<WRC>初開催のラリー・チリが間もなくスタート!「いちばんの課題は“輸送”」
今週末の5月10日~5月12日(現地時間)、2019年WRC(世界ラリー選手権)第6戦「ラリー・チリ」が開催される。ラリー・チリは、これがWRC初開催。WRC開催地としては34カ国目となる。
同じ南米ラウンドである「ラリー・アルゼンチン」と連戦となったことで、これまで以上に南米でのWRC人気が高まることが予想されている。
さて、チリと聞いて少なからぬ人が思い浮かべるのは、“チリワイン”ではないだろうか。
先日、財務省関税局が発表した資料によると、2018年のチリワインの輸入量は約5万1000klで、4年連続で輸入ワインの1位となった。昔はワインといえばフランスやカリフォルニアが定番だったが、2007年3月末に日本はチリとEPA(経済連携協定)を締結。同年9月に発効した。
これによって日本でのチリワイン輸入量は増え続け、ついには1位を記録するまでになったのだ。近年、コンビニやスーパーマーケットなどでチリワインを頻繁に見かけるようになったのは、この2007年締結のEPAがきっかけである。
また、チリは地形的にアンデス山脈に沿う形で南北に細長く、南米大陸の半分程度の長さがあり、地域ごとに気候や文化が大きく違う。例えば、モアイ像で有名なイースター島もチリにあり、世界でもっとも乾燥していて高地にあることから天体観測に最適なアタカマ砂漠、大自然の宝庫パタゴニア等々、チリという国名よりも地域名が有名な場所が多く存在する。
◆ドライバーたちの“初めてのチリ”への印象
そんな彩りが多いチリで開催されるラリー・チリは、どのようなものとなるのだろうか。
まず、ラリー全体はグラベル(未舗装路)ラリーとなる。現地入りしたドライバーたちからコースをチェックした感想を聞くと、「ラリー・グレートブリテン」や「ラリー・オーストラリア」に近い部分があるという。
WRC公式取材に答えたセバスチャン・オジェ(シトロエン)は、「いくつかのセクションはラリー・グレートブリテンを思わせるね。路面の表面が非常に滑りやすい。それでいて大きな石がゴロゴロとある。だから、本当なら速度を上げて飛ばしたくはないラリーコースだよね。でも、そこが面白みの要素であって、間違いなく盛り上がるだろうね」と答えた。
また、グラベルを得意とするトヨタのクリス・ミークは、「すべてが新しいチャレンジだね。僕が2014年にWRCのレギュラーシートを獲得したとき、ほとんどすべてのコースが初走行というものばかりで、ペースノート作りから何から、すべてが挑戦だった。あの1年は本当に大変だったよ。それを思い出すというか、僕にとってはすごく魅力ある挑戦だね」と、新人時代を振り返っている。
そして、ラリー・アルゼンチンで2位に入り調子を上げてきたヒュンダイのアンドレアス・ミケルセンは、「僕の感覚では、ラリー・オーストラリアとラリー・グレートブリテンを組み合わせたような印象を受けた。大自然の中のコースで、森林コースがあり、平坦な部分が少ないコースだ。それでいて路面は滑りやすく、ひとたび雨が降ったら、状況は一変するだろう。本当にラリー・グレートブリテンのようにね」と、天候による変化が大きいことを予想した。
全ドライバーにとって初挑戦となると、昨年の「ラリー・トルコ」のように、現場でどのように状況を捉えていくかの対応力が問われる。その点において、昨年のラリー・トルコで優勝したオット・タナック(トヨタ)などは有力な優勝候補だろう。
また、同じくトヨタのヤリ-マティ・ラトバラの200戦を超えるWRC経験は、マシントラブルさえなければやはり優勝候補となるはずだ。
◆“輸送”も含めた1年がかりの準備
そして、“挑戦”はドライバーたちだけではない。チーム全体にとって、初開催のラリー・チリは大きな挑戦だ。トヨタチームの現場を仕切るスポーティングディレクター、カイ・リンドストロームはWRC公式取材にそう語った。
「昨年、カレンダーにラリー・チリが加わることが発表されて、すぐに動き出した。いちばんの課題は、マシンや機材などを南米のチリに輸送すること。昨年のラリー・トルコは(拠点と)同じ欧州だったので、そこまで問題ではなかった。
機材の多くは海上輸送なのだけど、新たに加わるパーツやマシン自体は飛行機で輸送する必要がある。さらにいえば、ひとつの輸送ルートだけでは問題が生じる可能性が高い。そこで常に、次策を用意する必要がある。いつ、どれだけのものがラリー・チリに必要となるのか、綿密に調べる必要があった。
しかも、遠い南米の地でのラリー・アルゼンチンに続く2連戦。これも過去にない経験だ。ラリー・アルゼンチンを終えて、サービスのほとんどを解体して、他にも準備があってトラックに詰め込んで移動したのは火曜日だった。さらにマシンは遅れて水曜日に出発し、チリに到着したのは土曜日だったよ」
こうした輸送面などでも各チームが1年がかりで準備したラリー・チリ。初開催だけに、予測がつかない展開もあり得るだろう。
現在ドライバーズランキングは、1位がヒュンダイのティエリー・ヌービル。2位にシトロエンのセバスチャン・オジェ、そして3位にトヨタのオット・タナックが続く。上位3名としてなんとしても避けたいのは、トラブルやクラッシュによるリタイアだろう。少なくとも入賞、できれば表彰台、あわよくば優勝と三者とも考えているはずだ。
主催者発表によると、現地(時間)の予定は、木曜日の午前11時から6.45kmのシェイクダウンがあり、ラリー初日の金曜日はSS1のスタートが午前8時。金曜日はSS1からSS6まで走行し、SS全体では125.27kmを走行する。
2日目の土曜日はSS7を午前8時8分スタート。SS7からSS12までを予定し、SS全体では121.16kmを走行する。そして最終日の日曜日は、午前8時8分にスタート。SS13からSS16までを走行し、SS全体では58.38kmを走行する。
ラリー全体では、SS部分で304.81km、リエゾン区間で940.87km。トータルで1245.68kmを走行する。
果たして、どんなラリーが繰り広げられるのか。トヨタは巻き返すのか。非常に楽しみな初開催、ラリー・チリは間もなくスタートだ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>