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伝説的王者、セバスチャン・ローブ44歳が歓喜の勝利【WRC:ラリー・スペイン最終結果】

現地時間の10月28日、WRC(世界ラリー選手権)第12戦ラリー・スペインの最終日が開催された。日曜日は合計4つのSSが行われ、その結果は以下の通りだ。

優勝はセバスチャン・ローブ(シトロエン)、2位は2秒9遅れでセバスチャン・オジェ(フォード)、3位は16秒5遅れでエルフィン・エバンス(フォード)、4位は17秒0遅れでティエリー・・ヌービル(ヒュンダイ)、5位は18秒6遅れでダニエル・ソルド(ヒュンダイ)、6位は1分3秒9遅れでオット・タナック(トヨタ)と続いた。

©WRC

過去9度(しかも2004年から2012年まで9年連続)のWRC王者に輝いた伝説的王者、セバスチャン・ローブ。

そのセンスはラリーだけではなくサーキットでも発揮され、2008年11月のF1シーズンオフに行われたバルセロナ合同テストにレッドブルから参加。この日のトップはトロ・ロッソをテストした佐藤琢磨の1分20秒763だったが、17名がテストしたこの日、ローブは8番手となる1分22秒003を記録。合同テストとはいえ、現役F1ドライバーたちに割っての8番手タイムは衝撃を与えた(実際にF1デビューも真剣に検討されたが、実現までは至らなかった)。

そんな人物が、今回優勝したセバスチャン・ローブだ。

©CitroenRacing

1974年2月26日フランス生まれの44歳。今年、ラリー・メキシコ、ラリー・フランス、そして今回のラリー・スペインの3戦だけスポット参戦することが発表され、話題を呼んでいた。なにしろ、2013年のラリー・フランスで引退したときの記録で、113戦出場78勝で勝率が69%を超えていた圧倒的王者。2008年にはシーズン15戦中11勝を挙げた。

引退後は世界ツーリングカー選手権やパリ・ダカールラリー、世界ラリークロス選手権などに出場している。また、2015年に一度だけWRCに復帰。開幕戦のラリー・モンテカルロだけ出場したが、マシン破損などから総合8位に終わっている。

©CitroenRacing

金曜日終了時点でトップはトヨタのラトバラ。2位に4秒7遅れでフォードのオジェ。誰もがこの2人に注目したが、関係者の多くは8秒0遅れで3位につけていたシトロエンのローブに注目していた。

なにしろローブはターマック(舗装路)において絶対的な速さを示し、しかも今回はWRCのなかで最も路面状態が良いラリー・スペイン。オジェもターマックを得意とすることは知られているが、オジェ以上にターマックで強いのはローブ。F1マシンでさえ乗りこなしたセンスに関係者は期待さえしていたのだった。

そして、その期待は現実になった。

SS15、いきなり2位に6秒1の差をつけてステージトップを獲得。暫定2位のオジェに6秒6、ラトバラには10秒6も引き離し、いきなり総合トップに躍り出た。

続くSS16もステージトップを獲得。ラトバラに4秒5、オジェに7秒5の差をつけ、さらにリードを広げた。SS17は現役王者のオジェが意地を見せてステージトップを獲得、最後のパワーステージとなるSS18ではトヨタのオット・タナックが意地を見せてステージトップを獲得した。しかし、総合では誰もローブを逆転することはできず、2013年以来のWRC勝利、通算79勝目を獲得することとなった。

◆セバスチャン・ローブ 会見コメント

©CitroenRacing

表彰式後の公式会見におけるローブのインタビューは以下の通り。

――我々は、もしあなたが再びWRC表彰台のトップに立ったら…と妄想しました。そしてそれは実現した。今現在はどんな気分ですか?

「気分は間違いなく最高だね。とくに最後は、オジェと僕、(タイム差が僅差で)どちらが勝つのか僕がゴールした時点では分からなかった。余計なプレッシャーを背負ったけど、最後の最後に勝った。現役を引退して6年(※フル参戦終了からの計算)経って、再び勝利するなんて驚きの感覚だ」

――今日のタイヤ選択について教えて下さい。過去の経験が生かされましたか?

「少しだけ生かす部分があったかもしれない。タイヤ選択は常に難しい。とくに今日のような変化の多いミックスコンディションではね。過去に同じタイヤを履いたDS3(※過去にテストしたWRC車両)でのチェックコメントを確認し、いくつか似たコンディションがあった。そこで、タイヤ温度が上がれば、多少の段差などがあっても大丈夫であることはわかっていた。だから、雨さえなければこれでいけると思った。

大事なのは雨が降らないこと。ただ、昨日も雨が降らない予想だったのに実際には降った。天気予報に関しては信じるのは難しかったね。だから、他のドライバーたちがハードタイヤを選択して僕たちがソフトタイヤの状態で雨が降ったら、負けてしまうなと。でも、僕たちは成し遂げた」

――どの辺りが限界でしたか?

「今日は大丈夫だった。僕は限界で走ったけど、マシンも自分もいい感触だった。ドライコンディションのときは、いい感じなんだ。だから昨日はずっと大変だったし、リズムが取れなかった。今日はスタート前から勝利に向けてプッシュするとモチベーションも高かった」

――最後のパワーステージゴール後の喜びようが凄かったですね。

「そりゃそうだよ。僕はずっとWRX(世界ラリークロス選手権)でも勝利できていなかったからね。WRCでは9年連続タイトルもあったけど、あれから6年も経った」

――今回の勝利によって新たなモチベーションを得て、また来年も挑戦する気持ちになりましたか?

「多分、イエスだね。僕はこの週末を本当に楽しんだ。再び勝利し、再び戦うことにね。間違いなく、ほかでは得られない感覚だよ。ただ、その一方で僕はなぜ自分自身で引退を決めたかも理解している。すべての時間をラリーに捧げる。それは現在の僕が望んでいることじゃない。例えそれがスポット参戦だとしてもね。僕のラリー経歴としては素晴らしいものだ。現役王者のオジェに2秒差をつけて勝利した。だから、来年のことを聞かれても、いまはまだ来年を考えることさえも早すぎるね」

このように公式会見で答えたローブ。

セバスチャン・オジェは来年フォードからシトロエンへ移籍することが決定しており、もしローブが来年も数戦だけスポット参戦するとなると、オジェに対しての悪影響も考えられる。

今年ローブのスポット参戦が実現したのも、新しいマシン規定となった2017年にシトロエンが予想外に不調となり、チームがローブにマシン開発を依頼したのがきっかけだ。経験豊富なオジェが参加する現状では、あまり出しゃばらない方が良いと判断したとしも不思議はない。

©CitroenRacing

一方、現役王者でありながら2位という結果に終わったフォードのオジェ。ローブがゴールした直後、マシンの屋根にまで上がって祝ったのはオジェだった。その真意を会見で聞かれ、オジェはこう答えた。

「あのとき、僕がどう感じていたのか…自分でもわからない。自然にシトロエンのマシンの屋根に上がったんだ。僕たちは彼らにものすごく敬意を払っていたし、素晴らしいファイトを楽しんだ。本当に自然に、とにかくこの瞬間を一緒に祝い、この瞬間を楽しみたいと思っていたんだ」と、最高の戦いを自然と祝っていたのだと語った。

◆トヨタ・ラトバラは、ドライビングミス

このように、ラリー・スペインは他に見ないドラマを生んだが、そのなかで悔しい結果となったのがトヨタのヤリ‐マティ・ラトバラだった。

©TOYOTA GAZOO Racing

暫定トップでスタートするも、SS15で逆転され、SS17では左前輪を左側のガードレールにぶつけるドライビングミス。これによって左前輪ホイールを痛め、タイヤはパンク状態のまま走行することになった。

結果、SS17はステージトップから48秒1遅れとなり、ラトバラのラリー・スペインは事実上ここで終了した。

SS17走行直後はステアリングに頭を当ててショックを隠しきれなかったラトバラ。その後公式インタビューのカメラに手を向けて遮りインタビューを断ると、そのままマシンで立ち去った。しかし、SS18走行後には気持ちを切り替えしっかりとコメントを残した。

「スポーツは素晴らしい。とくに今回の僕のように常に最高の戦いにいるときはね。マシンのパフォーマンスは素晴らしかった。それだけにチームには本当に申し訳ない。でも、コンマ1秒を本気で競っているなかでの僕のミスだったよ」と、SS17は自分のドライビングミスだったと素直に認めた。

前戦のラリー・グレートブリテンと今回のラリー・スペイン。どちらもラトバラは限界ギリギリの走りをトップ争いのなかで行った。そうした環境自体が、さらなる自信と成長につながったことは間違いない。それだけに、結果こそは残念だったが、最終戦、そして来年に向けてラトバラのさらなるステップアップを期待したい。

©CitroenRacing

こうしてラリー・スペインは終了した。

ドライバーズチャンピオンシップは、フォードのオジェがヒュンダイのヌービルを逆転。1位204ポイントとなった。2位ヌービルは201ポイント。3位トヨタのタナックで181ポイントと続く。

計算式としては、3位のタナックまで逆転の可能性はあるが、事実上、上位2人にチャンピオン争いは絞られた。オジェが6年連続タイトルを獲得するか、ヌービルが初戴冠を飾るか。注目が集まる。

一方マニュファクチュアラーズチャンピオンシップは、1位トヨタで331ポイント、2位ヒュンダイで319ポイント、3位フォードで306ポイント、4位シトロエンで216ポイントと続く。こちらはトヨタとヒュンダイの一騎打ちとなりそうだ。

WRCも、次はいよいよ最終戦。11月15~18日に行われるラリー・オーストラリアを残すのみだ。

オーストラリアの赤土の大地を走り、雨が降ればシーズン中最悪ともいえるマッド(泥んこ)ラリーとなる。泣いても笑ってもこれが今年の最後。果たしてドライバーズチャンピオンシップはどうなるのか。

トヨタは、WRC復帰2年目にしてマニュファクチュアラーズタイトルを獲得できるのか。最終戦も目が離せない。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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