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螢雪次朗、平成ガメラシリーズで警部→警備員→ホームレスに!「シナリオの伊藤さんが大迫を気に入ってるんだよ」

40歳のときに経験した滝田洋二郎監督の映画『病院へ行こう』、ドラマ『ネットワークベイビー』(NHK)、映画『ゼイラム』(雨宮慶太監督)の3本が俳優人生のターニングポイントだったという螢雪次朗さん。

俳優として注目を集め、時代劇『長七郎江戸日記』(日本テレビ系)、金子修介監督の映画『ガメラ 大怪獣空中決戦』をはじめとする平成ガメラシリーズ、『犬神家の一族』(市川崑監督)、『クライマーズ・ハイ』(原田眞人監督)など多くのテレビ、映画に出演することに。

◆念願の京都で時代劇

-40歳のときから俳優として注目を集めるようになりました-

「そうですね。一般の世界でも男の人は40歳というと、課長とか部長とか、多分役付きになるのがそれぐらいなんですよ。

だから、『螢雪次朗一座』を解散してひとりになって俳優としてリスタートするには、ちょうどいいタイミングだったなと思います。

それで、当時僕を担当していたマネジャーに、『螢さん、ひとりであらためて俳優としてリスタートするんですけど、何がやりたいですか?』って聞かれたので、僕は『京都に行って時代劇がやりたい』って言ったんですよ。

子どものときからの憧れが自分のなかで煮詰まってきたっていう感じでね。かつらを付けて時代劇、京都の撮影所で時代劇を撮るというのは、何か俳優としては、まずそこは絶対に通らなきゃいけないだろうって、僕は思ったんですよ。

ほかにも通らなきゃいけないところがあるのかもしれないけど、僕が思ったのは、京都で時代劇、やっぱりそれだろうって思って。

それで、マネジャーが一生懸命探してくれて、里見浩太朗さん主演の『長七郎江戸日記』という時代劇の最後のシリーズのレギュラーで1年間です。春から1年間、京都に通ったんですよ。その1年間は大きかったですね。

いろんな人が言いますけど、東映京都というところは大変クセの強い撮影所で、東京からチョコチョコッて行っても、なかなかなじめないんですよ。

ところが1年間通うと、撮影所の人たちも顔を覚えてくれるし、一緒に飲みに行くこともあるじゃないですか。

一緒に飲みに行くと、翌日ガラッと違うんですよ(笑)。まあ、そういうものですけどね。

だから40歳のときに『病院へ行こう』と『ゼイラム』と『ネットワークベイビー』という、役者としてとても幸せな3本をやって、そのあと京都に時代劇で1年間通って…そこから27、8年経つんです。だから、40歳はとてもいい年齢だったなあ。

新劇も20代で体験して、30歳からピンク映画だのヌード劇場だの、お笑いだの、そういう言ってみればフェアウェイではない、役者としては雑草の生い茂ったラフな道ではあるけれども、そこで、そのラフな道で鍛えられたのが、僕にとってはとても大きかったなぁという気がします」

◆米アカデミー賞2度受賞のカズ・ヒロ(辻一弘)さんが特殊メイク

2017年公開の映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でゲイリー・オールドマンの特殊メイクを担当し、第90回アカデミー賞においてメイクアップ&ヘアスタイリング賞を日本人としてはじめて受賞したカズ・ヒロ(辻一弘)さん。

2019年公開の映画『スキャンダル』ではシャーリーズ・セロンの特殊メイクを担当し、第92回アカデミー賞で2度目のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した辻さんが、渡米前、最後に手がけた仕事が、『ゼイラム』の螢さんの特殊メイクだったという。

「辻さんは『ゼイラム』で僕の特殊メイクをやった後、アメリカに行ってディック・スミスに弟子入りして、アカデミー賞を受賞したんですよね」

-すごいですね。最初に『ゼイラム』のお話が来たときはいかがでした?-

「あの役は最初別の役者にもって行ったんですけど、断られたということで僕に回ってきたんですよ。

それで、台本を読んだらとてもおもしろい本だった。ただ、いわゆる特撮系の人は、外国は知りませんけど、日本では特撮シーンばかり丁寧に書いてあるんですよね(笑)。

それはわかるんです。彼の頭のなかでは、カット割が全部できているんですよ。ここはこういう爆破シーンがあって、ここは合成してこうなるとか全部。

でも、僕は『やっぱり人間がおもしろくなきゃだめだよ』って言ったんです。僕のやる神谷という男はとても人間くさいやつで、たとえば酒が好きで、博打(ばくち)が好きで、女も好きで…って。

そういう人間臭いどこにでもいるようなおじさんが、宇宙から来たバウンティハンターのイリヤというのに気持ちがスーッと惹かれてしまう。

そこで宇宙人同士の争いに神谷ともうひとり、鉄平というあんちゃんが巻きこまれていく。だから、宇宙人に対しては、こっちの地球人は思いっきり生活感があったほうがおもしろい。

『酒と女と博打(ばくち)に目がない。そういうおじさんにもっと膨らませてくれるか?』って僕なりのリクエストをしたんですよ。その本にはあまりそういう部分が書いてなかったので。

そうしたら監督が『たしかにそうですね。わかりました』って言って、神谷をそういう人間臭い男に書き直してくれたんですけど、撮影も大変で1か月半くらいかかったのかな。

とにかく手探り手探りで、低予算なのに、みんなでアイデアを出して頑張りました」

-『ゼイラム』は続編も作られましたし、雨宮監督とは『牙狼<GARO>』シリーズも続いていますね-

「そうですね。『牙狼<GARO>』シリーズはテレビと映画で、もう10年以上になります」

-螢さんは「雨宮組の番頭さん」と言われているそうですね-

「自分でそう言っています。『雨宮組の番頭』と。特撮映画というのは、ハリウッドの大作映画みたいにお金をたくさんかけてCGで全部できるということもあるんでしょうけど、そうじゃなくて、『ゼイラム』を含めて、本当にフイルムで1コマ1コマいじりながら撮っていたっていう、やっぱりそういう手作りのところが特撮のおもしろさだなと僕は思うんですよね」

特撮ファンには金子修介監督の「平成ガメラ」シリーズ3作、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)、『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(1999年)の大迫役でもおなじみ。

-平成ガメラシリーズで螢さんが演じた大迫は、警部→警備員→ホームレスと激変しますね-

「そうですね(笑)。やっぱりとても人間臭いやつでね。だから、特撮映画はどうしても日本でも自衛官とか、政治家ばかり出てくるものが多かったんだけど、ガメラも大迫のような普通の人間臭い男が出てくることによって、ドラマにふくらみが出ましたね」

-螢さん演じる大迫がトラウマを克服して復活する物語としてもおもしろいですね-

「大迫は1作目では警部で、次に警備員、そしてホームレスですからね。金子監督は『シナリオの伊藤(和典)さんが大迫の役を気に入ってるんだよ』って言うから、『じゃあ、金子さんは気に入ってないの?』って言ったら、『そんなことはないけど』って(笑)。

金子さんは女性の役には思い入れが深いんだけど、男の役にはあまり思い入れがないの(笑)」

-滝田監督をはじめ、同じ監督からのオファーが多く、信頼されているのがよくわかりますね-

「うれしいですね。やっぱり同じ監督から、『今度こういうのをやるからまた出てよ』って言われるのは、本当にうれしいです」

(C) 2020 映画「リスタートはただいまのあとで」製作委員会

※映画『リスタートはただいまのあとで』
シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開中
配給:キャンター
監督:井上竜太
出演:古川雄輝 竜星涼 村川絵梨 佐野岳/中島ひろ子 螢雪次朗 甲本雅裕

◆公開中の映画のロケで温泉を満喫

※映画『リスタートはただいまのあとで』
上司に人間性を否定されて会社を辞めた光臣(古川雄輝)は10年ぶりに故郷に戻り、近所で農園を営む熊井のじいちゃん(螢雪次朗)の養子・大和(竜星涼)と出会う。人懐っこい大和を最初は苦手だと思っていたが、実家の家具店を継ぐことを父(甲本雅裕)に拒絶されて農園を手伝うことになった光臣は、大和と一緒に過ごす時間が増えて…

-映画『リスタートはただいまのあとで』は、『マッサン』(NHK)とかぶる役ですね-

「そう、ちょっとね。『マッサン』ではリンゴ農園のおやじでしたけど、今回はミカンとイチゴの農園のおやじですからね」

-撮影で印象に残っていることは?-

「低予算の映画ですけど、とてもいい感じに仕上がっています。長野の戸倉上山田温泉という温泉場でロケをしたんですけど、ホテルの隣の居酒屋さんに毎晩飲みに行っていましたね。

僕はしょっちゅうそういうことをするんですけど、その居酒屋のご主人と家族が、とてもよくしてくれて。そういうのがありがたいですよね。

僕は1週間ぐらいロケに行っていたのかな? 監督の井上(竜太)さんははじめての作品だったんだけど、初監督にしてはとても映画のリズムがいいし、わかりやすい。

彼はテレビのプロデューサーとしては何本か仕事しているし、撮り方もとてもオーソドックスで自然で。

主役のふたりの気持ちがちゃんと伝わってきて、僕はいい映画だと思います。若い人に見ていただけると思いますよ」

-最初はギクシャクしていたふたりの気持ちの変化がすごく自然に伝わってきますね-

「そうですね。素直に見て楽しんでいただけると思います」

-螢さんはドラマとか映画、舞台のときに自前の衣装を着用されたり、アイデアを出されることも多いそうですが、今回は?-

「今回はなかったです。普段のドラマや舞台などでは衣装とかメガネなどをよくもって行きますけど、さすがに農家のおじいちゃんの衣装まではもっていませんでしたね(笑)。

お風呂が大好きなので、温泉場のロケはうれしかったですね。温泉場のロケのときには必ず、1日3回くらい入るし、普段もうちの近所の銭湯に、週に2回くらいは行きます。銭湯に行って、大きなお風呂に入ると、やっぱりリラックスできますよね」

(C)2020 映画『リスタートはただいまのあとで』製作委員会

-10月16日(金)には角川春樹監督の『みをつくし料理帖』も公開になりますね-

「はい。僕は角川春樹さんには前作の『笑う警官』で呼んでいただいたんですけど、あのときは春樹さんが現場に戦闘服、迷彩服を着てくるんですよ。力が入っていたんですね。

あるとき、『監督はなんで現場に戦闘服とか迷彩服を着て来るんですか?』って聞いたら、『映画の現場は戦場だからだ』って、そういうバカなことを言うんですよ(笑)。

だから『映画の現場が戦場だからって戦闘服を着てくるのは短絡的じゃないですか?』って言ったら、『ばかやろう!』って怒鳴られましたけどね(笑)」

-『みをつくし料理帖』の現場ではいかがでした?-

「今回はジーパンとポロシャツとかTシャツというラフな感じで、力が抜けていました。しかも7歳の少年がスタジオに来て、『これ俺の息子だ』って言うんですよ。7歳の少年。

春樹さん78歳ですよ。6番目の奥さんとの子どもですって。カッコいいでしょう?いちいちカッコよくてね、あの人は。すごいちゃんとした息子。カッコいいよね(笑)」

-年末には主演映画『ネズラ1964』も公開になる予定ですね-

「どうなるかなぁ(笑)。昔、撮影所からネズミが脱走して近所からクレームが来て保健所がくるわ、マダニやシラミが発生するわで製作中止になった映画ですからね。どうなるんだろう(笑)。

でも、なんだかんだ言っておもしろいことがいっぱいで、『来年の夏に螢さんに出て欲しい作品がある』って、僕のところに直接連絡があったりして。そういう仲間がいると、やっぱり楽しいよね。そういう話を聞くとうれしいじゃないですか。

僕は今年の春に『螢雪次朗一座』を復活させたんです。30年ぶりに。来年の春もまた『新螢雪次朗一座』をやる予定ですけど、それは全部自分で本も書いて。

どうしたって思い残すことはあるんですよ、人生は。だけどね、『あー、やっておけばよかった』って後悔するのはイヤじゃないですか。やろうと思えばやれることはやっておこうって思ったんですよ。友だちがどんどん死んでいくので。

大杉漣は同い年で、ピンク映画から一緒でしたし、それこそ滝田監督のピンク映画に一緒に出ていますからね。

角替和枝ちゃんは年下だし。なんか昔からの友だちが、2、3年前から亡くなったというニュースが増えてきたので、今やれることは次々にやろうって、変な意味で妙に前向きな気持ちになっていますよ」

「ステイホーム」の期間は来年の「螢雪次朗一座」の公演の台本を書いたり、ドラマと映画のセリフを覚えたりと有意義に過ごしていたそう。普段だったら覚えきれないような量の長いセリフも完璧に覚えてスタッフに驚かれたとか。映画、ドラマ、舞台…やりたいことがいっぱいあるという螢さん。忙しい日々が続く。(津島令子)

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