WRC、次戦は初開催のチリ!総合トップのヌービルも「僅かしか知識がない」<第5戦・最終結果>
現地時間の4月28日、2019年のWRC(世界ラリー選手権)第5戦ラリー・アルゼンチンの最終日が開催された。
最終順位は、勝者ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)。以下、2位にアンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/1位から48秒4遅れ、3位セバスチャン・オジェ(シトロエン)/同1分4秒8遅れ、4位クリス・ミーク(トヨタ)/同1分6秒2遅れ、5位ヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ)/同1分21秒1遅れ、6位ダニ・ソルド(ヒュンダイ)/同1分26秒7遅れ、7位ティーム・スンニネン(フォード)/同4分57秒3遅れ、8位オット・タナック(トヨタ)/同14分24秒8遅れとなった。
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第3戦ラリー・メキシコ以来となるグラベル(未舗装路)中心のラリーとなったラリー・アルゼンチン。
この週末を振り返ると、まず各ドライバーの顔見世ともいえる木曜日夜のSS1は雨に濡れた路面のなか開催された。
そして本格的な戦いが始まる金曜日はヒュンダイのヌービルがトップに立った。
因みにWRCでは、木曜日に顔見世となるSS1が開催されるイベントとされないイベントがあり、ドライバーたちにとっては、ラリーは金曜日を初日ととらえる感覚が一般的だ。その初日の金曜日にヌービルがトップに立ったのは、実に意外なことだが今シーズン初めてのこと。そして、ヌービルの快進撃はこの週末ずっと続くことになる。
ただ、ラリー自体は金曜日を終えて8位まで1分13秒差と、ひとつのミスで逆転する混戦状態にあった。そして土曜日になってもヌービルの快進撃は続く。2位から5位のドライバーたちが26秒3という僅差で争うなか、ヌービルはひとり完全に突き抜けて、2位に45秒7差という圧倒的なリードを築いた。
◆トヨタ、新規定のもと最も早く200個目のステージトップ獲得
こうして迎えた最終日の注目は、2位以下の争いに集まった。
なかでも、ミケルセンが2位に入ってヒュンダイのワンツー体制が作れるかどうか、またトヨタのミークとシトロエンのオジェによる3位争いはファンにとって見逃せない戦いだった。
というのも、土曜日を終えた時点ではミークが3位にいたのだが、土曜日のSS11でトヨタのミークとタナックがコースを間違えて走行したことがシトロエンの抗議により判明。2人はそれぞれ意図的でなかったことを伝えたが、主催者は正しくないルートを通ったことを重視し、それぞれに10秒ペナルティを加算。これによってミークは総合3位から総合5位に順位を落として最終日の戦いに挑むことになってしまった。
また、同じくペナルティを受けたタナックだったが、SS14でマシントラブルによってストップしデイリタイアを選択したこともあり、散々な土曜日となってしまっていた。
結局、ヒュンダイのヌービルは週末を通じて完璧とも言える強さをみせて優勝。チームメートのミケルセンがそれに続いた。
注目が集まった3位争いは、SS16とSS17でそれぞれオジェを上回ったミークが10秒ペナルティをものともせず順位を逆転したのだが、最後のパワーステージでそれまで酷使したタイヤから圧力低下の警告が発生しペースダウン。最後オジェに再び逆転を許して表彰台獲得を逃した。
ところで、実はこの週末、トヨタは2017年から新しくなった現在のWRCマシン規定の下、4つの自動車メーカーの中で最も先に200個目のステージトップを獲得した。つまり、マシンの総合性能がいかに高いかの証明とも言える。
今回の結果は残念だったが、マシン自体の手応えは充分あった。それはチームリリースによる日曜日終了後のドライバーコメントからも感じられた。
※オット・タナック
「総合8位に順位を上げられたのはポジティブに思えることです。今週はトラブルに見舞われ、フラストレーションがかなり溜まりました。パフォーマンスはとても良かったのに、結果が伴わなかったので、改善しなくてはならないことが山ほどあります。これからもベストを尽くして戦い、次のチリでは反撃に転じたいと思います」
※ヤリ-マティ・ラトバラ
「良い形でラリーを終えることができて嬉しく思います。今季はここまで非常に厳しいラリーが続き、今回も金曜日は良くないスタートになってしまいました。しかし、土曜日は少しずつ状況が良くなっていき、今日はようやく昨年の終わりのレベルまで戻せました。本当に良かったと思います。今日のミナ・クロベロは、自信を持って走れば大きな差をつけられるステージなので、思いきりいこうと考えていました。思った通りその戦略は上手くいき、パワーステージにも勢いがつきベストタイムを競うことができました。次戦のチリは、高速で流れるようなステージが予想されるので、とても楽しみです」
※クリス・ミーク
「昨晩のペナルティタイムにより総合5位に順位を落としましたが、諦めずに戦い続けました。今朝、クルマはとても素晴らしく、楽しんで走ることができました。調子はとても良く、パワーステージでも好調でしたが、フィニッシュまで6kmの地点でタイヤの空気圧低下を示す警告灯が点きました。ただし、なぜそうなったのか、まったく分かりません。私はベストを尽くしましたが、あのようなことも起こります。ここ3戦は、いずれも最高の結果を狙えたはずなので、やはりフラストレーションが溜まります。ヤリスWRCの運転はとても楽しく、今日のように完璧にはいかなくとも十分に楽しめました。自分がやるべきことをきちんとやり続ければ、きっと正しい方向に進むはずです」
◆ヌービル、初開催のチリは「ほんのわずかしか知識がない」
そして、今回勝利したヒュンダイのヌービルは、これでチャンピオンシップを大きくリードした。公式会見での概要は以下の通り。
――今季2勝目おめでとうございます。今回は通常よりタフな週末でしたか。
「それはイエスでありノーであるかな。なぜならラリーコンディション自体は本当にタフだった。路面状況の変化が多すぎたからね。さらに言えば、スタートのSS2は最悪だった。その一方で、この週末のマシンは本当に完璧だった。昨年と比較していくつかの進化が見られた。そのおかげで、本来は厳しいラリーなのに100%快適かつ週末をコントロールできた。それが今回の勝利の秘訣だったね。それでもトリッキーな場面はいくつもあった。3日間ともそれぞれが、まったく違う状況を持つ日々だった。天候の変化もあったし。だからこそ、チームが完璧なマシンを提供してくれて、快適性を感じていたから対応できたのだと思う」
――快適さを感じたのは、ライバルのオット・タナックがリタイアしたにも関わらず、ペースが落ちたり乱れることなく、そのままを継続できた点にも表れていますか。
「その通りだね。自分がマシンに良い感触を感じているときは、マシンは必然的に競争力がある。それは他のドライバーも同じだ。こうした感覚を得られるのは簡単ではないのだけど、よりコントロールができるようになる。それがこの週末ずっと続いた感じだ。とても快適で自分の思い通りにいった。だからこそタイムは速いのに快適だったんだ」
――このラリー・アルゼンチンはヒュンダイと相性が良さそうですね。昨年も好結果でした。
「僕たちのマシンはとても信頼性が高い。こうした荒れたコンディションに強いんだ。ヒュンダイのマシンは、総じて荒れたコンディションに強かったと思う。ただ、ボクが言えるのは、とても信頼性が高く、ドライビングが楽しい週末だったよ」
――次回は、誰もデータを持たないラリー・チリです。ラリー・チリについての知識や、何か私たちに伝えられることはありますか。
「チリについては、ほんのわずかしか知識がない。場所がどこにあって、どのルートのフライトで行くのか…それくらいだ。ただ、いつも言っているのだけど、僕たちはラリーからラリーへと飛び回る。だから数日後には次のイベントに向けて集中しているよ」
ラリー・アルゼンチンを終え、ドライバーズチャンピオンシップは、
1位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/110ポイント
2位:セバスチャン・オジェ(シトロエン)/100ポイント
3位:オット・タナック(トヨタ)/82ポイント
4位:クリス・ミーク(トヨタ)/54ポイント
5位:エルフィン・エバンス(フォード)/43ポイント
6位:アンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)/30ポイント
となっている。そしてマニュファクチュアラーズタイトルは、1位ヒュンダイ/157ポイント、2位トヨタ/120ポイント、3位シトロエン/117ポイント、4位フォード/78ポイントだ。
こうしてラリー・メキシコは終了した。次戦は、5月10日~12日に開催されるラリー・チリ。今年WRCカレンダーに追加された新規イベントだ。WRC開催地としては32カ国目となる。
開催場所は、チリの首都サンティアゴから南西に約350キロ離れた工業都市のコンセプシオンを中心とした地域。グラベルラリーの予定だ。果たして、どんな景色の下で戦いが行われるのか。次戦も楽しみにしたいところだ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>