テレ朝POST

次のエンタメを先回りするメディア
menu

下條アトム、『男はつらいよ』への出演を迷っていた俳優の父にかけた言葉

©テレビ朝日

高校を卒業後、父(下條正巳)と同じ芝居の世界に入った下條アトムさん。映画『男はつらいよ』の“おいちゃん”役のオファーが父・正巳さんに来たのは59歳のとき。

誰もが知る人気シリーズだけに「こんな大きな仕事を引き受けていいものだろうか」と迷っていたそうだが、「こんな素敵な話はそうそうないし、山田洋次監督の指名を断る理由もない。僕だったらやると思う」と父の背中を押したのはアトムさんだったという。

父・下條正巳さんと

◆『男はつらいよ』の渥美清さんと共演

―お父様はどんな存在でした?―

「自分には手の届かない役者でした。親父は『役者の前に、人間であれ』と、常々語っていました。そして役者として、自分に対しての厳しさを頑ななまでに持っていました。40代から50代で役作りのために歯を抜き、総入れ歯にしたぐらい役に対しても厳しく向き合っていました。

息子に対してもシビアで、僕が出演したドラマを見て『おいアトム、あの芝居は古いぞ』とダメ出しをされたのには参りましたけど(笑)」

―お父様との共演は?―

「『劇団民藝』時代に学校回りの公演で、『アンネの日記』でペーター親子を演じたのが最初で、のちにドラマ『塀の中の懲りない面々』でお互い犯罪者、昼帯ドラマ、映画『八つ墓村』、映画『同胞』など5本です。現場では表面上、わりとクールに振る舞っていましたけど、父親として、役者の先輩として、内心穏やかではなかったと思いますよ。

共演のお話をいただくと、お互い『参ったなあ』なんて言い合いながらも、今思えば楽しんでいた感もあります。山田洋次監督の『同胞』で一緒だったときには、生意気盛りの僕に『山田監督は厳しいぞ』とアドバイスもしてくれました。

現場では周りの目を気にしつつ、お互いに極力近づかず、一役者同志としてシビアに振る舞おうとしていたような気がします」

―寅さん役の渥美清さんと共演されたこともあるそうですね―

「東海テレビ制作の連続ドラマで半年間ご一緒させていただいて、すごく可愛がってもらいました。千葉方面の友だちの飲み屋までハイヤーで連れて行ってもらい、帰りは当時僕が住んでいた参宮橋のアパートまで深夜に送っていただいたりもしました」

©テレビ朝日

◆憧れの北野武監督の撮影現場では病気の話?

2015年には、藤竜也さん、中尾彬さん、近藤正臣さんなどベテラン俳優陣が元ヤクザに扮し、オレオレ詐欺などやりたい放題の若者たちを相手に大暴れする北野武監督作『龍三と七人の子分たち』に出演。アトムさんは龍三たち元ヤクザの敵対する若者たちの側の詐欺師・徳永を演じている。

「あれは緊張と同時に本当に楽しかったです。ビートさんと言う素敵な方と組ませてもらって現場も本当に刺激的でドキドキワクワクの毎日でした。昔からやりたかったし、憧れだったんです。

僕は初めてでしたけど、うちの親父は2本一緒にやってるんですよ。映画『教祖誕生』(93年)では共演、監督作『キッズリターン』(96年)にも出演させていただいてね。『アトム、今度なビートさんとやるんだよ』ってうれしそうに言っていたのを覚えています。毎日楽しそうに現場での様子を話していたんですよね」

―北野監督にそのことは話されました?―

「本読みが終わった後でチラッと言いましたが、『親父がこんなことを言ってました。親子二代続けてよろしくお願いします』って言ったら、『おう、おう』っていう感じでね。本当にうれしかったし、親父も喜んでいると思います」

―撮影現場はいかがでした?―

「すごく静かな現場ですね、だから怖いんです。僕はパチンコをやっているところが最初のシーンだったんですけど、テストをずっとやってカメラ位置も設定して、それで最後に『監督入ります』って来るじゃないですか。そうするともうピーンという音が聞こえるぐらい空気が変わるんですよ。

ビートさんは別に緊張させようと思っているわけではなくて、非常にナチュラルに『こうやれば?』とか『じゃあ、こうして』、『あー、これダメ』とか、わりとポロポロっとおっしゃるんですけど、その方がむしろ重い。それはすごく充実感のある時間で楽しかったです」

―北野監督も楽しんで撮ってらした感じがします―

「ビートさんの映画は、その場でセリフを渡されて『ちょっとここでしゃべって』ってなったりするので、こっちはとても緊張してるんですけどね。

こっちが何か意図的なお芝居をしようとすると、多分ビートさんはそれをご存知で、余計な技を使わせない。役者ってついやっちゃうじゃないですか。でも、考える暇がなくてそういうことがないから、こっちもナチュラルにできる。それは多分、ビートさんの監督としての経験とやり方だとは思いますけどね」

―アトムさんは龍三たちとは敵対する役でしたが―

「僕は年齢からいくと龍三サイドに近いんですよ。みんな70歳過ぎだからね。味方サイドのオレオレ詐欺グループは若いですから、現場でもどうしてもあっちに行っちゃう(笑)。

でも、みんなとにかく人の話を聞かない(笑)。それで『耳が聞こえにくくなった』とか、『肩が痛い、腰が痛い』とかね。龍三サイドはみんなそういう話ばかりで、僕もちょうど良いからそっち側で中尾彬さんとか近藤正臣さんとかとそんな話ばっかりしてました(笑)」

©テレビ朝日

◆最新映画ではインテリホームレスに

映画、ドラマ、ラジオ、舞台と幅広い分野で活躍しているアトムさん。パソコンを駆使するインテリホームレスを演じる映画『純平、考え直せ』が公開中。

※『純平、考え直せ』
対立する組の幹部の殺害を命じられたチンピラ・純平(野村周平)は、偶然出会ったOLの加奈(柳ゆり菜)と一夜をともにし、実行の日までの3日間行動をともにすることに。鉄砲玉になるために組から渡された支度金で高級ホテルに宿泊する2人だったが、次々とトラブルが勃発。さらにSNS上で純平は有名人になってしまう…。

―撮影はいかがでした?―

「世の中からあぶれ出た役は好きなので喜んでやらせてもらいました。カメラが遠くから狙っての撮影だったので、新宿西口公園の歩きのシーンでは、本物のブルーシートの爺さんがニターッと可愛い笑顔であいさつしてくれました。仲間だと思ってくれたのか、偽物だとあざ笑ったのか…わかりませんけど、いずれにせよ、その笑顔に勇気をもらいました(笑)」

―パソコンに長けたインテリホームレス役ですが―

「よくわからない人ですよね(笑)。空き缶いっぱい集めながらパソコン開いたりして」

―ご自身はパソコンは得意なほうですか―

「それができないのよ、全然ダメ。前に一度やろうと思ったんだけどダメで、今度はちゃんとやろうかなと思ったりもするんですけど、なかなかやる気にならない。だから、台本もファックスで送ってもらってるんですよ。

今日もファックスで資料を送ってもらったんですけど、20何枚目かで紙が詰まっちゃって大変でした。『詰まった、詰まった』って焦りながらやってました。紙とインクリボンもすぐになくなっちゃって替えなきゃいけなくなるしね(笑)」

―劇中でパソコンを使うシーンがすごく絵になっていたので、使いこなされているのだと思っていました―

「嘘です。嘘ばっかりです。役者なんて嘘ばっかりついて(笑)。スマホは使ってますよ、らくらくホンですけどね。大体調べものとかもスマホでできるし、インターネットで見ると記憶がなくてもわかるじゃないですか。あの役者は誰だったかとか、すごくわかりやすいので、それだけは一応ね。LINEもやるし。でも凝り性ではないので、パソコンはなかなかね」

◆愛犬と過ごす時間が1番

お酒も飲まない。休日は映画を見たり、本を読んだり…いつも芝居に関することばかりだとか。そんななか、一番の楽しみは愛犬のゴールデンレトリバーと過ごす時間だという。

「僕の中ですごく柔らかくなれる時間なんですよ。ゴールデンレトリバーという種類がそうなのかもしれないけれども、全部受け入れるんですよ。もしかしたら死ぬことも含めてね。全部受け入れてらっしゃるんですよ。

10歳なので、もう結構おばあさんなんですけど、そういう姿を見ていると、『あぁはなれないなー』って思います。いろんな欲とかジェラシー、それにまだもっとやりたいとかあるじゃないですか。そういうものが全然なくて、全部受け入れている様がとても勉強になります。

それでいて誰に対してもオープンで、ちゃんと人の感性も見るしね。可愛がってくれてるかどうかも全部見ている。僕は犬派猫派で言うと、犬派なので小さいときからずっといろんな犬を飼ってきて、ずっと犬がいる生活だったので、そういう意味では犬と散歩する時間が僕の中では1番安らぐ柔らかい時間ですね」

―何か健康法はありますか?―

「特別なことはやってませんが、一応食事は野菜と肉とバランスを考えてますね。あと、年齢的に食べ過ぎないと言うことと、毎日1万歩は歩くようにしています。とりあえず何の仕事が来てもいつでもできるようにね。

ビートさんの現場でも、真夏の名古屋で僕は結構走らされたんですよ、何百メートルも。で、ビートさんは『オオ-ッ』ってうれしそうに見てくれていたんですけど、もう1回やれと言われてもできる感じでした。

中尾彬さんや近藤正臣さんは『おいアトム、走りゃ良いってもんじゃねえんだよ』とか言ってましたけどね(笑)。本当によく走ってました。全然足腰は大丈夫なので」

―俳優になられて50年以上になるわけですからすごいですね―

「動いているのが好きなんです。家でも座っているより動いて何かをやってないと気がすまない。でも、やっているつもりかな? 怖いなあ(笑)。

この年齢になると、いろんなところが痛いんですけど、舞台をやっているときは忘れてるんです。全然痛くないわけですよ。だから僕には舞台だったり、仕事がお薬なんですよね。一番の健康法なんだと思います」

先月も舞台『リア王』で道化役を軽やかに演じたばかり。「軽く動いちゃうし、そういうのが好きなんですよね」と話す。外見も身のこなしも若々しい。(津島令子)

(C) 2018「純平、考え直せ」フィルムパートナーズ

※『純平、考え直せ』全国順次公開中。
監督:森岡利行 出演:野村周平、柳ゆり菜、毎熊克哉、岡山天音、佐野岳/片岡礼子/下條アトムほか。

LINE はてブ Pocket +1
関連記事
おすすめ記事