スローでわかる僅か”0.1秒”の調整。女子シンクロ高飛込、ケガを乗り越え目指すメダルの夢
競技時間はたったの“2秒”。「一瞬の美」と呼ばれるスポーツ、飛込。
5月1日(土)には、東京五輪最終選考会でもある「FINA飛込ワールドカップ2021」が開幕する。
この大会で活躍が期待されるのが、女子10mシンクロ高飛込の板橋美波(21歳)・荒井祭里(20歳)組だ。
ダイナミックな演技でリオオリンピック8位、日本勢として80年ぶりの入賞をはたした 板橋と、しなやかな演技を武器に10メートル高飛込ですでに東京オリンピック代表を決めている荒井。
日本トップクラスの2人はシンクロのペアを組み、東京オリンピックでのメダル獲得を目指している。
4月25日(日)深夜放送のテレビ朝日のスポーツ情報番組『GET SPORTS』では、元日本代表の馬淵優佳がナビゲーターとなり、2人の魅力に迫った。
◆入水の一致を生みだす0.1秒の“間”
2名の選手が同時に演技を行い、その完成度と同調性で順位を競うシンクロ高飛込。
採点方法は “演技”40%に対し、2人の“同調性”が60%。とくに入水のタイミングをそろえることがもっとも重要となる。
飛込界の名門・JSS宝塚に通い、互いに技を磨き合ってきた板橋と荒井だが、はじめから息があっていたわけではなかった。
馬淵:「はじめて合わせた時(シンクロを練習した時)の印象は?」
荒井:「飛ぶスタイルが違いすぎて合うのかなと正直思いました」
板橋:「私も一緒なんですけど、最初は冗談かと思って。本当にやるとは思わなかったです」
飛込のスタイルがまったく異なるという2人。
2018年、シンクロをはじめて間もない頃の映像を見てみると、同じタイミングで飛ぶものの、2人の入水が合っていないことがわかる。
跳躍力のある板橋のほうが滞空時間が長く、荒井よりも遅く入水してしまっていたのだ。
ところが2020年の日本選手権では、ピタリと合った入水を見せた。そこにあったのは、驚きの技術だ。
馬淵:「どうやって工夫して(入水を)合わせているんですか?」
板橋:「ジャンプの差が出てしまうので、わざと飛び出しのタイミングをズラしたりしています」
“飛び出しのタイミングをズラす”
あらためて日本選手権の映像をスローで確認すると、板橋がほんのわずか早く飛んでいることがわかる。その差は0.1秒。
滞空時間の長い板橋が先に飛ぶことで、2人の入水のタイミングをピタリと合わせる。わずか0.1秒の“間”が入水の一致を生んでいたのだ。
この技術で東京オリンピック代表にもっとも近いペアへと成長した2人。
だが、板橋はある葛藤を抱えてシンクロに臨んでいた。
◆致命的な怪我で個人での五輪出場を逃す
リオオリンピック個人種目で8位だった板橋。
試合直後のインタビューでは悔しさを吐露しながらも、「4年後にメダルとれるようにがんばりたいと思います」と、すぐさま東京へと目を向けていた。
しかし、誰もが東京オリンピックでのメダル獲得を期待したその矢先、板橋に試練が降りかかる。
2018年の練習中、右目に「網膜剥離」を起こしてしまう。
「網膜剝離なんて飛込で一番なってほしくなかった怪我だったので、ため息しか出ない」(板橋)
入水時に強い衝撃を受ける飛込選手にとって、目のケガは致命的だった。
さらに翌年、今度は左足のすねを疲労骨折。2度の大怪我により、1日50本だった飛込練習を3本にまで制限されてしまう。
満足のいく練習が出来ないまま迎えた2020年2月。
オリンピック最終予選へとつながる大会に臨んだ板橋だったが、ミスが相次ぎ、一番の目標であった個人での東京オリンピック出場を逃した。
馬淵:「心の整理はどうやってつけてきたんですか?」
板橋:「正直、今でも吹っ切れているかと言われたらそういうわけではなくて…リオ五輪では入賞しかできなくて、そこから(東京で)メダルをとるためにがんばってきたのに、自分だけ周りのみんながしないような怪我をして…。自分の気持ちにフタをして、今はシンクロでがんばろうかなって感じです」
その姿をそばで見てきたのが、すでに個人での東京オリンピック代表を決めている荒井だった。
「結構つらかったとは思うんですけど、そのつらい部分は何も言わずに『がんばってきて』と見送られたので。シンクロではメダル獲得を目指して、個人では入賞を目指してがんばりたいと思います」(荒井)
2人はライバルでもあり、支え合う仲間でもある。
目指すは、シンクロでの東京オリンピックメダル獲得。2人の息があった時、それも夢ではない。
※番組情報:『FINA飛込ワールドカップ2021』
2021年5月1日(土)~CSテレ朝チャンネル2にて放送
テレビ朝日スポーツ公式YouTube「背番号5」にて配信