北京五輪に行くためロコ・ソラーレが放った“奇策”。休憩中に「本気でグーグル検索して…」
連日盛り上がりを見せている北京冬季オリンピック。
2月10日(木)からは女子カーリング競技がスタートし、前回・平昌オリンピックで銅メダルを獲得したロコ・ソラーレ(LS北見)が登場する。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、北京オリンピックに挑むロコ・ソラーレを特集。彼女たちの強さの秘密と進化の理由、北京オリンピック代表決定戦での戦いに迫った。(前編はこちら)
◆調子は悪くない。だが、勝てない…
平昌で日本カーリング史上初となる銅メダルを獲得したロコ・ソラーレ(藤澤五月、吉田知那美、鈴木夕湖、吉田夕梨花、本橋麻里)。
その後も強さは衰えず、41歳(加入当時)の石崎琴美をあらたに5人目のメンバーとして加入させるなど、大胆な強化策を経て進化してきた。
そして2021年9月、ついに北京オリンピック代表を巡る決戦に挑んだ。
「ロコ・ソラーレ史上最高の試合が更新された」(吉田知那美)
「あの大会ですごく成長できたな」(藤澤)
「80歳になっても絶対忘れない出来事になった」(鈴木)
彼女たちがそう振り返る戦いは、苦しみからはじまった。
上を行った相手は、北海道銀行フォルティウス(現・フォルティウス)。メンバー全員がロコ・ソラーレと同じ常呂町出身で、かつて大ベテラン・小笠原歩が率いてソチオリンピック代表となったチームだ。
ソチ後は、ロコ・ソラーレと力関係が逆転。小笠原が退団してからは北京オリンピックに照準を絞り、残されたメンバーで懸命の強化を図り、這い上がってきた。海外でも着実な結果を残し、世界ランキングは最高8位。2020年の2月に行われた日本選手権でロコ・ソラーレを下し、代表決定戦へと持ち込んだ。
計5戦で先に3勝したチームが代表の座を勝ち取るという代表決定戦は、そんな北海道銀行のペースで進んだ。
展開は互角ながら、大事なところで北海道銀行がショットを決め、初戦をとる。
つづく第2戦。ロコ・ソラーレは真ん中にストーンを寄せられれば勝利という状況のなか、藤澤がラストショットでミス。弱すぎてハウスのはるか手前で止まってしまい、開幕2連敗と崖っぷちに立たされる。
「もうめちゃくちゃ悔しくて、泣き崩れました」(藤澤)
「これはもう負ける運命なのかって」(吉田夕梨花)
調子の良し悪しをはかるショット決定率も負けてはいない。個々の調子は悪くなかった。
しかし勝てない…。さまざまな状況判断をして最良の選択へと導いてきたチームなのに、どうしていいかわからず、疑心暗鬼になってしまう。
チーム全体を見渡してきた本橋麻里は、チームメイト同士の「感動」が不足していたと指摘する。
「私は(リード)夕梨花の第一投目から感動して拍手していたんですけど、みんなにその感動が薄れているよねという話はしました。自分たちのしていることに対して感動してほしかった。みんな慣れてしまったのかもしれないですけど、本当にすごくいいチームなんだよということは伝えました」(本橋)
5人目のメンバー・石崎琴美の捕らえ方はさらに冷静だった。
「1試合目と2試合目を見ていて、パフォーマンス自体は本当によかった。客観的にカーリングを見たときに何が違うかというと、気持ちの乗り方というか。ラック(運)がついてくるチームには気持ちが乗っていたりしますし、2試合負けた後に状況的には厳しかったですけど、何かひとつ変わればガラッと変わるだろうとは思っていました」(石崎)
技術も戦い方も問題ない。何かひとつ変われば――。
その話を受け、彼女たちはある“答え”に行きつく。
◆「自分たちで運命変えてやろう」
迎えた第3試合。あと1敗したら負けが決まるという崖っぷちの状況で、ロコ・ソラーレはハイテンションで笑顔を見せていた。
吉田知那美は、チームを鼓舞するようにこんな掛け声を出す。
「よし! 運命変えよう!」
これが彼女たちの答えだった。
じつは2連敗後のロッカールームで、こんなやりとりがあった。
「(鈴木)夕湖ちゃんが、『今大会私たち運ないよね!』って」(吉田知那美)
本橋の激励や石崎の「あとひとつ」という言葉を受け、4人は自分たちに何が足りないのか話し合った。そんななかで出てきたのが「運」というキーワードだった。
「私たちが形を作っても、なんとなく相手のいい方向にいく展開がずっと続いていました。メンタル的に一喜一憂したくないなって思って、もう途中から『運がないんだな』と思うようにしました。2試合目が終わった後に思っていることを言ったら、みんなうなずいてくれて」(鈴木)
戦い方ではなく、運がないという結論でみな同調する。そして、驚きの奇策に出た。
「やっぱり私たちは今大会“運”がない。運は私たちに味方していない。運が味方しないんだったら、もう自分たちで運命変えてやろうって。運を変えるためにどうするかを本気でグーグル検索して、引っ越すとか結婚するとか、おいしいものを食べるとか、できそうなことは休憩中にすべてやりました」(吉田知那美)
勝つためにあらゆることをやってきたロコ・ソラーレだが、未開拓の領域があった。運を呼び込むことだ。
「たとえば、さっちゃん(藤澤)って忘れ物の天才なんですよ。代表決定戦だから忘れ物しちゃいけないと思ったりするけど、大事な大会だからといって忘れ物しないのはさっちゃんらしくない。どんどん忘れ物していこうと言いました」(吉田知那美)
「私は正直かなり緊張していたんですけど、みんなから『全然いい、もっと緊張して』と言われました。緊張しても、前日寝られなくても、ごはんが食べれなくてもいいって」(藤澤)
さらに言い出しっぺの鈴木からは、こんな提案もなされた。
「笑顔だけじゃなくて、喜怒哀楽すべての感情を100%出すのが私たちらしいんじゃないかという話をしました。もう最悪試合しながら泣いてもいいし、投げながら泣いてもいいし、全部感情出して、私たちらしくいこうと」(鈴木)
運命を変えるためにたどり着いたのは、もっとロコ・ソラーレらしく感情を出そうということ。
2連敗からの3試合目、その気持ちは爆発する。進んで感情を表し、いいショットはみんなで喜び合い、力を尽くす仲間を讃え合った。カーリングの神様が振り向くくらいに――。
それは皮肉にも、彼女たちが世界のトップを目指す過程で捨て去ってきたものだった。
「国内でロコ・ソラーレは追われる立場になって、負けることが珍しくなっていました。それゆえに自分たちで課すハードルも自分たちでどんどん高くしていって、一投のドロー・一投のガード・一投のテイクアウトにどんどん喜べなくなっていました。だけど『私たちはすごいことをやっている』『これ1個を決めるために何十時間も練習したんだ』ということを、またあらためて思い出すことができました」(吉田知那美)
悪いほうへと向かっていた負のスパイラルは、こうしてプラスに転じる。3試合目は圧勝。4試合目も競り勝ち、2勝2敗の五分に戻した。
そして最後の5戦目、1点リードで迎えた最終第10エンド。
先攻・北海道銀行の最後の一投は、円の中心近くに2つ残った。その内側に止められれば、ロコ・ソラーレが得点し、代表に決まる。できなければ相手が代表となる、勝負を分けた一投だ。
普段の彼女たちにとっては難しくないショットだが、五輪出場のかかる一投だけに、計り知れないプレッシャーがかかった。
しかも藤澤には、第2戦での短すぎたショットが頭をよぎる。すると、それを察した吉田知那美からこんな言葉を掛けられた。
「あの2試合目のイメージがあって、弱く投げちゃいけないんだろうと思っていたなかで、知那が最後に『滑るから、弱く投げていいよ』と言ってくれたんですよね。『あ、そうなんだ!』と思ってちょっと笑ってしまいました」(藤澤)
選手4人、いや5人でつなぐラストショット。これを見事に決め、ロコ・ソラーレが大逆転で日本代表に決定した。
チーム全員とのコミュニケーションが、運命を変えたといっても過言ではないだろう。
「1人じゃ絶対できなかったなって、本当にみんながいてよかったと思います。今回北海道銀行さんに2敗しなければ、こうやってロコ・ソラーレらしさを取り戻すことも思い出すこともできなかったと思います」(藤澤)
勝負の一投のあと、人目もはばからず号泣した吉田知那美は、こんな思いを抱いていた。
「あの3日間を戦ったというより、4年間を戦ったような気持ちで、2連敗でようやく私たちらしさが4年ぶりに帰ってきたかなと感じていました」(吉田知)
こうして自分たちらしさを取り戻し、再び夢舞台に挑むことになったロコ・ソラーレ。
「強さって何だろう?」――その問い掛けを彼女たちは追い続けている。まだわからない答えが、北京で出ると信じて。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)