【世界ラリー(WRC)】2戦目にして勝利!快挙達成したトヨタの最終日のドラマ
2017年FIA世界ラリー選手権(WRC)第2戦となる「ラリー・スウェーデン」が、2月9~12日に開催された。
ラリー・スウェーデンは、唯一の雪上ラリー。雪上ラリーは圧倒的に北欧ドライバー有利とあって、北欧フィンランドをチームの本拠地としたTOYOTA GAZOO Racingにとっては、じつは勉強のシーズンと言いながらも、「チャンスさえあれば」という意気込みでいたのだろう。
それがはっきりと判明したのは、2月2日に東京・お台場で開催されたトヨタの2017年モータースポーツ活動発表会でのこと。
ラリー・スウェーデンの目標を聞かれたエースドライバーのヤリ-マティ・ラトバラは、「5位以内を目標にしたい」と答えながらも、チーム代表で4度の世界王者経験を持つトミ・マキネンは「優勝を狙っているんだろ?」とラトバラに茶々を入れていたのだ。
そのときは軽いジョークのようにトヨタ関係者もメディアも受け止めていたが、どんなハプニングが起こるのか分からないのがラリー。それを熟知するマキネン氏は、3度違うマシンでラリー・スウェーデンに勝利した経験を持つラトバラという卓越した才能があれば、「チャンスがあるかもしれない」と考えていたに違いない。
そんなラリー・スウェーデンは、開幕戦のラリー・モンテカルロと同じく、通常より多い4日間にかけて開催された。
初日は、スーパースペシャルステージ(スーパーSS)と呼ばれる、2台同時に走行してタイムを競うエンターテイメント性を重視したSS。ここで初日トップに立ったのが、ヤリスWRC(日本名:ヴィッツ)をドライブするラトバラだった。
「今日のところは悪くなかったね。でも、明日からが本番だ。できれば、今晩雪が降って新雪が積もらないことを願うよ」とラトバラ。
そして迎えた2日目、SS2からSS8までが行われ、総合トップに立ったのはヒュンダイのティエリー・ヌービルだった。
開幕戦のラリー・モンテカルロでもマシンの速さが際立ったヒュンダイだったが、その速さは本物だった。SS2・3・5・6・7と、7カ所中5カ所のSSでベストタイムを記録。北欧ドライバーが強い雪上ラリーでベルギー人のヌービルが強さを見せた。
「正直、昨年までのマシンとは段違いに速い。少しマシンが速過ぎると感じるくらいだ。あえて丁寧に走るほうがタイムが出る。後半はそうやって丁寧に走ったよ」と、ヌービルはマシンのポテンシャルが非常に高いことを語っていた。
一方トヨタのラトバラは、タイヤの選択が合わなかったり自らのミスもあったりと、タイムが伸び悩んだ。しかし、それでも総合2位をキープし、マシンの競争力は十分高いことを証明してみせた。そして、そのラトバラを追いかけるのが、フォードのオット・タナクと、同じくフォードで4年連続王者のセバスチャン・オジェだった。
開幕戦で勝利したオジェは、「僕たちにとって、今日はとくに午後がタフだった。とくに雪にやられたというか、良い所なしだったよ。明日からは路面状態が良くなって、僕たちに良い方向へと変化することを願いたいね」と3日目からの巻き返しを誓っていた。
また、トヨタのユホ・ハンニネンは、SS5でマシンを樹木に衝突させてしまい、エンジンを冷却するための重要パーツであるラジエターを破損。この日はリタイアを選択し、翌日からのラリー復帰となった。
「あとほんの少しでフィニッシュというところで、マシンが横にスライドしてしまい、樹木にぶつかってしまったんだ。その時点でラジエターが破損して、水温が上昇したのだけど、とにかくゴールしなければとSS5は走りきった。マシンを見たら、走行は無理と判断して、この日のリタイアを選択したよ」とハンニネン。
そして迎えた3日目は、大きなドラマが待っていた。
SS9からSS15まで行われ、2位のラトバラに28秒1と大きなリードを持って走行していたヌービルの走りは、さらにリードを広げていく。
ベストタイムこそフォードのタナクが多く、ヌービルのベストタイム獲得はSS14だけだったが、2位のラトバラはタイムで上回り、3日目最後に用意されたスーパーSSのSS15がスタートする時点では、その差を43秒3と、3日目スタート時より15秒2もリードを拡大した。
だが、ヌービルに勝利の女神は微笑まなかった…。
2台同時にスタートするスーパーSS最後に登場したヌービルの対戦相手はトヨタのハンニネン。トヨタ相手に、ここでもベストタイムを目指したいところ。
そして2台のマシンはスタート。互いに競い合うが、ヌービルは左コーナーの進入でマシンの左前輪をコンクリートブロックにぶつけてしまう。これによって、サスペンションが破損。タイヤが右を向いたまま、マシンは曲がることなく、次のコーナーの外側に設置されたコンクリートウォールに車体ごとぶつけて止まった。勝利が見えていたのに、指の間からするりと抜けていった瞬間だった。
「僕たちは勝てるペースだったのに、それを思うと、本当に残念だし、チームに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。SS15までは本当に良い感触だっただけに、いまは、ただただ悲しい。モンテカルロの二の舞だけは避けたいと思っていたのに…。気持ちを切り替えて明日最後のパワーステージに結果を出したい」と、ヌービルは意気消沈。
一方、思わぬ形でトップに立ったトヨタのラトバラもまた、3日目の総合トップは手放しで喜べるものではなかったようだ。
「最後のSS15、僕は5位と決して良くはなかったけど、総合トップに立った。もちろん嬉しいのだけど、それ以上にヌービルに対して残念な気持ちでいっぱいだよ。僕もそうした経験があるからね」とライバルを気遣った。
手放しで喜べない理由はもうひとつあった。総合2位にはフォードのタナク(3秒8差)、総合3位には4年連続王者のオジェ(16秒6差)がつけ、とくにタナクの3日目はラトバラを上回る速さを見せていたため、このまま行くと最終日に逆転される可能性があったのだ。
こうして向かえた最終日。トヨタではひとつの出来事があった。4回世界王者となったチーム代表のマキネンが、ラトバラにひとつのアドバイスを送ったのだ。そして、それはラトバラをリラックスさせ、勝負を一気に取りに行く結果となった。
最終日、トヨタのチーム代表であるマキネンは、ラトバラにこう言って送り出した。
「飛び出していけ。路面に集中しろ。運転に集中しろ。セットアップのことは考えるな。ただ飛び出して、運転するんだ!」
お互いに一流のアスリート同士だと、ちょっとした言葉のひとつが大きくモチベーションを高める。この日のラトバラはまさにそうだった。
SS16・SS17・SS18とすべてのSSでベストタイムを記録。逆転の危険どころか、SSごとにリードを広げ、最後は2位のタナクに29秒2までタイムを広げてフィニッシュしたのだ。
結果、総合トップはトヨタのラトバラ。2位にはフォードのタナク、3位には同じくフォードのオジェがつけた。
この奇跡のようなトヨタ復帰2戦目での勝利に、ラトバラも感動。テレビインタビューにこう答えた。
「ただただ驚きだよ。新しいチーム、新しいマシン。わずか2戦目にして勝利を得たなんて…。なんというか、言葉が見つからないよ。ただただ感動している。僕が思うに、僕の経験上最高のパワーステージを走ったよ。ヤリスWRCと共にね!」
さらに、勝利を得て戻ってきたときに、チーム代表のマキネンからどう迎えられたのかと問われると、「さあ、もっと勝つぞ!って言われたよ」と笑顔で答えていた。
世界ラリー(WRC)は第2戦を終え、「ドライバーズランキング」は、48ポイントでトヨタのラトバラがトップ。2位には44ポイントでフォードのオジェ、3位には33ポイントで同じくフォードのタナクが続く。
チーム同士のランキングとなる「マニュファラクチャーズランキング」は、73ポイントでフォードがトップ。53ポイントのトヨタが続き、40ポイントでヒュンダイ、そして26ポイントでシトロエンが続く。今回も不運に見舞われたヒュンダイだが、マシンの速さは間違いなく本物であり、次戦のラリー・メキシコからの巻き返しが楽しみだ。
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次戦の「ラリー・メキシコ」は、3月9日から12日にかけて北米メキシコで開催される。
SS数は29と多く、SSの総距離も393.8キロと長い。乾いた大地の上を、派手に砂埃を巻き上げて走る姿は、雪上ラリーとはまったく違った風景が楽しめる。ラリー・メキシコも是非楽しみにしてもらいたい。
文/田口浩次(モータージャーナリスト)
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