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カリスマ演劇人・笈田ヨシ、独身生活86年「芝居を続けていると女に逃げられる」理由

©テレビ朝日

1968年に初めてパリへ旅立ってから51年。パリに住み、俳優として、演出家として、世界を舞台にして活動している笈田ヨシさん。これまでに芸術・文学の領域での創造、もしくはこれらのフランスや世界での普及に功績のあった人物に授与される「フランス芸術文化勲章」の「シュヴァリエ(騎士)、オフィシエ(将校)、コマンドゥール(騎士団長)」3等級すべてを受勲している“世界が認める”カリスマ演劇人。

近年は日本での活動も多く、10月にはBunkamuraシアターコクーンで市川海老蔵さんと共演する舞台『オイディプス』の公演と映画『駅までの道をおしえて』の公開も控えている。

©テレビ朝日

◆仕事を抱えすぎてのパニックは「認知症防止」?

「去年から随分日本の仕事が多くなっていますけど、それこそこれまでは日本はめったにという感じでしたよ。ほとんど海外。ヨーロッパ各国で仕事をしていますから、別にフランスに限ったことではないんですけれども」

-お芝居やオペラの演出もされていますが、パリのご自宅でゆっくり過ごせるということはあまりないのでは?-

「50年間各国をウロチョロしていますからね(笑)。だから宿なしみたいに、いつも旅している感じですよ。日本に長くいるときにはアパートを借りていただいて、今もアパートに住んでいます。『オイディプス』の舞台があるのでね。1カ月間稽古で1カ月公演ですから、2カ月間アパートで暮らしています」

-色々な国での生活を50年間続けていらっしゃいますが、どんな感じなのでしょう?-

「『年もとってきたのに、トランク下げて動いて、俺はいつまでこうやってやるんだろう?』って(笑)。アパートに着くと、『こんなところにまた1カ月間いなくちゃいけないのか』って悲しくなるんですよね。

それで最初にやることは、行った町で日本食のレストランに行くんですよ。そして日本食を食べれば、気持ちが少しおさまるわけですよ。

それで3日ぐらい経つと、そこが自分の家だと思えるようになるんです。ありがたいことに適応性があるんですよ。でも、その反面、どこに行っても腰掛けみたいな感じですけど、大体われわれはこの世に生まれているのも腰掛けみたいなものですからね(笑)」

-オペラの演出もされていますね-

「僕は音楽を知らないのに、65歳のときに初めてオペラの演出をしてくれって言われてね。やったら次々と注文が来たので、それからもう20年間オペラの演出をやっています。

外国にいると、各国でいっぺんやったって、10カ所ぐらい回るわけだから、職場がたくさんある。日本だとそんなに職場がない。向こうだといっぱいあるわけですよ(笑)」

-世界を飛び回るだけでも大変なのに、舞台、映画の撮影、演出と色々されていてハードですね-

「時々こんがらがります。『俺たちはいったい何の話をしているんだ?』って(笑)。そういうときはとにかく目の前のことをひとつずつ処理していくということだけ。いつもパニック状態。だけどパニック状態というのは認知症防止のためには良いんじゃないかと思って(笑)。

だからパニック状態はありがたいと思っていますよ。『あれはどうしよう?これはどうしよう?』って(笑)。役者のときはパニックにならないんですよ。役者は良くても悪くても演出家の責任ですからね。ただ、演出の場合には、僕に責任があるからパニックになりますよ」

-海外ではどのように?-

「役者のときも演出のときも、自分がなかに入り込むことと、離れて見ることを同時に行わなければならない。ですから芝居をするときも、本番前にお客さんを呼んでやってみて、お客さんの顔ばかり見て、どこでお客さんが退屈をしたか判断するわけですよ。それをやらないとお客さんの目にならない。

だからウディ・アレンなんかも、一度つないでから友だちに見せて、また編集し直す。それがあったほうがいいんじゃないかなと思います。海外では僕もオペラ以外ではやっていますよ。

創作というのはそんなに簡単にできるものじゃない。『リア王』なんていうのは一つの作品を5年6年かかって完成するわけでしょう?日本のように4週間の稽古だけで上演するということは、海外ではないですね」

芝居を作るときには、どこまで今までの型をはずすかということが大事で、自分がやるのはいかにして今まで見たことのないものを作るかということが仕事だと思っているという。

©テレビ朝日

◆86歳、独身…芝居を続けていると“女に逃げられる”?

俳優としての収入だけでは生活ができず、アルバイトをしている人が多いなか、笈田さんは初めてパリに行ったときからお給料が出ていて生活の心配はなかったという。

「食べられなかったという時代はなかったですね。1年に1回ぐらいは帰って来ていましたけど、昔は日本の円が低かったから、日本に帰ったらお殿様みたいな気分でしたよ(笑)。フランが高かったから。でも、今は反対で向こうから日本に帰ると僕は貧乏人(笑)」

-ご家族はどうされているんですか-

「僕は結婚しなかったからずっと独身。3回ぐらい相手が変わって同棲をしたけれども結婚はしなかった。向こうでは、役者というのは、よく女に逃げられるんですよ。公演でいなくなるから。いない間に浮気をされちゃって、『恋人ができたからもうやめましょう』って言われたりとかさ(笑)。

とにかく女優さんでもそうだしね。仕事っていうと、パリだけじゃなくていろんな国のいろんなところでやらなきゃいけない。だから日本みたいに役者をやっていると東京にいるということではなくて、大変なんですよ。家族を持つというのはね」

-でも、モテるでしょう?-

「いいえ。例えば、外国人はね。日本人の女性は外国人にとって可愛らしくて魅力的だとか、神秘的だとかありますよね。女の魅力というのがあります。

でも、男はガッチリしていて胸毛があって頼れるタイプがモテるんですよ。日本人の男はガッチリしていないし、胸毛もないし、頼れる感じもしないからモテない。モテないし、しょうがないから芝居を続けているみたいなもので、モテたら芝居を続けてなくてあちこち遊びまわっていたんじゃないかな。だから、幸か不幸かモテなかったから良かった(笑)」

(C)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee

◆子供と動物とは共演するものじゃないと言うけれど…

「毎日映画コンクール」で男優助演賞を受賞した映画『あつもの』(1999年)をはじめ、『最後の忠臣蔵』(2010年)、『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』(2017年)など日本映画でも圧倒的な存在感を放ってきた笈田さん。

10月18日(金)には最新出演映画『駅までの道をおしえて』が公開される。この映画で笈田さんは、数十年前に幼くして亡くなった愛する息子の死を受け入れられずにいる老人を演じている。

※映画『駅までの道をおしえて』
いつも一緒だった愛犬のルーの帰りを待っている8歳のサヤカ(新津ちせ)は、ある夏の終わり、一匹の犬に導かれ、喫茶店のマスターのフセ(笈田ヨシ)と出会う。彼もまた大きな大きな喪失感を抱えて生きていた…。

「昔から『役者というのは、動物と子役とは一緒に舞台に出るものじゃない』って言われているんですよ。勝てない相手ふたりとやるんだから、これはもう食われる覚悟でやるしかないなと。

とにかく犬が好きだから、犬と一緒に仕事ができると思って喜んだ。それが一番。犬と一緒に遊んで、楽しくやらせていただきました。犬のご機嫌ばかりとってね(笑)」

-楽しい撮影でした?-

「そうそう。皆さん一生懸命やってらして。日本の方というのは、裏方の人が熱心ですからね。もう涙ぐましいほど、みんな一生懸命働いてくれたので、本当に頭が下がる思いですよ。日本の撮影現場は、みなさんテクニシャンの方が一生懸命やる。それにまた主演の新津ちせさんが可愛らしくて演技もうまくてね。とてもすてきなお嬢さんでした」

-一緒にお芝居をされていてどうでした?-

「年寄りと子どもで、70歳以上違うんだけど、一緒にやっているときには、相手はやっぱり女優さんだと思ってやっていますからね。年の差ってあまり考えなかったですね。

とても礼儀正しいお嬢さんで、いつもニコニコして『おはようございます』とか、『よろしくお願いします』ってきちんと言ってね。もう立派な女優さんの態度で、ここまできちんとしてらっしゃるのかと、感心して見ていました」

-撮影で印象に残っていることは?-

「実は、この映画の撮影のとき、坐骨神経痛で歩けなかったんですよ。だからずいぶんとごまかしごまかして。撮影の間中、脂汗を流しながらやっていました。

ひと月前まで歩けなかったんですよ。それでこの作品を降りようと思っていたんですけど、とにかく何とか出てくれって言うので出ることにして。歩くとか動くことが大変でそれだけが大変でした」

-全くそんなことは感じませんでした-

「痛みをこらえて必死でやっていましたけど、それなら良かった(笑)」

-10月は映画の公開に加え、舞台もありますね-

「日本って良いところですよね。全て問題なくうまくちゃんとオーガナイズして、まるで機械のなかにいるみたいに、時間もきっちりしている。それはすてきなところですよ。清潔だしね。トイレがどこにでもあるし、公衆トイレの奇麗なこと。それから皆さん一生懸命仕事をなさる。日本は楽園ですよ」

-今後のご予定はどれぐらい先まで決まっているのですか?-

「2022年位までやることが決まっています。『何も未来でやることがなくなったら、どうなるんだろう?』って怖い。だからいつも頭のなかで未来に何かあるということを持っていたいから、仕事を続けているわけです。

別にお金もうけとか、有名になりたいとか、そんなことは全然関係ないんですけどね。自分にとって、人がどう思っているっていうのは関係ない。とにかく目の前を誠実に、仕事を続けようと思っている。それ以外何の思いもないです」

固定観念にとらわれない舞台を作り、圧倒的な存在感で国境をも越えて活躍を続けている笈田さん。男の色気が漂うすてきな方。映画に舞台、忙しい日々はまだまだ続く。(津島令子)

(C)2019映画「駅までの道をおしえて」production committee

※映画『駅までの道をおしえて』
10月18日(金)より全国ロードショー。
企画・製作:GUM、ウィルコ  配給・宣伝:キュー・テック
監督:橋本直樹 出演:新津ちせ 有村架純 坂井真紀 滝藤賢一 笈田ヨシ
愛犬の帰りを待ち続ける少女(新津ちせ)と、先立った息子との再会を願う老人(笈田ヨシ)が出会い、思いがけない友情で結ばれていく…。

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