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川口能活、アジアカップ伝説のPKを語る。2本の神セーブを生んだ意識<アジアカップ開幕特集>

ついに開幕した「サッカーAFCアジアカップ2019UAE」。

森保一監督率いる新生日本代表のグループリーグ初戦となるトルクメニスタン戦は、日本時間の1月9日(水)夜8時よりキックオフとなる。

日本は同大会最多4度の優勝を誇るものの、2015年に行われた前回大会はまさかのベスト8敗退。苦杯をなめる結果となってしまった。今大会でアジア王座の奪還なるか、注目だ。

◆4年に一度の決戦、アジアカップ

AFCアジアカップは言わずもがな、4年に一度開催されるアジアNo.1を決める大会。

日本をはじめ「アジアでは負けられない」と臨む強豪国、また強豪国を倒さんと意気込む中東・東アジアの各国がまさにしのぎを削り、これまでワールドカップ以上の盛り上がり、そして数々の歴史的名勝負を生んできた。

なかでもサッカーファンの記憶に強烈に残る一戦が、2004年に行われた中国大会の準々決勝、“日本×ヨルダン”の戦いだ。

日本とヨルダン、開催地である中国に近い位置にあるのは当然日本であるが、この試合、いや、この大会を通じて日本は、“壮絶なアウェー”のなか試合を戦うこととなった。

◆2004年夏、中国での異様な状況

2004年の夏、中国国内では、尖閣諸島をめぐる問題などにより猛烈な“反日運動”が起きていた。その影響が、アジアカップを戦っていた日本代表にも及ぶことになる。

日本国旗を燃やすなどスタジアムでの大騒ぎ、選手たちへの過剰なブーイング、さらに、応援しに来ていた日本人サポーターの乗るバスが暴徒化した中国国民に囲まれるという事態まで発生。

この異様で過酷な状況が、結果としてジーコ監督(当時)率いる日本代表の一体感を高めたという。当時の正ゴールキーパー、川口能活は振り返る。

©テレビ朝日

「この(サポーターにまで被害が及ぶ)状況について、当時サブ組だった三浦淳寛さんや藤田俊哉さん、松田直樹が、『日本のサポーターが酷いことをされている。俺たちがまとまらないでどうするんだ』と選手全員に呼びかけました」

こうして一体感をもって迎えた準々決勝ヨルダン戦。ここでも当然のように中国人が大挙し、スタジアムのほとんどがヨルダンを応援していた。

そんな一戦で川口は、日本サッカーの歴史に残るプレーをすることになる。

◆前代未聞のPK

試合は、“ホーム”の雰囲気を背にヨルダン優勢といえる展開に。

格上である日本に対し前半11分に先制点を決め、その後日本が追いつくも、1‐1の同点のまま延長戦へ突入。延長戦でも点が入らず、PK戦で決着を迎えることとなった。

このPK戦で、日本にとって不測の事態が起こる。

ヨルダンが2人目まで成功するなか、日本は1人目の中村俊輔、2人目の三都主アレサンドロが立て続けに失敗したのだ。2人とも左利きの選手である。

©テレビ朝日

原因は、120分の戦いを経て荒れてしまった芝生。ちょうど左利きの選手が蹴る際に軸足を置く位置の芝生がめくれるようになってしまっていた。

日本は、PKのキッカー5人のうち左利きの選手が4人の予定となっており、このままでは勝負にならないと判断したキャプテンの宮本恒靖は、前代未聞ともいえる要求を審判に打診する。PK戦途中でのエンド変更だ。

英語が堪能であった宮本は通訳なしでこの要求を通し、PKは3人目から逆のエンドで行われるという非常に珍しい展開となった。

とはいえ、蹴り直しまでは認められず、日本にとって不利であることは変わらない。もはや逆転は厳しいかと思えた状況のなか、このとき国際AマッチでのPK戦は初めてだったGK川口能活が覚醒する。

◆川口能活、あのスーパーセーブを語る

先攻の日本、3人目の福西崇史がやっと成功するが、両チーム3人終わってスコアはヨルダンリードの3-1。日本の4人目の中田浩二が失敗したら負け、そして中田が成功しても、ヨルダンの4人目が成功すれば負け…そんな絶体絶命の領域へと突入したPK戦。

ここで4人目の中田浩二は落ち着いて成功させ、さらにGK川口を熱く鼓舞した。川口が振り返る。

「浩二が鼓舞してくれた。これは、ものすごく助けになりました。『よっちゃん!』って言うんですよ。『よっちゃん、よっちゃん!ココ(気持ち)だ!ココ(気持ち)だ!』って。これは本当に勇気づけられました」

©テレビ朝日

そして、ヨルダンの4人目。川口が止めなければ、日本は敗戦となる。川口は、このときの自分についても語る。

「ここから変わりました。それまではどこかPKに入り切れていない自分がいた。(VTRを見てみると)このときから顔つきが変わってる。“止める”ということしか頭になくて、まわりの音というのが聞こえてないくらい集中してました。もう、ボールしか見てない、無の状態。“無心”ではないです、“無”です」

そのようなゾーンに入ったとき、視界には何が映っているのか。川口は続ける。

「まず、ボールしか見えていない。相手の動きが目に入らない。相手のキックのモーションに惑わされて逆を取られたり反応が遅れたりしますが、それが一切目に入らない。絶対に反応で止める、ヤマをはったら決められる、ボールを見て反応するしかない…そういう思いでゴールマウスに立っていました」

©テレビ朝日

ヨルダンの4人目、川口は見事止めた。(川口から見て)右に飛んできたボールを左手で上にはじき、それがゴールバーに当たるという決死のセーブ。ボールだけに集中していたということが如実に伝わってくるこのスーパーセーブが、日本の流れを変えた。

5人目、日本の鈴木隆行が成功し3‐3に追いつくと、後攻ヨルダンの5人目がゴール右へ外し失敗。PK戦はサドンデスへと突入する。

◆川口、森保ジャパンへ「圧倒してほしい」

サドンデス、再度“絶体絶命”が訪れる。先攻日本の6人目である中澤佑二が止められ、ヨルダンの6人目に決められたら負けという状況になったのだ。

川口はこの6人目について、「このときもボールしか目に入らなかった。だから、ボールにしか反応していない」と振り返る。

その言葉通り、ヨルダン選手が猛スピードで(川口から見て)左側に蹴ってきた全力のシュートを、川口は4人目と同じく片手ではじきゴールバーに当て止めた。

©テレビ朝日

そして7人目、日本はキャプテン宮本が成功し、ヨルダン7人目がゴールポストに当て失敗。日本は絶体絶命の状況を覆し、4PK3で勝利をおさめた。

完全アウェーの重圧を撥ね退け史上稀に見る激戦に勝利した日本は、ヨルダン戦と同じく伝説の一戦に数えられる準決勝バーレーン戦、そして決勝の中国戦にも勝利。日本サッカー史上初となるアジアカップ連覇を成し遂げることとなった。

立役者のひとりである川口は、この2004年大会を振り返った後、現在の新生日本代表への思いも語っている。

©テレビ朝日

「現在の日本代表は、これまでの日本代表からさらに1ランク上のレベルに来ている。日本のスタイルで、チカラで、アジアを“圧倒”してほしい」

ロシアW杯ベスト16入りメンバー、リオ五輪世代、そして東京五輪世代ら若手メンバーの融合を実現させ、これまで5戦無敗の結果を残してきた森保ジャパン。今大会、川口の言うようにアジアを“圧倒”できるのか。一戦たりとも見逃せない。<制作:テレビ朝日サッカー>

※グループリーグ放送情報:「テレビ朝日開局60周年記念 AFCアジアカップ2019」
・対トルクメニスタン戦 1月9日(水)よる7時50分~
・対オマーン戦 1月13日(日)よる10時10分~
・対ウズベキスタン戦 1月17日(木)よる10時20分~
テレビ朝日系列、地上波にて生中継