ドラマ『愛しい嘘』完結。ラスト5分、叫んでしまうほどの悲しい結末【ネタバレ有り】
<ドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』最終話レビュー 文:横川良明>
とりあえずラスト5分で多くの人があの男の名を叫んだでしょう。
金曜ナイトドラマ『愛しい嘘~優しい闇~』最終回。それは、彼がいちばんほしかったものにむせび泣く結末でした。
◆この世のありとあらゆる呪いが野瀬にかかりますように…
このドラマには、2人のクズ男がいました。1人目が、金にルーズで、女にだらしなく、人の命を虫ケラほどにも思っていない“クズ宮”こと雨宮(林遣都)。そしてもう1人が、モラハラ&DVのWパンチに加え、ストーカー気質の野瀬(徳重聡)です。
雨宮はまさかのあっさりナレ死に。サユリ(高橋ひとみ)に刺されたかと思ったら「結局、雨宮くんはそのまま命を落とした」の1行で葬り去られるというモブキャラ同然の扱いで退場しました。まあ、クズにはこのくらいでちょうどいいです。
問題は、野瀬だった。すっかりその存在を忘れ去られたかと思いきや、ラスト5分でいきなり出てきた〜。懲戒免職になっているであろうに、まだ制服を持っていたのか…。それともあれは偽物なのか。
いずれにせよ警官になりすますことで警備の網をかいくぐり、中野(林遣都/二役)に接近。取り憑かれたように目を剥いたまま復讐を遂げたのでした。
「やっと会えたな」なんてクサい台詞、辻仁成くらいしか似合わないと思っていたら、野瀬のやつ! もうほとんど愛の言葉やないか。しかし、この異常なまでの執着は愛に近いもの。ある意味、野瀬だけでひとりラブサスペンスです。
悲しいのが、ほんの少し前の中野なら、野瀬の刃に倒れても本懐だったと思うんですよ。なぜならもう中野に生への執着なんてなかったから。
生まれてからずっといいことなんて何もなかった。自分には大切にしてくれる人も、大切にしたい人もいなかった。だから、雨宮との決着さえつけば、彼は本当に死ぬつもりだった。
だけど、望緒(波瑠)のお腹の中に自分の子どもがいると知って、中野は変わった。愛する望緒は、この世に自分をつなぎとめる理由にはならなかったけれど、自分に家族ができるんだと知って、初めて彼はもっと生きたいと思った。ずっと家族に恵まれなかった中野にとって、ほしかったのは家族でした。
家に帰れば、温かく迎えてくれて、自分という存在をそのまま受け入れてくれる。そんな家族が、中野はほしかった。そのことに気づいたとき、観ているこちらの体までボロボロと崩れ落ちそうなやるせなさでいっぱいになりました。
多くの人が、ごく普通のものとして持っているそんな愛さえも、彼にはずっと与えられてこなかった。その孤独を、その苦しさを、陽のあたる道を歩いてきた自分が安易に代弁することなんてできない。
でも、せめて伝えあげたいのです。確かに、そんな中野を救ってくれたはずの雨宮の抱擁は、言いなりの奴隷にするための嘘でしかなかった。だけど、今度の抱擁は嘘じゃない。涙にむせぶ中野を受け止めるように抱きしめた望緒の優しい抱擁に、嘘はひとつもない。信じて、その身を預けていいんだよと、中野に伝えてあげたかった。
このときの林遣都はもう顔が真っ赤で、血流まで全部で中野幸を生きていた。ぐしゃぐしゃになった顔に、潤んだ目。震えるように吐き出される息。同窓会で再会したばかりの、必死に雨宮を演じていたときとは別人みたいに、弱くて、心細くて。本当はずっと中野はこんな顔をしていたんだろう。でも、泣いたって抱きしめてくれる人なんていないから、強く振る舞うしかなかった。
あのとき、あの場所で、すべての感情をさらけ出すことで、やっと中野はひとりではなくなった。初めて幸せを感じられた。
だからこそ、この結末が悲しい。野瀬には、トイレで大をするたびにスマホを便器に落とす呪いをかけたいと思います。
◆ドラマを支えた波瑠&林遣都の名演
林遣都の中野幸は、人が持つ孤独にふれる力があった。孤独と孤独が共鳴し合うことで、視聴者も中野幸という人間に気持ちを寄せられた。犯した罪は大きいけれど、きっと観る人も望緒と同じように、中野幸を憎めなかった。どうしようもなく愛してしまった。
ラストで、中学時代の中野幸らしき少年と望緒がすれ違ったとき、心臓がぎゅっと絞られるように痛くなったのは、観る人の胸に中野幸の人生がくっきりと焼きつけられてしまっていたから。
その人物造形は、林遣都だからできたと思う。
一方、波瑠の包容力も胸に沁みるものがあった。波瑠の声は鍵盤の音のように心地いい。ドビュッシーの『月の光』みたいな声だ。静かで、どこか寂しげで、でも温かい。だから、どんな闇の中にいても、一筋の月の光が射し込むように、彼女の声が響く。手を引かれるように、彼女の声のする方へ導かれる。中野にとっての希望を、波瑠の声が体現していたと思う。
だからこそ、この結末がやりきれない。野瀬には、パスワードを入れるたびに毎回Caps Lockキーがオンになっている呪いもかけたいと思います。
◆考察ブームの中で光ったスピード感&納得のストーリー
14年ぶりの再会から始まったこのラブサスペンスもこれにて完結。全体を通してみると、提示された謎はきちんと回収され、すっきりとした幕切れになっていたと思います。
こういった考察系ミステリーはどうしても煽り要素が強めになるのですが、適度にフェイクやミスリードを散りばめつつ、それが強引になりすぎず、ストーリー全体として納得度が高かったのも高ポイント。
展開のスピード感もちょうどよく、特に優美(黒川智花)が死んだあたりからは一気にエンジンがかかり、いい高揚感とモヤモヤをキープしながら、最後まで気持ちよく引き込まれました。
キャスト陣も、波瑠&林遣都を筆頭に、本仮屋ユイカ、溝端淳平と実力者が顔を揃え、穴のないキャスティング。徳重聡もいい起爆剤となって物語を盛り上げてくれました。
中でもやっぱり物語を牽引したのは、林遣都。前半のあざとすぎる完璧王子から後半になるにつれて、どんどん脆さや翳りが見え、それが何とも言えない魅力に。終盤はすっかり中野幸という人間に夢中でした。
顔のいい男は信用するな、って田舎のばあちゃんが言ってましたが、訂正します。林遣都は信用できる…!
作品に関わったキャスト、スタッフに感謝の想いを寄せつつ、このレビューも幕とさせていただきます。全8回お読みいただきありがとうございました!(文:横川良明)
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