最後に誰も予想のつかないドラマ。WRC第4戦「ラリー・フランス」最終結果
現地時間の3月31日、WRC(FIA世界ラリー選手権)第4戦「ラリー・フランス」の最終日に2つのSSが行われた。
最後のパワーステージでは誰も予想のつかないドラマも発生。優勝はヒュンダイのティエリー・ヌービルが勝ち取り、自身10勝目を飾った。最終日の結果は、以下の通りだ。
優勝ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)
2位セバスチャン・オジェ(シトロエン)/1位から40秒3遅れ
3位エルフィン・エバンス(フォード)/同1分6秒6遅れ
4位ダニ・ソルド(ヒュンダイ)/同1分18秒4遅れ
5位ティーム・スンニネン(フォード)/同1分24秒6遅れ
6位オット・タナック(トヨタ)/同1分40秒0遅れ
7位エサペッカ・ラッピ(シトロエン)同2分9秒1遅れ
8位セバスチャン・ローブ(ヒュンダイ)/同3分39秒2遅れ
◆「パワーステージ」とは?
WRCでは、最終日の最終ステージは「パワーステージ」と呼ばれており、このステージの上位1位から5位にはドライバーズチャンピオンシップに5点から1点の追加加算がされる。
例えば、クラッシュやトラブルで初日や2日目にリタイアを喫しても、このパワーステージでトップを獲得すれば5ポイントが得られる。
また、優勝ドライバーがパワーステージでもトップを取れば、優勝ポイントの25ポイント(※1位25ポイント、2位18ポイント、3位15ポイント、4位12ポイント、5位10ポイント、6位8ポイント、7位6ポイント、8位4ポイント、9位2ポイント、10位1ポイント)に加えて、5ポイントを得て合計30ポイントとなる。
そのため、このパワーステージはとても重要で、ここに良い状態のタイヤとマシンを持ち込めるかどうかは大きなポイントとなっている。そして今回の「ラリー・フランス」、その対応が顕著に出るラリーとなった。
◆最終日パワーステージの戦略
「ラリー・フランス」の最終日は、2つのSSしかない。そしてターマック(舗装路)では、タイヤのグリップ力がどの程度残っているかがタイム短縮に大きく影響する。できれば最終日最初のSS(SS13 )は無理せず走り、パワーステージに良い状態のタイヤを残したい。
しかし、総合順位を僅差で争っている場合は、そうした余裕はない。つまり、前日までの結果によって最終日パワーステージへの戦略が変わっていくわけだ。
当然、前日までの差が4秒5しかなかったトップのヌービル(ヒュンダイ)と2位のエバンス(フォード)は全力で戦うしかない。そして3位のオジェ(シトロエン)と4位のソルド(ヒュンダイ)もお互いの差は5秒1。手を抜くことはできない。
一方、8位のローブ(ヒュンダイ)、9位のクリス・ミーク(トヨタ)、10位のヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)は互いのタイム差もあり、SS13は抑えて走り、パワーステージのSS14にすべてを集中する戦略が取れる。
結果SS13では、ステージトップをエバンス(フォード)、2位タナック(トヨタ)、3位スンニネン(フォード)、4位オジェ(シトロエン)、5位ヌービル(ヒュンダイ)とここまでは勝負を戦い、6位ラトバラ(トヨタ)、7位ローブ(ヒュンダイ)、8位ミーク(トヨタ)はタイヤを守る走りに徹した。
とくにミークは、ステージトップから1分38秒2遅れと一切無理をしない走りをして最後のパワーステージにすべてを賭けた。驚きだったのはエバンス(フォード)の走りで、ここでヌービルより16秒も速いタイムで順位を逆転し、11秒5差のリードを再び奪って最後のパワーステージに挑むことになった。
◆最後のドラマを生んだ「パンク」
そして迎えたパワーステージのSS14。最終走者であり暫定総合トップのエバンス(フォード)がまだゴールしていない段階で、SS14トップはミーク(トヨタ)のタイヤを温存した戦略が見事に決まってステージトップを獲得。以下2位にタナック(トヨタ)、3位スンニネン(フォード)、4位ヌービル(ヒュンダイ)、5位オジェ(シトロエン)となっていた。
こうなると、残りはトップのエバンス(フォード)がゴールするのを待つのみ。タイム差も11秒5あり、よほどのミスをしない限り今週末の状態からも優勝は確実に思われた。しかし、勝利の女神はエバンスには微笑まなかった。
最後の走者であるエバンス(フォード)をWRC公式テレビが捉えたとき、そこに映ったのは、全力には程遠いゆっくりとした速度で走るエバンスのマシン。
何かのトラブルか?…よくよく見ると、右前輪がパンクした状態でエバンスは走行を続けていた。最後まで走りきったエバンスのステージタイムは、ステージトップのミーク(トヨタ)から1分29秒8遅れ。なんとか3位表彰台は獲得したが、なんとも悔しい今シーズン初の表彰台となってしまった。
最後のドラマを生んだのはパンク。思えば、今年の「ラリー・フランス」は非常にパンクが多いラリーだった。トヨタにとっても、パンクに始まりパンクに終わるラリーだったと言える。
初日からラトバラとミークがパンクに見舞われ、2日目はタナックがパンクに見舞われた。スポーツの世界に「タラレバ」は禁句だが、トヨタの3台はパンクがなければ優勝争い確実だっただけに、チームにとっても悔しいラリーとなってしまった。
◆上位陣、会見コメント
ラリー終了後、公式会見での上位3者のやり取りは以下の通り。
※ティエリー・ヌービル
――今回の勝利で10勝目です。なんとも劇的な週末でした。ご自身はどのように感じていますか?
「いろいろとあって、タフな週末だった。でも悪くなかったよ。僕たちのマシンは初日から速さを持っていて、その後は速かったり遅かったり……。まあ全体としては良かった。とくに土曜日は良かったね。エルフィン(フォード)との差があったからね。彼らは素晴らしい仕事をしたし、彼らは勝者に値すると思う。でも、最後までゴールしなければ勝利はない。それがラリーなんだ」
――今年もまたエキサイティングな年になりそうですね。いかがですか?
「今年は相関図が大きく変化した。とにかく接戦だ。今日を終えて、オジェ(シトロエン)と2ポイント差、タナック(トヨタ)とも5ポイント差だ。このリードを保つことは難しいね。なぜなら次の『ラリー・アルゼンチン』は僕たちにとって最適とは言えない。でも実際に走ってみればチャンスがあるかもしれない。誰にもこの先はわからないね」
※セバスチャン・オジェ
――セバスチャン、大きくポイントを稼げました。しかし、ターマック(舗装路)を得意とするあなたらしい姿は見ることができない週末でした。どうしたのでしょう?
「僕にもまだわからない。確かに最終結果は僕たちのパフォーマンスよりずっと良い結果に終わった。確かに良い結果を求めて乗り込んだが、実際のところはスピードもなくベストには程遠い状態だった。まったく競争力がなかったんだ。ステージトップも取れていない。正直、僕にとってもチームにとっても普通じゃない週末だった。だから、何がどう悪かったのかをしっかり分析しなければと思っている。しかし、そんな状態で19ポイントも稼げたことは本当に良かったよ」
――そこまで悲観しなくても、週末には良い場面もありましたし、今朝は良かったのではないですか?
「そうだね。最終日の2つのSSはちょっと良かったと思う。でも十分ではない。路面がクリーンな状態ならもっと力強くないと。でも、そうじゃなかった。ただ諦めなかったから多くのポイントを獲得できた。僕が思うに今週末は、エルフィンが勝者に値する走りをしていた。そしてタナックも力強かった。今年のWRCは過去にないほどの接戦だと感じているよ」
※エルフィン・エバンス
――最後はあまりにも衝撃的な結果でした。何が起きたのですか?
「最後は路面の荒れた難しいステージだった。リスクを取って攻めなければならなかった。10秒強というリードは十分ではなかったからね。正直、何が起きたのかはよくわからない。自分の感触としての話になってしまうけど、僕たちは路面の石にぶつかってその後にパンクの警告ランプが点いた。残り11kmあり、とにかく走り続けることを選択した。残り3kmの時点で全てを失うだろうと感じた。なんとか表彰台をすくい取った気分だ」
――週末全体を通じてはポジティブだと感じられますか?
「うん、とてもポジティブだったよ。いいスタートだと感じている。ただ、この調子がずっとシーズン続くと言うには時期尚早だ。そうなるように頑張らないと。マシンは良い。スタッフたちの努力の賜物だよ」
こうしてドラマチックな形で「ラリー・フランス」は終了した。
ラリーを終えて、ドライバーズチャンピオンシップは、トップがヌービル(ヒュンダイ)/82ポイント、2位オジェ(シトロエン)/80ポイント、3位タナック(トヨタ)/77ポイント、4位エバンス(フォード)/43ポイント、5位ミーク(トヨタ)/42ポイント、6位ラッピ(シトロエン)/26ポイントと続いている。
マニュファクチュアラーズタイトルは、トップがヒュンダイ/114ポイント、2位シトロエン/102ポイント、3位トヨタ/98ポイント、4位フォード/70ポイントと続く。
トヨタはドライバーズチャンピオンシップ、マニュファクチュアラーズタイトル両方で暫定トップを奪われてしまったが、その差はまだまだ小さい。次戦はラリー・メキシコに続いて大きなチャンスがあるグラベル(未舗装路)ラリーの「ラリー・アルゼンチン」だけに期待したい。
次戦の「ラリー・アルゼンチン」は、4月25日~28日の予定で開催される。今年は「ラリー・アルゼンチン」、続いて「ラリー・チリ(5月10日~12日開催)」と南米ラウンドが2戦続くので、ここで再びトヨタにはトップ浮上を目指してもらいたいところだ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>