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結婚50年の藤竜也、寝る前に妻と必ず握手「無事に2人とも起きてこられるかわからないから」

©テレビ朝日

テレビ、映画にコンスタントに出演し、俳優生活57年目となる藤竜也さん。仕事を受けるかどうかの判断基準は至ってシンプル。ギャラや共演者は一切関係なし。脚本もしくは企画書や概要に目を通し、役に興味が湧いて「やりたい」と思えば引き受け、そうでなければ断るという。

人としてきちんと描かれているかどうかが重要。やると決めたら徹底的に準備して全身全霊で演じ切る。徹底しているところがカッコいい。趣味の陶芸は個展を開くほどの腕前で、松田優作さんや原田芳雄さんも歌っていた有名な「横浜ホンキー・トンキー・ブルース」の作詞者としても知られている。

©テレビ朝日

◆趣味が高じて自宅の庭に陶芸の窯

-藤さんと言えば、ロケ地に早めに入って、その土地の空気を体感してから撮影に入ることで知られています-

「そうなんですよ。自分でも不思議なぐらい妙にマニアックになっちゃいましてね。半年時間があれば、半年間その土地に入って、仕事を見つけて暮らしたいみたいな、そのぐらいの心境になっちゃうんですよ。夢中になっちゃうんだよね(笑)」

-藤さんのように、ロケ地に早めに入って溶け込んで…ということをされる方も少しずつ増えているみたいですよ-

「そうなんですか。つまりカメラの前で安心したいですよね。カメラもみんなどこかに飛んじゃって、意識せずにその役を生きたいんでしょう。

だから職人の役なんてうれしくてね。 それをマスターすれば、もうこっちのもんだみたいなのがありますからね。だから困るのがギャングとか殺し屋、外科医とかで、勉強のしようがないんですよ。これは想像でやるしかないからね」

-職人の役というと、映画『窯焚KAMATAKI』(2005年)などはピッタリでしたね-

「もうビシビシ。とことんやりましたよ。現地で習いに行った陶工の先生に『明日も来るのかい?』なんて言われてね(笑)」

-あの作品に入る前にすでに陶芸は趣味でやっていらしたそうですね-

「たまたまね。20年以上やっていました。でも、あの映画では古典的で伝統的な作り方でしたからね。ろくろも電動じゃなく、紐でどんなものでも作っていくんですよ。それはやったことがないので、もう必死でやったんですけど、楽しかったからね」

-陶芸は奥様も一緒にされていたそうですね-

「やっていました。その当時はね。陶芸をやっていた友人が飽きて仲間に小さな窯をくれたのがきっかけで始めたんだけど、数カ月後には自分の窯を買って、自宅の庭に2階建てのプレハブ小屋まで作っちゃいましたからね」

-本格的ですね-

「そうなんですよ。もうやめたからきれいにかたづけてしまいましたけどね。目障りでしょうがないから。使ってない2階建ての建物があったって、なんかブルッちゃうよね(笑)。使っていない大きなものがあるというのは、すごいイヤですよ」

-個展もされるほどでしたが、やめてしまったのはなぜだったんですか-

「個展なんてやりだしたからいけないんだよね。負担になっちゃったんですよ。趣味だったはずなのに、何か妙な感じになっちゃったから、『もういいか』って。あるところでスポッと切れるんですよ。飽きっぽいんですよね(笑)」

-ご自身の中で究(きわ)めてしまったということもありますか-

「いや、究めては全然ない(笑)。そんな趣味程度のやつがやったって大したものはできませんよ。それこそ魂かけなきゃ何だって。陶芸は遊びでしたからね」

-藤さんが製作された作品となると、かなり人気もあったと思いますが、そういうことに抵抗感は?-

「それはないですよ。もう作っちゃったら興味がないんですよ、作っちゃったものにはね(笑)。作るところまでは色々マニアックに夢中になる、楽しんでね。だけど、できちゃったものには意外と興味がないんだよね。だから作品(映画)もそうですよ。いっぺん見るぐらいでもう見ないですね」

©テレビ朝日

◆英語が流暢すぎて監督からダメ出し

モントリオール映画祭で最優秀監督賞など5冠に輝いた映画『窯焚KAMATAKI』では流暢(りゅうちょう)な英語を披露していた藤さん。あまりに英語が完璧すぎて監督からNGを出されたこともあったという。

※映画『窯焚 KAMATAKI』(クロード・ガニオン監督)
父親を亡くしたショックで生きる意欲を失った日系カナダ人の青年・ケン(マット・スマイリー)が、叔父で国際的に著名な陶芸家・琢磨(藤竜也)のもとにやって来る。最初はふさぎこんでいたケンだったが、陶芸を手伝いながら、奔放で型破りな人生を送る琢磨と過ごすうちに変化が…。

-監督から英語が流暢すぎると言われたそうですね-

「それはガニオンがオーバーに言っているだけでね(笑)。日本人らしい、そういう英語が欲しかったんでしょう、きっと」

-劇中では歌も披露されていますが、お話されているときとは全く違う声でした-

「あれはね、思い出したくないシーンですね(笑)。あれを歌えと言ってきたのは撮影の前々日ですよ。台本に“玄人はだしの歌”って書いてあるから、僕はそういう風にやろうと思ったんだけど、ズルズルズルズル、ラテン系のおおらかさって言うのかな(笑)。何を歌うのか言わないんですよね。

著作権とかのお金の問題があったのかもしれないけど、撮影の前々日にサラ・ヴォーンのCDを渡されて『Summertime』を歌うことになって…。バンドと一緒にやるんですからね。

一睡もせずに練習しましたけど、めちゃくちゃな話ですよ。もうケンカしました。バスの中でガニオンに『君は俳優のことをわかっていないサディストだ』って言ったら、彼が『俺はサディストじゃない』って言ってね。

あとでガニオンに『スタッフの前で怒鳴らないでくれ。私の威厳というものが…』って言われましたけどね(笑)。長い間この仕事をやっていますけど、監督と言い合いになったのは、その一度だけですね」

-そんなことがあったとは思えないですね、本当に玄人はだしでステキでした-

「バンドメンバーのおかげですよ。彼らに事情を話して『何にも分かりませんから。どこから入っていいのかも何も解りません』って言ったら『大丈夫です。自由にやってください』って言ってくれてね。ガニオンはテストをやらないんですよ。支度が全部終わったら『はい、本番いきます』って、いきなり撮影するんですから、『もうどうにでもなりやがれ』って感じでした(笑)」

-そんな風には全然見えませんでした。一発でOKだったんですか-

「そうです。全部一発ですよ。ガニオンの撮影は。現場の準備が終わるまで俳優がそこに入ってくるのを嫌がるんですよ。

全部準備が終わってカメラがもう回って良い状態になった時に、ガニオンが直接控え室に来て、『どうぞ入ってください』って言ってカメラが回る。テストはしないんです。新鮮さが欲しいんじゃないですかね。それはそれで良いんですけどね。河瀬(直美)さんもそのスタイルですね」

河瀬直美監督がプロデューサーを務めたハバナ出身のカルロス・M・キンテラ監督作『東の狼』(2018年)にも主演。幻の狼を追い続ける孤高の老ハンターを演じ、河瀬直美監督の映画『光』(17年)では劇中映画に出演。この作品で藤さんは、『愛のコリーダ』(大島渚監督)、『愛の亡霊』(大島渚監督)、『アカルイミライ』(黒沢清監督)に続き、4度目のカンヌ国際映画祭出席となった。

「『光』でカンヌに行ったときには、ちょうど『愛のコリーダ』が別のセクションで上映されていたんですよ。でも、もう40年以上経って顔が違っていますからね。誰も気がつかなかったですよ(笑)」

(C) 2019西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

◆寝る前には必ず妻と握手

5月10日(金)には倍賞千恵子さんと28年ぶりに夫婦役を演じた映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』が公開される。

※映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
三人の子どもが巣立ち、夫婦二人と猫一匹で暮らしている勝(藤竜也)と有喜子(倍賞千恵子)。無口な勝の代わりに有喜子の話し相手となってくれているのが飼い猫のチビだった。ある日、有喜子は娘(市川実日子)に離婚を考えていると打ち明ける。さらに心のより所だったチビが姿を消してしまい…。

-倍賞さんとは古くからのご友人だそうですね-

「そうです。家がご近所ということもあって、年中向こうの夫婦とこっちの夫婦でお目にかかったり、飯を食ったりしているからね。久々の夫婦役でも違和感なく、すんなりと役に入ることができました。何か同じように見えるんですよ。うちの家内と倍賞さんとがね(笑)。セットにいても、どこかで勘違いしているんですよ」

-結婚50年目というシチュエーションも似ていますね-

「そう。うちも50年ですからね。でも、脚本を読んだときにさすがにここまでの亭主関白な男性はいないだろうと思いましたよ。僕が勝のような態度をとったら大問題になるはず。そうならないよう常に『ありがとう』というように心がけていますね」

-奥さんにものすごく素っ気ない態度をとりますが、やっていていかがでした?-

「亭主関白のさじ加減が難しかったですね。監督と話し合って調整していきました。倍賞さんを見ていると、可愛らしいですからね。つい優しい顔になってしまって、監督からよくNGを出されました(笑)。自分に手を振ってくれているのに目をそらしたりして、ひどいですよね。普通はやらないですよ。僕だったら握手をしに外へ出て行きますけどね」

-でも、お弁当のシーンとか、心温まる場面がたくさんありました-

「そうですね。お弁当のシーンはいいエピソードでしたね」

-昨年亡くなられた星由里子さんも出演されていますが、共演されていかがでした?-

「撮影のときはお元気そうでしたからね。『若大将のヒロインだ。会えた。うれしいな』みたいな感じでした(笑)。ミーハーになるんですよね。昔に戻っちゃうんですよ。うれしかったですね」

-劇中ではチビちゃんという猫も登場します-

「うちもずっと何年も猫がいたんですよ。3年前に最後の子が亡くなったんだけど、もう飼うと猫の方が長生きしちゃうから、かわいそうだからね。飼えないですよね」

-劇中にもそういう会話が出てきますね-

「そうですね。家内は病的に好きですからねぇ、猫が。もう猫には目がないからね。うちは二階にキッチンと居間があるんだけど、双眼鏡が置いてあってね。おなじみの野良猫が同じところを歩くのを双眼鏡で見て、『あれは〇〇だ』って名前を勝手に付けているからね(笑)。『〇〇が今、あの家に入った』って言って見ていますよ。野良猫観察」

-普段の生活サイクルはどんな感じですか-

「夜7時半にはもう寝ます。多少運動なんかをやっているからね、その分疲れるんですよ、老人ですから。気持ち良く寝ちゃうんです(笑)。それで大体午前1時頃に目が覚めて、テレビをちょっとつけてまたウトウトしてね。

3時半には起きるんですけど、この間『やすらぎの刻~道』で共演する松原智恵子さんとインタビューを受けたときに、松原さんにその話をしたら怒られましてね(笑)。

松原さんも女房と仲が良いので、『午前3時半に起きるなんて、そんな迷惑なことをしたら奥さんがかわいそうでしょう』って言われたから、今は4時半にしていますよ。4時半まで起きるのを我慢しているの(笑)」

-寝る前には奥様と必ず握手をされるそうですね-

「そうそう。翌朝、無事に二人とも起きてこられるかわからないですからね。女房がうたた寝をしていて、僕が自分の部屋にいって寝ようとすると、『あなた、握手を忘れているわよ』って言われたりしていますよ(笑)」

おしどり夫婦として知られるお二人。奥様とのウォーキングも日課のひとつ。「興味があるのは過去よりも未来。切り捨てられないのは、女房への愛だけ」というのもステキ。泰然自若としていながら生々しさを漂わせ、男も女も魅了し続けてほしい。(津島令子)

(C) 2019西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

※映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』
5月10日(金)より全国ロードショー。
監督:小林聖太郎 出演:倍賞千恵子 藤竜也 市川実日子 星由里子 佐藤流司ほか
50年一緒に過ごしてきた夫婦が初めてお互いの気持ちに向き合った時、猫がくれた優しい奇跡が…。

©テレビ朝日

※『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)
毎週月~金 昼12時30分~12時50分
脚本:倉本聰 主題歌:中島みゆき