巨人の新守護神・大勢、活躍の裏に桑田真澄コーチの“先見の明”「そのフォームだと1年は持たない」
7月24日放送のテレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、巨人の投手・大勢を特集した。
ルーキーながら、ここまでリーグトップクラスのセーブをあげている大勢。「令和の守護神」と呼ばれる彼の躍進の秘密に迫った。
◆ルーキーにして初の開幕戦セーブを記録
原監督の発案で、巨人のルーキー史上初めて名前のみが登録名となった大勢。
サイドスローから繰り出される最速159キロのストレートで打者たちをねじ伏せ、開幕からリーグトップの25セーブ、防御率2.02を記録している。(7月24日時点)。
いまやチームに欠かせない存在だが、その野球人生は決して華々しいものではない。
高校時代は147キロを投げる右腕としてプロからも注目されながら、ドラフト会議でその名前が呼ばれることはなかった。
「プロになるって言うだけだったら男としてダサい。言ったからには本気でもう一回取り組もう」(大勢)
4年後のプロ入りを誓い、関西国際大学に進学。すると、ストレートの最速が高校時代から10キロアップの157キロに。
注目度は右肩上がりに上昇し、迎えた2021年のドラフト会議で見事巨人から1位指名を受けた。
さらに、2022年3月25日のシーズン開幕戦では、2点リードの9回から初登板。2アウト満塁と大ピンチを背負うも、最後はピッチャーゴロで仕留め、巨人の歴史上初となるルーキーでの開幕戦セーブを記録した。
「今まで野球をやってきて、あんなに人がいる中で野球をやったことがないですし、開幕戦という独特な雰囲気で初めてのクローザーだったので、極限という感じがしました」(大勢)
◆「先発は難しいんじゃないか」
その後も好投を続け、瞬く間に守護神の座に定着した大勢。
しかし、その活躍はある人物の“疑問”がなければ実現しなかった。その人物こそ、桑田真澄投手チーフコーチだ。
「スカウトはじめ監督からも『大勢は先発で育てていくべきだ』という話をキャンプの時からずっとされていました。ただ、僕は先発は難しいんじゃないかなと思っていました」(桑田コーチ)
シーズン開幕前、大勢は即戦力の先発候補として大きな期待を寄せられていた。それにも関わらず、桑田コーチはなぜ大勢の先発が難しいと感じたのか?
「そのフォームだと1試合は持つかもしれないけど、1カ月、3カ月、半年、1年は持たない。プロ野球はずっと投げ続けなきゃいけない。1球にすごくエネルギーを使ってしまうので、車でいうと1試合135球分のガソリンが入っているとしたら、大勢の場合は30球くらいでそのガソリンが切れるくらいのエネルギー消費。僕にはそう見える。120%の力で1球1球投げるように見えていたので、クローザーが適任かなと思っていました」(桑田コーチ)
こうしてオープン戦で大勢のリリーフが試されることになった。
3月6日の日本ハム戦。首脳陣の目が光る実戦のマウンドで、大勢はわずか12球、1イニングを三者凡退に抑える好投を見せる。
すると、指揮官の考えが変化。「監督に『やっぱり大勢はクローザーでいこうか』と言っていただいて、『ありがとうございます』と。そこで監督が大勢をクローザーに任命するという話をされたんですね」(桑田コーチ)
以前からクローザーに憧れていた大勢は、この決定を素直によろこんだという。
◆武器は“狙っても打てないストレート”
オープン戦で結果を残し、原監督の決断によって誕生した「守護神・大勢」。その最大の武器は、最速159キロのうなるようなストレートだ。
「ストレートに一番こだわっていて、自分の中では持ち味はストレートかなと思います」(大勢)
桑田コーチも「速いだけでなく威力もあります。近くになればなるほど威力が増してくる。小さいボールがどんどん大きく見えてくるような、そういう威力のあるボールです」と太鼓判を押す。
さらに、かつて守護神を務めた対戦相手のヤクルト・高津臣吾監督もこう絶賛する。
「狙ってもなかなか前に飛ばせないストレートを投げられる。そういう投手はたくさんいるわけじゃない。高めで空振りを取れる真っすぐ(を持っていて)、抑えの投手として必要な条件を満たしていると思う」(高津監督)
大勢のストレートのすごさを表す数字が、今シーズンの投球割合だ。なんと70%以上をストレートが占めている。これは、セ・リーグのクローザーの中で断トツの数字だ。
しかも、ストレートを多く投じていながら、ストレートで空振りをとった割合とゴロに打ち取った割合、いずれもリーグ上位に位置している。
まさに“狙っても打てないストレート”を投げているのだ。
◆怪物・江川卓から得たフォームのヒント
では、なぜこれほどまで圧倒的なストレートを投げられるのか? その秘密は投球フォームにある。
大勢の大学時代のフォームと現在のフォームを比べてみると、“右足”に違いが見て取れる。以前は、かかとがマウンドに付いたままだが、現在はかかとが上がっているのだ。これこそが「ヒールアップ投法」。
大勢がこの投法に変更した理由について、大学4年生の時から一緒にフォームを作り上げたパーソナルトレーナーの萩原淳由氏は次のように話す。
「何を目指すのかというのが一番大事だと彼にも話をして、『わかっていても打てない真っすぐを投げよう』と。2人で最初にそこを目指そうと話して、あのフォームにしました」(萩原氏)
目指したのは“わかっていても打てないストレート”。
それを完成させるため参考にしたのが怪物・江川卓だ。ヒールアップ投法で投げていた彼のフォームの“体重移動”からヒントを得た。
「高いところに重心を上げたところから一番下に降ろす。ピッチングはL字だと思っているので、右足の股関節に乗って右足で押していくのが理想です。右の役割は、乗ったところから前に押すのが大事」(萩原氏)
理想的な体重移動とは、かかとを上げ一度重心を上に上げたところから、右足に重心を残したまま、右足を使って体重移動していく。この理想的な形をしているのが「L字」。このような重心移動をすることで、全身の力を効率よくボールに伝えることができるというわけだ。
このフォームを習得するため、大勢は徹底した下半身の強化に努めた。
するとストレートの球速は上がり、プロ入り後も自己最速を2キロ更新する159キロをマークするなど、まだ進化を遂げている。
「いつもの力感でも球速は出ます。ストレートでも伸びが出てきたというのは実感しています」(大勢)
この投球フォームを作り上げ、“狙っていても打てないストレート”を手に入れたことがドラフト1位ルーキー・大勢の躍進を支えていた。
「絶対にドラフト1位で取ってよかったと、チームだけじゃなくファンのみなさんにも思っていただきたい。一番は見ていてワクワクするようなクローザーになりたい。やっぱり『戦う、いくぞ』『真っすぐでいくよ』という気持ちは出せたらいいかなと思います」(大勢)
ルーキーにして巨人の運命を背負う「守護神・大勢」。究極のストレートを追い求め、真の大黒柱を目指す道のりはまだはじまったばかりだ。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)