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黒沢あすか、女優人生の集大成だった『冷たい熱帯魚』の強烈キャラ。反響の末に長男から「お母さんてすごいんだね」

2003年、主演映画『六月の蛇』(塚本晋也監督)の演技が海外でも高く評価され、第23回ポルト国際映画祭最優秀主演女優賞をはじめ、国内外の賞を受賞した黒沢あすかさん。

私生活では2005年に特殊メイクアーティストの梅沢壮一さんと結婚。3人の子どもをもつ母親としても多忙な日々を送りながら多くのドラマ、映画に出演。2011年に公開された映画『冷たい熱帯魚』(園子温監督)では第33回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。主人公を破滅に導く狂気の女を鬼気迫る演技で体現して話題に。

 

◆ホラー映画で出会って結婚、3人の子どもの母に

2004年、黒沢さんはホラー映画『き・れ・い?』(松村克弥監督)に出演。果てしない“美”への欲求を抱く女たちの美容整形をめぐる愛憎を描いたこの映画で黒沢さんが演じたのは整形依存症の河野吉江。顔面の整形を繰り返したあげく、腹部の脂肪吸引と次々に整形手術を要求していく。

-特殊メイクでまったく別人の姿でしたね。声を聞くまで黒沢さんだとわかりませんでした-

「そうですよね(笑)。夫と出会えた作品です。素の自分の顔になるのはほんのわずかで、ほとんどが特殊メイクを施した状態でした。ようやく自分の顔になったと思ったら、バカーンと破壊されちゃって(笑)。でも、やり甲斐がありました。全身特殊メイクなものですからお腹(なか)までブヨブヨにして(笑)。本当におもしろかったです」

-この作品で梅沢さんと出会って翌年にご結婚されて、いろいろなホラー作品をご一緒にされています。2019年には映画『恐怖人形』(宮岡太郎監督)もありましたね-

「そうなんです。あれは最後に猟銃をぶっ放してちゃんと人助けをしているんです。ああいうふうに武器を持つというのも大好きなんです」

-似合いますよね、包丁とか猟銃を構える姿がサマになっていて-

「ありがとうございます。大好きなんです(笑)。当時のドラマや映画のいろんな現場で瞬時に覚えなければならなかったというのが身についているんですね。自分に合っているみたいで、ちょっと教わればコツが掴めるんです」

-カンがいいのでしょうね-

「カンは良かったと思います。何か見本で見せてくださったときに、どこに力が入っているのか、どこに重心を置いているのか…そういうのがすぐにわかるんですよね。簡単にカッコ良くなるためには何をどうしたらいいのかというのを見分けることができるみたいです」

-あとキレもいいですね-

「それは先輩の大女優さんに教えてもらったんです。『テレビとか映画で何かしなければならないとき、たとえば時代劇だったら縫いものをする、あるいはピストルを持つというように何かをやらなければならないときには、緩急をつけるのが1番いいのよ。それだけを忘れなければすごくきれいに見えるから』って、

お優しい方だったので、その違いを実際にやってみせてくださったので、とてもよくわかりました。昔は、そういうことを教えてくださる先輩が多かったんです。いい時代でした」

-強くてエキセントリックな女性というイメージがありますね-

「そうですね。基本的にやっぱり共通しているのは、男にひれ伏すような女性像は演じてきてないなあって。それが共通ですかね」

-心の奥底に燃えたぎるマグマを抱えているような女性という感じですね-

「本当にそうです(笑)。ある時期から、そういった役のオファーが多かったですね。役者を志したときから、主演を張るような女優を目標にしてきたのですが、オーディションの競争率が高くて(笑)。

私はオーディションがすごく苦手なんです。役に添った私服でオーディションに臨むんですけど、撮影現場と違ってオーディションだと集中力が浅いんです。なので落ちてばかりなんですよ(笑)。

『ならば、そこにこだわっているよりも、空いているポジション、エキセントリックな役、そこのポジションで行けるところまで行く。攻めていったらこの先どうなんだろう?』っておもしろいことを思いついちゃったんです。

そこから、39歳までそこばかり攻めて行けるところまで行ったら『冷たい熱帯魚』まで行っちゃったという感じですね(笑)」

 

◆肉体改造宣言をして『冷たい熱帯魚』の出演をゲット

2011年、黒沢さんは園子温監督の映画『冷たい熱帯魚』に出演。他人を殺すことに何の迷いもなく次々と犯行を重ねる夫(でんでん)を手伝い遺体の処理にも慣れていて、主人公(吹越満)を破滅に導く狂気の女を圧巻の演技で体現した。

-『冷たい熱帯魚』もオーディションだったそうですね-

「はい。オーディションでした。あの当時3番目の子どもを出産して、まだそんなに日が経っていなかったんです。3人も産んでいますから、とくにお腹がダルーンとたるんでいたし、肉付きも良かったんです。

だから、『ダメだなあ。だけど、この役を絶対に手放したくないから、よし、これはあえてすべて晒(さら)してしまおう』と思って、ダブダブのお腹を写メして園子温監督に送ることにしたんです。『今私のお腹はこういう状態です。だけれども、撮影がインするまで1カ月ちょっとあります。それまでには完璧なからだにしますので、私を採用してください。絶対お応えします』ってお伝えしました」

-監督は何とおっしゃっていました?-

「監督は『黒沢さんておもしろい人。おもしろい感性を持っている。こういうふうに人を刺すとかそういった役柄を理解できると言っちゃうところが、やっぱりもう壊れていますよね』って大笑いされたんです」

-まさに愛子にぴったりですよね-

「はい。これはやるでしょうって(笑)」

-おもしろいキャラで、本心はどこにあるのかわからない。男の人の間を風のように流れて順応していくすごい女ですよね-

「すごい女です。でも、男を本当に渡り歩いていくという感情よりも、私自身が作品全体の主役という立場ではなく、登場するその瞬間お話の主役になるという立場で招かれて仕事をしていく。風のようにやって来て、風のように去っていくという、そういう立場がちょうど、私の人となりと愛子の生き様がピッタリハマったんじゃないかなというふうには感じます。

愛子役は、私が20何年やってきた女優人生の集大成だというふうに思えたんです。からだも含めて強烈なシーンがありますけど、それよりも自分の歩いてきた女優人生がどんなものだったかを確かめたいという思いが強かったんですよね」

-それでまた血まみれのシーンがよく合いますね-

「言われます。血が似合うって(笑)。自分でも不思議なんです。血がついたり、武器を持たされたりすると、スーッとスイッチがすごく入るんです。何か違う世界に連れて行ってもらえる。自分じゃない自分が表れるんですよね」

-『冷たい熱帯魚』は役柄も強烈でしたし、賞も受賞されて反響が大きかったですね-

「そうですね。私は『冷たい熱帯魚』は今までやってきた役の集大成と言ってきましたし、マネジャーにもこれからは人間味のある役柄を演じていきたいと伝えましたが、それまでのイメージを変えていくのは難しいことでした。

でも、それを今までとは違うように演じるのも私の役目であり、そこでも必要とされているのだったら、お引き受けするのも役者なんだろうと思って向き合ってきたら、いつのまにかもう幸薄いお母さん役が最近では定着しましたね。だから不思議なものだなあって(笑)」

-私生活でもお子さんが3人いらっしゃるんですね-

「はい。男の子ばかり3人。上から22歳、16歳、14歳です」

-お子さんたちは『冷たい熱帯魚』はご覧になったのですか-

「私の知らないうちに見たようですね。息子たちには私の職業について黙っているよう伝えていました。

でも、長男が高校生のとき『芸能人の息子がいる』と噂が立ったそうです。本人は黙っていても、授業参観などで私を見た親御さんや先生から知れ渡っていったようです。

友だちの中には、『俺、“冷たい熱帯魚”を見たよ、すっげーなー』とか、『黒沢あすか知ってるよ』とか。『お父さんがファンだ』って言ってくる子もいたそうで、そのたびに息子は『あ、そう』と返していたそうです。私の職業には興味がなかったようです。

また長男は大学生になり、在学中お世話になっていた教授と文学や映画の話を重ねていくうちに黒沢あすかの話題になったらしく、熱弁してくださったそうなんです。『昭和の匂いがして、媚びない、潔い人で大好きだ』と。『黒沢あすか知ってる?』と聞いてきたそうなんです。

長男も映画が好きでしたから、映画の話で盛り上がったところでそういう話題になったみたいなんです。それで息子が、『僕の母です』って言ったら、先生がビックリして、『何で言ってくれなかったんだ?お前のお母さんはね』って、どれだけすばらしいか、どういう作品に出ているかということをこんこんと説明してくださったそうなんです。

それで長男が『お母さんてすごいんだね。俺はお母さんの仕事を認めるよ』って、初めて言ってくれました。去年です(笑)」

 

◆「末梢性めまい症」で倒れて療養生活を送ることに

『冷たい熱帯魚』が話題を集め、テレビドラマ、映画でキャリアを重ね、公私ともに順調だった2012年9月、黒沢さんは主演舞台の稽古中、体調不良に襲われ、「末梢性めまい症」と診断される。

「あのときは、本当に私の両親に夫のことやまだ幼かった子どもたちのこと、食事や家のことなど全部面倒を見てもらったんです。

自宅療養でしたが私の状態がひどかったものですから、どのくらいで復帰できるかわからなかったので、私を看病しながら父は『女優業を応援した俺があすかを壊しちゃった、壊しちゃった』と毎晩、母に泣きながら言っていたそうです。

夫は『いつ帰ってもずっと眠っていて、病気が治るか心配だった』と言っていました。それで夫は、『薬を飲んで眠る以外の治療法があるのではないか?』と疑問を抱いたようで、めまいに関する本やいろんな情報集めをしてくれて、『あすか、有酸素運動にめまいを改善させる効果があるみたいなんだ。行動を起こしてみようと』と言ってくれたんです。

倒れてから2週間くらいしてやっと体を起こせるようになった私は、ウォーキングやスロージョギングをスタート。吐き気とめまいと闘いながら7年間、毎日続けました。

川べりでのウォーキングやスロージョギングは気分転換になりましたが、最初は目を右から左へ動かすだけで、目が回り吐き気が襲ってきましたからつらかったです。

ウォーキングやサイクリングを楽しむ人、ワンちゃんとお散歩をしている人が駆け寄ってくださり『大丈夫ですか!』と親身になって声を掛けてもらっていました」

-それでも毎日続けて-

「はい、治したい一心で毎日続けました。撮影現場で倒れて穴を開けてはならないので仕事のときだけは薬を飲むようにしました。倒れてから3カ月~4カ月後には仕事に復帰していたと思います」

-津田寛治さんが監督をされた短編映画『怯える女』でしたね-

「はい、この作品では夫も特殊メイクで参加していましたので、私のケアを万全の体制で撮影に取り組んでいたのですが、撮影途中に体調を崩してしまいました。

でも、とにかくお仕事に復帰しないと忘れられてしまうかも、もう仕事ができないんじゃないかという不安にかられましたので気力で乗り切りました。あらためて私には女優しかないと再確認しました」

ご家族に支えられながら有酸素運動に取り組み、本格復帰した黒沢さん。

2017年にはハリウッド映画『沈黙-サイレンス-』(マーティン・スコセッシ監督)に出演。2019年には私生活のパートナーである梅沢壮一さんがメガホンを撮った短編映画『積むさおり』に主演し、アメリカ・サンディエゴで開催されたHorrible Imaginings Film Festival短編部門で最優秀主演女優賞受賞した。

次回後編では『沈黙-サイレンス-』のオーディション&撮影エピソード、2022年3月5日(土)に公開される主演映画『親密な他人』の撮影裏話も紹介。(津島令子)

©2021 シグロ/Omphalos pictures

※映画『親密な他人』
2022年3月5日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
配給:シグロ
監督:中村真夕
出演:黒沢あすか 神尾楓珠 上村侑 尚玄 佐野史郎 丘みつ子
1年前に行方不明になった息子・心平の帰りをずっと待ち続けている46歳の石川恵(黒沢あすか)の前に、心平の消息を知っているという20歳の青年・井上雄二(神尾楓珠)が現れる。やがて二人は親子のような恋人のような不思議な関係に…。

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