アナウンサーが、17年間「アナウンサーを撮りながら」学んだこと<アナコラム・矢島悠子>
<テレビ朝日・矢島悠子アナウンサーコラム>
入社して18年目に入ったわたしは、アナウンサーと同じ年数を“カメラマン”として過ごしています。わたしはずっと、“アナウンサーカメラマン”です。
アナウンサーカメラマンの仕事は、うちの、テレビ朝日のアナウンサーを撮る専属スチールカメラマン。撮っている枚数だけはプロ並みです。
テレビ朝日のアナウンサーを応援してくれる方々には、わたしがアナウンサーカメラマンだということを知っている方も多く、コロナ以前にカレンダー発売イベントなどが開かれた際には「〇〇さんの写真を自由に撮れるなんてガチで羨ましいです」や「次のカレンダーではこういう写真を撮って欲しいです!」といったリクエストをしてくる方もいました(笑)。
今でこそ、「毎年発売している卓上カレンダーに撮った写真を掲載する」という大きな目標がありますが、わたしが入社した2005年当時はまだカレンダーはなく、ホームページに掲載するというのが主な出しどころでした。
元祖・アナウンサーカメラマンだった松井康真先輩がそういった部の写真まわりのことを一手に引き受けていた時代に新米アナのわたしが仲間入りし、ふたりだけのカメラ班が出来ました。
技術などまったくないくせに「カメラが好きです!」なんて言ったのが…良くなかった(笑)。最初はそりゃあもう大変でした。
まだ新人アナウンサーになったばかりで、しゃべりの技術も、コミュニケーション能力も未熟なわたしが大先輩たちの笑顔をおさめるのは至難の業でした。
よく皆さんに意外だと言われるのですが、アナウンサーは写真を撮られるのが苦手な人がとても多いんです。
あれだけ画面に出てしゃべっているのに!…と思われるでしょうが、そう、しゃべっていればへっちゃらなのに、それがピタリと止まるとどんな顔をしたらいいのかわからない人が多い。とてもシャイな人が多いんです。
シャッター音が2、3回聞こえたら「もういい?」と帰り支度をする人もいたし、毎カット「どうだった?」と不安そうに聞きに来る人もいました。
こちらはこちらで、撮りたいものを撮るための設定や技術の知識がほとんどありません。プレビューしてみると、想像しているものと違うものになる。「失敗でした」なんて言えないし、今すぐにでも撮影を終えたがっている先輩に対して「もうちょっと撮りたいです」と勇気を出して言わなければならない。
なんて言えばいいんだろうと思案していると、いつのまにか真っ青な顔で何秒も絶句して立ち尽くしていることもありました。
「どうやったらイメージしているものを撮れるのだろう?」
いつも静かに大パニックです。不甲斐なくて涙が溢れそうになるのを必死にこらえますが、これじゃファインダーを覗いても何も見えない。
2年くらい悪戦苦闘していく中で、「何故わたしがこんな難しい仕事をやらなきゃならないんだ?」とやけになることもありました。
でも、だんだんとわかってきた。なぜ新人のわたしがカメラマンに任命されたのか。
ああ、これはアナウンサーとして、或いは人として必要なコミュニケーション能力とその手法を身につけさせるためだったんだ、と。
◆“黒い武骨なマシーン”が与えてくれた成長
撮影技術を持っているだけでは、写真嫌いの人たちを撮ることは出来ません。
安心させるための、心をほぐすための“トーク力”を身につけなさいということが本当の目的だったのではないかということにだんだんと気づいたのです。
そのくらい、“撮影技術<トーク技術”が求められる仕事でした。ちょっとでも黙ると、不安そうになってしまうから。
そうならないように、相手を撮る数日前から近況を調べました。
当時はブログを書いている人が多かったので、ブログや担当番組などもチェック。好きなものや出身地なんかも調べました。
出身地の郷土料理が知らないものだと、調べて、食べて、そこから話を展開したこともあります。
普段一緒にしゃべる中で、この人のこういう表情が素敵だなぁと思うとメモも残していました。撮影に入った時には情報が満載になり、ほとんどファン状態!
これがわたしの編み出した、アナウンサーカメラマンとしての一歩でした。
一方で、もちろん撮り方も一生懸命覚えました。
雑誌を読めば良い感じの写真をスクラップして、画面のどこに人を置くとこういう世界が出来るのか、自分がカッコいいと感じる構図を覚えていきました。基礎の構図、光や風の使い方、そりゃもう、必死に撮りながら考えて覚えていきました。
スチールが得意な番組スタッフに教えを乞うこともしょっちゅうでした。
会話と会話の谷間の一瞬に撮ると自然だけど崩れ過ぎない表情が撮れるとか、より写真嫌いな人にはノーファインダーで撮るとか、想像力を働かせる話をすると乗ってくれる人もいるとか…様々なワザを体得していきました。
「矢島さんに撮ってもらったわたし、好きだなぁ」と言ってもらった時、安堵と感激に包まれて腰が抜けそうになりました。うれしくってたまらなかったです。同じ言葉をまた聞きたくて、頑張りました。
それで数年が経ち…まあまあ、納得いくものが撮れるようになってきました。合間のトークも止まらずに、不安にさせることも減ってきた。この頃にはアナウンサーカレンダーの制作も始まり、カメラ好きが集まり、カメラ班も少し人数が増えてきました。
撮影の喜びを分かち合い、悩みを打ち明ける仲間が出来たことはさらに成長に繋がりました。
「自信がないなら、それ相応の準備をして臨む。本番はそんなことを微塵も感じさせないほど堂々と丁寧な仕事をする」
カメラマンとして学んだこと。そう!これまさしく、しゃべる道そのものだったのです。
カメラマンとしての日々の鍛錬は、本業にも驚くほど活きていきました。
カメラのレンズがぎゅーんと動けば、だいたい今どのくらいのサイズで撮られているかわかるようになりました。
トーク力を鍛えたおかげで、誰かにインタビューをする時、撮影前後の微妙な間が怖くなくなりました。
また、アナウンサーは違う番組に出ていることが多いので、部の中で一緒に何かをするという機会はなかなかないものなのですが、カメラ班は団結しないと出来ないことが多い。
幸せなことに、カメラ班の後輩たちにも誰かを喜ばせることが大好きな人が集まっています。そんなカメラ班のリーダーを長年続けられているのは、わたしの小さな自慢です。
自分が写っている写真より、自分の撮った写真で誰かが喜んでいるのを見るほうがずっと幸せな気持ちになります。
今も、新しいカレンダーが出来上がって年末にいろんな人にお配りする時、「この写真、彼女らしさが出ているね」といった会話にひっそり聞き耳を立てて、ガッツポーズをしたり、「来年こそは!」なんて一喜一憂したりしています。
カメラってすごいなあ! 楽しいなぁ!!
黒い武骨なマシーンをマジマジと眺めながら感心しきりです。カメラというツールを持ったことで、わたしは大きな成長をさせてもらえました。
◆「自分の好きな自分の顔」でなくてもいい!
それにしても最近は、“人類総SNS時代”なんて時代になってきました。写真や動画に抵抗を持つ人は減ってきたかなと思います。
今の若手アナウンサーは、レンズを向けても怖気づかないから、撮るのがとてもラクです。
カメラを楽しんでいる人が多いのは良い時代だと思う反面、少し残念に感じているのが、「自分の好きな自分の顔」が溢れているなぁということです。
SNSに溢れているのは、自分の好きな決め顔だけ。いつも同じ表情ばかりが並んでる。
それを見るたびに、「もっとあなたは素敵な表情をするじゃない!」とか「もっと生き生きとしたあなたをたくさん知っているよ!」と叫びたくなってしまいます。
「わたしの知らない、わたしの良いところを知ることが出来る」のが、他者の視点、すなわち写真だと思うので、そこは残念でなりません。
目をパッチリ開いていなくてもいい。大笑いしたときに目尻にしわがあったって、ちょっと二重あごになったっていい。
美しさとか生き生きとした姿というのは、もっと全然違うところからにじみ出ているものだと感じています。
ここ数年は、「あなたはもっと素敵な表情をする!」と、被写体に気づいてもらえるような写真を撮りたいと思って頑張っています。
アナウンサーカメラマンは今、2023年のカレンダーの撮影真っ最中。真冬から撮り貯めて、今も炎天下の中撮影が続いています。
後輩たちが奮闘してくれていますが、どんな表情を捉えてきてくれるのか、楽しみです。<文/矢島悠子>
最後に、わたし矢島が撮影した最近のお気に入り写真をたっぷり紹介したいと思います!
・萩野志保子アナウンサー
いつも必ず色彩にこだわって服を選んできてくれます。この1枚は、躍動感があって大好きな1枚です。
・野村真季アナウンサー
シャッター音ごとにポーズを変えてくれて、撮っていてもうっとりしてしまう圧倒的な世界観を作ってくれます。
・久保田直子アナウンサー
写真嫌いな同期。彼女の素敵な表情を撮ることは誰にも負けたくないです!
・本間智恵アナウンサー
カメラマン歴も長い本間さんは、わたしがどう撮りたいかをいつもわかってくれて、それに合った表情をくれます。天才。
・森葉子アナウンサー
長く一緒にカメラマンをしてきた妹のような存在、森さん。自然な笑顔が好きでたまらない~!
・桝田沙也香アナウンサー
桝田さんの専属カメラマン並みに撮っていますが、リラックスしたこの表情は特にお気に入り。
・住田紗里アナウンサー
いっしょにランチに行った時に撮った1枚。私は住田さんのいたずらっ子のような笑顔が大好きなんです。
・斎藤ちはるアナウンサー
自然な笑顔と日差しの具合が完璧に揃ったカット。何度も見返すお気に入りです。
・下村彩里アナウンサー
緊張して棒のように立っていた彼女に、特技のバレエのポーズを頼んだ時の一瞬。妖精のようで瑞々しい1枚。