20歳でアイドル引退。引きこもり生活から再挑戦を決めた”運命の再会”<石川夏海>
現在、どれだけのアイドルが日本に存在するのかを断定するのは難しいが、“売れているアイドル“と定義できる存在となると、その数はぐっと減る。
例えば、武道館での単独コンサート開催を目標とするアイドルは少なくないが、実際にその地に立てた女性アイドルは、AKB48やももいろクローバーZをはじめとして、これまで30グループに満たない。
さらに近年の傾向として、HKT48からデビューした宮脇咲良(※現在はIZ*ONEに専念)に代表される「アイドルの掛け持ち」や「アイドルの転職」、「アイドルの再チャレンジ」も活発化しており、一口でアイドルと言ってもそのキャリアは多様化を極めている。
◆20歳を過ぎてアイドルに復帰した女
なかには、アイドルとして活躍した後に、一時は引きこもり生活を送り、復帰した者もいる。
テレビ番組『ラストアイドル』から生まれたグループ「Love Cocchi(ラブコッチ)」のメンバー・石川夏海は、2013年からアイドルグループ「アキシブproject」の一員として活動を開始。Zepp Tokyoでのワンマンライブや、雑誌「ヤングアニマル」主催のグラビアバトル「YAグラ姫2017」でグランプリに輝き、表紙を飾ったこともある。
しかし、彼女は20歳になったタイミングで自身の行く先に迷い、まさかのグループを卒業。それから引きこもり生活を開始する。
だが、事件はある日突然訪れた。彼女は働き始めた職場での偶然の出会いによって「ラストアイドル」への挑戦を決意したのだ。
一時はアイドルとしての道を諦めた石川が、もう一度ステージに立つ道を選んだのはなぜか?
これは、一度アイドルを引退したものの、再び表舞台に立った一人の女性の物語である。
◆”ふつうのJKライフ”を求めて
1996年6月、千葉県で生まれた石川夏海。
小さい頃は勉強好きでおとなしい性格だったというが、運動を始めたことでアクティブになっていったという。
「小学校3年生のときに、友だちに誘われてバスケットボールのクラブに入ったんです。それがすっごく厳しくて。365日のうち、360日はバスケをやっていました」
その後、バスケの強豪校に進学。中学でもバスケットボール部へ入部し、バスケ漬けの生活を続けた。
「背は小さいからガードのポジションで、いつもレギュラーメンバー。県大会でも常にベスト8以上で、関東大会で優勝したこともありました」
だが、中学で厳しい練習に懲りた彼女は、高校では“ふつうのJKライフ”を求めてバスケを辞めることを決意。
「当時はきゃりーぱみゅぱみゅさんに憧れて、ちょっと奇抜なファッションの個性的な人になりたいと思ってました。『KERA』っていう雑誌が大好きで、いろんな服を着るのが楽しかったですね」
ファッションの効果か、買い物のため原宿を訪れると、街頭スナップを撮られることが増えた。これが彼女にとって新たな転機となった。
「バスケをやめたとたん身長が12センチ伸びたので、原宿でよく声をかけられるようになったんです。スナップ撮影で知り合った人の紹介で、オーディションを紹介されて。それが『アキシブproject』との出会いでした」
「もともとアイドルになりたかったわけじゃなかった」という石川。だが、興味本位で受けたオーディションで合格。偶然にも、アイドルになったのだ。
なんとなく、アイドル――。
入り口は気楽だったが、いざアイドルになってみると、どんどん楽しくなっていったという。
「ファンの人たちがいろんなアイドル情報を教えてくれるんですよ。ももいろクローバーZさん、私立恵比寿中学さんとか。それでライブ動画を見たら、どんどんハマっていって。そこから、どんどん上に登っていきたいという気持ちが芽生えたんです」
◆「これ以上ないくらい頑張ってたのに、どうすればいいの?」
次第に個人としての活動も増え始めた。
『YAグラ姫2017』のグランプリや、ミスiDのファイナリストにも選ばれた石川。
当時は、「グループの名前を背負って、知名度をあげるための戦いに出たつもりだった」という。だが、本人にとっては思うような成果を得られなかったようだ。20歳になるタイミングが近づくにつれ、自身の人生の行く末について悩む気持ちが生まれる。
「これ以上ないくらい頑張ってたのに、どうすればいいの?って思うようになって。これからの人生で、自分がなにをやりたいのか、改めて考えたい。そう思って、20歳になったタイミングでグループを卒業しました」
◆偶然の再会。「ラストアイドル、受けてみればいいのに」
燃え尽きてしまったのか、しばらくは無気力でなにもする気が起きなかったという石川。
「卒業してからは、ただ家に引きこもってました。でも、これじゃアイドルを辞めた意味がないし、大人なんだから働こうと思って。しばらくしてからアパレル店で販売員の仕事を始めました」
しかし、運命は意外な場所に転がっている。
なんとなく始めたその職場で、彼女の運命を変える再会があったのだ。
「もともとアキシブで一緒に活動していて、今は『=LOVE』メンバーのみりにゃ(大谷映美里)が、私が働いてるお店に偶然服を買いに来たんです。少し立ち話をしたなかで『ラストアイドル、受けてみればいいのに』って言われて。その瞬間は、『いや、アイドルはもういいかな〜』って軽く返したのに、頭のなかでは気になって仕方なかったんです」
その日の仕事を終え、石川はすぐにスマホで「ラストアイドル」のオーディションを検索。オーディションはすでに終盤を迎えていたが、ギリギリの滑り込みで間に合うことがわかった。
その後の行動は決まっていた。
「まさか自分が出ることになるとは思ってなかったんですけど。その一方で、またステージに立ちたい、と思わされるくらいみんな本気で、みんながカッコよかったんです」
◆自分を変えたつんく♂のたった一つのアドバイス
滑り込みの挑戦では破れたものの、早々に番組の2ndシーズンがスタートし、「ラストアイドル」は5つのグループに分かれてシングルCDの表題曲を争うことに。
石川は「Love Cocchi」のメンバーとして、つんく♂からプロデュースを受けることとなったのだが、これも大きな出会いとなった。
「そもそも、つんく♂さんに認知してもらえるなんて、ヤバイじゃないですか(笑)。ほんの少し前までは家に引きこもってたのに。これがきっかけでLove Cocchiのみんなも、自分の考えも、大きく変わったと思います」
つんく♂のアドバイスのなかで、特に印象に残っている言葉があるという。
「ステージに立つとき、『私とみんな』じゃなくて、『私とあなた』っていう意識で、一人ひとりに向けてパフォーマンスをしなさい。そう言われました。いちばん後ろのお客さんまで、全部『1対1』の関係だと思ってステージに立つんだって。今までは『自分たちとみなさん』って見方だったので、自分のプロ意識なんてまだまだだったって思い知らされて。学ぶことばかりでした」
また、つんく♂の一言がアイドル復帰した彼女を大きく変えることになった。
「ずっと髪を伸ばしてたんですけど、つんく♂さんと初めてお会いしたとき、一言目で『君はショートカットのほうがいい』って言われたんです。絶対にショートはイヤだったんですけど…いざ切ってみたら、会う人全員が『なんで今までショートにしなかったの?』っていうんです。大正解でした」
◆引きこもりを乗り越えたあとの夢
引きこもりを経てアパレル店員として働いていた彼女は、現在どのような目標を見据えているのだろうか。
「今、2期生を含めたラストアイドルファミリー52人で“歩く芸術”に挑戦しています。3月にお披露目する予定で、この練習で全員の団結力を強くできたら、ステージでのパフォーマンスも、もっと良いものにできると思うんです。また、披露する舞台がB.LEAGUEのオープニングイベントとハーフタイムショーということで、バスケばかりやっていた私にとって特別な気持ちがあります」
この厳しい練習を乗り越えた先に、かつて登りきれなかった階段の先が見えてくるのかもしれない。
「これを成功できれば、見た人が『ラストアイドルってすごい』と思ってくれると思うんです。すでに私たちが『ラストアイドル』で得た強みはたくさんあるはず。それを生かして、良いパフォーマンスをできるようにがんばっていきたいです」
<撮影:長谷英史、取材・文:森祐介>
※石川夏海(いしかわ・なつみ)プロフィール
1996年6月、千葉県生まれ。2013年から2017年までアイドルグループ「アキシブproject」で活動。「YAグラ姫2017」グランプリ受賞など、グラビアの仕事も多く務めた。2017年末に「ラストアイドル」へ挑戦、現在は「Love Cocchi」メンバーとして活動。特技はバスケットボールで関東大会優勝の経験を持つ。幼稚園の年少から高校卒業まで、常にリレーの選手に選ばれるなど、運動能力が高い
※映画『がっこうぐらし』
2019年1月25日全国公開。原作は、海法紀光(ニトロプラス)と千葉サドルによる同名のコミックで、学園で共同生活を送る4人の女子高生の日常と生き残りをかけたサバイバルホラーの非日常を描いた、大人気作。コミックの累計発行部数は250万部を超え、TVアニメも圧倒的な人気を誇る。実写化にともない、『呪怨』シリーズのプロデューサーと『リアル鬼ごっこ』の柴田一成監督がタッグを組んだ。『ラストアイドル』からオーディションによって選出された阿部菜々実・長月翠・間島和奏・清原梨央の4名が、メインキャスト
※番組情報:ラストアイドル4thシーズン『ラスアイ、よろしく!』
【毎週土曜】深夜0:10~0:35、テレビ朝日系(※一部地域を除く)