WRC(世界ラリー選手権)、5カ月半ぶり再開。トヨタ・オジェ「新たな挑戦は、いつだって心躍る」
2020年3月15日、第3戦「ラリー・メキシコ」の最終日キャンセルから約5カ月半。ついに第4戦「ラリー・エストニア」でWRC(世界ラリー選手権)が再開する。
しかし、年間開催数は大きく減少。現時点で確定しているスケジュールは以下の通りだ。
第4戦「ラリー・エストニア」(9月5日~6日開催)
第5戦「ラリー・トルコ」(9月18日~20日開催)
第6戦「ラリー・イタリア」(10月8日~11日開催)
第7戦「ラリー・ベルギー」(11月19日~22日開催)
再開の第4戦に、当初開催スケジュールになかったラリー・エストニアが組み込まれた。
エストニアは北ヨーロッパに位置し、ラトビア・リトアニアと共に“バルト三国”と呼ばれている。バルト三国はそれぞれ1918年に独立したが、第2次世界大戦の影響で1940年にソビエト連邦に併合され、1991年8月にバルト三国そろって独立を回復。
日本人には近年、エストニア出身力士として2013年まで大相撲で活躍した把瑠都凱斗(ばると・かいと)の存在でも馴染まれた国だ。
WRCでエストニア出身ドライバーといえば、2018年から2019年にTOYOTA GAZOO Racingチームに所属し、19年にはワールドチャンピオンを獲得したオット・タナック(現在はヒュンダイ所属)。
トヨタ・ヤリスWRCを駆使したタナックとコドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤは、WRCだけでなくモータースポーツにおけるエストニア人初の世界選手権王者となった。
◆事実上2日間のラリー。ミスのない走りが求められる
さて、新型コロナウイルスの影響もあり、ラリー・エストニアの開催スケジュールは金曜日の夜にSS1だけ、土曜日はSS2からSS11、日曜日はSS12からSS17という事実上2日間のラリーとなる。
そのため、SSの総距離は232.64km。300km以上が一般的な通常のWRCよりかなり短い距離となる。ミスをすれば挽回するチャンスは少なく、ミスのない走りが求められるだろう。
また、ラリー・エストニアの特徴としては「グラベル(未舗装路)ラリー」で、またかなりの「高速ラリー」ともいわれ、ジャンプするクレストと呼ばれる丘部分も多く、コースはラリー・フィンランドに近いという声が多い。
ラリー・エストニア自体は2010年から始まったものだが、過去10年の勝者を振り返ると、オット・タナックが3勝(14年・18年・19年)、マッズ・オストベルグが2勝(11年・12年)している。
2014年から2016年にかけては、ERC(ヨーロピアン・ラリー・チャンピオンシップ)スケジュールに組み込まれた。
そうした経緯もあり、優勝経験のあるタナックやオストベルグだけではなく、エサペッカ・ラッピ、ヤリ‐マティ・ラトバラ、ティエリー・ヌービル、ティーム・スンニネン、クレイグ・ブリーン、ヘイデン・パッドンなど、現在のWRCドライバーたちの多くが出場経験を持つ。
タナックの母国ラリーとなるだけに、当然タナックが一番人気だが、過去2年間はトヨタ・ヤリスWRCでラリー・エストニアに優勝していることもあり、トヨタ人気も非常に高い。
久しぶりのラリーだけに、TOYOTA GAZOO Racing各ドライバーも気合十分だ。
◆唯一の日本人ドライバー、勝田貴元も参戦
※コメント:セバスチャン・オジェ
「久々にラリーに参戦できることを嬉しく思います。ラリー・エストニアは自分たちを含む多くの選手にとって初めての経験になりますが、新たな挑戦は、いつだって心躍るものです。
ステージは非常にハイスピードで、きっと厳しいラリーになるでしょう。ヤリスWRCはそのような速いステージでも自信をもって走れますし、フィンランドとエストニアでのテストを経て、クルマに良いフィーリングを感じています。
また、先週のラリー出場も準備の助けになりました。というのも、このような長い休みの後では、すぐに限界を見極めるのは簡単ではないからです。今回はステージの出走順が1番となりますが、9月の天候がその不利な条件を和らげてくれることを期待しています。目標は、ベストを尽くして戦うことです」
※コメント:エルフィン・エバンス
「競技に出場するのは久しぶりです。テストで運転の感覚を取り戻すことはできましたが、やはり実戦に勝るものはありません。
ラリー・エストニアはWRC初開催となりますが、昨年このイベントに参加していたのはラッキーでした。私にとってはあまり良い結果にはなりませんでしたが、それでも楽しめましたし、少しではありますが予想ができるようにもなりました。
ステージはとても速く、フィンランドに似ているところもあります。しかしジャンプは少なく、場所によってはさらにハイスピードです。そして、我々のクルマが、そのような高速グラベルロードで力強いことはテストで確認できています。我々が高い戦闘力を備えていることを期待し、ラリーで力を最大限発揮できることを願っています」
※コメント:カッレ・ロバンペラ
「エストニアの道はとても速く、流れるようなコーナーが多いのですが、狭くてテクニカルな区間もあり、非常にトリッキーなラリーになるでしょう。
アクセル全開で走るようなステージが大部分ですが、正確な走りが求められる場所もあります。長い休みがあったので、序盤からスピードを上げるのは簡単ではありませんが、良いテストができたので準備はできています。
いろいろな気象条件でドライブすることができたのは、いい経験になりました。私はこのクルマでまだ3回しかWRCに出場していないので、残りのシーズンもまだまだ学びを続ける必要がありますが、今回のエストニアは自分に合ったラリーだと思うので、良い結果を期待しています」
また、WRC唯一の日本人ドライバーである勝田貴元もラリー・エストニアに参戦する。現在、フィンランドに在住してWRCに挑戦中の勝田。ラリー・フィンランドに近い環境といわれるラリー・エストニアだが、じつは2019年にトミ・マキネン・レーシングのマシンで出場経験がある。その経験を活かして、まずは着実な走りを期待したい。
金曜日のSS1は現地時間19時8分スタート(日本時間は土曜日午前1時8分)を予定している。土曜日のSS2は現地時間7時40分スタート(日本時間は土曜日13時40分)、日曜日のSS12は現地時間7時35分スタート(日本時間は日曜日13時35分)の予定だ。
年間13戦から一気に年間7戦となってしまった2020年のWRC。つまり今後は、1戦たりとも落とせないラリーが続いていく。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>