「ホテルとはメディアである」ホテルプロデューサー・龍崎翔子氏が語る“新しいホテルの形”
2018年8月、クリエイターを目指すミレニアル世代を対象にオープンしたオンラインサロン「CREATOR’S BASE byテレビ朝日」。
この「CREATOR’S BASE」は、クリエイターを目指す若者を対象とした会員制コミュニティサービスで、各界で活躍する若手クリエイター陣によるセミナーイベントを軸に、「好き」を仕事にする方法や才能の育て方を発信している。
「CREATOR’S BASE」第8回として開かれたイベントでは、ホテルプロデューサー・龍崎翔子氏によるトークイベントが行われた。
龍崎氏は現役東大生でありながら、5つのホテルを経営するホテルプロデューサーとして活躍。
先日発表された「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2018」では、その手腕が評価されルーキー賞を受賞した。
そんな龍崎氏が自身のホテルプロデュース経験をもとに語った「社会を耕す働き方」のトークイベントの一部を公開する。
◆ホテル経営のきっかけは「幼少期のアメリカ旅行」
龍崎氏は両親を含む親戚のほとんどが教師で、ビジネスとは無縁の家庭だったという。
しかし、小学校2年生の時に体験した家族とのアメリカ横断ドライブがきっかけで「ホテルをつくりたい」と思うようになった。
「最終地点の“ホテル”が毎日楽しみだったのですが、どのホテルも客室のドアを開けた先に広がる景色が代わり映えしなくて…。自分だったら、もう少し代わり映えのある空間を作るのにと思いました」(龍崎氏)
代わり映えのないホテルを見ていくうちに、「どこに泊まっても、同じクオリティで泊まれる」という価値が、絶対的なものではなくなってきているのではないかと感じたという。
値段や立地など“定量的な違い”ではなく、世界観など“定性的な違い”を大事にしたい。地域の文化や魅力が反映されているホテルを作りたいと、夢を持つようになった。
◆ホテル=大きな箱ではない
大学生になっても「ホテルを経営したい」という思いは変わらず強かったが、 現実味がなかったという。
「大学生でお金もない中で、どうやって大きなビルを建てるのか?と悩んでいました」(龍崎氏)
そんな中、2014年に「Airbnb」が日本に上陸。京都にある実家の部屋の貸し出しを始めたことが、大きな転機になった。
「今まで、“大きな箱”がホテルらしさだと思っていたのですが、部屋とベッドがあって安心して宿泊できたら、ホテルの役割を果たしたと言えるのではないかと思うようになりました。自分の中のホテルの概念が、“ハード”から“ソフト”に変わりました」(龍崎氏)
コアでミニマムなところからホテルビジネスを始められることに気付き、可能性を感じた龍崎氏は北海道・富良野のペンションを購入し本格的に事業を開始した。
しかし、初めてホテルを運営していく中で、ノウハウとリソース不足の壁にぶち当たった。
「当時は母と2人で運営をしていて、サービスや食事を充実させようと思ってもリソースもノウハウもなく、運営の体制が整っていなくて…。設備もすごく古くて、宿泊者の方に泊まって良かったと思ってもらえる理由が全くありませんでした」(龍崎氏)
しかし、ホテルのレストランで意図せず設けた「無料でお酒を飲めるコーナー」が盛り上がったことで、偶発的に“旅のインサイト”を捉えることができたという。
「私が頑張って接客したわけでないのにも関わらず、ものすごく盛り上がっていて。“ゲスト同士の出会い”というポジティブな予定調和ではない出来事が生まれる空間が良いのだと思いました。旅に求められるのは『非日常』だという、インサイトを偶発的に捉えられました」(龍崎氏)
最初に思い描いていた街の空気をいかにホテルに反映させるかということだけではなく、商圏が広いホテルにしかできない、住んでいる世界の異なるゲスト同士の新たな出会いを生むことの重要性を感じた。
◆「ホテルは“メディア”的な空間」
この経験をもとに、2016年に京都にオープンした「HOTEL SHE, KYOTO」は「ソーシャルホテル」をコンセプトにし、“ゲストの出会い”をホテル側で意図的に仕掛けようとしたが、上手くいかなかった。
「京都は一日中観光できるので、そもそも人が帰ってこないんです。そういった環境下だと、ゲスト同士が出会いづらく、また無理して人と人との出会いをテーマにしても、お客さんの満足度が下がってしまうのではないかと思いました」(龍崎氏)
ただ、それでかえって、ホテルが果たせる新たな役割に気付くことができたという。
同ホテルが建てられた東九条は当初あまり治安が良いイメージがなかったが、ホテルができたことで人の出入りが増え、「町の雰囲気が明るくなった」と近隣の方に言われるようになったのだ。
「ホテルはポンプみたいに人を集める機能があるなと。人を集めて街に吐き出していく力を持っていて、街の風景を変えることができるのだなと実感しました」(龍崎氏)
この体験をもとに「街の風景を変える」ことを意識し、2017年には大阪の弁天町に「HOTEL SHE, OSAKA」をオープン。
弁天町を“レトロでおしゃれな街”として押し出していこうとホテル内にレコードプレーヤーを置いて、「アナログカルチャー」を取り入れた。
街のイメージを変えるとともに、宿泊客に新たなライフスタイルを提案できることを感じた。
「レコードプレーヤーは、若い人にとっては特に馴染みのないものだと思うのですが、そんな体験ハードルの高いものを“非日常”を求めるホテルに置くことで、お客さんは新しいライフスタイルを“試着”できる空間として活用できるのだなと感じました」(龍崎氏)
富良野、京都、大阪と3つのホテル経営を通して、龍崎氏の中で「ソーシャルホテルとは何か?」がはっきり体系化された。
「ホテルは、人が別のものに出会うための“メディア”的な空間だなと。大きく分けると人、街、文化の3つをゲストとつなぐ場所だなと思いました」(龍崎氏)
「ホテルはメディア」という独自の切り口のもと、“定性的な違い”で選ばれるホテルを今後も提案していくつもりだという。<制作:CREATOR’S BASE>
※『クリエイターズベース』次回イベント
「リアル体験にこだわる~メトロックから学ぶイベントの作り方~」
登壇者:ぴあ株式会社 ライブ・チケッティング事業局 新美勝太、テレビ朝日 舘智有里
日時:2019年1月15日(火)19:30~21:30(開場19:00)
『METROCK 2019』プロデューサーらが登壇し、音楽フェスの舞台裏を明かします!
詳しくは、『クリエイターズベース』の公式サイトまで。