靴下の長さにもこだわる。『東京独身男子』に見る、ドラマ劇中ファッションの奥深さ
没頭できる仕事と趣味を持ち、家事能力も高く、友達と充実した日々を過ごすAK男子(あえて結婚しない男子)たちにスポットを当て、高橋一生・斎藤工・滝藤賢一の3人が今までにない恋愛・結婚観でアラフォー独身男性の本音を体現している土曜ナイトドラマ『東京独身男子』。
本作では、「女はその本質をSNSのアイコンに隠している」(第1話)、「相手が何考えてるかわからない時は、イコール、お前に気がないだけ!」(第2話)といった劇中に登場する恋愛アジェンダや、高橋・斎藤・滝藤らが演じる大人のセクシーな恋模様、また、彼ら3人の仲睦まじい様子が注目を集めている。
そして、ドラマをより楽しむうえでこちらも注目したいのが、3人が劇中で着用しているファッションだ。
三者三様のファッションには、一体どんな意図や演出が込められているのか。本作でスタイリストを務める本田博仁さんに話を聞いた。
◆裏設定を考え、“ニュアンス”を表現する
まずは、3人のファッションのコンセプトをどう決めていくのかについて。本田さんは、本作『東京独身男子』に限らず、ドラマのスタイリングをする際には、自分の中で“裏設定”を考えるという。
本田:「まずはプロット(物語の筋)をいただいて、そこを読み解いていくところから入るんですけど、いきなりビジュアルを作るよりは、キャラクターの職種などもふまえたリサーチをします。
今回は、高橋一生さんはメガバンク勤務の役、斎藤工さんは審美歯科の院長、滝藤賢一さんは法律事務所のボス。自分のコネクションからそういう仕事をしている人がいないかを探し、話を伺って、普段どういう風に洋服を選んでいるのか、TPOによってどう変えているのかということを聞きます。
その過程で、たとえばクライアントと会う時や法廷に立つ時はこういう格好はしないといった話が出てくるんですけど、そういった“ルール”からは逸脱し過ぎず、とはいえドラマなので守りすぎても面白くない。常にそこにある“狭間”で戦っていますね」
――仕事以外の場面のカジュアルな服については?
本田:「カジュアルについてはビジネスシーンや彼らのライフスタイルの動線を想像した上で考えていくのですが、それと併せて、自分なりに“裏設定”を作って掘り下げていくことも多いです。
ドラマの台本は、基本的には(劇中の)“現在”から始まる。でも、登場人物にはそれまでに生きてきた長い年月があって、たとえば学生時代どんな部活をしていたのか、たとえばどんな恋愛をしてきたのか、そして、どんなファッションを通って来た人なのか。そういう想像を膨らませて、自分の中で裏設定をつけるんです。
ビジュアル(外見)よりも、“現在”に至るまでのストーリーを大事にする。そうすることで、“ニュアンス”を表現するということに大きな影響が出てきます。僕は、服における“ニュアンス”は、人となりを表す根幹の部分のひとつだと思っているので、裏設定を考えるのは非常に重要な作業なんです」
――服における“ニュアンス”とは?
本田:「たとえば、“袖のまくり方”。長袖のシャツを着たとき、幅を均等に折ってまくるのか、何も考えずにバッとまくりあげるのか、それとも、まくらずにきちんとボタンをとめて着るのか。この“まくり方”ひとつで、その人がもたらす印象ってだいぶ違うじゃないですか。これがニュアンスです。意識しては見ないけど、勝手に刷り込まれていく部分ですね。コーディネートで見せるだけでなく、そういったニュアンスまで含めて出せるかがスタイリストとしての勝負だと思っています」
◆『東京独身男子』3人の衣装に込めたこと
では『東京独身男子』の3人は、どんなコンセプトやテーマのもと、またどんな“ニュアンス”を出すことを意識してスタイリングしているのか?
まずは、高橋一生演じる主人公・石橋太郎から。
本田:「太郎は、メガバンク勤務で年収1000万円くらいという設定。そして大きいのは、他の2人と違って個人経営ではなく“会社に雇われている身”なので、3人の中では最も一般的な感覚をもっているだろうと考えています。
人からの見られ方や体裁を多少気にする性格でもあると感じたので、どんな人から見られても清潔感があり問題がないだろうというマインドで自分の服も選んでいると設定しています。シンプルだけど、着ているモノは上質というのもポイントのひとつですね。
最初はもう少しきっちりさせようと考えましたが、高橋一生さんの“太郎”という人間の役作りに感化され、少しラフに、リラックス感が出るようにも意識しました。きっちりしていながらも、乱れてもいい。乱れても、素敵な違和感がにじみ出る。“乱れ”をうまく活かしていきたいと思っています」
続いて、斎藤工演じる審美歯科クリニック院長・三好玲也について。
本田:「三好は、テーマとしては“ラフさで見せる色気”ですね。彼は服の選び方もラフで、雑誌を参考にするとかではなく、たとえば六本木ヒルズにある高級セレクトショップに贔屓のスタッフさんがいて、その人にある程度お任せして選んでいるんじゃないかなって。アイテムを持ってこられて、『ああ、いいんじゃない』って決めてる感じですね。
そして、服やアイテムの扱いに関してもラフで無頓着。普段からケアとかは全然しないし、クリーニングとかもそんなに出さない。良いものを雑に着ている。そんなイメージですね。
あとポイントとしては、3人の中でいちばんヌード感が強い。いちばん素肌が見えています。三好は家の中でもスリッパを履かずに素足なんですが、それは彼が家でラブシーンを演じるとき、スリッパの“スリスリ”って音よりも素足の“ペタペタ”って音のほうが濃厚さやエロさが出るのではないかなと思い、そうしました」
そして、滝藤賢一演じる大手弁護士事務所のボス弁・岩倉和彦。“ラフさで見せる色気”の三好に対して、彼のテーマは“大人の品格と色気”だという。
本田:「岩倉は、すべてに行き届いていて、服で自分を演出するのも最も上手な人というイメージ。ピッタリとしたサイズ感や、『ダレスバッグ』、『カフスボタン』などのこだわりのアイテム選びで常に“品格”を出しています。彼の着こなしは、それなりの職種と、また“それなりのこと”をやってきたからこそ出来るものなんです。
また、彼の場合は“スキのなさ”もポイント。スキのない人間であることを示すために、たとえばスカーフを入れたりピンホールシャツを着せたりして首元を詰めています。三好のようにネック部分があいていて素肌が見えていると、それはそれで怪しげでミステリアスな良いスキになるんですけど、岩倉はすべてに行き届いている人。小物使いでスキのなさを演出しています。
細かいところですが、岩倉は実は、ニーハイとまではいかないまでも非常に長いソックスを履いている。これは、足を組んだ際に素肌を見せないためです。スーツを着ていて素肌が見えるのは、岩倉の場合は品格を損なってしまうので」
ここまで語られたような“こだわり”や“演出”は、ほんの一部。このほかにも、劇中で着られているスーツは既製品ではなくすべて新たに作られているなど、細かいディティールによって“ニュアンス”を出す工夫は枚挙にいとまがない。
ただ服を選び着させるだけではない、“スタイリング”という仕事の奥深さが垣間見られる。
本田さんはさらに、『東京独身男子』ならではの“やりたいこと”も語ってくれた。
本田:「男って、仲の良い男同士になると、何歳になっても少年みたいな会話をするもんじゃないですか。そういう中でたとえば、『その服いいっすね』とか『それどこで買ったの?』みたいな“情報の共有”の会話もあると思うんです。
そういう、趣味や嗜好はそれぞれ違うんだけど、どこか共有してるような部分をスタイリングによって見せるっていうのも今後アリなのかなと考えています。同じものを着たり使ってたりっていうのも良いなって。『それいいね。どこで買ったの?』『ああ、あそこだよ。おれ買っておいてあげようか?』みたいな会話は、普通にあるものなので。
もしかしたら、注意深く観てくださる視聴者の方には『あれ?同じじゃない?』『着せ間違えたの?』って思われるかもしれないですけど、あえてそういう違和感を出して、それがキャラクターについて深く考えるきっかけになったら嬉しいなと思います」
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ドラマの劇中ファッションは、ネット上で様々な“まとめページ”も作られるなど常に注目の的。
自身の買い物の参考にしたり、高価なアイテムに憧れたりといった楽しみ方はもちろん、スタイリストがそこに込めた“ストーリー”や“ニュアンス”を感じ取るというのも、ドラマを楽しむための大きな要素のひとつになりそうだ。
※Stylist 本田博仁
俳優として『バトルロワイアル』などの作品に出演。その後セレクトショップにて経験を積み、スタイリストに転身。アシスタントには付かず独学で学び、独自の感性を磨く。モードからストリートまで幅広くスタイリング。雑誌、CM、広告、ドラマなどを中心に活動中。テレビ朝日のドラマでは『BORDER』や『dele』のメインキャラクターの衣裳を手掛ける。(公式HP、Instagram)