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WRC(世界ラリー選手権)開幕!トヨタWタイトルへ。伝説の新旧王者対決も<徹底解説>

いよいよ2019年のWRC(FIA世界ラリー選手権)シーズンがスタートする。

昨シーズンは、WRC復帰2年目のトヨタがいきなりマニュファクチュアラーズ(製造部門)タイトルを獲得。最終戦までドライバーズチャンピオンの可能性も残し、さらにはラリー競技に焦点を当てた映画『OVER DRIVE』(主演:東出昌大、新田真剣佑)が公開されるなど、日本でもWRCの認知度が大いに向上した1年だった。

そして迎えた2019年シーズンは、昨シーズンからいろいろと変わった点も多い。まずはそこを紹介していこう。

◆WRCとは? 今シーズンのスケジュール

©WRC

WRCは、F1と並ぶ世界選手権としての人気を誇る、モータースポーツ界の頂点にあるカテゴリーだ。

サーキットと呼ばれる専用の舗装路を走るF1などのレース競技と違い、WRCが競う場所はすべて一般道であり、舗装路・未舗装路を問わない。時期によっては雪道であったり灼熱で乾燥した土地であったりと様々だ。そこを1台ずつのマシンが走行し、その速さをタイムで競う。

また、レースではドライバー1人が1台のマシンに乗って走るが、ラリーではドライバーの横に“コ・ドライバー”と呼ばれるコースの道順やカーブの角度などを伝えるナビゲーター役が座る。

同じ周回路をぐるぐると回って競うレースと違い、ひとつの区間で数十キロの一般道を走るラリーでは、コースを覚えることができない。ナビゲーター役のコ・ドライバーがコースの説明をドライバーに与えることで、ドライバーは自信を持って、見えないコーナーの先へと飛び込むことができるのだ。それだけに、ドライバーとコ・ドライバーのやり取りが非常に重要となる。

さて、WRCでは世界中を1月から11月にかけて転戦する。2019年シーズンは、全14戦が行われる。公式に発表されている開催地とスケジュールは以下の通りだ。

第1戦 ラリー・モンテカルロ/1月24~27日
第2戦 ラリー・スウェーデン/2月14~17日
第3戦 ラリー・メキシコ/3月7~10日
第4戦 ラリー・フランス/3月28~3月31日
第5戦 ラリー・アルゼンチン/4月25~28日
第6戦 ラリー・チリ/5月9~12日
第7戦 ラリー・ポルトガル/5月30日~6月2日
第8戦 ラリー・イタリア/6月13~16日
第9戦 ラリー・フィンランド/8月1~4日
第10戦 ラリー・ドイツ/8月22~25日
第11戦 ラリー・トルコ/9月12~15日
第12戦 ラリー・グレートブリテン/10月3~6日
第13戦 ラリー・スペイン/10月24~27日
第14戦 ラリー・オーストラリア/11月14~17日

そして、2019年のWRCを戦うチームは4つの自動車メーカーによるもの。トヨタ・シトロエン・ヒュンダイ・フォードである。

この4チームは2018年シーズンと変わらないのだが、その顔ぶれとなるドライバーは大きく変わっている。簡単にその顔ぶれとマシンを紹介したい。

◆各チームの顔ぶれ。大型移籍、加入も

©TOYOTA GAZOO Racing

まず日本のトヨタは、昨年チャンピオン争いに最後まで残ったオット・タナックとWRC復帰時から参加するエースドライバーのヤリ‐マティ・ラトバラは残留。新たにイギリス人ドライバーのクリス・ミークが加わった。

3人とも速さには定評があり、ベテラン領域に入ってきた経験豊富なドライバーで安定感があるドライバー構成だ。マシンはトヨタ・ヤリス(日本名はヴィッツ)である。

©WRC

次に大きく顔ぶれが変わったのが、フランスのシトロエン。6年連続WRC王者を獲得したセバスチャン・オジェがフォードから移籍。更にトヨタでWRCデビューを果たしたエサペッカ・ラッピが加わった。

王者オジェはもともとシトロエンで経験を積んでWRCデビューを果たしており、母国チームに復帰して7度目の王者を狙う。チャンピオンと才能溢れる若手というドライバー構成だ。マシンはシトロエン・C3である。

©WRC

続いて韓国のヒュンダイ。じつはここ数年、何度も王者獲得のチャンスがあったものの、そのチャンスを掴みきれなかったが、実力はかなり高いレベルにある。

ドライバーは、中堅として実力にも定評があるティエリー・ヌービルとアンドレアス・ミケルセンは昨シーズンからの残留組。そこへ2018年シーズン後にビッグニュースが飛び込んできた。

なんと、9年連続WRC王者として君臨していた伝説的ドライバーのセバスチャン・ローブと2年契約を締結。ヒュンダイ3人目のドライバーとして、2019年シーズンを戦うことが決まったのだ。

じつは2018年シーズンも3戦だけ、シトロエンからスポット出場して、ラリー・スペインで見事に現役ドライバーたちを打ち負かして優勝。この勝利で、ローブ本人もWRCで再びやれるという自信が戻ったようだ。マシンはヒュンダイ・I20である。

©WRC

そして最後がアメリカのフォード(※WRCチームのマシン開発等は欧州フォードが管轄)。

2017・2018年と、セバスチャン・オジェのドライブでドライバーズチャンピオンを獲得してきたが、オジェがシトロエンに移籍を決めたことで、チームの総合力は大きく削がれた。

ドライバーは2018年から残留しているエルフィン・エバンスとティーム・スンニネン。開幕戦のラリー・モンテカルロでは、WRCのひとつ下のクラス、WRC2で王者を獲得した実績を持つポンダス・ティデマンドを起用。若手中心のチーム構成となる。マシンはフォード・フィエスタである。

◆オジェとローブ、自信のコメント

今週末開幕戦のラリー・モンテカルロを戦うにあたり、各チームはすでにモナコ入りしてマシンの準備とテストに余念がない。すでにWRC公式メディアに向けて、各ドライバーたちの意気込みが届いている。

まず注目は新旧王者対決だろう。セバスチャン・オジェとセバスチャン・ローブ。ローブが王者だった頃のオジェはチームメートでもあった。オジェは、シトロエン復帰とローブの復帰について語った。

オジェ:
「久しぶりだね、8年ぶりのシトロエン復帰だ。まだ若手の頃、ここで僕は多くのことを学んだ。今後は、僕がチームを引っ張ることが出来ればと思う。ローブの復帰は素直に嬉しいよ。僕たちは過去に良い戦いをしたしね。そして、今回お互いに状況も変わったところで勝負となる。楽しみだよ。きっと誰もがこの戦いに注目してくれるはずだ。

そして、開幕戦のモンテカルロ。ここではシャープに速さを追求したマシンが有利とは言えない。路面状況は常に変化し、逐一それに対応する必要がある。どちらかというと、速さではなく快適さを感じるマシンの方が対応しやすい。そして正しいタイヤ選択が重要だよ。僕が生まれたのは、このモンテカルロの近くで、ラリー・モンテカルロの道には幼少期から慣れている。その感覚がまた手助けになると嬉しいね」

一方のローブは、昨年のラリー・スペインでの勝利が復帰への大きな後押しになったことを語った。

ローブ:
「2018年シーズンのラリー・スペインに勝利したことで、またWRCのフロントランナーとしてやりたい気持ちになった。ヒュンダイへの加入は新たな挑戦だ。ヒュンダイというチームには非常に驚かされたよ。彼らの力強いチーム作りや高い競争力は、マニュファクチュアラーズタイトルを獲得するに十分なものだと思う。

そしてラリー・モンテカルロ。路面状況が大きく左右するのがモンテカルロの特徴だ。完全な舗装路かと思えば、雪道だったり氷で凍結していたり。どんなミスにも陥ることなく、リズムを保って走り続けることがもっとも難しいことなんだ。本当にどんな状況変化もありえる環境だ。一晩で一気に気温が下がって氷の層に道が覆われることだってある。そうした逐一変化する路面状況に常に対応し続けなければならない。僕はそうした状況に対応出来たことがこれまで良かった要因なのだと思うよ」

このように、オジェもローブもコメントの中に自信を覗かせている。

◆トヨタチーム、ドライバー3人も熱く語る

©TOYOTA GAZOO Racing

この新旧王者に注目が集まるが、もうひとつ、関係者が注目しているのがトヨタだ。

昨シーズンの後半は、誰もがトヨタ・ヤリスの速さが突出していたと語る。その速さを2019年も引き継いでいれば、間違いなく今年はダブルタイトル獲得の筆頭となる。

昨年、最後までチャンピオン争いに食らいついたオット・タナックはこう語る。

タナック:
「チームはすごく良い状態を保っていて、新車開発も順調に来ている。良い状態でシーズン開幕を迎えることができると思う。もちろん、僕自身は良きシーズン展望を描いているよ。僕自身にとって2年目のチームであり、同じマシン、同じチーム、同じスタッフでの仕事だ。すごくリラックスしている。もちろん目標はタイトル獲得だ。

そのアプローチ方法は昨シーズンとほぼ同じになると思う。ただ、シーズン序盤は、自分たちも周囲も、状況がしっかりと把握できるまでは難しいアプローチになる。でも、僕たちは間違いなく昨年より良い準備をして開幕を迎えると実感しているよ」

そして、新たなトヨタドライバーとして加入したクリス・ミークは、最高のタイミングで最高の場所にいると語る。

ミーク:
「昨シーズン途中で、僕はシトロエンを離れ、その後の数ヶ月はなんとなく過ごしている状態だった。そんなときに、トヨタチーム代表のトミ・マキネンと電話で会話したんだ。基本的にはラリーのことやドライビングのことなんだけど、そのときから感じたのは、とにかく前向きな話ばかりをお互い出来たこと。

そしていま、僕はトヨタにいる。誰もが知っているように、マキネン代表はWRCでもっとも成功したドライバーのひとりだ。だから、彼の視点はドライバーにとって、とても話しやすいというか、言葉が伝わるんだ。僕にとってそれは本当に大きなことで、トヨタとの契約が締結されるまで、もちろんさまざまな条件を詰めなければならない。そうした作業が必要だし、契約内容はとても大切なことなんだけど、僕にとってはマキネン代表の言葉の方がとてもシンプルで伝わるんだ。僕はWRCに復帰したい。そして勝ちたい。マキネン代表はそのために何が必要かを語ってくれる。だから契約に向けて、細かいことを考える必要はなかった。

そして、初めてトヨタ・ヤリスをテストしてみて、すごく正しいマシンだと感じられた。適切なパーツが選択されて組み上がっているとでも言うのかな。ただただ、良いマシンだと感じているよ。

また、トヨタチームに加入して思ったのは、彼らは間違いなく家族のようなチームだ。チームの本拠地もフィンランドで、ラリーの聖地だ。すべてがすぐ試せる場所にある。そしてトヨタは、信頼をおける自動車メーカーだ。彼らは長い期間でWRC挑戦を見据えていて、それでいて2年目にしてタイトルを獲得するほどポテンシャルがある。

チームにはヤリ‐マティ・ラトバラ、オット・タナック、そして僕クリス・ミークとキャラクターの違うドライバーが揃っているけれど、全員に共通しているのはマキネン代表を信じていることだ。彼は冷めた仕事だけのビジネスマンタイプじゃない。ラリーに情熱があり、いかにモチベーションを高めることが大切かを知っている。

あらためて言うよ。僕自身、この新しいスタートに興奮が冷めやらない。新しいチーム、新しいマシン、新しいコ・ドライバー。すべてが一新された。まず最初に優先すべきは、ドライビングを楽しむことだね。

幸い、過去のモンテカルロでは常に楽しめてきた。ただ正直いって、これほど自分自身が最適のタイミングに最適の環境(トヨタチーム)にいるという感覚は、初めてのものなんだ。すごく楽しみだよ」

このように、トミ・マキネン代表こそがトヨタチームの核であり、誰もが尊敬する存在であるからこそ、個性の違うドライバー同士が全員同じ方向に向いて仕事ができるのだと語っている。

トヨタにとっては、いよいよダブルタイトルを現実的に挑戦することとなる3年目。その開幕戦がどんなものになるか、注目が集まる。

©WRC

開幕戦のラリー・モンテカルロは、舗装路の“ターマック”と呼ばれる道だが、山岳路を走るコースを設定していることもあり、場所や時間、気温帯によって、乾いた路面であったり濡れて気温の低い路面であったり、雪道であったり、氷が表面を覆う路面であったりと、常に状況が変化する難しいラリーだ。

それだけに、ここで勝てるマシンかどうかは、総合力に優れたマシンかどうかを見極める判断となる。トヨタのヤリスが、どれだけのポテンシャルを秘めているかを測るには絶好の舞台といえよう。

ラリー・モンテカルロの初日は、モナコのカジノ前で行われるセレモニーを終えてから、現地時間の24日19時38分よりSS1がスタート。その後20時41分よりSS2がスタートする。

いきなりの夜間ラリーでスタートとなるため、クラッシュやトラブルなども発生する。果たして、2019年シーズンはどんな形でスタートするのか。SS1は日本時間で25日午前3時38分スタートとなる。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>