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うんこミュージアムからバンクシーまで。アソビルの仕掛け人が語る「訳の分からないもの」への敬愛

「エンタメの未来」をテーマにしたテレ朝POSTの新企画。記念すべき第1回は、2019年3月、横浜駅直通の複合型体験エンターテインメントビル「アソビル」をオープンし、多彩なリアルエンターテインメントコンテンツを展開している株式会社アカツキの共同創業者で取締役COOの香田哲朗氏に話を聞いた。

――アソビルでは現在「光の深海展 OCEAN BY NAKED」を1月27日(月)まで開催中ですが、ここまでの感触はいかがですか。

香田:その前に「うんこミュージアム」を展開していたフロアなのですが、横浜という場所柄、分かりやすさや家族で行って楽しめるものが求められていると思い、去年11月から開催しています。蓋を開けてみるとやはり親子連れに多く楽しんでいただいているようで嬉しいですね。インタラクティブな仕かけや他にはないスケールの映像も含め、スペースをうまく活用できているという印象です。

体験系のエンターテインメントって大きく二つに分かれていると思っていて、一つは明確にファンがついているもの。例えば『ドラゴンボール』や、今なら『鬼滅の刃』といったIP(Intellectual Property=ゲーム・アニメなどの知的財産)系と、NAKEDのような「水族館」や「動物園」、あとは「恐竜」といった、間口の広い、みんなが楽しめる系のコンテンツの二極化の傾向がより強くなっているという印象があります。

その意味で「光の深海展」は王道エンタメのアップデート版とも言えますし、横浜市中央郵便局をリノベーションしたアソビル自体のコンセプトともリンクしていきます。親しみやすいけど、そこに行くとテクノロジーがあり、身近なモノから先端なモノにつながっていく。行くことで新しい「発見」や新しい「リアル」がある、新しいタイプのエンターテインメントです。

――さらに3月15日(日)からは「バンクシー展 天才か反逆者か」が開かれます。

香田:これはいわゆる「アート」が好きな人だけに向けたものというのではなく、普段アートに触れない人たちでもきっと楽しんでもらえると思います。バンクシーにはそれだけ強いクオリティーやメッセージ性があると思うし、展示会に行くこと自体が楽しみになれば、「次は何に行こうか」という行動にもつながっていくと思うんです。

――その意味ではかなり気合も入っているのではないですか?

香田:そうですね。僕も去年の12月に香港に観に行って、めちゃくちゃテンション上がりました。歴史のある郵便局をリノベーションしたアソビルとストリート発のバンクシーにはシンクロするところが多分にあるというか、ただ単に展示するよりもストリートの文脈をアソビルだと醸し出せると思います。

2017年には「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」(アメリカ・マイアミで行われた世界最大級の現代アートフェア)にも視察に行ったんですが、もともと治安の悪かった町がアートで盛り上がることで地価も上がっていく、というところにアートの「力」をすごく感じましたね。

――香田さん自身のアートとの関わりはいかがでしょう。

香田:アートというものを強く意識するようになったのはここ1、2年ですが、それまでも海外に出張とか行くと、空き時間ってだいたい美術館とか博物館になってくるじゃないですか。そこで思ったのは、シンプルに「めっちゃ人がいるな」と(笑)。最初はアートが何でこんなに人を集めるのか分からなかったんですけど、「よく分からないものこそが人の心を惹きつける」という結論に至りましたね。

正直よく分からないけど「見てみたい」「感じてみたい」もの、「人を惹きつける」という意味ではアートもエンターテインメントと同じというか。作品自体の力はもちろんですが、アートの持つ、ビジネスやマーケティング的な発想を越えた「価値」に人は惹かれるのではないかと。それと同時に、現代アートにベンチャービジネスと同じような雰囲気を感じたんです。どうやって価値を上げていくか、みたいなダイナミックさにも興味を持ちました。

――今後はアート関連のイベントも積極的に展開していくということですか。

香田:アートそのものを事業とするというよりは、ゲームでも何でもエンターテインメントって源流は個人の「表現」からスタートしているわけで、そういったアートの文脈を理解することで自分たちのエンタメ事業にフィードバックできるものがあるのではないか、とは個人的に思っています。

その中でもアーティストの人たちが持っている感性というか、同じ時代に生き、同じような生活を送っているはずなのに、一人の人間から生み出されるものが何でこんなに他と違うのか、というところに大きな興味・関心がありますね

――バンクシー展が開かれる3月15日(日)にはちょうどアソビルがオープン1周年を迎えます。

香田:新しいことを提供し、時間をかけて理解され積み上がっていくのがちょうど1年くらいかなという実感ですね。マーケット的には「これ欲しいよね」というものを提供することが王道だと思いますが、アソビルでは「これ何?」というものをあえて提供しながらも、多くの人たちから理解していただいている手ごたえはあります。次の1年はそこからさらにもう一段、可能性を広げていきたいです。

 

◆人の行動を変えるのは究極的に「体験」である

ーーところで、エンタメにおけるデジタルとリアルの兼ね合いについてはどう考えていますか?

香田:デジタル上で流れ続けるタイムラインは情報量も膨大だし、自分たちの生活にも多少はかすっていると思いますが、やっぱり目の前にある「リアル」の力のほうが強いと思うんですよ。たとえばいくら新しいレストランのオープン情報をタイムラインで流されても、会社の近くに出来たネパール料理屋から漂ってくるカレーの「匂い」にはかなわないじゃないですか。

僕はやっぱり人の行動を変えるのは究極的に「体験」だと思っていて。フェスやライブのレポートをテキストで読んで「自分も何かやろう」とはなかなかならない。その場に足を運んで熱量を感じることが「行動」に結びついていく。「知る」ことと「体験」することが人の心を動かすわけで、「原体験」に勝るものはないんですよね。

もちろんネットの情報は「行動」をアシストするためには必要ですが、僕たちがなぜ「リアル」にこだわるのかも理由はそこにあります。もはやデジタル空間はインフレだけど、みんながそこに留まっているかというとそんなことはなくて、渋谷の駅前は相変わらず人であふれているじゃないですか。今もそういう流れではありますが、これからは「リアル」がより一層、見直されていくと思うんです。

――未来のエンタメについてはどのような見解をお持ちですか。

香田:一般的にも言われていますが、GAFA(Google、Amazon、facebook、Apple)のように非常に大きく巨大化したコンテンツと、YouTubeやInstagramのように誰もが作れるコンテンツの二極化は進んでいくと思います。そんな中で、表現者の数が昔に比べて増えているというのは状況としてあって、料理に例えるならこれからは料亭というよりもバーベキュー的なインタラクティブな楽しみが求められていくのではないでしょうか。

それが最初のアップデートで、そこから先はもっとたぶんバーチャルな、ソードアート(・オンライン)的な世界が来そうな感じはしてますけど、映画は映画で、展示会は展示会で残るでしょうし。何かが消えて何かが残るというより、それぞれの価値がより研ぎ澄まされて残っていくと思います。

――バーチャルという言葉が出ましたが、香田さんが思い描くバーチャルとリアルの良いバランスはどのようなものでしょう。

香田:そんなに明確な答えはまだ自分の中にないんですけど、ある世代を境に、バーチャルがナチュラルな世代が出てくると思います。たとえば今5歳くらいの子どもの10年後とか。今の25歳くらいが家に固定電話がない世代ですよね。女の子の家に電話してお父さんが出たらどうしよう的な「体験」がもはや味わえないじゃないですか(笑)。

そう考えると、もしかすると今5歳の子が15歳くらいになった時、エンターテインメント=バーチャル空間という認識がメインになって、「たまには外でリアルに遊ぶか」的な感覚が普遍的になる可能性はあるかもしれないですね。

それに、おそらく寿命も伸びていくから、幅広い年齢層のどこを切るかによってエンターテインメントの形も変わっていく。人口分布的には中高年から上が増えていくし、お金を使えるのもその層である以上、ビジネスとしてどちらを向けばいいのかという問題も出てくるでしょう。

◆訳の分からないものとどう向き合っていくのか

――時代の流れと共に、エンタメの在り方も変化していくと。

香田:今は基本的に若者を主役としてとらえてますけど、『ドラゴンボール』や『ワンピース』とか『ガンダム』といった、いわゆる強力なコンテンツは何十年も前に生まれたものじゃないですか。テレ朝さん的に言えば『仮面ライダー』であり、『ドラえもん』であったりするわけで。

サブスクリプションやストリーミングによって音楽業界が盛り返したのも、新譜より過去の作品の掘り起こしだったりしますよね。新規参入はハードル高いですけど、アセット(資産、経済資源)を持っているところにとってはチャンスが広がっている。紅白歌合戦も近年は過去の曲やメドレーが増えてますが、それを良しとするか、変化がないとするかは難しいところですけど。

エンターテインメントの作り手としては、今までは新しいモノをどこよりも早く見つけ出してヒットさせた人が勝ちという感じでしたが、ソーシャルゲームにしても金額的にボリュームがあるのは30代以上に人気があるタイトルだったりする。純粋な意味で「まったく新しいモノを作る」ということが難しくなりつつあるのかもしれないです。

――では、テレビについてはいかがでしょう。

香田:テレビもある種、ライブ体験になりつつありますよね。スポーツやニュースが強いということは昔から言われてましたけど、最近ではドラマの最新話をみんなで見てツイッターで感想を言い合うとか、生の「同時性」「共感性」が求められているいつでも何でも出来る時代だからこそ、「今そこでしか出来ないこと」「今みんなで出来ること」を活かしたモノを作らないと負けちゃいますよね

――改めて最後に、香田さん自身の今後の展望についてお聞かせ下さい。

香田:僕としては、アカツキのライブエクスペリエンス事業を通じ、フェイス・トゥ・フェイスしやすいリアルな体験ならではの広がりを模索していきたいです。管理する側・管理される側という関係ではなく、フラットなコミュニティとして「共犯者」を増やしていく感じというか。僕らが提供するエンタメに参加してくれる人たちと一緒に作り上げていくことを目指しつつ、それが数字にも繋がっていくと一番いいのかなって思っています。

これからはアートと同じくエンタメも「訳の分からないものとどう向き合っていくのか」ということが本質的な時代になっていくと思います。コンプレックスコン(アメリカ・ロサンゼルスで行われるストリートファッションイベント)とか、良い意味でもう訳が分からないですもん(笑)。日本もだんだん何が正解なのか分からなくなって行く中で、そんな状況に慣れても考えることを諦めず、自分なりの価値観を持ち続けることが大切になるのではないでしょうか。

<取材・文/中村裕一>

※イベント情報:「OCEAN BY NAKED 光の深海展
2020年1月27日(月)まで開催、10:00〜21:00(最終入場20:30)
会場:アソビル(神奈川県横浜市西区高島2丁目14-9 アソビル2F ALE-BOX内)
アクセス:横浜駅みなみ東口通路直通、横浜駅東口より徒歩2分

※イベント情報:「バンクシー展 天才か反逆者か
2020年3月15日(日)〜9月27日(日)※予定、上記アソビルにて開催
主催:BANKSY~GENIUS OR VANDAL?~製作委員会
企画制作:IQ ART MANAGEMENT CORP

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