トヨタ、 99年以来のタイトル獲得なるか 最終戦ラリー・オーストラリア開幕へ【WRC】
11月16日~18日、WRC(世界ラリー選手権)の第13戦「ラリー・オーストラリア」が開催される。全13戦の2018年シーズンも、ついに最後のラリーイベントとなる。
WRCラリーシーズン最後の地、オーストラリア。
オーストラリアの名物といえば、ウルル(世界で2番目に大きい一枚岩でエアーズロックと呼ばれていた)、スリーシスターズ(ブルーマウンテンズ国立公園にある900mを超える断崖絶壁)、グレート・オーシャン・ロード(十二使徒という名前がついた奇岩群が続く海岸沿いの道路)、グレートバリアリーフ(世界最大のサンゴ礁帯)といった名所、オーストラリアにしかいない有袋類であるカンガルーやコアラといった珍しい動物たち…。
そして、F1オーストラリアGPや世界四大テニス大会のひとつ全豪オープンといった、数々のスポーツイベントの開催だ。もちろん、ラリー・オーストラリアもそのなかに含まれる。
それ以外にもオーストラリアには珍しいものが多いのだが、ラリー・オーストラリア開催地であるコフスハーバー地域には、ちょっと面白い名物がある。
それが“Big Things Series”のひとつであるビッグバナナ。この“Big Things Series”とは、2005年から2007年頃にかけてオーストラリア郵便局が発行していた5枚組の切手で、ギター・ロブスター・バナナ・羊・パイナップルの建造物がそのシリーズを構成している。
そのなかのひとつ、ビッグバナナの建造物があるのが、コフスハーバーなのだ。ちなみにビッグバナナは、正式名称が「ザ・ビッグバナナ・ファンパーク」という豪華なローカル遊園地で、切手となったビッグバナナは、ファンパークの象徴となる建造物である。
話をラリーに戻すと、最終戦の注目はなんといっても、最後までもつれ込んだチャンピオン争いと、2017年にWRC復帰を果たしたトヨタにとって1999年以来となるマニュファクチュアラーズタイトル獲得がなるかだろう。
まずチャンピオン争いは、現在ランキング1位はフォードのセバスチャン・オジェで204ポイント、2位はヒュンダイのティエリー・ヌービルで201ポイント。まさに互角の勝負。そこへ3位でトヨタのオット・タナックが181ポイントで追う。タナックのチャンスは低いが、数字的にはまだ可能性が残っている状態だ。
そしてマニュファクチュアラーズタイトル争いでは、ランキング1位はトヨタで331ポイント、2位はヒュンダイで319ポイント、3位はフォードで306ポイント、4位はシトロエンで216ポイントとなっている。こちらはトヨタとヒュンダイの一騎打ちだが、フォードが最後に奪い取る可能性も十分にある。
そんな最終戦を前に、各ドライバーたちはどんな気持ちでいるのか。公式インタビューを受けたトップ3の声が届いている。
現在3位とまだ可能性の残るトヨタのタナックは、
「計算上ではまだチャンピオンの可能性はあるかもしれないけれど、それより、いまは自分たちのすべてを包み隠さずテーブルの上において勝負に挑むよ。実際のところ、ラリー・オーストラリアで注意すべきは自然だろうね。木々はとても高く、葉が鬱蒼と生い茂っている。その木々の間から強い日差しが木漏れ日のように差し込むのだけど、土埃が舞いやすい路面と重なって、視界に影響があり、そうしたことから、攻めて走るには非情に複雑なコースとなるんだ。それだけに、ペースノートの重要性がとても高い」
と、すべてを出し切って勝負することを語った。
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初のタイトルがかかるヒュンダイのヌービルは、
「僕には失うものはなにもない。何度も2位を味わった。だから本当に失うものはないんだ。オーストラリアは、いいラリーイベントだ。木々が生い茂っていて、経験も重要。路面は土埃が舞いやすいので、走行順番が悪いと路面の掃除役になってしまう。簡単ではないが、昨年勝てているので勝負できると思う」
と、挑戦者としてタイトルに挑むことを誓った。
◇
そして6度目のタイトルがかかるフォードのオジェは、
「僕は戦いの真っ只中にいる。そして勝ちたいと思っている。それは確かだ。ただそれと同時にラリー・オーストラリアは楽しむよ。本当にそう思っている。というのも、僕にとってプレッシャーというのは、常にそこにある存在だ。それこそ、僕のラリー人生のかなり早い段階からプレッシャーと共にあった。何度もチャンピオン争いをしているしね。それが証明している。僕はここで勝ちたいし、チャンピオンも獲得したい。と同時にリラックスしているんだ」
と、王者としての自信を感じさせるコメントを残した。
◆「ペースノート作りから大事なラリーとなる」
最終戦のラリー・オーストラリアは、24のSSからなるグラベル(未舗装路)ラリー。この会場について、ヒュンダイのアンドレアス・ミケルセンはこう語る。
「このラリー・オーストラリアは、まるでジャングルのような大自然の中を走るラリーだ。そして、僕たち欧州出身の人間にとっては、ホームランドからは本当に遠い地であって、ラリーだけではなく多くのことが楽しいイベントだ」
そしてトヨタのヤリ‐マティ・ラトバラは、今年のコースについてこう語った。
「今年はこれまでのコースを逆走する形で設定されているステージがある。単純なことだけど、それだけでペースノートはすべて見直さなければならないし、新たな挑戦だ。だから、ペースノート作りから大事なラリーとなる」
2人の声には出なかったが、ここラリー・オーストラリアは赤土のグラベルコース。一雨くれば、WRCの中でも最も厳しいマッド(泥んこ)ラリーとなる。ドライバーたちの多くがジャングルと例えるのは、雨が降ったあとの、まるで密林の中を走るかのような厳しい条件を知っているからだ。
さて、1月からスタートしたWRCシーズン。
最終戦の11月、まさに1年をかけて戦い続けてきた勝負の決着がここでつくことになる。果たして、チャンピオンは誰の手に渡るのか。そして、トヨタは復帰2年目にして1999年以来のマニュファクチュアラーズタイトル獲得なるか。
注目のラリー・オーストラリアは、間もなくスタートだ。
なお、デイ1はSS1からSS8まで8つのステージを走る。現地スタート時間は金曜日の午前8時43分。時差は2時間と少ないため、日本時間では午前6時43分を予定している。
<文/モータージャーナリスト・田口浩次>