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俳優・高橋長英、常連だった伊丹十三監督作品への出演は「ホッとするけどプレッシャーも」

©テレビ朝日

存在感ある実力派俳優として、映画やテレビドラマ、舞台に多数出演してきた高橋長英さん。2006年からは地元横浜で朗読会も開催し、藤沢周平作品の朗読を続けている。

5月25日(土)には40年ぶりに再会した老兄弟の絆を描く映画『兄消える』、6月22日(土)には昭和40年代の高知県土佐を舞台に、ギャンブルに翻弄(ほんろう)される人々の悲喜交々(ひきこもごも)を全編モノクロで描いた映画『カスリコ』が公開予定。76歳の真面目な独身男と伝説の賭博師という全く違う役柄を味わい深い演技で体現している。

©テレビ朝日

◆スマホは苦手でも、火起こしは得意

男気のある役柄を演じることも多い長英さん。これまでに何度も職人の役を演じ、機械を扱うことはお手のものと思いきや、実は大の苦手だという意外な一面も。携帯電話も使い方がわからず、持っていないという。

-携帯電話がないとロケのときなど不便じゃないですか-

「使い方がわからないからね。うちの奥さんは持っているけど、バッグのなかに入れっぱなしであまり使っていないし、必要ないと思っていたんだけど、これからは携帯がないと暮らしていけないみたいな感じになってきたじゃない?

iPhoneにすると無料で講習会があるっていうから、奥さんと一緒に行ったんだけど、何が何だか、さっぱり分からなくて、降参しちゃった(笑)」

-急に時間が変更になったり、地方ロケに行ったときに困りませんか?-

「今までのところは何とか支障はなかったですけどね。京都やなんかに行くと持ってないと周りに迷惑をかけるかもしれないし、マネジャーにも迷惑をかけるからと思って講習会に出たんだけど、外国語で話されてるみたいで全然意味が分からないから、これはもうダメだって挫折しちゃった。

僕はテレビの録画もできないくらい機械や電化製品が苦手だからね。機械は何もできないんですよ」

-男性は電気の配線などが得意だというイメージがありますが-

「いやいや、全然ダメ(笑)。その代わり、薪を扱うとか、アナログ的なことはできるんですよ。例えば、木があれば、木を細かくして火を起こすとかね。

家に“アラジン”と“パーフェクション”という石油ストーブが二台あるんだけど、それは捨てていたのをもらってきたんだよね。最初はひどい状態だったんだけど、全部きれいにして芯を替えて、ちゃんと今も使っていますよ。でも電気関係はダメ(笑)」

-電磁パルスを仕掛けられて電化製品がすべてダメに…という映画や小説もありますが、サバイバルできますね-

「そう。オール電化生活にはついていけないけど、原始的な囲炉裏があって、薪でお風呂を沸かして…という生活なら多分大丈夫じゃないかな。でも、オール電化がどんどん進んでいる今の時代にはついていけない。もうダメだよ。これからの世の中生きていけない。化石みたいなものだからね(笑)」

©テレビ朝日

◆監督を「裏切ってやろう」とスケベ根性?

映画、テレビ、舞台、朗読劇、ナレーションと多彩なジャンルで活躍している長英さんだが、一番心を惹かれるのは舞台だという。年に2回のペースで舞台に出演し、2015年にはトム・プロジェクトプロデュース公演『Sweet Home スィートホーム』で第50回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞している。

-映画、テレビ、舞台…色々な作品に出演されていますね-

「僕はね、運だけですよ。たまたま人との出会いが良かったというかね。すてきな舞台の演出家と出会ったり、映画では伊丹さんだとか、テレビでも何人かの人に使っていただいて…。自分でも結婚して子供ができたりして、あまりいい加減なことをやっていちゃダメだなっていうので、少しずつ自覚みたいなものは芽生えてきましたけど、やっぱり人との出会いですよね」

-伊丹十三監督の映画にも、『タンポポ』、『マルサの女』、『マルタイの女』など多く出られていますね-

「伊丹さんもよく使って下さったと思いますよ。いろんな役をやらせて頂きました。テレビや舞台でも必ず声をかけて下さる方がいたので、そういった意味では本当に感謝していますね」

-同じ方からのオファーが続くのは信頼の表れですよね-

「それはすごいありがたいことでホッとしますけど、逆に言うと変なことはできないというプレッシャーもありますよ。『長英ならこのラインまではやってくれるだろうな』とか、思っているわけでしょう?そうすると、最低それは超えないといかんみたいなね。

だから『ちょっと待ってよ、ここはこれじゃあ当たり前すぎて違うな。監督はそうじゃなくて、もっと違うことを俺に要求しているかな?』って、監督をいい意味で裏切ってやろうとかね。変な話、スケベ根性もあるのかもしれないけど、意識しすぎてダメなときもありますよ。『あれ?俺何やってるんだ?一人でいい気持ちになって何をやってたの?』みたいなさ(笑)。」

-ご自身のなかでは舞台に一番惹かれるそうですね-

「そうですね。舞台をやっていて楽しいと思ったことはあまりないし、プレッシャーを感じながらやっていますけど、なんかやりたいっていうか…。人の芝居もよく見に行くし、それだけ魅力はあるんじゃないですか。毎回怖いけどね」

-舞台は結構拘束期間も長いのでは?-

「舞台にもよりますけどね。地方公演があったりすると、稽古を入れて3カ月~4カ月くらい。それを2本やると8カ月。去年は夏を挟んで2本やったので、相当体力を消耗しちゃったんですけど、終わったときに、『終わったんだな』っていう充実感は舞台が一番ありますね」

-一番ホッとされるのは千秋楽が終わった後の打ち上げのときですか?-

「そうですね。前に井上ひさしさんの舞台をやったときには、真夏に始まって真冬に北海道の旭川の雪のなかで終わったことがあるんですよ。稽古期間を入れると半年以上で、終わったらどんなにホッとするかなと思っていたのに、意外と解放感がないんだよね。なんとなく終わったのかなという感じ」

-ロス感というか、寂しくなったりはしませんか-

「寂しくはないけどね。どっかでホッとしているのかもしれないけど、自分が想像していたような『ワーッ、終わった。解放された』というのはないですね。そういう感じがあるのかなと思っていたんだけどね。最終日に飲もうと思って頂いたワインやおいしいお酒を取っておいたんだけど、そういう解放感はないなあ」

-あの芝居は違ったのではないかと思うときはあったりします?-

「しょっちゅうですよ(笑)。映像でも舞台でもね。例えば、舞台の長い公演、それも再演、再再演みたいなのをやり終わって3年ぐらいしてお風呂に入っているとするじゃないですか。

全然関係ないときに『あっ、あの時はああいう芝居じゃなかった。こうすりゃ良かったんだよ。こういう風にしないとあの役は活きないんだよ』なんていうときがあるんだよ。全然関係ないときにね。何かと結びついて、芋づる式にいくんじゃなくて、まるっきり関係ないときにポッと出るんだよね(笑)」

(C)「兄消える」製作委員会

◆健康でいる限り舞台は続けたい

5月25日(土)には40年ぶりに再会した兄に振り回される真面目な弟を演じた映画『兄消える』、6月22日(土)には昭和40年代の高知県土佐を舞台に、究極のギャンブルの勝負に挑む伝説の賭博師を演じた映画『カスリコ』が公開される。

※映画『兄消える』
町工場を細々と続けている76歳の真面目な独身男・鉄男(高橋長英)は、父の葬式を終えたばかり。そんなとき、40年前に家を飛び出して以降、消息不明だった兄(柳澤愼一)がワケあり風な女(土屋貴子)を連れて現れ奇妙な共同生活を送ることに…。

-撮影はいかがでした?-

「信州上田でのロケは2週間くらいだったかな。あれは結構長回ししてもらったんですよ。そのほうが感情もつながるしね。相手との交流もできるから長回ししてくださいって」

-同年代の俳優さんも多く出てらっしゃいますね-

「そう。文学座の俳優さんがいっぱい出ているから楽しかったですよ。またあの工場がいいんだよ。実際にちゃんとある工場で、機械だって今も使っている現役だからね。僕はあまり機械のことに詳しくないけど、ああいう機械を今でも使っている工場はあまりないんじゃないかな」

-「銀行に勧められて借金をして買ったけど、お金がかかるから処分もできない」というセリフがリアルに感じられますね-

「そうそう。あれは本当にレトロな機械だよね。劇中で使っている領収書も実際に置いてあったのを使わせてもらったんですよ。『これ使わせてもらっていいですか?』って聞いたらいいって言われたからね。見てみたら、僕が劇中でやっているのと同じく、ネジが一個30円かける何個とかいう感じで領収書の金額が安いんだよ。『ワーッ、大変な商売だなあ』って思った」

-撮影が終わった後は皆さんでお酒を飲んだりされていたのですか-

「結構遅くまで撮影をしていましたけど、何人か有志で飲みに行ったりは時々していましたね。柳澤さんとも飲みましたし、土屋(貴子)君とも飲みましたね。楽しかったですよ」

-柳澤さんは「この映画を遺作にしたい」とおっしゃっているそうですね-

「初めての共演でしたけど、柳澤さんは元気だよ。僕より10歳上の86歳だけどセリフなんかもしっかりしているしね。アフレコなんて僕だって口が合わないのに、柳澤さんは反射神経もいいし、うまかったですよ。一番うまかったのは柳澤さんじゃないかな」

(C) 2018 珠出版

※映画『カスリコ』
昭和40年代、土佐。かつては土佐一の料理人と呼ばれた吾一(石橋保)は、賭博で破滅し、途方に暮れていたところをヤクザの荒木(宅麻伸)に拾われ、賭場の下働き“カスリコ”として働き始める。そして人生を賭けた大勝負に挑むことに…。

-『カスリコ』では伝説の賭博師役。着流し姿が粋でした-

「昭和40年代が舞台ですから懐かしい感じがしましたよ。モノクロでね。あれは少しカッコつけてもいいと思ったんだよ。高知では去年公開されたんだけど、東京でも公開が決まって本当に良かった。『兄消える』はもっとサエない男でも良かったかなって思ったりもするけどね。

どちらも低予算映画だから大変だと思いますよ。ある程度はお客さんが入ってくれないと借金が残っちゃうだろうからね。一人でも多くのお客さんが見てくだされば、また次の作品が撮れるでしょう?少しでも元を取らせてあけたいよね」

-今後はどのように?-

「健康でいられれば舞台をやりたいなと思いますね。あと低予算でいいから映画。少人数のスタッフでね」

ストレス解消と健康法は歩くこと。週に4、5日、2時間ほどかけて15 km歩き、腰痛も膝痛もないという。日焼けした肌が健康的。一番の楽しみはお酒で、夕飯を食べながら焼酎を1合ちょっと飲んでパタンと寝るという。「お酒しか楽しみがないんだもん」と話すちゃめっ気タップリな笑顔が爽やか。(津島令子)

(C)「兄消える」製作委員会

※映画『兄消える』5月25日(土)公開
配給:エレファントハウス/ミューズ・プランニング
監督:西川信廣 出演:柳澤愼一 高橋長英 土屋貴子 新橋耐子 雪村いづみ(特別出演) 江守徹(特別出演)

(C) 2018 珠出版

※『カスリコ』6月22日(土)より公開
配給:シネムーブ/太秦
監督:高瀬將嗣
出演:石橋保 宅麻伸 中村育二 高橋かおり 高橋長英

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