<WRC>トヨタ、ルマン24時間とのダブル勝利ならず。イタリア最終日に衝撃の展開
現地時間の6月13日~6月16日、2019年のWRC(世界ラリー選手権)第8戦「ラリー・イタリア」が開催された。
シーズン折返しといえるこのラリー・イタリアは、ドライバーズチャンピオンシップをほぼリセットさせるような波乱が連続するまさかの展開となった。
ラリー・イタリアDAY1は木曜日。久しぶりに“お披露目”ともいえるスーパーSSが行われた。
今回のスーパーSSでは、特設でジャンプ台やウォータースプラッシュ(車体が浅い水場に飛び込む場所)などが作られたダート(未舗装路)コースを2台同時に走行してタイムを競う形式が取られた。
通常のSSでは1台ずつのタイムアタックだが、このスーパーSSでは、2台同時に走ることでタイムアタックだけでなく相対的な勝負も楽しめるのが人気だ。その初日トップには、王者セバスチャン・オジェ(シトロエン)が立った。
◆ラトバラ、フロントガラスがない状態でも…
そしてDAY2となる金曜日。いよいよラリー本番がスタートした。
最初の波乱は、現王者オジェ(シトロエン)に発生。一部が特設コースで組まれたSS5、左コーナーの目印として置かれた大きな岩にマシンの左前輪を強く当ててしまい、そのままサスペンションを破損してしまう。その後、修繕につとめるも手の施しようがなく、デイリタイアとなってしまった。
そして、SS5までトップを走行していたトヨタのヤリ‐マティ・ラトバラを次の波乱が襲う。
こちらは、左ヘアピンと呼ぶべきコーナーでマシンが横転。その後なんとかコース復帰するもSS6ステージトップから8分31秒9遅れとなってしまい、優勝争いから脱落した。SS6のゴールに戻ったラトバラは、インタビュワーに対して、ゼイゼイと息をするほどに疲れながら状況を語った。
「マシンを元に戻すのに、本当に力を使った。周りに観客もなく助けもなかったから…。ヘアピンを少しカットし過ぎてマシンが横転してしまった…」とだけコメントしている。
その後、SS7は観客が多く危険と判断されて主催者によりキャンセルとなった。そして、SS8ではフロントウインドウのないマシンでラトバラは走行。なんとタナックのステージタイムを上回った。
「マシンは完璧だよ。再び走れて夢のようだ。SS6は本当に馬鹿なミスをしてしまった。コーナーをギリギリで曲がるため、サイドブレーキを引くのがほんの少し早すぎたんだ。それでマシンがカットインしてしまって横転した。(フロントガラス無しでの走行も)メガネがあって良かったよ!」と、SS8走行後のラトバラは、SS6のミスを振り返ると同時に、メガネのおかげでフロントウインドウが無いマシンでも走れていることを喜んだ。
だが、続くSS9で再びラトバラを苦悩が襲う。
今度は右コーナーで曲がりきれなかったのか、突然マシンがそのままコース外側に飛び出し止まってしまった。結局コース復帰できず、SS10はステージトップから10分遅れという計測になった。その後、マシンのステアリングに問題が生じていたと判明。SS6でのマシン横転の影響が残っていたようだ。
こうして、DAY2はトップにダニ・ソルド(ヒュンダイ)。2位ティーム・スンニネン(フォード)/1位から10秒8遅れ、3位オット・タナック(トヨタ)/同11秒2遅れ、と続いた。タナックはトップを狙える位置につけ、ライバルであるオジェやヌービルは大きく出遅れた。
◆トヨタ・タナック、土曜日を支配する
SS10から始まったDAY3の土曜日。この日の注目は、トヨタのタナックに集まった。なにしろSS10からSS15まで、土曜日すべてのSSでステージトップを獲得。完全にラリー・イタリアを支配したのである。
自転車に乗って帰る前のタナックは、公式インタビューに次のように答えた。
タナック:「いい1日だった。すごく力強かった。いろいろと上手く回った。タイヤ選択も成功して、そのマネージメントもしっかりできた。プッシュすると同時に守る要素も上手く出来た。小さなミスもあったけど、それでも上手くいった。最後のステージまでもタイヤがしっかり持った。タイヤをしっかりマネージメントできたのは良かった。チャンピオンシップは僕たちの目標だからね。とにかく最大ポイントを稼げるようにしたい。
ただ、それでもまだまだトリッキーなステージが残っていて、道は狭い。気をつけないと。すべてのパッケージに自信が持てた。チームが素晴らしい仕事をしたと思う。そうしたバックボーンから自分は自信を持って走れる。どのスポーツもそうだけど、常にプッシュして、目標をしっかり持つことが大事だ。つねに挑戦だよ」
土曜日の結果、トップはオット・タナック(トヨタ)。2位ダニ・ソルド(ヒュンダイ)/1位から25秒9遅れ、3位ティーム・スンニネン(フォード)/同42秒9遅れ、4位エルフィン・エバンス(フォード)/同1分25秒4遅れ、5位アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/同1分33秒3遅れ、6位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/同2分32秒4遅れ、となった。
土曜日を終えて6位とかなり厳しくなったヒュンダイのヌービルは、上位入賞を諦め、最後のパワーステージに気持ちを切り替えていた。また、金曜日のデイリタイアで入賞圏外となったオジェもパワーステージに焦点を切り替えた。
ヌービルは、「いまこれまでやっていないセッティングをテストしている。これは次のフィンランドなどに上手く使えるかもしれない。ここはもうチャンスはない。でもまだ前向きな点もある。オジェもポイントを稼げないからね」と語り、すでに次のラリーを見据えてラリー・イタリアをテストの場として利用していることを明かす。
オジェも、「最終日、パワーステージは挑戦してみるしかない。とにかく少しでもポイントを獲得できれば。でも他のマシンも速い。でも、ここは路面が荒い。そこで無理をしてリスクを負わなければならない…」と、今回ばかりはお手上げ状態であった。
◆最後、タナックに衝撃的な展開
そして迎えた最終日。DAY4の日曜日に残されたSSは4つ。
この日速さを見せたのは、ヒュンダイのアンドレアス・ミケルセンだった。SS16・17・18と3連続でステージトップを獲得。
一方、優勝を狙うトヨタのタナックはしっかり走ることへと切り替え、SS18を終えて2位に26秒7差と、優勝を確実とするタイム差を保持したまま最後のパワーステージSS19を迎えた。
SS19は、これまでの不運で苦しんだドライバーたちが次々と最速タイムを更新していく。最初はトヨタのラトバラ、次にヒュンダイのヌービル、そして王者オジェ(シトロエン)と最速タイムを出していくなか、この日絶好調だったミケルセンがオジェのタイムを破ってステージトップに。5点加算を手にした。
そして最後は、トヨタのタナックの走りを待つのみ。ドライバーたちが談笑して待っているなか、衝撃的な映像が飛び込んできた。残り7km地点で突然コースアウトしたタナックの姿だ。
マシンの動きが妙で、どうやらパワーステアリングの油圧が落ち、ステアリングが非常に重く、操作が難しくなっているのがわかった。なんとかコースには復帰したが、速度を上げることもできず、ゴールに達したときタナックのタイムはステージトップから2分12秒7遅れに…。結果、優勝を逃したどころか、総合順位でも5位にまで落ちてしまった。
ゴール地点のタナックはうなだれ、マイクを向けた公式インタビュアーの声にも反応せず、あまりのショックぶりにインタビュアーが「ごめんなさい」と謝ってしまったほどだった。
◆タナック、ドライバーズチャンピオンシップでトップに
こうして、最後の最後にタナックにトラブルという大波乱でラリー・イタリアは終了。勝利を手にしたのは、自身WRC2勝目となるヒュンダイのダニ・ソルドだった。
ソルドは、「タナックには残念な結果だったけど、僕は素直に嬉しいよ」と、2013年のラリー・ドイツ以来6年ぶりとなるWRC勝利を喜んだ。
最終結果は、トップにダニ・ソルド(ヒュンダイ)、2位ティーム・スンニネン(フォード)/1位から13秒7遅れ、3位アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/同32秒6遅れ、4位エルフィン・エバンス(フォード)/同33秒5遅れ、5位オット・タナック(トヨタ)/同1分30秒1遅れ、6位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/同2分16秒7遅れ、となった。
この結果、ドライバーズチャンピオンシップは、
1位:オット・タナック(トヨタ)/150ポイント
2位:セバスチャン・オジェ(シトロエン)/146ポイント
3位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/143ポイント
4位:エルフィン・エバンス(フォード)/78ポイント
5位:ティーム・スンニネン(フォード)/62ポイント
6位:クリス・ミーク(トヨタ)/60ポイント
となっている。トップにはタナックが浮上したが、3位のヌービルまでの差は7ポイントと、ほぼポイント差はない状態となった。
一方、マニュファクチュアラーズタイトルは、1位ヒュンダイ/242ポイント、2位トヨタ/198ポイント、3位シトロエン/170ポイント、4位フォード/152ポイントとなり、ヒュンダイが頭ひとつ抜け出した。
こうしてラリー・イタリアは終了。WRCはここで短い休暇を迎える。次戦の「ラリー・フィンランド」は8月1日~4日開催を予定しており、7週間ほどの休暇となる。ここで各チームはマシンをさらに進化させて、残りのシーズンに向けて準備を勧める。
そして、フィンランドはトヨタが本拠地を構える場所であり、2017年にエサペッカ・ラッピ、2018年はオット・タナックがそれぞれ優勝。相性の良いラリーイベントだ。不運が続くトヨタは、この休暇に不運を祓い、再び力強さを発揮できるのか。注目だ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>