玉山鉄二、“頑張ってダメだった人”を後押しする13年ぶり主演映画。「努力すれば夢は叶うって言われてきたけど…」
シリアスな社会派ドラマからコメディーまで幅広いジャンルの作品に出演し、真摯な姿勢で役柄に向き合うことで定評がある玉山鉄二さん。
2014年、連続テレビ小説『マッサン』(NHK)に主演。2018年には『バカボンのパパよりバカなパパ』(NHK)、明石家さんまさん役を演じた『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』(Netflix)でコメディセンスを発揮。2019年に『トップリーグ』(WOWOW)に主演するなど数多くの作品に出演し、2022年4月8日(金)には主演映画『今はちょっと、ついてないだけ』(柴山健次監督)が公開される。
◆念願だった連続テレビ小説の主人公に
2014年に放送された連続テレビ小説『マッサン』で玉山さんが演じたマッサン(亀山政春)は、漁業と農業が主な産業だった北海道余市にまったく新しい産業であるウイスキー作りを持ち込んだ竹鶴政孝氏がモデル。
19年ぶりの男性主人公、ヒロインが外国人ということも話題になった『マッサン』は、ウイスキー作りを学ぶために渡欧した青年が、スコットランドから連れて帰って来た妻・エリー(シャーロット・ケイト・フォックス)とともにさまざまな困難を乗り越えていく姿を描いたもの。玉山さんは青年から老境に差し掛かった時代まで見事に演じきった。
「朝ドラに出るということが役者としての夢だったので、オファーがあったときは本当にうれしかったです」
-19年ぶりに男性が主人公ということもありましたし、プレッシャーもすごかったのでは?-
「やばかったですよ、本当に。単身赴任で子どもにも会えなかったし、覚えなきゃいけないセリフの量も尋常じゃなかったので、あれは若いからできたんだと思います。僕が『マッサン』をやったときは、朝ドラで30オーバーのおっさんが主人公をやるというのはなかったんですよね。
だから、プレッシャーはかなりありました。期待以上のものを返さなきゃいけないという責任感もあってしんどかったですけど、スタッフ、キャストのチームワークがとても良くて、みんなで一つの作品を作っているという雰囲気がすごくいい現場でした」
半年間の放送で150回。月曜日がリハーサル、火曜日から金曜日はスタジオ収録、土曜日と日曜日はロケや広報活動という毎日だったという。
-準備期間を入れると約1年間、青年時代から老境に差し掛かるまで演じられていかがでした?-
「本当に振り返る時間もなく、まっすぐ前だけを見ながら、ずっと走っていたという感じです。やっぱり1年弱一つの役と向き合うということはあまりないので。
相手役のシャーロットも含め、いろいろ力を貸してくださったキャストやスタッフの方々とか、やっぱり最終的には『成功して良かったね』って言ってもらいたい、その一心でやっていたと思います。
だから、そのときも生きている心地がしなかったし、『マッサン』の撮影が終わってからは本当に何もできなかったというか…。多分事務所も気を遣って仕事を入れなかったのだと思います。本当に仕事を一切しなかったですもん」
※映画『今はちょっと、ついてないだけ』
2022月4月8日(金)より新宿ピカデリー他全国順次公開
配給:ギャガ
監督:柴山健次
出演:玉山鉄二 音尾琢真 深川麻衣 団長安田(安田大サーカス) 高橋和也ほか
◆“報われない努力”と感じている人を後押しするような映画を…
2022年4月8日(金)に公開される主演映画『今はちょっと、ついてないだけ』で玉山さんが演じたのは、かつて秘境を旅する番組で人気カメラマンとして脚光を浴びながら、表舞台から姿を消した立花。
不器用な仲間たちとシェアハウスでともに過ごすうちに、写真を撮る喜びを思い出し、シェアハウスの仲間たちもそれぞれの“心が本当に求めるもの”を見つけ出そうとするという展開。
-『カフーを待ちわびて』以来、13年ぶりの主演映画になりますがいかがでした?-
「役柄が、自分と何か近しい部分があるなって思いました。チヤホヤされていたときに、何か虚無感を感じたり、孤独を感じたり…そういう部分とかは、ちょっと近しいものがあると思います。
それで、30代とか40オーバーとかにスポットが当たるような作品というのは、どうしても少ないじゃないですか。
でも、それぐらいの時期というのは、ある程度自分の力量がわかりはじめたりとか、世の中の仕組みやその組織の仕組みがわかってきたりする。その仕組みがわかったことによって、どうしても今まで持てていた向上心が若干『ああ、無駄だ』って思ったり…そういう40代の人たちって、結構いると思うんですよね。
どうしても日本はセカンドチャンスがなかったり、1回ミスをしちゃうともう次に上がってくるのが難しかったりとか、そういう世の中で同じように感じている人って僕はいっぱいいると思う。
だから、何かリスタートすることに対してのフットワークというか、もっと楽にリスタートできるような社会になってほしいなあって思っているんです」
-頑張っても必ずしもその頑張りが功を奏するとは限らないわけですからね。羽生結弦さんが「報われない努力もある」と言ったことが話題になりました-
「そうそう。僕たちは子どものときから『頑張れば大丈夫。努力すれば絶対に夢は叶う』ってあたかも洗脳されているくらい言われてきたけど、頑張ってもダメだった人もやっぱりいるんですよね。
頑張ってうまくいった人もいれば、頑張ってダメだった人もいるから、その頑張ってダメだった人がもう一回スタートライン、敗者復活じゃないけど、ちょこっとだけ背中を押してもらえるような作品になればいいなあって思いながらやっていました。
とくにコロナになって余計そこが明るみに出たと思うんですよね。女性はとくに結婚したり、子どもができたりとか、リスタートしなきゃいけないきっかけが男性より僕は多いと思うので、リスタートというハードルがそんなに重いことでなく、気軽にできたらいいなと。
だから、ガッツリ背中を押すような映画じゃなく、後ろからトンとされるくらいのゆったりした映画になればいいなと思って撮影に臨んでいました。観ていただいた方が『少し肩の荷がおりた』と言っていただけたらいいなと思います」
-あのシェアハウスに集まっている人たちは、みんな自然にちょうどいい感じでそれぞれが作用していきますね-
「そう。だからあそこにいる人たちって特段大きく何かが欠落しているわけでもなく、ごくごく平均的な人たちが集まっていて、でも何かのきっかけで挫折とかがあって、あそこに集まってみたいな感じですけど、本当に今、コロナ禍でそういう人がいっぱいいると思うんです。
僕は子どもがいるので、子どもたちが大人になったときに、セカンドチャンスとかサードチャンスをちゃんと与えてくれるような社会であって欲しいなという願望も強いですね」
-コロナの自粛期間はどのように過ごされていたのですか-
「撮影も全部ストップしていましたし、学校もなかったので、家族との時間。あとは緊急事態宣言中じゃないときはゴルフをはじめたりしていました。
圧倒的に飲みに行くこととか外食に行くことが減ったので、鍋とかホットプレートで家族みんなで焼きながら食事をするということが多かったです」
-ご家族もいらっしゃいますし、不安は?-
「不安はありますよ。やっぱりふとしたときに『このまま仕事がフェードアウトしたらどうしよう?』とか、それはあります。
でも、コロナに限っては、結局自分が頑張れば解消する部分ではないじゃないですか。だから、そこに対してはあまり不安というかそれはなかったですけど、現場のあり方みたいなものも変わったりしたので、いいふうに変わればいいなあとは思っていました。
この映画は、本当に日本各地にロケでお邪魔させていただいて、それぞれの土地のフィルムコミッションの方とか役所の方とか、すごくたくさんの方が手伝ってくださったんです。
どうしても東京から大人数で撮影隊が行くとなったら、やっぱり何かあったらどうしようという思いはあったんです。だからそこのストレスはやっぱりありました。せっかく手伝ってくださるのに迷惑をかけてはいけないので」
-劇中カヤックにも乗られていますが上手でしたね。ご経験は?-
「ないです。初めてでした。まっすぐ一定に進むのは難しかったですね。右を向いたり左を向いたりみたいな感じになっちゃうので」
-そんなふうにはまったく見えなかったです。とても良い表情で落ち着いていて-
「ほんとですか(笑)。ありがとうございます」
-劇中で玉山さんが入れる“天使のコーヒー”も魅力的でした-
「あれは1日だけ修行に行ってコーヒーの作り方を学んだんです」
-ご自宅でもやられたりするのですか?-
「いやあ、自宅ではコーヒーメーカーです(笑)」
-社会派の作品も多いですね。『トップリーグ』もおもしろかったです」-
「ありがとうございます」
-信念を持ち“トップリーグ”(総理大臣や官房長官、与党幹部に食い込んだごく一部の記者)へと上り詰めた記者が自分の子どもの命が危険に晒(さら)されたことで、やむを得ず信念を曲げることになってしまいます-
「僕がいろいろ調べている中で、家族もいてすごく幸せだった記者が、ある事件と出会ってしまったがゆえに事件にのめりこみすぎて人生がめちゃくちゃになってしまったという人がいたんです。
そういうふうに事件がきっかけとかで、人ってすべてを失ったりすることがあるんだと思って。仕事なのに、そういうことがあるんだなあって。
だから、この役だからこうだああだという許容範囲みたいなものを広げるために、いろんなドキュメンタリーやいろんなニュースを見たり、YouTubeとか僕はすごい活用させてもらっているし、昔のニュースと現代のニュースを見比べて違いを見つけたりとかもしていました」
-今後はどのように?-
「あまりこうでなきゃいけないとかいうのは僕の中では本当になくて、やっぱり人を感動させるものとか、人に驚きを与えたいとか、そこに1番自分が幸せだなあと感じることが多いので、そういうメッセージ性があるもの、自分が今伝えたいこととか思っていること、共感してもらいたい作品に巡り会えたらいいなと思います」
撮影期間中は休日でも台本を離さず、リフレッシュするのはクランクアップしてからという玉山さん。誠心誠意役柄と取り組む姿勢がカッコいい。(津島令子)
ヘアメイク:TAKE for DADACuBiC@3rd
スタイリスト:袴田能生(juice)