮影に臨めました。
スタッフの皆さんも撮影期間が短くて大変ななかでも、『作るぞ!』という熱意がみなぎっていて、みんなこの映画が好きなんだなというのがすごい伝わるんですよ。
それがすごく温かくて、『私もこの温かさに応えなきゃ』という思いと、『気負いすぎたら終わるから、とにかく楽しむ。その時その時の香織と向き合って』という思いでやっていたら、あっという間に終わったという感じですね」
-とてもいい現場だったようですね-
「すごくいい現場でした。監督も優しいし、誰もピリピリしてないんですよ(笑)。だけど、気持ちをちゃんと伝えてくださって、監督の気持ちがわかるから『わかりました』ってなるというか、謎にならないんですよね。監督が思っていることが見えるんです」
-曖昧でわからないままお芝居をすることがなかったのですね-
「そうなんです。『どうしよう?』みたいなことがなく、プラス自由にもさせてくれたので、みんなが楽しそうだなという現場でした。ただ、やっぱり大先輩たちとのシーンとかはシビれましたけど(笑)」
◆30代からはすべてにおいて無理をしないことに
香織が浩平のために出演を直談判する大御所俳優・西園寺宏を演じたのは、磯山さんとW主演を務めた浩平役の吉橋航也さんが所属している「劇団東京乾電池」の座長でもある柄本明さん。
-柄本明さんとは志村けんさんの番組でもご一緒されていましたね-
「はい。コントでご一緒させていただきました。でも、柄本さんの雰囲気に飲まれそうになるので、飲まれないようにしなきゃなとか…何かいろいろ思いがグルグルしていました(笑)。
『飲み込まれそうだけど、飲み込まれないぞ』という感じが、逆にお芝居になっていたかなというか(笑)。私は、ドキドキいい緊張感ではありましたけど、吉橋さんは柄本さんのところ(劇団東京乾電池)なので、2人を見ているのもすごくおもしろかったです。師弟関係でありながらも、役者さん同士なので、そのぶつかり合いみたいなのもステキでした」
-柄本さんには直接言葉をかけられたりは?-
「かけていただきました。それこそ志村さんのお話もしましたし、お芝居についても教えていただいたりして。吉橋さんも教えてくれたりしていたので、また学びになりました」
-ハートウォーミングなストーリーで元気が出ますね-
「そうですね。ハートフルな感じで観た後にホッコリしていただけると思います。途中『えーっ?』っていう展開もありますけど、映画を作るということは本当に大変なんだなということがよくわかるというか。当たり前のように映画館で観ていましたけど、こんなに大変なんだということをあらためて知りました。
でも、『諦めてもいいよ』と言われているこの時代に、『諦めないともっとステキな世界があるよ』っていうことも教えてくれるし、いくつになっても挑戦することができるということが観てくれる方の励みになったらいいなと思います」
-この映画は、磯山さんの出身地の鉾田市(茨城県)でも撮影されていますね-
「はい。鉾田市でも撮影しました。鉾田市の方たちは、娘のように、親戚の子みたいな感じでいつも接してくれるので、この映画を観てくれたらすごく喜んでくれるだろうなって思います」
-磯山さんの愛犬・リリーちゃんも出演されていますね-
「そうなんです。お母さん役の浅田美代子さんの愛犬たちと一緒に実家のワンちゃんという役で、『リリー』という実際の名前で出させていただきました。今9歳でもうシニアなので、大切に日々を過ごしたいと思っています」
-今一番ホッとされるときは愛犬のリリーちゃんと一緒の時間ですか-
「そうですね。愛犬と家で明るいうちからお酒を飲むというのが一番ホッとします。何か青空を見ながら飲むっていうのは最高ですね(笑)。リフレッシュして、愛犬と散歩してという感じです」
-劇中ビールを飲むシーンは本物のビールだったとか-
「はい。ノンアルコールビールだったんですけど、監督が内緒でビールを私が飲む用のジョッキに入れていました。監督は後ろを向いて入れていたんですけど、(缶を開ける)プシュッという音が聞こえていたので、『それ本物ですよね?』って聞いたら『あっ、バレましたか?』って(笑)。
でも、監督は私がおいしそうにビールを飲む顔を引き出そうとしてやってくれていたので、バレバレでしたけどおいしくいただきました(笑)。そんなにたくさん飲むわけではないですけど、お酒は好きなので」
-色々セーブもされているのですか-
「ぽっちゃりというイメージもあるので、太らないように、痩せすぎないようにというだけなんですけど(笑)。太りやすいので、それこそ何も気にしないで食べて飲んでという生活をずっと繰り返していると、さすがにバーンとなってしまうので、ある程度気をつけながら普通に過ごすというだけです。
あまり無理をしてダイエットをするとリバウンドしちゃって、ダイエットをする前よりもっと太ってしまうというのを昔学んだので、30代からはすべてにおいてもう無理はしないと決めました(笑)」
にこやかに話す表情が穏やかでステキ。癒されると圧倒的な支持を集めているのも頷ける。
2023年は、志村けんさんや三谷幸喜さんに愛されてきたコメディーセンスを発揮した主演映画『愛のこむらがえり』も公開され、女優として飛躍の年に。(津島令子)
ヘアメイク:渡辺順子
スタイリスト:竹川尚美