渡部秀、ドラァグクイーンを演じた最新出演作は“大きい分岐点”「僕にとって一番大事な役、作品になる」
『仮面ライダーオーズ/OOO』(テレビ朝日系)の主人公・火野映司/仮面ライダーオーズ役や『科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)の橋口呂太役で知られる渡部秀さん。
連続テレビ小説『純と愛』(NHK)、映画『BRAVE STORM ブレイブストーム』(岡部淳也監督)、映画『おみおくり』(伊藤秀裕監督)、映画『クロガラス3』(小南敏也監督)など多くのドラマ、映画に出演。
2023年1月13日(金)に公開される映画『ひみつのなっちゃん。』(田中和次朗監督)では、初めてドラァグクイーン役に挑戦。女装メイクとドレスで新境地を開拓している。
◆やりたかった悪役やトラウマを抱えた難役にも挑戦
『仮面ライダーオーズ/OOO』や映画『BRAVE STORM ブレイブストーム』のアクションシーンも印象的だった渡部さんだが、2018年に公開された映画『おみおくり』では、悲しいトラウマを抱えている難役に。
幼い頃に交通事故に遭い、同乗していた両親を亡くしたが、両親の死を受け入れられず、正気を保つためにまるで生きているかのように信じ込んでいる青年を演じた。
-心情表現が難しい役柄でしたが、役作りはどのように?-
「一番やりやすいのは、その役柄のバックボーンを考えることですね。そこから全部が理由付いていくというか、肉付けされていくので、生い立ちというのを考えます。
台本から読み取ったり、監督とかいろんな人と話し合ったりしていろいろ肉付けしていって。あと、僕は現場に入って相手役の方と話して生まれるものとか、その時々に感じることを大事にしていきたいと思うタイプなのでそこですかね。
9割ぐらい作っていって、1割現場という感じです。今まで作りすぎていって、あまりいいことがなかったので」
2021年には、新宿歌舞伎町を舞台に、裏社会のトラブル解決屋の活躍を描く『クロガラス』シリーズの第3作『クロガラス3』に出演。
渡部さんは、かつて歌舞伎町の闇社会で広く名を知られていたが、仲間を裏切って金を持ち逃げした過去をもつ真柴理玖を演じた。その真柴が一旗揚げるべく、再び歌舞伎町に戻り解決屋「ホワイトナイト」を立ち上げて汚い手口で勢力を拡大していったことで「クロガラス」と対決することに…。
-なかなか汚い手口を使っていましたが、悪役を演じていかがでした-
「めちゃめちゃ悪役というのはちょっと思い浮かびませんけど、『クロガラス3』はそうでしたね。悪役はやりたかったので、楽しかったです。そんなに僕は正義正義している性格でもないので(笑)。だから、ちょっと影のある役とかが来たときにはうれしかったですね。
僕は何でもやりたいし、何でもやって損はないと思うので、役としては悪役もいろいろやってみたいという思いはあります」
-いろんなジャンルの作品に出演されていて、2022年はボーイズラブのドラマ『先輩、断じて恋では!』(MBS)もありましたね-
「はい。BL漫画が題材で。僕は恋に落ちる役ではなかったので、実感としてはなかったですけど、そういう作品のおもしろさはすごくすてきだなって思いながら撮影していましたし、原作も読んでいました」
※映画『ひみつのなっちゃん。』
2023年1月13日(金)新宿ピカデリーほか、正月第2弾ロードショー
2023年1月6日(金)愛知・岐阜先行ロードショー
配給:ラビットハウス 丸壱動画
脚本・監督:田中和次朗
出演:滝藤賢一 渡部秀 前野朋哉 カンニング竹山 生稲晃子 菅原大吉 本田博太郎 松原智恵子
◆脇毛を残し、体毛を全部剃って美しいドラァグクイーンに変身
渡部さんは、2023年1月13日(金)から全国公開される映画『ひみつのなっちゃん。』でドラァグクイーン役に挑戦。この映画は、急死した元ドラァグクイーンの葬儀に参列するため、郡上八幡に向かうことになった3人のドラァグクイーン、バージン(滝藤賢一)、モリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)の珍道中を描くハートフル・ロードムービー。
3人は、なっちゃんが自身のセクシャリティーを家族に隠していたことを知り、遺族に知られないように私物を隠そうと部屋に向かうが、そこでなっちゃんの母・恵子(松原智恵子)と鉢合わせしてしまう。その場は何とかつくろったものの、葬儀に誘われ、3人は“普通のおじさん”に扮し、郡上八幡に向かうことに…。
-最初にポスターを見たときには、渡部さんだとはわかりませんでした-
「ポスターじゃわからないですよね。僕が一番わかりづらいと思います。メイクを落とした顔が浮かんでこないでしょうね」
-この映画のお話を聞いたときにはいかがでした?-
「『ヨシ!』って思いました。こういう役を待っていましたし、台本をいただいて読んだ段階から、この作品が僕にとって一番大事な役、作品になるというのは予感していたので。
それは今でも思いますし、結構いろんなところで言っているんですけど、多分後にも先にもここが一番大きい分岐点になるんじゃないかなというのは確信しています」
-渡部さんが演じたモリリンちゃんは、ちょっと気が弱くて優しくて…でも、いざというときには行動力がある-
「そうですね。ちょっと現代っ子っぽいところもあるので、3人のすみ分けはすごくバランスが取れていていいのかなっていうのは、台本を読んでいて思いました」
-女装メイクをしてドレスも着用というのは初めてだったと思いますが、ご自身ではいかがでした?-
「メイクってすごいなあって思いました(笑)。事前に衣装合わせ兼メイクテスト日というのが設けられていて、滝藤(賢一)さんと前野(朋哉)さんと僕の3人が集まって、3人のバランスを見ながら衣装とメイクをどういうふうにやっていくかとか、キャラにどういうふうに合わせていくかというのを結構長いこと、半日ぐらいかけてみんなで探っていって決まったという感じでした」
-メイクが決まるまで時間がかかりました?-
「はい、洗い流してもやりましたし、重ね塗っていって足し算して引き算して…というのをいろいろ繰り返していました。メイクさんとか、衣装さんとか監督を含め、『ここはちょっと濃いなあ』とか、『ここはもうちょっと足そうか』という感じで、すごく試行錯誤していましたけど、僕はただマネキンになるだけでした(笑)」
-完成したモリリンちゃんのお顔を見たときは?-
「やっぱり鏡で見ても全然別人という感じで(笑)。一番パワープレイというか、形から入れますからね。現場で鏡をパッと見たときに、その力を借りられるので、そこはすごくありがたかったですし、すできな撮影でした」
-前野さんと2人で踊りを披露するシーンがありますが、かなり練習されたのでは?-
「はい。結構練習しました。ギリギリまでスタジオを借りて前野さんと2人でやったり、家でビデオを確認したりしていました。あとは郡上八幡で撮影中も、前野さんと2人でホテル前に出て踊ったりして練習していました。あのシーンの撮影ギリギリまで」
-劇中ではメイクをしていないときも、仕草が普段とは違うわけですが、その辺はスムーズにできました?-
「はい。できましたね。あまり意識してなかったかもしれないです。女装メイクをしていないシーンは、仕草で形から入るのはやめようと思っていたんですね。やっぱり内面から出てこないと、嘘になるし。
もちろん、そこまで器用ではないけれど、こういう題材の場合は、ちょっと表現の仕方を間違えると誤解されてしまいそうなので。
たとえば誇張したりだとか、ギャグシーンなんてとくにそうだと思うんですけど、無理のない範囲で成り切ろうという感じだったので、仕草とかそういうのは結構後からついてきたんだろうなあって思います。
撮影のときは、無我夢中で会話を楽しみながら、『自分はドラァグクイーンなんだ』というのを自分に言い聞かせて芝居をしていました」
-3人のバランスがとても良かったです。お芝居もスムーズに?-
「そうですね。事前に滝藤さんに声をかけていただいて本読みをすることができたので、それがすごく僕にとってはありがたかったです。撮影が始まる前に本読みをしたいなあと思っていたんですけど、そういうことって、僕からは言い出しづらいじゃないですか。
主役の滝藤さんが先陣切って、音頭をとってくださっていたので、それは本当にありがたかったですし、すてきな方だなあって思いましたね」
-3人の息もピッタリでしたね-
「はい。すごい仲も良くてとにかく楽しかったです」
-滝藤さんがめちゃめちゃきれいでびっくりしました-
「本当にきれいですよね。この作品は滝藤さんの心の変化を観る映画なので、そこはやっぱり引き込まれるような美しさと、表現力だなあというのは、現場で一番近くにいてまざまざと見せつけられた感じでした。
すごくいい経験になりましたし、役者の大先輩としてリスペクトしながら、本当に食らいつくように無我夢中でやっていました」
-キャスティングもユニークでした。道中、仮面ライダーオーズでともに戦っていた岩永(洋昭)さんに好意を寄せられて迫られるシーンもあって-
「彼は適役でしたよね。あのガッチリした体型とルックスのキャラが(笑)。今まで見てきた芝居の中で一番ハマっていたんじゃないかな、あの役は。何かおいしいところを取っていったなあって感じがしますね(笑)」
-3人が“普通のおじさん”として男物のスーツを着用するシーンもカッコ良かったですね。タランティーノの『レザボア・ドッグス』みたいで-
「そうですね。まさに監督の狙い通りです、イメージが。オスになる瞬間というか、やっぱりその辺は監督のすばらしさというか、表現のすてきな部分だなあと思いました」
-撮影されたのはいつだったのですか?-
「去年(2021年)の6月です。だから1年半前くらいですね。もっとやりたかったなあって思いました。この映画に関しては、終わったという達成感よりも、終わっちゃったという寂しさのほうが強かったかな。もう1カ月やりたかったなというのが、正直な思いです。この撮影期間は、それぐらい僕の中ですごい感情がめちゃくちゃ動いていたと思うので」
-撮影で印象に残っていること、苦労されたことは?-
「苦労はたくさんあったと言えばあったんですけどね。毛を全部剃らなくちゃいけなかったので、脇毛だけ残してあとの体毛を全部。足の毛を全部剃ったりするのはやったことがなかったので、シンプルに大変でした。最初は貼って剥がすという方法でやっていたんですけど、痛すぎるのでやめました。めちゃめちゃ痛かったんですよ(笑)。
だから石鹸をつけて剃ることにして、結構コマメにやっていました。足を出すシーンの撮影前日に。結構不思議でしたよ。毛のない足というのはきれいだなあって(笑)」
-とても可愛くてきれいでした。若いうちに、メインキャストでこういう役を経験されたことは大きいですね-
「僕からしたらものすごいいい経験ですし、本当にありがたいです。映画界の人が見てくださるのが一番楽しみですね。監督さんとかいろいろな方がどういう評価をしてくださるのかドキドキしますけど、楽しみでもあります」
ドラァグクイーンのモリリン役で新境地を開拓した渡部さん。意外性のあるさまざまな役柄に挑戦していきたいと意欲的。今後のさらなる活躍も楽しみ。(津島令子)
ヘアメイク:安海督曜
スタイリスト:君嶋麻耶