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ペースノートの重要性と、トヨタ3台目投入の意味【世界ラリー(WRC)】

5月15日に放送されたテレビ朝日のスポーツ情報番組『Get Sports』(毎週日曜日0時45分~、一部地域を除く)で、トヨタのWRC(FIA世界ラリー選手権)挑戦、その第5戦となる「ラリー・アルゼンチン」での戦いの模様が放送された。

©Get Sports

今回、番組内でテーマとして取り上げられたのは、“ペースノート”

ペースノートとは、レースのようにサーキットで同じ場所を周るのとは違い、一般道を週末を通じて数百キロ走るラリーではその道を事前に覚えることは不可能なため必要となるものだ。

これは、コドライバーと呼ばれる助手席に座る選手が作り、ラリー走行中に次のコーナーや路面状況を口にして説明することで、ドライバーは先の見えない道を攻めることができるというもの。ラリーの勝敗に大きく影響している。

©Get Sports

トヨタのエースドライバーであるヤリ‐マティ・ラトバラのコドライバーは、ミーカ・アンティラ。ラトバラと共に長年戦ってきた盟友で、このコンビネーションでラトバラは世界ラリー(WRC)17勝を飾ってきた。

そのペースノート作りには定評があり、また同じフィンランド人同士ということもあり、細かく調整が利くあたりはまさに阿吽の呼吸といえる。今回はその阿吽の呼吸が最終日に活かされることとなる。

番組では、ペースノートに関わる話題でラリー・アルゼンチンを追っていく。その作り方の難しさ、ペースノート作りと実際にラリーで攻めているときとの違いなどを分かりやすく説明していく。そのなかでWRCメカニックたちが凄さを見せたのが、シトロエンで戦うクリス・ミークのクラッシュのときだった

©Get Sports

ミークは、ペースノート作りと実際のラリー速度の違いから発生したクラッシュでマシンを横転させてしまう。

マシンは後ろ半分の屋根がつぶれ、フロントもバンパーほかがすべてなくなった。まさにボロボロの状態。とてもではないが、普通では復活不可能と思わせるものだった

しかし、チームのメカニックたちはたった3時間という許された時間内に見事マシンを修復し、そのマシンでミークは翌日のラリーでSS最速を獲得して、修復がいかに完璧だったかを証明して見せた。

ドライバーやコドライバーだけでなく、チームに関わるすべてのスタッフの力が突出しているからこそ、世界ラリー(WRC)は世界最高峰のモータースポーツのひとつと認識されているのだろう。

©Get Sports

そうしたスタッフの凄さを、ラリー・アルゼンチンの週末を通じて感じさせたのがトヨタのラトバラだった。

じつはラトバラは2日目、ラリー・メキシコと同じ症状と思われる原因でエンジンパワーを失い、大いにタイムロスしてしまった。また、事前に作ったペースノートと実際にラリーカーを全開で走らせる速度とのギャップに苦しんでいた。

しかし、エンジントラブルはその日のうちに対応し、翌日には再び全開で走れるようになっており、ペースノートも最終日前にコドライバーのアンティラとそれまでの3日間での経験から指示内容を修正したことで、最終日は自信を持って攻められる状態とした。

これが何を示しているかというと、18年振りにWRC参戦を果たし、事実上新チームといえるトヨタが毎戦大きく成長しているということ

エンジン問題はラリー・メキシコのときは1日で対応することができなかったが、今回はたった1日でマシンは復活。ペースノート修正は、マシン状態を完全に把握しているからこそ、そこまで手を加えるだけの余裕がラトバラとアンティラに生まれたといえる。

©Get Sports

そして、トヨタは次戦の「ラリー・ポルトガル」で、いよいよ3台目のマシンを投入することになる

ドライバーはテストドライバーで、昨年WRCのひとつ下のクラスでチャンピオンを獲得したエサペッカ・ラッピ。まだ26歳で、次世代の中心ドライバーとして期待されている若手だ。

他のチームがサテライトチームなども使って開幕戦から3台や4台体制で挑んでいたなか、トヨタはずっと2台体制で戦ってきた。「経験が無いならば最初から3台や4台体制で戦うべきだったのでは?」と思う人がいるかもしれない。たしかに、確率論などから言えば、2台よりも3台のほうがより多くのデータも得られるし、結果に繋がるチャンスも増える……理論上では。

しかし、実際のラリーは違う。開幕時点でのトヨタは、ほんの2カ月前にエースのラトバラ加入が決定し、まだチームはよちよち歩きの子供のような状態だった。チーム代表のトミ・マキネンやエースのラトバラの存在がチームをここまで飛躍的に成長させたが、もし最初から3台体制だったら、その対応に追われてしまい、ここまで経験を一気に積み上げることができたかは疑問だ。各スタッフに地力も付き、いよいよ満を持して3台目投入となったのである。

一方で、もし今シーズンは2台体制を確定させてしまい、3台目投入が来シーズンであったら、逆にライバルに追いつくための経験量が少なくなり、結果、投入判断が遅いといわれてしまう。

マキネン代表はチームの現状と潜在能力を見極め、最適な形で3台目の投入タイミングを決めた。こうした判断は、やはり世界の頂点に立ち、チームの現状を冷静に判断できるマキネン代表がいるからこそのものだ

◇◇◇

ここからトヨタはさらなる経験を積むこととなり、それは間違いなく結果にも繋がっていくはずだ。

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

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