松坂桃李、妻子殺しの犯人に「嫌な感じを抱かなかった」理由。SPドラマ『微笑む人』に見る“人間の本質”
紳士的な振る舞いのなかにフランクさもあり、取材中もユーモアを交え楽しませてくれた松坂桃李。「よろしくお願いします」と、爽やかな笑顔で挨拶する姿も印象的だった。
そんな松坂が3月1日(日)放送のスペシャルドラマ『微笑む人』で演じるのは、妻子を殺したサラリーマン・仁藤俊美。劇中では、取材時の姿からは想像しがたい、“ぞっとするような微笑み”を浮かべる。
残虐な犯罪を起こした仁藤について、意外にも「嫌な感じを抱かなかった」と語る松坂。そう語る“真意”とは? 役作りや作品から浮かびあがるテーマについて、松坂に話しを聞いた。
ドラマスペシャル『微笑む人』は、貫井徳郎の同名小説が原作のミステリー。『アンフェア』シリーズの原作者・秦建日子が脚本を、『世にも奇妙な物語』シリーズを手掛けた落合正幸が演出を担当した。
「本の置き場所が欲しかった」という理由だけで妻子を殺害したサラリーマン・仁藤俊美に松坂が、仁藤の不可解な動機に納得がいかず、事件の真相を究明する週刊誌記者に尾野真千子が扮する。
仁藤は、大手都市銀行で働くエリート。常に柔らかな微笑みをたたえ、妻子を大切にし、職場の同僚や保育園の親たちも認める“いい人”だった。そのため、事件当初は仁藤の犯行を信じないものばかりだったが、その顔の裏には思いもよらぬ過去が隠されていた――。
◆ぞっとするような微笑み、作り方は…
――仁藤は“いい人”ではありますが、感情が一定なのは少し不気味でした。役作りにおいて「フラットでいることを大事にした」とおっしゃっていましたが、フラットでいるということは仁藤を俯瞰して見ていたということですか?
松坂:「殺しに至るまでに、仁藤のなかで感情が爆発したりすることはなかったんですよね。つまり仁藤にとっては殺し=普通のこと。周りはそんな理由あり得ない、と言うけど『いや僕にとっては普通なんだけどな…』というスタンスでいました」
――フラットでいることは、すんなり出来ましたか?
松坂:「自分のなかで『これは仁藤にとって普通のことだ』と着地点を嚙み砕くことができたので、無理に頑張るという感じにはなりませんでした」
――劇中の「ぞっとするような微笑み」が怖かったです。“微笑み方”は、どう考えて演じていましたか?
松坂:「人の微笑みは、その人その人の印象によって変わると思います。好印象の微笑み、不気味な微笑み…。その微笑みの違いが出ればいいな、と思って演じていました。そのシーンによって微笑む“タイミング”は変えていました」
――今作と種類は違いますが映画『不能犯』でも“ダークな微笑み”を浮かべる役でした。そのときは“微笑み”の練習をされたとおっしゃっていましたが、今回は練習されましたか?
松坂:「『不能犯』のときは微笑みというより“にやり顔”で、かなり口角をあげなくてはいけなかったので練習したのですが、今回はしていないです。
今回は、撮影前にまず仁藤という人物がどういう捉え方でどんな人と接して…と考えて。撮影が始まってからは落合(正幸)監督の言葉に助けられました。尾野真千子さんを始めとした共演者の方と作品を作り上げて行くなかで、“微笑み”もできていったという感じです」
◆妻子殺しの役に「嫌な感じを抱かなかった」ワケ
――仁藤は、不可解な動機で妻子を殺し、さらに反省している様子もなかった人物ですが、「仁藤に嫌な感じを抱かなかった」と松坂さんはコメントされていました。なぜでしょうか?
松坂:「人って、相手のことが理解できないとき、『こいつは自分とかけ離れているから仕方ないな』と思うことで、楽になれちゃうと思うんです。
仁藤に関しても、『そんな理由で殺すなんて…こいつ危ない!』と割り切ってしまうのは楽な着地点。でもそれって、相手との距離があるからこそ辿り着いてしまう着地点なのかなと思いました。
『お前はこういう人だと思っていた』『いやでも俺はこれが当たり前』というように、その人にとっての“当たり前”があることは“当たり前”だけど、その“当たり前”が時には危ないところまで行ってしまう。それが仁藤なのかなと」
――なるほど。着地点といえば、原作の小説とは違うラストになっていますね。そこについてはどうですか?
松坂:「ドラマはラストで言いたいメッセージがハッキリしていると思いました。原作は、より考えさせられる終わり方でしたよね。
解禁時にツイートしましたが、この作品は観る人によっては気持ちのいい終わり方ではないかもしれない。でも、自分の気持ちのいい着地点に持っていくことは簡単だけど、それだけじゃないのは?という部分に、メッセージ性があるなと感じました」
――観終わったとき、「私たちは人のどの部分を信じていけばいいのか?」と、“人や情報を信じる”ことについても考えさせられました。その点について松坂さんはどう思われますか?
松坂:「確かに、僕もそこは考えました。だからこそ、すぐに簡潔な答えを求めようとせずに、もうちょっとじっくり向き合ってみたらどうだろうか…ということを言いたいのかな、と解釈しました」
――松坂さん自身、そう考えたことによって人との接し方が変わったりしましたか? 合わないと思っていた人ともじっくり接してみるようになったとか。
松坂:「接し方が変わったというよりは、長い時間を掛けてじっくり接していたら『あれ、この人最初のイメージとかなり違った』という経験は最近ありました。
作品自体は2回目だったのですが、昨年『いだてん』で阿部サダヲさんとガッツリ共演させていただく機会がありました。ひょうきんなのはイメージ通りでしたが、ボソッと面白いことを言うんです。それがすごく静かなんですよ(笑)。意外ですよね(笑)」
――すごく意外です(笑)。では、松坂さんが人のことを深く理解するために必要だと思うのは、“時間”ということになりますか?
松坂:「時間もそうですが、“咀嚼すること”も大切だと思います」
◆世間からは「勘違いされていることばかり」
――仁藤という人を通して、どんどん人間の本質に迫っていく作品ですが、そんななか松坂さんが垣間見た“人間の本質”とは?
松坂:「一面や二面だけでなく、多面的。周りから思われている印象と違うというのは、当たり前。自分自身も他者から思われている印象とは違うだろうなと思っています。だから自分もひとつの印象だけに捕らわれずに、いろんな解釈や考え方を持つ必要があると思いました」
――松坂さんが世間に勘違いされているところはありますか?
松坂:「勘違いされていることばかりです(笑)。トップコートランドに会員登録して『マネつぶ』を読んでいただければ、1割くらいは分かると思います(笑)」
――1割ですか!?(笑) 松坂さんご自身は、周りからどう思われているのか気にするタイプですか?
松坂:「この仕事を始めたばかりのときは、『どういう風に思われているんだろう』とビクビクしながらやっていました。だけど今は、そこはちょっと置いておいて、作品を通して自分が伝えたいことに専念してやっていこうと思っているので、そこまで気にはしていないです。
けれど、このCMを担当するには清潔なイメージを保っていくべきだな…とか、考えながらやっている部分もあります」
――CMもたくさん出られていますもんね。
松坂:「うちの事務所のモットーは、『品とポップ』らしいんですよ。ちょっと両立するのが難しい2つなのですが、そこを保たないとうちの事務所ではやっていけないので(笑)。とにかく僕はその2つのバランスを保てるように頑張っていこうかなと思っています」
――「品」の部分は表しやすいと思うのですが、「ポップ」の部分はどういったところで意識されているのでしょうか?
松坂:「お芝居で意識することもありますが、特にラジオやバラエティーで出せるといいなと思っています(笑)」
――「第10回TAMA映画賞」の授賞式で、マネージャーさんが厳しいとおっしゃっていましたが、「品とポップ」を保てていないと怒られてしまうこともあるのですか?
松坂:「最初の頃はマネージャーさんからインタビューひとつとってもお芝居ひとつとっても、毎度のようにダメ出しがありました。いまでも厳しいですよ(笑)。でも『微笑む人』についてはまだ何も言われてないんですよね…ちょっとあとで聞いてみます」
◇
最近『孤狼の血』『新聞記者』のようなヘビーな作品が続いているため、「コーラ片手に観れる『ハングオーバー!』のような、観ると元気になれる作品もやりたいです」と笑いながら話す松坂。
スペシャルドラマ『微笑む人』の放送のみならず、今後の活躍が大いに楽しみだ。
<撮影:You Ishii、取材・文:佐藤菜月>
【メイク】高橋 幸一(Nestation)
【スタイリスト】TAKAFUMI KAWASAKI (MILD)
※番組情報:ドラマスペシャル『微笑む人』
2020年3月1日(日)夜9時~、テレビ朝日系24局