アイドルに憧れるも、落選。大学4年生、就活一週間前に夢を叶えた少女<篠原望>
秋元康プロデュースによる、『ラストアイドル』(テレビ朝日系、2017年8月に放送開始)から生まれた「ラストアイドル2期生アンダー」の篠原望は、学生時代に打ち込んでいた吹奏楽を引退後、アイドルに転身した一人だ。
中学では2年連続で全国大会の金賞に輝き、高校でも強豪校へ。大学では進路に悩むも、知り合いに誘われ“バイトAKB”の応募をしたことで、アイドルへの興味が募っていく。
就職活動の時期が近づくなか、さまざまなアイドルのオーディションへ応募し続けるものの、書類落ちばかり。
これを最後にきっぱり諦めて、就職活動に専念しよう。そんな思いから、ラストアイドルの2期生オーディションに応募したその日から、彼女の人生は変わった。
いま、彼女は両手で持つものを楽器からマイクに変え、アイドルとして観客に手を振っている。
彼女はなぜ、アイドルを目指したのか。アイドルになって、望んでいたものを得ることはできたのかーー。『ラストアイドル』に賭けた少女たちの、ビフォーアフターに迫る。
◆365日吹奏楽漬けの毎日
1996年9月、千葉県で生まれた篠原望。
小学生の頃は活発で、元気な女の子だったという。
「おてんばで、学校から帰ってきたらランドセルを放って、すぐ外に遊びに行っちゃう子どもでした。近所の教室でダンスを習っていたこともあったんですけど、そんなガチではなく、楽しくやっていた感じです」
小学校高学年のクラブで吹奏楽を始め、徐々にのめり込んでいく。高校卒業まで約8年間、ほぼ毎日練習をしていたという。
「楽器はクラリネットで、週に1〜2回の練習をしていました。結果的に、高校卒業までずっと続けることになって、ほとんど休みはなかったんじゃないかな。一時は音大に行って、音楽を仕事にしたいと考えたこともありました」
入学した中学の吹奏楽部は、全国大会の常連校。厳しい練習の末、2年生でレギュラーを勝ち取った。
「中学からはテナーサックスの担当でした。私の在学中は、3年連続で全国大会に出場して、2年生でレギュラーになってからは、2年連続で金賞を受賞して。3年生のときは、金賞の中でも1位の点数だったんです」
レギュラーになれたお祝いに、祖母がサックスを買ってくれたことで、高校でも続けることに。
高校では、コンサートホールで行うコンクールではなく、マーチングの大会に出場。アイドルになる前から、大きな会場でのパフォーマンスを経験した。
「その時に、高校でも続けるって約束しちゃったので、必然的に続けることになったんですけど(笑)。入った高校が、コンクールよりも隊列を作って演奏するマーチングが強いところだったんです。全国大会の開催場所は大阪城ホールで、すごく大きな会場だったんですけど。このあたりから、徐々に人前に立つのが楽しいと思うようになっていきました」
◆大学で始めたバイトが人生を変えた
大会のほか、学校が主催するコンサートにも出演。篠原は、高校時代からチケットを買った観客の前でパフォーマンスをしていたのだった。
「中高それぞれで定期演奏会があって、高校では有料のチケット制だったんです。会場は、全部で2000人くらい入る千葉県松戸市の森のホールで、AKB48さんがコンサートをやったこともある場所。家族や友だちだけじゃなく、近所の方々も見に来てくれるイベントです。『レ・ミゼラブル』やサックスのアンサンブルで『ウエスト・サイド・ストーリー』を演奏したのを覚えています。卒業前最後のコンサートでは、感極まって泣いちゃったのを覚えています」
さらに、演奏会では楽器と歌とダンスで表現する「吹劇」にも取り組んでいた。
「言葉を使わずに、壮大なテーマを演出するんです。たとえば、私が3年生のときにやったテーマは『宿命』でした。30分くらいかけて、楽器を演奏したり、歌って踊るんですけど、見てる人の中には、理解できない人も多いかも。実際に、私が中学生の時に見学したんですけどあんまりよくわからなかったから(笑)」
高校を卒業した後は、自身のやりたいことを模索するために4年制大学に進学。
「周りには音大に行く子もいたんですけど、仕事にするとなると、音楽の先生になるしかないと感じて。高校までは部活の練習に明け暮れていたので、大学でやりたいことを探そうと思って、就職率のよさそうな学校を選びました」
そんな大学生になって間もないころ。世間でも話題となっていたとある“アルバイト”に応募したことで、人生が大きく変わることとなる。
「吹奏楽部時代の先輩が、AKB48さんの大ファンだったんです。秋葉原のAKBカフェでバイトするくらいファンな人から、『“バイトAKB”に一緒に応募しよう』って誘われて。応募の結果は落選だったけど、こんな普通の人間がアイドルのオーディションに応募できるんだってことが、まず大きな衝撃でした」
思わぬ形でアイドルという存在に関心を持ち、世のグループへの興味も湧いてきた篠原。
「女子大に通ってたんですけど、乃木坂46さんの人気が凄かったんです。友だちの中には熱狂的な白石麻衣さんのファンもいたし、そうでない子たちも、みんな好きな感じ。私もだんだんと興味が強くなっていって、グッズを買ったり、乃木坂46さんや欅坂46さんの握手会に行ったこともありました」
◆大学3年生。銀行志望の友達。アイドル志望の私。
大学での年次が上がるに連れて、周囲の生徒たちは就職を意識し始める。そんな雰囲気に影響されながら、彼女は自分が本当にやりたいことの輪郭を掴み始めていた。
「周りの友だちは、『銀行で働きたい』『キャビンアテンダントになりたい』って、目標を明確に持っていました。それに比べて、自分はぼんやりしてるなと思ってたんですけど…。好きなアイドルを見たりするうちに、そういえばステージに立ってパフォーマンスするのは楽しかったな、吹奏楽部の活動を思い出すようになって。アイドルみたいに、ステージに立つことを仕事にできたら素敵なことだなって思うようになりました」
そこからは、さまざまなオーディションに挑戦する日々が始まったのだが…。
「乃木坂46さんや欅坂46さん、AKB48さんや=LOVEさん…。ラストアイドルの1期も含め、その頃受けられたいろんなオーディションを受けていたんですけど、ほとんどが書類落ち。就職活動を始めなきゃいけない時期も迫ってくるし、オーディションの年齢制限もあるので、どんどんリミットが近づいて来てくる感じでした」
新卒採用のエントリーシートのように、アイドルオーディションの書類落ちが続く毎日。心が折れる瞬間はなかったのだろうか。
「どうせ無理だろうと思って応募してるから、そんなにショックも受けませんでした。唯一、22/7(ナナブンノニジュウニ)さんのオーディションでは最終審査まで行けたんですけど、最後にはやっぱりだめで。ただ、オーディションで仲良くなった白沢かなえちゃんがメンバーになったので、グループ結成後も応援しに行くこともありました」
同じオーディションで一緒だった女のコがステージで輝く姿を見ると、やはり諦めきれない気持ちが心に浮かんでしまう。
「やっぱり、“あちら側”に行きたいっていう思いが拭えないんです。でも、どれだけ応募しても書類落ちばかりだったので、大学3年生の3月に、これでだめだったら、きっぱりと諦めようと思って、ラストアイドル2期生に応募したんです。最終審査の日が4月1日だったので、それが1週間でも遅かったら、就職活動に専念していたと思います。実際に、二次審査の日も、普通に就職説明会に行ってたくらいです」
親には何も話していなかった。
「前日の夜にひとこと、オーディションに行ってくるって言っただけ。受かったと伝えた時は、『どういうこと?』ってちょっとした騒ぎになっちゃいました(笑)」
まさにラストチャンスとばかりに受けたオーディションで合格。運命が変わった瞬間だった。
◆就活生から激励ツイートが続々
書類落ちの日々から一転、やっとの思いでアイドルへの道のスタートラインに立った篠原だが、『ラストアイドル』はここからが本番の企画だ。
オーディションで選ばれた“暫定メンバー”と挑戦者たちが、ポジションを賭けてパフォーマンスバトルを行う。オーディションの結果、暫定メンバーのセンターポジションを得た篠原だったが、バトルに破れてしまったのだ。
「立ち位置1番にいたけど、受かってからずっと、自分はここに立つ器の人間じゃないって感じていました。いつか負けるんだろうなって思いがどこかにあったので、負けた瞬間も、やっぱりそうかとだけ思って。もうこれできっぱり辞めようと思っていたんです」
ところが、負けた後の思わぬ反響の大きさに、気持ちが揺れ動く。
「敗退から1ヶ月くらいで正式メンバーが決定して。そこまでの間に、SNSで『負けて悔しい』『セカンドユニットがあったら続けてほしい』というコメントや、同じ年代の人から『自分も就活生で、バトルを見て自分のやりたいことを貫こうって感じた』『就活、もっと頑張ろうと思った』ってコメントをたくさんいただいて。そうやって、人に前向きな影響を与えられるのって凄いことだと感じたんです。私はアンダーのユニットに選ばれました。アンダーとはいえ、まだチャンスがあるなら、頑張ってみようと思いました」
こうして、篠原のアイドルとしてステージに立つ日々が始まった。
◆「SNSへの投稿に、怖さも感じます。でも…」
デビューから約1年が経過し、『ミュージックステーション』などのテレビ番組や、大きな会場でのライブなど、さまざまな経験を経た彼女。
いま、アイドルになってよかったと感じる瞬間とは。
「やっぱり、ステージに立つ仕事をしたいと思ってアイドルになったので、ライブをやっている時がいちばん幸せです。自分のうちわやタオルを持ってくれてる人をみつけると…。私もほかのアイドルさんのグッズを持ってるので、自分のグッズが発売されてるってことが信じられないんです。だから本当に嬉しいし、握手会で『応援してるよ』って言葉をいただけると、ああ、続けてきてよかったって感じますね」
特に印象に残っているのは、世界最大のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL 2019」のステージに出たこと。
「今年のTIFでは、『2期生アンダー』がひとつのユニットとして出させていただいたんです。最初に出たのがガンダムが立ってるFESTIVAL STAGEだったんですけど、本番直前まで、お客さんが来てくれるのかすごく不安でした。でも、ステージに出た瞬間、自分たちのユニットカラーのうちわやタオルがたくさん見えて、その光景が本当に嬉しかった。しかも、乃木坂46さんや日向坂46さんも出ているフェスに、自分も出られたということも嬉しかったですね」
夢だったアイドルとしての活動が楽しい一方で、悩んでしまうこともあるという。
「学生時代に打ち込んできた吹奏楽では、同じ部活の仲間と一緒に頑張ってきたけど、アイドルは仲間でもあり、ライバルでもある。そういう関係が得意じゃないから、この世界で生きていけるのかな…って思うこともあります。もともと目立つのも得意じゃないし、一生ネットに残ってしまうと思うと、SNSへの投稿に、怖さも感じます。でも…応援してくれる人たちがいるから、その人たちのためにがんばろうと思っています」
ファンの期待に応えたいーー。
それが、探し続けてきた、自身が本当にやりたいことなのかもしれない。そんな篠原にとって、今後の目標とは。
「アイドルファンの方たちの中では、ラストアイドルというグループを知っている方は少しずつ増えてきたかもしれないので、次は私の名前を知ってもらえるようにがんばりたいです。人生でいちばんがんばってきた、自分の武器はサックスなんですけど、SKE48の古畑奈和さんや、STU48の瀧野由美子さんみたいに、ガチで上手な人はたくさんいるんです。しかも、今は下手になっちゃったので、自分が納得できるレベルまで戻してから、いろんな場所で披露したいと思います」
<撮影:スギゾー、取材・文:森ユースケ>
※篠原望(しのはら・のぞみ)プロフィール
1996年9月、千葉県生まれ。特技はテナーサックスで、小学校から始めた吹奏楽を高校まで続け、中学時代にはレギュラーとして全国大会で2年連続の金賞、高校でもマーチングの大会で全国大会に出場。特技の演奏力をアピールするべきでは?という質問に対し、「個人で賞を頂いたわけではなく、先生と他のメンバーが凄かっただけなので…」とひたすら恐縮する、謙虚な一面も。
※番組情報:ラストアイドル『ラスアイ、よろしく!』
【毎週水曜】深夜1:56~2:21、テレビ朝日(※一部地域を除く)