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<WRC>王者オジェが開幕戦6連覇&記念勝利 トヨタは3台とも入賞の好成績

2019年のWRC(世界ラリー選手権)シーズン第1戦、ラリー・モンテカルロの最終日が開催された。

©WRC

最終日である日曜日に行われたのは、SS13からSS16の4ステージ。優勝を飾ったのは、開幕戦6連覇を達成したシトロエンのセバスチャン・オジェだ。

2位にはヒュンダイのティエリー・ヌービル、3位にはトヨタのオット・タナックが入り、奇しくも昨シーズンのドライバーチャンピオンシップ上位3名が、そのままのリザルトで開幕戦の表彰台を獲得した。

最終日朝までの総合順位は、トップはセバスチャン・オジェ(シトロエン)、2位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/1位から4秒3遅れ、3位セバスチャン・・ローブ(ヒュンダイ)/同1分58秒7遅れ、4位ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)/同2分1秒0遅れ、5位オット・タナック(トヨタ)/同2分16秒0遅れ、6位クリス・ミーク(トヨタ)/同5分26秒8遅れとなっており、1位と2位、また3位から5位はいつでもタイムが逆転するような状態のなかで最終日はスタートした。

©TOYOTA GAZOO Racing

この日速さを見せたのは、トヨタのタナックだった。

SS13でステージトップを取ると、3位のセバスチャン・ローブ(ヒュンダイ)、4位のヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)とのタイム差を一気に11秒6縮めた。これで3位表彰台までのタイム差を6秒以内とする。

続くSS14でもステージトップを取ると、一気に2台をごぼう抜きして総合順位で3位に浮上。その後のSS15とSS16も、ステージトップこそ取れなかったが、ローブとラトバラには一度も負けることなく、見事に3位表彰台を獲得した。

ラリー後の公式会見でのやりとりで、タナックは開幕戦をこう振り返った。

─―木曜日はリードし、金曜日に滑り落ち、土曜日は嵐のような走りでステージを勝ちまくり、最終日は表彰台まで来ました。結果には満足されていますか。

「満足と言っていいのかはわからない。ラリーイベントは素晴らしかった。ただ、あまりにも金曜日に大きく落ち込んでしまった。正直、これ以上の走りができたかどうかはわからないが出し切った。オジェとヌービルは、このトリッキーなコンディションのなか本当に素晴らしい走りをしてきた。金曜日はSS3のステージキャンセルがあり、タイヤのパンクがありと、僕たちに向かい風になることが多かった。ただ、土曜日からはいい走りができて、感覚としても良かった。チームは素晴らしい仕事をして、マシンは速かった。僕たちは間違いはなかったが、きっと何かがすべてを完璧とはいかせなかったのだろう」

─―土曜日からのペースには満足でしたか。

「皆さんが土曜日から見た速さというのは、すべてがしっかり機能すれば当然出るトヨタの速さだったと思う。土曜日はすべてが機能した。タイヤ選択も毎回正解の選択ができた。他の人とは違う選択をしたにも関わらずね。ただ、すでに3分以上の差をつけられていた」

─―土曜日の午後は、ドライバーのなかで唯一、スタッズがついた雪道や氷で覆われた道用のスパイクタイヤを選択しませんでした。

「じつは雪道でドライビングアシストをしているマーティンから電話があった。“上位に行くには、なにか違うことをしないと駄目だ。ステージには5キロほどの氷に覆われた区間がある。もし君に勇気があれば、きっと対応できるはずだ”と言われた。そして決断した。いつも以上に安全に配慮して走れば…。さらにもし天候が変わればチャンスが生まれるかも…。というのも、僕は氷が少しずつ溶けていると感じていた。そうしたこともあって、タイムを稼ぎ、上位にプレッシャーを与える必要があった。そして、その通りに出来たと思う」

このようにタナックは、インタビューで、じつはリスクを土曜日に取って勝負した結果としての表彰台獲得だったのだと明かした。

ちなみに、タナックがインタビューの中で明かしたマーティン・カンゴーというアシストドライバーは、同じエストニア出身でタナックより5歳年下1992年生まれ。2010年のエストニア国内ラリーA7クラス王者。

彼の仕事ぶりはエストニアメディアに紹介されており、その時のインタビューでこう答えている。「僕たちの仕事は、各ステージをクルーたちがくる2時間程度前に走行して、路面状況を調べて伝えることだ。モンテカルロだと、標高が500mから2500mまでと幅広い。雪道はどんな雪質になっているか、氷はどんな状態で覆っているか、一度溶けて夜間に再び凍った状態なのか等々、情報をクルーに提供するんだ」。

つまり、ギャンブルに見えたタナックの挑戦も、しっかりとチャンスはあることが裏付けられてのことだった。(編集部注:読者の方のご指摘により、配信時から一部修正・加筆をしております)

◆し烈なトップ争い

また、1位と2位の意地の張り合いも凄かった。

最終日朝に4秒3だったタイム差は、SS13を終えて3秒3、SS14を終えて3秒2、そしてSS15ではヌービルがステージトップを獲得してタイム差は0秒4に。事実上タイム差は無いに等しく、まさに最後のパワーステージが両者の決着をつけるステージとなった。

そして最後はオジェが現役王者の意地を見せ、見事にヌービルを上回り、ラリー・モンテカルロ6連覇を決めた。しかもこの勝利はシトロエンにとって100勝目であり、オジェがシトロエンに復帰していきなり決めた金字塔的な記念勝利だった。

©WRC

1位と2位ドライバーのラリー後公式会見は以下の通り。

<オジェ>
─―開幕戦優勝とシトロエン100勝目という二重の記念勝利ですね。おめでとうございます。最後は、ボクシングのクリンチのように、ヌービルともつれ合ったなかで勝利を獲得しました。

「そうだね、シトロエン100勝目を僕が獲得というのは、まるで大きなケーキの一番上に飾ってあるシンボルを手にしたような勝利だ。だが、それ以上に重要なのは、シーズン開幕戦を勝利でスタートできたこと。きっと僕たちの勝利に賭けた人は多くないはずだ。僕が過去ここで何度も勝利している実績があったとしてもね。それはそうだ。新しいチーム、新しいマシンでいきなり勝つことは容易ではない。だからこそ、最後の最後に勝利をしっかりと手にしたことは嬉しいよ」

─―非常に希少なシーンでしたね。あなたが勝利で感情を爆発させていました。

「希少だったね。それくらい僕は嬉しかった。僕のドライバーとしての初期の頃を除けば、これほど感情を出したこともなかったし、これほど勝負を楽しんだこともなかった。今回のラリーは本当に楽しかったんだ。だから、横にいるヌービルに感謝したい。勝負を終えたとき、本当に大きな感情が僕を覆い、最後の最後に爆発した。本当に感情が爆発した感じだ」

─―最後のステージはどんな感じでしたか。

「最後はいい走りが出来た。プッシュ出来たと思う。本来ならば、まったくの新車で100%以上の走りは難しい。ただ、僕はシトロエンのマシンがあのような路面コンディションでは良いことを知っていた。ただ、周囲の雰囲気や反応がそうでないことは、昨年も同じ経験をして理解していた。だからこそ、僕はやれることを全部やった。まあ、ステージトップはトヨタのミークだったけど、僕にはそれは関係ない。勝つには十分だった。シトロエンとの仕事始めがこのような形でスタートできたことは素晴らしいよ」

<ヌービル>
―─私たちは、まさに全開と呼ぶに相応しいあなたの走りと戦いを見ることが出来ました。ただ、それでもオジェには追いつけなかった。とはいえ、十分なポイントを稼ぎ、上々のシーズンスタートです。本人としては、いかがですか。

「今回ハッキリしたのは、競争相手はさらに強くなっていたということだ。昨シーズンのラリー・イタリアを振り返れば、あのときのように僕たちは勝てたはずだ。でも、実際は勝てなかった。今朝、僕たちは4秒の差からスタートして、徐々にギャップを縮めてプレッシャーを彼に与えていった。しかし最後の最後に、僕たちが求めている結果にならなかった。ただ、あなたの言う通り、重要なポイントは稼いだと思う」

─―最後のSS16で先に走行を終えて、オジェの走りを待つ気分はいかがでしたか。

「正直言って、あのステージでの感触はすごく良かった。マシンの動きも素晴らしかったしね。僕は限界ギリギリで走ることが出来た。最後の最後にちょっとブレーキに違和感があった。思った以上に氷が少なく、より強くグリップしていた。そして、トヨタが本当に速かった。だからゴールラインを超えたとき、トップには不十分かなとは感じた。でも、この難しい状況をサポートしてくれたチームスタッフには感謝したい」

─―次はラリー・スウェーデンです。どのくらい自信を持って挑みますか。

「昨年よりは良い結果にしたいね。最大の目標は、ライバルより前でゴールすることだ」

◆トヨタ、3台とも入賞

そして、ヌービルが会見で発言していたように、じつはWRC関係者の多くが注目していたのがトヨタの速さだった。

全部で16あるSSのうち、トヨタは8つのSSでステージトップを獲得。最後のパワーステージではクリス・ミークがトップに立つなど、トヨタはそれぞれがパンクなどの不運に見舞われたが、その速さは安定していて、終わってみれば3台とも入賞。昨年以上に強さを増していることがハッキリした。

©WRC

こうして終えた2019年シーズンの開幕戦。シトロエンのオジェ、ヒュンダイのヌービル、そしてトヨタのタナックと、昨年王者を争った3名の戦いは今年も続きそうだ。また、チーム同士の戦いも、トヨタ、シトロエン、ヒュンダイが互角にあり、そこにフォードがどう絡むかが楽しみと言える。

ラリー後、チームの公式リリースを出したトヨタの2人のドライバーのコメントは以下の通り。

<ラトバラ>
「週末を通して僅差の戦いでしたが、自分にとってはベストな結果ではなく、4位でフィニッシュできなかったことに失望しています。しかし、今になって事前テストで見誤り、間違ったセットアップで今回のラリーに臨んだことに気がつきました。そのため私の運転ではかなりアンダーステアが強く、より速く走るために必要な自信を持てませんでした。とはいえ、ミスのない堅実な週末をおくれたので、シーズンの始まりで価値あるポイントを獲得できました。我々のクルマには、ラリーで勝つだけの力があると私は理解しています」

<ミーク>
「TOYOTA GAZOO Racingで戦った最初のラリーでパワーステージ優勝を飾り、素晴らしい結果となりました。この週末ステージ優勝は1回だけでしたが、それがパワーステージであったためボーナスポイントを獲得できました。他のドライバーたちは最後まで順位争いをしていたので、全力を尽くして走り5ポイントを得られたのは素晴らしい気分です。今回は問題に見舞われましたが、それさえなければ4位も十分可能だったはず。それでも、自分たちの速さを示すことができて本当に良かったと思います。クルマのフィーリングはとても良く、このラリーで全てが自分のものになったような気がします。まだ1戦が終わったに過ぎないので、集中力を失うことなく次のスウェーデンに臨むつもりです」

ラリー・モンテカルロの結果とチャンピオンシップポイントは以下の通り。

1位セバスチャン・オジェ(シトロエン)
2位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/1位から2秒2遅れ
3位オット・タナック(トヨタ)/同2分15秒2遅れ
4位セバスチャン・ローブ(ヒュンダイ)/同2分28秒2遅れ
5位ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)/同2分29秒9遅れ
6位クリス・ミーク(トヨタ)/同5分36秒2遅れ

ドライバーズチャンピオンシップは、1位セバスチャン・オジェで29ポイント、2位ティエリー・ヌービルで21ポイント、3位オット・タナックで17ポイント、4位はSS最後のパワーステージで勝利したクリス・ミークが5ポイント加算を稼いで13ポイント、5位はセバスチャン・ローブで12ポイント、6位はヤリ‐マティ・ラトバラで10ポイントと続いている。

製造部門を争うマニュファクチャラーズチャンピオンシップは、1位ヒュンダイ30ポイント、2位シトロエン25ポイント、3位トヨタ25ポイント、4位フォード14ポイントとなった。

©WRC

WRCの次戦は、白銀の世界で行われるラリー・スウェーデン。

北欧系ドライバーが比較的有利と言われているラリーだ。果たしてどんなラリーが展開されるのか。開催日程は2月14~17日。シーズン唯一の雪道ラリー。ラリーでしか見ることができない走りが楽しめるはずだ。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>