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「50年以上夢見てきた」71歳のOBが心に刻む“無念”。母校の甲子園初出場を描いた、夢のスコアブック

8月10日(月)から6日間にわたって開催された「2020甲子園高校野球交流試合」。

春のセンバツ(第92回選抜高等学校野球大会)に出場するはずだった32校が、阪神甲子園球場で1試合ずつの戦いを繰り広げた。

大会2日目の8月11日(火)には、創成館(長崎)対平田 (島根)戦が行われたが、この試合を特別な思いで見つめる男性がいた。

佐藤邦夫さん、71歳。平田高校のOBだ。

平田高校のある出雲市・平田町出身で野球部を応援しつづけている彼は、この試合を50年以上夢見てきたという。

「まだ年寄りの夢みたいなものが消えないですね。もう70歳になりましたけど、いつかは出て欲しいなぁと」

佐藤さんにとって母校の甲子園出場はどんなものだったのだろうか。

8月23日(日)に放送される『高校野球特番 2020君だけの甲子園』では、平田高校野球部を特集。本記事では番組未公開パートを加え、佐藤さんが描きつづけてきた“夢”に迫った。

◆「自分でできなかったことを、子どもたちに」

人口約6000人の出雲市・平田町にある平田高校野球部。

子どもたちへの野球教室など地元への貢献が高く評価され、21世紀枠でセンバツ出場を手にした同校は、『地元を愛し、地元から愛される』小さな町のヒーローだ。

この町に生まれ、この町で青春を過ごした佐藤さん。彼が野球部を応援する理由は、地元出身・OBということだけではなく、野球がやりたくてもできなかった過去の出来事があったからだ。

佐藤さんのご自宅で当時の卒業アルバムを見せてもらうと、野球部ではなく、テニス部の部員として写真に納まる彼の姿があった。

「体が小さくて入部させてもらえなかったんです。当時の先生が体の大きい生徒ばかりを入部させていてね。僕は野球がやりたかったので、劣等感はあります。自分でできなかったことを、子どもたちに託しているんですよ」

叶えられなかった夢を、後輩たちに…。

佐藤さんの人生はそれから、平田高校を応援することが生きがいとなった。近郊で行われる練習試合にはすべて駆けつけ、5、6年前からは我流で試合のスコアもつけはじめた。

見せてもらったスコアブックには、打順、先発投手、「ヒット」「2塁打」と簡単な記録に加え、ひとことメモも。

スコアで埋め尽くされた手帳は、もう3冊目になる。

「昔は無意識で見ていたんですが、それではおもしろくないと思って書きはじめました。イニング間の時間が空いたタイミングにつければいいと思いましてね。正式なスコアではなく、自分なりに書いているだけです」

スコアブックを書きつづけたおかげで、選手のことはほとんど頭に入っているという。

「趣味ですよ。70もすぎると暇ができましてね。子どもたちが野球をやっている姿を見るとうれしいんです。がんばっている姿を見るとエネルギーをもらえますよ」

◆50年分の夢がかなった甲子園出場

そんな佐藤さんがずっと願っていたのが、平田高校の甲子園出場。これまで同校は創立104年の歴史のなかで、甲子園の土を一度も踏んだことがなかった。

「いつの日か、甲子園で平田高校のスコアを書き込みたい」という夢を抱いてきた佐藤さん。その想いがあったからこそ、今年のセンバツ出場が決まったときは本当にうれしかったという。

しかし、大会は新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止に。一度遠ざかった甲子園の夢は、交流試合という形で実現することになった。

「うれしい反面、残念な気持ちも残っていました。センバツに出場してほしかったですから。だけど選手が甲子園に行けるから、やっぱりうれしかったですね」

複雑な思いを抱えながらも、迎えた夢の一戦。無観客で行われたため、佐藤さんは自宅で観戦し、母校の活躍を目に焼き付けた。

いつものようにメモ帳を開き、胸を弾ませながら母校のスコアを記す。ようやく、佐藤さんの夢がかなった瞬間だった。

残念ながら試合は4対0で敗れてしまったが、甲子園初出場という夢をかなえてくれた後輩たちに対し、佐藤さんがむけるまなざしは温かい。

「ピッチャーの古川選手がよく投げただけに、2回の2アウト満塁のチャンスは惜しかった。だけど守りの面ではノーエラーだったので、平田らしい試合ができたと思う」

そして最後の質問として、佐藤さんに「スコアブックを書きつづけてよかったことは何ですか?」と聞いてみた。

「記録に残ることです。昔の試合のスコアブックを見返したりすると、その場面を思い出します。昔は弱かったけど、選手に実力が付いて強くなったなと感じました」

番組情報:『高校野球特番 2020君だけの甲子園
2020年8月23日(日)よる9:00~10:54、テレビ朝日系24局

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