テレ朝POST

次のエンタメを先回りするメディア
menu

王者オジェの貫禄の2勝目と、トヨタ3台目ラッピの活躍【世界ラリー(WRC)】

2017年FIA世界ラリー選手権(WRC)第6戦となる「ラリー・ポルトガル」が、5月18~21日に開催された。

2017年シーズン折り返しに近い第6戦(2017年は全13戦)となるラリー・ポルトガルは、前戦のラリー・アルゼンチン同様に、ラテン地域だけあって熱狂的なファンが多いことでも知られている。

©WRC/無断転載禁止

ポルトガル第2の都市・ポルト周辺で行われ、いくつかターマック(舗装路)のSSもあるが、グラベル(未舗装路)中心のラリー。難コースのひとつとして知られ、チーム全体のポテンシャルを測るには格好のラリーだ

このところヒュンダイの速さが目立っていたが、ランキングトップを走るフォードのセバスチャン・オジェやランキング2位のヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)、さらには前年優勝者であるシトロエンのクリス・ミークがどのような戦いを見せるかなどに注目が集まった。

©WRC/無断転載禁止

シーズン中盤ということもあり、各チーム、シーズン序盤で得たデータを活かしたマシンの開発が進み、ポテンシャルはどんどん高くなっている。例えばフォードは、今回ライバルたちに先駆けアップデートを施した新型車を投入しており、オジェが乗る新型車の性能がどれほどのものかにも注目が集まった

また、トヨタは今シーズン初の3台体制で挑み、テストドライバーとして契約したエサペッカ・ラッピにとっては、ヤリスWRC(日本名ヴィッツ)でのデビュー戦となった。

©WRC/無断転載禁止

ラリー・ポルトガルの初日は、木曜日のスーパーSSでスタートを切った。前戦のラリー・アルゼンチンでも同じくスーパーSSが行われ、1位と2・3位の差は0秒9、4位は1秒6、そして5位とは2秒1差があった。

一方今回のラリー・ポルトガルでは、1位と2位が同タイム、3位は0秒1差、4位は0秒4差、そして5位は0秒5差と、前戦の5位までの差と比べると、今回は11位までがトップから2秒差に収まるというまさに“紙一重”というべき激戦でスタート

よく、「最初のスーパーSSは本気で走らない」などという人もいるが、そこは勝負の世界。流すような走りでスーパーSSを戦うドライバーなどいない。まさに、シーズン中盤で各マシンの性能が非常に接近した状態にあり、マシンセッティングがこの先の勝敗を分けることが予想される初日となった。

©WRC/無断転載禁止

2日目の金曜日は、S2からSS9までを走行。総合トップに立ったのは、フォードのオット・タナクだ。

この日も各マシン激戦を繰り広げた。8つあるSSのうち、7つのSSで違うドライバーが最速タイムを刻むというもので、終わってみれば1位タナクから6位のエルフィン・エバンス(フォード)までが18秒3差。1つのミスやSS1つで簡単に順位が入れ替わる位置に収まった。

同じグラベル(未舗装路)ラリーだった前戦のラリー・アルゼンチンでは、1位と2位に55秒7という差が開いただけに、ラリー・ポルトガルの接戦ぶりは際立った

©CitroenRacing/無断転載禁止

そしてこの日、トップドライバーたちの熱い戦いが繰り広げられるなか不運に見舞われてしまったのが、トヨタのラトバラとシトロエンのミーク

ラトバラはSS3で最速、ミークはSS4で最速と好調な走りを見せていたが、トヨタとシトロエンそれぞれのエースドライバーにとって鬼門となってしまったのがSS7だった。ラトバラは原因不明なブレーキ不調でマシンを傾斜にぶつける形で横転させてしまい大幅にタイムロス。ミークはコンクリートブロックにサスペンションを当ててしまいコース途中でマシンストップとなり、デイリタイアを選択した。

そんななか、昨シーズンのWRC2(ひとつ下のカテゴリー)チャンピオンとして非凡な才能を見せたのが、トヨタの3台目として初参戦したラッピだ。SS3とSS4ではチームメートのユホ・ハンニネンを上回るタイムを出し、ヤリスWRCに早くも順応していた。

「今日は本当に良い一日だった。マシンの調子も良い」とトップのタナク。

ラトバラは、「SS7、1つめのコーナーは問題なかったけど、2つめのコーナーでマシンが止まらず、オーバースピードでコーナーに侵入してしまいマシンがコーナーからはみ出す形で傾斜にあたって横転したんだ。でも、これもラリー。マシンの速さには手ごたえを感じてるし、勝利を目指して走ればこういうこともあるさ」と、自身に言い聞かせるような言い回しでインタビューに答えた。

そしてラッピは、「ここまではまず満足しているよ。午前中は予想していたより良かった。午後はコンディションが厳しく、サバイバルラリーとなってしまっていたので、まずはしっかりと走りきったことは良かったと思う。マシンにも慣れてきたので、明日以降はもっと速く走りたい」と、新人らしからぬ落ち着いた口調で自身の状態を分析し、Facebook上でコメントした。

©WRC/無断転載禁止

3日目の土曜日、SS10からSS15までが行われた。

混戦だったラリー・ポルトガルを抜け出したのは、チャンピオンのオジェ(フォード)。トップから5秒差の3位でスタートすると、SS10・12・14と3つのSSで最速を取り、残りの3つのSSも2位で通過する万全な形でトップに立つ。同じく4位から2位へ浮上したヒュンダイのヌービルもSS13とSS15で最速を取ったが、オジェに迫るまでは至らず、16秒8差とリード拡大を許した。

この日悔しい思いをしたのは、トヨタ3台目ドライバーとしてデビューしたラッピ。SS12からSS14にかけて、各SSでトップ10内に入り、SS14終了時点で総合7番手と周囲に大きく存在をアピールしていたが、SS15でマシンを壁にぶつけてしまい5分のロス。順位を大きく落としてしまった。

オジェは、「今日最後のSS15でヌービルに6秒2差のリードを許してしまった。でも、全体としては16秒8差をつけてトップを守った。悪くない結果だと思う。ここSS15は無理をしなかったんだ、明日があるからね。少々タイヤに気を使いすぎたかもしれないけれど、後は明日、無事にフィニッシュさせなくちゃいけないね」と、今季2勝目に自信を見せる。

そしてラッピは、「SS14では本気でラトバラに勝とうと思って走っていたよ。でも、1秒3差で彼に負けてしまった。僕自身は最大のアタックをしたつもりなんだけど、まだまだ勇者になるには不足だったってことだね。そしてSS15、ターマック(舗装路)からはみ出してグラベル(未舗装路)にマシンがコースアウトしてしまい、そのまま壁にぶつけてしまったんだ。残念だったけど、土曜日全体としてはポジティブに受け止めているよ」と冷静沈着につとめていた。

©WRC/無断転載禁止

そして迎えた最終日は、SS16からSS19が行われた。

勝負はチャンピンのオジェ(フォード)と、2位で迫るヌービル(ヒュンダイ)に絞られた。16秒8差で追うヌービルとしては、SS16で一気にタイムを詰めてオジェにプレッシャーをかけたいところだったが、そこはチャンピオン。プレッシャーに負けることなく、ヌービルに0秒8しか詰めることを許さなかった。それどころかSS17では最速タイムを記録し、ヌービルの勝利への気持ちをはじき返した。

最後のパワーステージ(SS19)でこそ、ヌービルは2位で追加ポイントを獲得して気を吐いたが、勝者は今シーズン2勝目を飾ったオジェ

©WRC/無断転載禁止

新型車を投入した今回、最高の結果でチームに応えた。そして、この勝利でオジェは自身通算40勝目を飾ったと同時に、ラリー・ポルトガル5勝目。“無冠の帝王”と呼ばれ、トヨタやスバルでも活躍したフィンランド人の英雄的ドライバー、マルク・アレン(WRC通算19勝)が1987年につくった記録に30年ぶりに並んだ

また、同じく最後のパワーステージで周囲を驚かせたのが、トヨタのラッピだ。

前日のSS14でエースのラトバラに本気で勝とうとしていた新人が、ステージ4位を記録。なんと勝利したオジェ(ステージ5位)をも上回った。このステージでトヨタチームおよびフィンランド人最速と同時に、初のチャンピオンシップポイント獲得も果たした。

©WRC/無断転載禁止

オジェは、以下のようにコメントし普段以上に今回の勝利を喜んだ。

「色々と記録が重なって嬉しい。でも正直なことを言うと、ポルトガル入りしたときは勝てると思ってはいなかった。それだけに、この勝利は本当に嬉しいんだ。初日から良いスタートが切れて、同じフォードのタナクとコンマ1秒争うような走りをして、どんどん良くなっていった。そして、僕のナンバー1メカニックをはじめ、チームには多くのポルトガル人エンジニアがいるので、この勝利で彼らのプライドをさらに高めることができたことも誇らしいよ。また、今回僕たちは新型車を投入して勝利できた。開幕戦のモンテカルロと、ここと、共に新型車投入で勝てたことは素晴らしいね

また、チャンピオンシップでも2位に浮上したヌービル(ヒュンダイ)は、「正直なところ、最終日に逆転できるとは思っていなかった。それまでも、本当に僅差の勝負が各SSで続いていたからね。2位の18ポイントに加えて、パワーステージの4ポイントを獲得できたことが嬉しいよ。また、チームメートのソルドも表彰台に上がったことで、チームは大きくポイントを稼いだ。今回は難しいラリーになると思っていたから、この結果には満足しているよ」とコメント。

そして、トヨタには悔しい結果だったが、やはり注目はラッピの活躍だろう。

「SS17、SS18、そしてパワーステージのSS19でラトバラをリードできた。チームスタッフ全員に感謝したいよ。本当にありがとう。ラリー前、ポイントを獲得できたらいいなとは思ったけれど、まさかパワーステージで獲得できるとは思っていなかった。今日は最初の2つのSSではタイヤをセーブするように気をつけて、最後の2つのSSでプッシュしたんだ。パワーステージのジャンピングポイントはとても面白い経験だったのと、ヤリスWRCのサスペンションがどれだけ頑丈かを実証することができたね」と、新人らしからぬ走りを見せたラッピ。今後、大いに期待が持てる。

世界ラリー(WRC)は第6戦を終えて、ドライバーズランキングは128ポイントでフォードのオジェがトップ。2位には106ポイントでヒュンダイのヌービルが浮上。3位ではトヨタのラトバラが88ポイントで追いかける展開だ。

チーム同士のランキングとなるマニュファラクチャーズランキングは、197ポイントとフォードがポイントを伸ばした。2位は2台表彰台で大きく稼いだヒュンダイが173ポイントと差を詰める。そして3位はトヨタで107ポイント、4位はシトロエンで81ポイントとなっている。

◇◇◇

次戦は地中海の島、サルディーナ島で行われる「ラリー・イタリア」(6月8日から11日開催)。ここは、ラリー・アルゼンチン、ラリー・ポルトガルに続くグラベル(未舗装路)中心のラリーだ。

ラリー・ポルトガルではフォードが新型車を投入して勝利したが、今後はトヨタ、シトロエン、ヒュンダイと、どのチームも大幅にアップデートした新型車の投入をスケジュールしているはず。

果たして、次戦ラリー・イタリアに新型車投入はあるのか? それ次第でまた状況は違ってくるはずだ。そうした各チームの開発力も含め、さらなる混戦が期待されるラリー・イタリアを楽しみに待ちたい。

 

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>