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【世界ラリー(WRC)】ドライバーにとって「勝利と同等の栄誉」とは? ラリー・スウェーデン振り返り

2月19日に放送されたテレビ朝日のスポーツ情報番組『Get Sports』(毎週日曜日0時45分~、一部地域を除く)で、トヨタのWRC(FIA世界ラリー選手権)挑戦の第2戦となる「ラリー・スウェーデン」での戦いの模様が放送された。

番組は、開幕戦でいきなり2位に入った「ラリー・モンテカルロ」を軽く振り返ったあと、第2戦のラリー・スウェーデンに先立ち、2月2日に東京・お台場で開催されたTOYOTA GAZOO Racingの2017年モータースポーツ活動発表会の様子からスタート。

雪上ラリーであるラリー・スウェーデンに向けた雪上ラリーテストの合間を縫い、チーム代表のトミ・マキネンとエースドライバーのヤリ‐マティ・ラトバラが来日。ラトバラがトヨタ自動車の豊田章男社長をコドライバーにしてデモンストレーション走行を行っていた。

ここでインタビューを受けたラトバラは、マシンの仕上がりについて「非常に良い感触がある」と開発が順調であることを語っていたが、目標は5位以内とあくまでも控えめだった。とくにブレーキでの開発が進んだことを語っていて、雪上でありながら長い直線が多い高速ラリーのラリー・スウェーデンでは、マシンの加速性能とともに重要なブレーキング性能が向上していることがマシンへの感触が良い印象なのだと感じられた。

さらに、ラリー業界では“スタッド”と呼ばれている金属製のピンがタイヤに打ち込まれたスパイクタイヤ。現在、日本の道交法では、金属ピンを打ち込んだスパイクタイヤは使用できない。この番組で初めて、グリップが強力なスパイクタイヤを観た人もいるに違いない。

初日は「スーパーSS」と呼ばれる、通常のSSとは違い、2台同時に競争させ観客を楽しませるステージからスタート。ここで首位に立ったラトバラは、レポーターの「すべて素晴らしかったですか?」という問いに「すべて素晴らしかった以上だったよ!」と、じつは画面の翻訳字幕以上にマシンへの自信を覗かせていた。

2日目はサスペンションセッティングの方向性を間違え、長い直線であやうくクラッシュという場面があった。「あそこは時速150から160キロ出てる場所だったね」と、本人もラッキーだったという笑みをこぼした。これがこの後に続く好結果への予兆だったのかもしれない。

そして3日目は、世界ラリー(WRC)全13戦のなかでも間違いなく関係者が名物のひとつと挙げるであろう「コリンズ・クレスト」を紹介。

このコリンズ・クレストとは、日本語にすると「コリンの頂点!」という意味。2008年から作られた賞で、クレストとは、頂点や紋章、意外なところではライオンのたてがみなどを示す言葉だ。つまり、偉大なものを指し示す言葉と思っていただいていい。

では、“コリンの”とは?

このコリンとは、1995年のWRC王者であり、日本のスバルに初めてマニュファクチュアラーズタイトルをもたらした、WRCにおける“名門スバル”を作り上げた天才ドライバー、コリン・マクレー(英国)の名前から取ったもの。

トヨタチーム代表のトミ・マキネン(当時は三菱のドライバー)とは良きライバルとして同じ時代に共に日本チームの名誉を賭けて競い合った存在だ。

そのマクレーだが、2007年に自身が操縦していたヘリコプターが墜落し事故死。まだ39歳という若さであった。彼の走りは、「アクセルペダルは床まで踏み込む」が信条であり、クラッシュも多かったが、迫力の走りと大ジャンプで世界中のWRCファンを魅了していた。そのマクレーに敬意を表し、2008年からラリー・スウェーデンのジャンプスポットに「コリンズ・クレスト」が誕生したのである。

コリンズ・クレストを制することは、まさにコリン・マクレーのように偉大でファンを魅力するWRCドライバーということ。ドライバーにとっては勝利と同等の栄誉といえる。

そして今年、その栄誉を得たのは、ノルウェー人ドライバーのマッズ・オストベルグ(フォード)。

過去最高記録の45メートルにあと一歩という44メートルの大ジャンプだった。このジャンプは番組でも紹介されているのだが、とにかく驚くのがその音。もはやクルマから発せられている音ではなく、空気を切り裂く、まるでジェット戦闘機が飛び去ったかのような音を発している。これもまた、WRCマシンの凄さを感じさせるシーンだ。

また番組では、ラトバラが「勝利を目指したときのコリンズ・クレストでの攻め方の難しさ」について身振りを加えて詳しく解説している。過去16勝を挙げているドライバーらしく、名誉も大事だが、今回は自身とチームの勝利を目指した格好だ。その判断が幸運を呼び込む。

3日目最終SSで、総合トップを走行していたヒュンダイのティエリー・ヌービルがマシンをコンクリートに当ててクラッシュ。ラリー・モンテカルロでの悪夢が繰り返された。

そして最終日となる4日目。残る3本のSSをすべてトップタイムで走りきったラトバラが、自身17勝目、そして18年振りに世界ラリーへ復帰したトヨタに復帰後わずか2戦目にして勝利を提供した。ゴールの瞬間を解説していた公式映像では、「トミ・マキネンがジャンプして喜んでいます!」と18年振りの勝利を称えていた。

また、ラトバラのまるで初勝利のように興奮し喜びを隠しきれない表情はとても印象的だった。

※すでに「favclip」にて配信されている、この表彰台後におこなわれた記者会見でのちょっと心温まるストーリーも、この表情を観るとその意味がさらに伝わってくる。

世界ラリー(WRC)第2戦で優勝したトヨタ。その後の記者会見での心温まるやり取り

次戦は、真冬のスウェーデンから暑いメキシコに舞台を替え、「ラリー・メキシコ」(3月9~12日)となる。グラベル(未舗装路)でのラリーは、どのような戦いをみせることになるのか、ぜひともラリー・メキシコにも注目してもらいたい。

文/田口浩次(モータージャーナリスト)