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ヒュンダイのヌービル、2連勝!28歳同士の「血みどろの戦い」【世界ラリー(WRC)】

2017年のFIA世界ラリー選手権(WRC)、第5戦となる「ラリー・アルゼンチン」が4月27~30日に開催された。

©CitroenRacing/無断転載禁止

このラリー・アルゼンチンは、グラベル(未舗装路)中心のラリー。さらに、ラリー・メキシコほどではないが比較的高地を走ることもあり、ドライバーとマシン、そしてチーム全体の総合力が試されるイベントだ。

ラリー・アルゼンチンの戦いの場所となるアルゼンチン第2位の都市コルドバは、海岸線から約700km離れた内陸の都市。今シーズン、フォード・トヨタ・シトロエン・ヒュンダイと、参戦自動車メーカーが1勝ずつ挙げており、このラリー・アルゼンチンは今シーズンの今後を占う重要なイベントでもある。メディアもそう注目するなかで、ラリー・アルゼンチンはスタートした。

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初日は、木曜日に設けられたオープニングとしてのSS1。

ここでトップに立ったのは王者のセバスチャン・オジェ(フォード)だ。ただし、0秒9差に同じくフォードのエルフィン・エバンスとヒュンダイのダニ・ソルドがつけ、さらに1秒6差にティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)、2秒1差にトヨタのエース、ヤリ‐マティ・ラトバラと、金曜日から始まる本格的な戦いを前に接戦を感じさせるSS1となった。

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2日目の金曜日はS2からSS9までを走り、総合トップに立ったのは、フォードのエバンス。じつに2位に55秒7という大量リードを築く走りだった。SS2からSS7までの6つのSSで最速を取り、SS8も2位。SS9もトップから1秒9差の4位と、ラリー・アルゼンチン2日目を完全に支配した格好だ。

ほぼ完璧な日だったエバンス以外に目を向けると、SS3でトヨタのラトバラは、タイムこそ大きく影響はなかったがフロント部分のエアロパーツを一部失った。本人によれば、「当たった感覚はないが、多分岩にぶつけたのだろう」とのこと。SS4ではシトロエンに不運が襲った。クリス・ミークとクレイグ・ブリーン。ミークは車体を回転させるクラッシュ、ブリーンはギヤトラブルに見舞われ本領を発揮する前に戦線から脱落した。

「今日はチームにとっても素晴らしい1日だった。ただ、日曜日までまだまだタフな日が続く。今日のような調子を継続できるようにしたい」と、トップのエバンス。

「SS3でエアロパーツを一部失った後は、高速セクションで多少悪影響を感じたよ。また、SS8では6kmの時点でリヤタイヤがパンクしてしまい、交換するよりもそのまま走りきるほうがタイムロスが少ないと判断して走りきった。30秒ほど失ったが、タイヤ交換よりマシだ。今日の午後は散々だったが、まだ諦めない。明日はまた違う1日にしたい」と、途中3位まで浮上しつつSS8のトラブルで総合6位まで順位を落としたトヨタのラトバラ。

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迎えた3日目の土曜日、SS10からSS15までが行われた。

この日最初にファンが賞賛したのは、2日目に大クラッシュを演じたシトロエンのミークをサポートするメカニックたちだ。彼らは、車体がほぼ一新されるような修復を行い、見事3日目のラリーへと復帰させた。

ミークも、「チームには感謝しかない。マシンはほぼ完全に修復された。僕が自信を持ってドライビングできるかはわからないが、しっかり走りたい」とモチベーションを大いに高め、この日SS11とSS12で最速タイムを出し期待に応えた。

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さて、3日目のドラマは、同い年同士による激しいつばぜり合いだった

それを演じたのが、トップを走るエバンス(フォード)と、第4戦「ラリー・フランス」で今季初優勝をあげ波に乗っているヒュンダイのティエリー・ヌービル。

トップのエバンスはSS10とSS13こそヌービルを上回ったが、他はすべてヌービルが上回り、さらにSS14・SS15と最速を記録。これにより、3日目スタート前は1分0秒7差だったものが、SS15までを終えた時点で11秒5差まで一気に縮まった(ヌービルは総合2位へ浮上)。

2日目は完璧だったエバンスだったが、この日はSS11でゆっくりと空気が抜けていくスローパンクチャーと呼ばれるタイヤのパンク、さらにSS14ではマシンの重要なエアロパーツのひとつであるリヤディヒューザーを失うなど、致命的なトラブルこそなかったがタイムに影響が出てしまった。これにより、最終日は次世代を担う若手ドライバー2人の一騎打ちとなった

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「今日はマシンの調子が少しおかしく、オーバーステアが出ていた。残りSSは3つ。ヌービルに勝てるかと聞かれれば、“もちろん!”と答えるよ。僕は2位になるためにここへ来たわけじゃない。もしヌービルがトップを奪おうというのなら、彼は血みどろの戦いを僕に挑むくらいの気持ちでこないとならないだろうね」と気合が入るエバンス。

「明日は間違いなく厳しい戦いになる。でも、このタフな環境は僕達のマシンには合っていると思うから、僕達に勝利の女神が微笑むことを願いたいね。僕が思うに、僕達はいま良いリズムを刻んでいる。明日はどこまでリスクを背負うか、だろうね」と、最終日の大逆転に手ごたえを見せるヌービル。

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いよいよ迎えた最終日は、SS16からSS18が行われた。注目は、28歳同士の優勝をかけた争い。

スタート時トップはエバンス(フォード)、それを11秒5差で追う2位のヌービル(ヒュンダイ)。3位には26秒8差でオット・タナク(フォード)がつけているものの、優勝争いは完全に上位2人に絞られた。

勢いを見せたのはヌービルだ。SS16で差を9秒0差まで縮め、さらにSS17では一気に0秒6差まで縮めた。事実上イーブンな状態。これにより、最後のパワーステージが両者の雌雄を決する場となった。パワーステージはボーナスポイントが加算されるので、通常はトップ争いなどをしている場合は、総合結果を重視した無理をしない走りをするのだが、今回はどちらも譲れない。

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トップのエバンスは、過去3度表彰台に上がったことはあるが優勝未経験。ここでなんとしても初優勝を飾りたい。一方のヌービルは、前戦ラリー・フランスで今季初優勝を飾ったものの、じつは開幕戦と第2戦でも大いに勝利のチャンスがあったにも関わらず、自身のドライビングミスで勝利を逃している。ここはなんとしても2勝目を飾り、チームのためにもチャンピオンシップポイント争いに食い込みたいところだ。

まさに、前日のエバンスの言葉ではないが、「血みどろの戦い」は避けられない最終SSとなった。

そして、結果は……ヌービルがSSトップを快走。2位のエバンスは1秒3差で負けてしまい、総合1位も0秒7差で、最後の最後に大逆転を許してしまった

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これにより、1位は2連勝を飾ったヌービル(ヒュンダイ)、2位にエバンス(フォード)、3位タナク(フォード)、4位オジェ(フォード)、5位ラトバラ(トヨタ)と続いた。

「最後はすべてを出し切ったよ。正直、タイヤは最高の状態のものではなかった。でも、とにかく攻めた。たとえ勝利ができなかったとしても、いまのベストを尽くしたんだ。でも、後から走るエバンスの走りを見ている間は、いちばんシンドイ時間だったね」と、薄氷の勝利であることを語ったヌービル。

「今回は、あれだけあったマージンを削られ、勝利を奪われる気分を味わったよ…。この気分から立ち直るのは簡単じゃない。でも、次は必ずもっと強くなって勝負するよ。今回僕が負けたのは、自分自身のミスのせいだ。途中の橋でマシンをぶつけてしまった。あれがポイントだったと思う。今回のラリーから僕はもっと色々と学ばなければならないね」と、手に掴んでいたはずの初勝利を逃したエバンスは悔しさを隠さなかった。

ただ、ラリーを終えた2人はしっかりと堅い握手を交わし、まだまだこれからも続くであろう同い年同士の戦いが、さらに素晴らしいものになることを周囲に感じさせた

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トヨタは、ラトバラが5位、ユホ・ハンニネンが7位入賞を果たした

「今回はグラベル(未舗装路)ラリーを楽しめた。前回のグラベルだったラリー・メキシコから大きく進化を感じられた。それはすごく良いポイントだ。マシンの性能向上が感じられ、チームの向上も感じられるなかでチャンピオンシップを争えている。僕は継続性が大事だと思っているんだ。開幕戦のラリー・モンテカルロから継続して結果を残せていることに、大いに満足しているし、それをさらに継続したいと思う」と、ラトバラは事実上参戦1年目のトヨタの成長に大いなる手ごたえを感じている。

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WRCは第5戦を終えて、ドライバーズランキングは、102ポイントでフォードのオジェがトップ。2位には86ポイントでトヨタのラトバラ、3位には優勝とパワーステージ勝利というフルマーク30ポイントを獲得したヒュンダイのヌービルが84ポイントとラトバラの背後に迫った。

チーム同士のランキングとなるマニュファラクチャーズランキングは、162ポイントでフォードがリード。2位はヒュンダイで140ポイント。3位にはトヨタが99ポイントで続き、4位シトロエンは今回ポイントを加算できず71ポイントのままだ。

◇◇◇

次戦は、舞台を再び欧州に戻し、「ラリー・ポルトガル」が5月18日から21日にかけて行われる。

ここもグラベル(未舗装路)が中心のラリーで、SS数は19。どのチームも中盤で確実にポイントを稼ぎたいところだ。勝負をしかけつつリスクをどこまで取るか、そのあたりのチーム戦略にも注目が集まるラリーとなるだろう。

<文:田口浩次/モータージャーナリスト>

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