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寄り添う人のいる尊さを描いた『リエゾン』第3話。一歩踏み出す思いが親子の未来を照らす

<ドラマ『リエゾン-こどものこころ診療所-』第3話レビュー 文:赤山恭子>

自らも発達障害=凸凹(でこぼこ)を抱える児童精神科医&研修医が、生きづらさを持つ子どもと親にまっすぐに向き合う感涙必至の医療ヒューマンドラマリエゾン-こどものこころ診療所-

親子の愛、そして在り方に迫った第2話の放送終了後、SNSには「今回も良かったです。お父さんも生活を取り戻していつかまた一緒に暮らせる日があるといいな」「お父さんと悠里ちゃんがいつか笑顔で会えるといいなあと思います」など、視聴者からあたたかいコメントが寄せられた。

一方、第2話まで、山崎育三郎演じる佐山卓院長自身については、主人公ではあるものの割とヴェールに包まれていた。しかし、2月3日(金)に放送された第3話では、ようやく彼の素顔が垣間見える展開に。

佐山院長が何を思い、亡き叔母・佐山りえ(風吹ジュン)の跡を継ぎ「さやま・こどもクリニック」の院長となったのか。そのいきさつ、そして佐山院長のキャラクターが、研修医・遠野志保(松本穂香)の問いかけにより、少しずつ明らかになった。

さらに、⾔語聴覚⼠・堀凛(志⽥未来)が今回は主体となり、クリニックに通う子どもや親と向き合っていく。

志田演じる凛は、クセは強いが魅力的なキャラクター。凛こそが、静かに進んでいたこのドラマにエネルギッシュさを持ち込み、『リエゾン』の世界観を広げてくれた。

(※ここから先はネタバレを含みます。)

◆強烈な個性を放つ⾔語聴覚⼠・堀凛

第3話では、⼩学校⼊学を⽬前に控えた6歳の柿崎希(沢⽥優乃)が、⺟の貴子(黒川智花)に連れられ、「さやま・こどもクリニック」にやってくる。志保は希がASD・⾃閉スペクトラム症であると診断し、佐⼭院長は凛による“療育”を受けることを提案する。

ここで、「療育って何?」と思う人も多いはず。普段なかなか聞き慣れない“療育”とは、医療と教育を表している造語とのこと。運動機能や言語・社会参加の向上を目的とした指導や支援をすることを指している。だから、佐山院長は⾔語聴覚⼠の凛を適任だと考え、療育担当に指名したわけだ。

この凛という女性、先に書いた通り強烈な個性を放っている。私服ではロリータファッションに身を包み、スタッフに向けては「いっすよ~」「…やれよ」などの乱雑な言葉使いで(特に志保に対するあたりは強め!)一瞬ギョッとするキャラクター。それでいて、子供やその両親に向かう姿は真摯で、やさしさや慈しみがあふれ出ている。そのギャップが魅力的だ。

緩急のきいた凛のような人物は、これまでの『リエゾン』のキャストには出てこなかったタイプ。凛が志保に声をかけ、それに志保が応え、会話もポンポンと弾んでいく。テンポのいい掛け合い&雰囲気のいいコンビネーションが、何とも明るく楽しいムードを生み出し、ストーリーの歯車をいい感じに回してくれている。

当然、凛役・志⽥の説得力のある演技と、志保役・松本が醸しているゆるふわ感がうまくかみ合っているからこそ。第4話以降も、この名コンビが活躍してくれること…いや、ゆっくりと丁寧に進んでいくこのドラマに、彩りと心地よいリズムを与えてくれることを期待する。

◆佐山院長の不器用さとキュートさ

凛の出現により、佐山院長の確固たる信念も引き出された。

彼は、クリニックに集う人たちにいつもやさしく親切に寄り添う。しかし、第3話の終盤では、「あなたの力が必要だ!」と凛に強く訴える佐山院長の姿が映し出された。

普段は口にすることのないスタッフに向けての強い信頼、それに伴う、患者(親子)を決して見捨てないという信念が、そこで浮き彫りになる。きっとそういう人であろうと頭でわかってはいても、やはりこうした一本筋の通った思いが根底にあると明示されることで、ドラマを見る側への説得力や理解の深さも一段と増すものだ。そして、そうした一面を引き出すきっかけになった凛という人物の貢献度は高い。

さらに、佐山院長は第3話で新たな一面を見せてくれた。志保が「佐山先生はアスペルガー症候群ですか?どうして今のようになったのかとても知りたい」と聞いたことをきっかけに、彼は初めて自身の内なることを話す。なぜクリニックを継ぐことになったのか、彼自身の思いや叔母との思い出などを、ようやく知ることができた。

注目すべきは、その際、ボールを受け渡しながらしゃべる佐山院長の姿。突然、「これ以上しゃべるのはイヤ」とでもいうように、佐山院長はボールをぎゅっと抱きしめる。医者としての顔ではなく、いち人間・佐山卓としての顔なのだ。彼の持つ不器用さ、さらにはキュートさが瞬時に伝わるシーンだった。

これまでどこか聖人君主然としていた佐山院長の人間らしさが見え、視聴者との距離がぐっと近くなり、なんだか共感も生まれていった。

彼が抱えていたもの、抱えているものが今後さらに明かされていくことになるのだろうが、一個人としての佐山の階層を一段ずつ掘っていくのも、今後のドラマの楽しみのひとつとなりそうだ。

◆親子の未来を照らす“強い希望”

また、第3話で無視できないのは、療育を開始するもいろいろと思い悩む貴⼦の姿だろう。自分を責め、「普通に生んであげられなくてごめん」と娘に対して泣いてしまう貴子は、佐山院長らが提案する「支援学級」に激しく拒否反応を示す。

たしかに、支援学級という言葉の響きは、どこか特別な子どもが通うイメージを連想させる。「支援学級に入れたところで一歩外に出たら同じことが起こるのでは?世の中ってそんなに寛容ですか?」という貴⼦の言葉、真に迫った黒川の演技は視聴者がよぎった脳裏の代弁にも聞こえた。

しかし、佐山院長が凛の背中を押し、凛と貴子は話し合う。子どもをめぐる母と⾔語聴覚⼠というよりも、ひとりの女性として、人間としての温かいやり取りがそこにはあった。

選択肢は多く残されているから、それを一緒にトライしようと親身になる凛に、貴子の心もほどけていく。

ひとりで真っ暗な道を歩いているつもりになっていたが、そこには光が差していた。差し伸べられた手というものは、どれだけあたたかく、心強いことだろうか。

どうしようもなく追い詰められた人間に、寄り添ってくれる人がいることの尊さ。ちょっとした声かけや行動だけで気持ちが前に向いたり、活力になることがある。そうした大切な想いが、このシーンにはぎゅっと詰まっていた。

最後に、「どうか」と大人たちは夜空の星を見つめ、願いをささげる。「どうか」に続く言葉は、切実だ。

しかし、「どうか」とすら思えなかったときから一歩踏み出せた、前を向けることになった強い希望が、親子の未来を照らすはずだ。世界は決して捨てたものではないし、つらく虐げられた場所だけではないと、このドラマは教えてくれるようだった。

佐山院長、志保、凛…それぞれのキャラクターの個性が目立ち、物語が動き出してきた第3話。毎話、悩みを抱える親子が登場するわけだが、生きやすいように手助けしている彼らの内面を知ることで、余計ドラマへの思いは熱を帯びる。

今後、向山(栗山千明)や川島(戸塚純貴)もより本筋に絡んでくるのだろうか、ますます目が離せない。

(文:赤山恭子)

※番組情報:金曜ナイトドラマ『リエゾン-こどものこころ診療所-
【毎週金曜】よる11:15〜0:15、テレビ朝日系24局(一部地域で放送時間が異なります)

※『リエゾン-こどものこころ診療所-』最新回は、TVerにて無料配信中!(期間限定)

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