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愛する人の魂が、オジさんとして残った理由。最終話目前で深まる“メッセージ”<あのときキスしておけば>

<あのときキスしておけば 第7話レビュー>

別れ、というのはどんなものでも辛い。だけど、もしある日突然いなくなってしまう別れと、少しずつ確実に近づいてくる別れのどちらが辛いと聞かれたら、なんと答えればいいのだろうか。

『あのときキスしておけば』を観ながら、そんなことを考えた。(※以下ネタバレあり)

誰かの笑顔は、誰かの涙の上に咲いている

オジ巴(井浦新)の体に乗り移ったはずの巴(麻生久美子)の魂が少しずつ消えようとしている。その予兆は、ふたつの残酷な枷を桃地(松坂桃李)に負わせた。

ひとつめは、巴が消えることを止めてはいけないという枷だ。

桃地や、巴の母・妙(岸本加世子)にとっては辛いかもしれない。だけど、オジ巴の本来の人格である田中マサオの妻・帆奈美(MEGUMI)や息子の優太郎(窪塚愛流)にとっては、涙が出るくらいうれしいことなのだ。

冷たい言い方をすると、桃地たちは他人の悲しみを犠牲にして、本来得るはずのなかった幸せを間借りしていただけ。裏返せば、桃地たちが喜びに浸っていたとき、帆奈美や優太郎は涙に暮れていた。この別れは、その清算に過ぎない。

たとえば、これが巴の体のままほんの少し生き返っただけなら、巴を奪わないでくれと神様に願うことができたかもしれない。だけど、他人の体を借りた猶予期間だからこそ、その願いはただの我儘になってしまう。そして、その我儘を貫けるほど、桃地は身勝手じゃない。

誰かの笑顔は、誰かの涙の上に咲いている。幸せいっぱいの田中家を出たあと、天を仰いで涙をこらえる桃地を見ていたら、どうしてみんなが同時に幸せになることはできないんだろうと、運命の皮肉さを恨みたくなってしまった。

愛する2人を死が別つドラマはこれまで何度も観てきたけど、こんな複雑な別れは記憶になくて。ただ観ているだけのこちらまで何も言えず唇を噛んでしまう。

そしてもうひとつは、もう二度と愛する人には会えないのかもしれないという不安や恐れと向き合い続ける枷だ。一度目の別れは、突然だった。搭乗した飛行機が事故に遭う。そんな想像もしていなかった事態で、桃地は巴を失った。だから、別れに怯える時間もなかった。

一度目の苦しみが突然体の半分を引きちぎられてしまったようなものだとしたら、二度目の苦しみは別れの気配に少しずつ皮膚を剥がされていくようなものだ。しかも、一度大切なものを失った人は、それがいかにかけがえのないものだったかを思い知り、もう二度となくしたくないと願う。もしかしたら、今、桃地が味わっている苦しみは、一度目の別れより、ずっと深いものなのかもしれない。

巴を失った世界で、桃地はどう生きていくのか

巴の「別れてくんない?」という強がりを、桃地は「ふざけないでください!」と突き返した。

「先生にたくさん好きだって言われたい。僕も先生にたくさん好きだって言いたい」

きっとこんな言葉は、オジ巴と一緒に過ごす時間がなければ、桃地は言えなかっただろう。言いたいことを何も言えない桃地は、もういない。桃地は、強くなった。たくましくなった。ちゃんと自分の気持ちを自分の言葉で伝えられるようになった。

だから、一度目の別れで2人の日々が終わらなかったことは、決して無駄じゃない。オジ巴と過ごした1 ヶ月半は、桃地にとっても、巴にとっても、妙や高見沢(三浦翔平)にとっても意味のあるものだったんだ、と信じたい。

「私だって、同じよ。別れたくなんかないよ。桃地と一緒にいたいよ」

そう子どものように泣いた巴を、桃地はぎゅっと抱きしめた。あのタックルのようなバックハグとは違う、今にも壊れそうなものをつなぎとめるような優しい抱擁だった。

そして初めて2人はキスをする。その顔は、巴のときも、オジ巴のときも、本当に幸せそうで。だから余計に胸が痛い。こんなに幸せなのに、もう一緒にいられないなんて。どうして大切なものほど消えてなくなってしまうんだろう。

「先生に命令されないと、生きている気がしない。先生と出会う前、どうやって生きていたんだろう」と悶えていた桃地は、巴を失った世界で、どう生きていくのか。最終回で描かれるのは、きっとこれからの桃地だろう。

郷田ひと子(猫背椿)は言った、「桃地がいい人だから。あんたが周りをいい人にしているんだよ」と。確かにそれはその通りだ。でも、ちょっとだけ補足したい気持ちもある。

たぶん桃地自身は巴と出会う前からずっといい人で、そこは何も変わっていない。だけど、自分の殻に閉じこもっていたから、周りのことなんて何も見えなかった。エグゼクティブ真二(六角慎司)は普通に嫌な人だったし、郷田や水出のことも悪い人ではないけど、ちょっと怖いとか、あんまり関わりたくないとか思っていたかもしれない。

でも巴と出会ったことで、人と深く関われるようになった。巴との恋愛相談をしていくうちに自然とみんなと話す機会が増えて、やたらと口うるさいエグセクティブ真二が笑うことも、結婚していたことも、そんなに悪い人じゃないことを知ったのも、全部巴と出会ってから。

巴に恋をし、外に目を向けることで人のいいところを見つけられるようになった。プライドの高い高見沢に、「そんなことは僕もとっくに考えたんですけど」とめちゃくちゃ無礼なツッコミを冷静に入れられる仲になったのも、巴と出会う前の桃地なら考えられないことだ。

だから桃地に周りをいい人にする力があるのだとしたら、その半分くらいは巴が引き出したものなんじゃないかと思う。

そして、巴がオジ巴の体を借りてでも、この世界にほんの少しとどまることができたのは、つまりそれが理由なんじゃないだろうか。巴を失い、ひとり残されてしまった桃地が、独りじゃないように。周りの人の力を借りて、ちゃんと前を向いて歩いていけるように。巴の魂はこの世界に残った。

「あのとき〜〜しておけば」と願うのは、残された人だけじゃない。むしろ本当にやり残したことを悔いるのは、旅立った人なのかもしれない。この奇跡みたいな1ヶ月半は、巴にとっての「あの〜〜しておけば」という心残りを晴らす時間だったんじゃないだろうか。

きっと巴は『SEIKAの空』をなんとか書き上げるんだと思う。その最終回で巴はどんなストーリーを描くのだろうか。臆病者のモヤオはどんな結末を迎えるのだろうか。それはもしかしたら、巴が贈る桃地へのメッセージなのかもしれない。

いきなり強くなんてなれなくていい。気が小さくてすぐにテンパるヘタレなポンコツのままでいい。桃地が桃地らしく生きている。そんな未来をどうか最後に見せてほしい。<文/横川良明>