「絶対に真似するなと言われる投げ方」今井達也の投球が“革命”である理由 大谷翔平との“共通点”、山本由伸との“違い”
2025年のオフ、埼玉西武ライオンズからポスティングでのメジャー挑戦が決まった今井達也(27歳)。
その最大の特徴は、2025年シーズン全12球団の先発ピッチャー(※規定投球回到達者のみ)の中で最も速いストレートの平均球速にある。
しかし、その投球フォームは驚くほど力感がなく、手投げのようにも見える。なぜ、このフォームでこれほど速い球を投げられるのか。
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、唯一無二と言われる今井のピッチングを徹底取材。番組ナビゲーターの南原清隆が今井の投球の核心に迫るロングインタビューをおこなっている。
◆「気持ちはクローザー」楽しむことが疲れない秘訣
南原が西武の本拠地、ベルーナドームを訪れたのは、シーズン後半戦真っただ中だった2025年8月。練習中のキャッチボールを見ただけで驚きを隠せなかった。
「あんなに速いの? あのフォームであんなに出力出るのが信じられない。手投げみたいに見えちゃう」
さっそく今井本人に話を聞くと、自信に満ちた表情でこう返してきた。
「正しいところに力が入っていれば、力が入っていないように見える。でもちゃんと力は入っているので、出力はしっかり出るんですよ」
プロ9年目を迎えた2025年シーズン。今井は6月17日、松坂大輔が打ち立てた球団記録を塗り替える1試合17奪三振を達成。防御率もリーグ上位をキープし、2年連続で奪三振王のタイトルも狙える状況だった(2025年8月3日時点)。
南原:「登板する時は、何を拠り所にしてプレーしているんですか?」
今井:「僕は先発なんですけど、気持ちはクローザーというか、最初から長いイニングを投げようとはあまり思っていなくて。そっちのほうが投げていて楽しいんですよ。人間楽しいことをしていると疲れって忘れるじゃないですか」
南原:「でも楽しいことは一瞬で、あとは疲れるじゃないですか。攻撃の間とかどうやって過ごしているんですか?」
今井:「ベンチにいるときは野球にまったく関係ない話をしたりしていますね」
◆「昔はひどいフォーム」デビュー時からの大きな変化
そんな今井の唯一無二の投球フォームを探るべく、デビュー時と今年の映像を見比べてみた。まずはプロ2年目、ストレートの平均球速が146キロだった2018年のフォーム。
南原:「綺麗なフォームですね。どうですか?」
今井:「いま僕が練習していることからすると、ひどいですね(笑)」
南原:「ひどいというのは、よくこれでやってきたなっていうこと?」
今井:「そうですね。いまこの投げ方をしろって言われてもできないです」
続いて、ストレートの平均球速が150キロを超えた2025年のフォームを見てみる。
南原:「見ていて驚くんですよ。このフォームでよくこれだけ球速が出るなって。ご自身の中で何%くらいの出力?」
今井:「力は入れていますよ。でも無駄なところに力が入らないというか、ここに力を入れたい、張りを感じたいというところ以外にはまったく力が入っていなかったりします」
2つのフォームを比べてみると、その違いは明らかだった。2018年のフォームは力いっぱい腕を振り、ボールを放す時に体が大きく沈み込んでいた。さらに、投げ終わった時には体が1塁側へ大きく倒れている。
一方、2025年のフォームは力感なく腕を振り、ボールを放す時、体は真っ直ぐ立っていた。そして、投げ終わっても真っ直ぐ立ったままだ。
南原:「これ、小学生とかが見ていたら、『お前ちゃんとやれよ』って言われかねないような」
今井:「そうですね。日本の野球の教えが僕と反対のタイプの教え方なので、僕がタブーなんですよ。今井の真似するなって言われるんです。手投げだって言われるし、突っ立って投げるし、絶対に真似するなと言われる投げ方」
◆飛躍のきっかけになった「あし体」の理論
ではなぜ、タブーとも言われかねないフォームに至ったのか。
今井:「3年前から自主トレでお世話になっている方のところに行ってから、フォームが安定してきたんです。(体を)『こういう風に使う』と解釈するより、『こうやって使ったらダメ』って思ったほうがわかりやすいんですよね」
独自フォームへと変化したきっかけは、2023年の1月。ソフトボールの上野由岐子ら幾多のアスリートを指導してきたトレーナー・鴻江寿治氏が主催する合同合宿に参加したことだった。
そこで今井はこんな理論を学んだという。
「猫背はグラブを閉じて手を走らせる。反り腰はインステップさせて脚の力でパワーを生む」(鴻江)
鴻江氏が説く理論は、人間の体は2つのタイプに分類されるということ。腕から動く「うで体」と、脚から動く「あし体」。
そのうち今井の場合は「あし体」。基本姿勢は反り腰、動作の起点は脚、重心の位置はかかと。もう1つのタイプ「うで体」は、基本姿勢は猫背、動作の起点は腕、重心の位置はつま先だ。
今井:「僕はかかとと背中、背筋を使います。体を横から見て縦に2等分するとしたら、背中側しか使わないイメージです。胸側を使ったらダメなので」
南原:「完全に足から入るんですか?」
今井:「僕はめちゃくちゃそうですね」
南原:「ドジャースの山本由伸選手もそうですか?」
今井:「山本選手は『うで体』です。投げる前にグラブを体の前に突き出していますよね。そうやって入る時点で僕には無理なんです。手が遠くなるじゃないですか。山本選手は、腕からタイミングを取って投げているように見えます」
南原:「では、大谷翔平選手はどうですか?」
今井:「『あし体』ですね」
大谷の投球フォームを見てみると、確かに左足を後ろに踏み出すところから投球を始めていた。
今井:「大谷さんの真似をしちゃったら、日本人はほぼほぼ潰れます(笑)」
南原:「潰れるというのは?」
今井:「『うで体』の人が全部ダメになっちゃうんです」
南原:「マジですか…」
◆理想の構えは「つま先に体重が入ったら負け」
かかとや背中など、主に体の後ろ半分を使って投げているという今井。ここからは、あの力感のないフォームについて細かく探っていく。まずは構えについて。
南原:「どの立ち方が自分の中で理想ですか?」
今井:「試合中はあまりできないんですけど、僕の場合かかとや背筋に重心があるので、つま先立ちすると、少し後ろに反ってバランスを取ろうとするんです。そうするとちょうどかかとの上に頭がきて、軸を整えようとします」
南原:「緩い弓なりになるんですね」
今井:「そうです。それでバランスがとれて地面に足を落としたら、自然とかかとの上に頭があるので、その状態からセットポジションをスタートします」
南原:「ちょっと反っている感じですか? 反り腰ですよね?」
今井:「そうです。最初のセットポジションの重心の位置に戻って投げようとするので、最初が前かがみだと投げる時も前かがみになるんですよ。最初少し後ろに反った状態でスタートすれば、投げる時もそのまま投げられます。僕はつま先に体重が入ったら負けですね」
かかとの上に頭がくるように後ろに反って構えることで、力感がなくてもボールに力を伝えられるのだ。
◆常識を覆す「左手は使わない」「胸は早くバッターに見せる」
構えの続きは、その後の投球動作について。
南原:「左手の使い方ですけど、プロ入り当初の綺麗なフォームに比べると、いまは『ちょっとやる気あるの?』っていうぐらいに見えます」
デビューイヤーの2018年は体に引き付けるようにして左手を動かしていた。一方、2025年は左手に力感はなく、体から大きく離れたまま投げている。この左手の使い方に、いったいどんな意図があるのか。
今井:「左手を使うと左腕が体に近くなるので、上半身が前へ突っ込むように投げてしまうんですよ。よく『グローブを胸にもってこい』って言うじゃないですか。あれ、僕は絶対やっちゃいけないことなんです」
南原:「ええっ!? グローブを引きつけた反動で腕を出すって、よく言われることですよね?」
今井:「それは体の前半分を使って投げる『うで体』の人のやり方なんですよ。『あし体』の僕らは、胸を閉じたらダメなんです。むしろ、胸は早くバッター方向へ向けて開いてあげないと」
南原:「『絶対に胸は最後まで開かない』とか言われますけど」
今井:「猫背の『うで体』の選手は、横に体重移動しないといけないので、胸を見せてたらできないじゃないですか。でもそれを『あし体』の僕らがやってしまうと、体の前方に重心がいってしまうので、ダメなんですよ」
今井の場合、「グラブを持つ左手は使わない」という衝撃の事実。バッター方向へ早く胸を見せることで、よりボールにパワーが伝わるのだ。
◆「革命」とも言える身体管理。肘や肩に負担がかからない理由
ここで、南原がこんな疑問を投げかけた。
南原:「僕も同じタイプで反り腰なんですよ、腰、張るでしょ?」
今井:「張らないんですよ」
南原:「それが不思議なんです。腰にくるじゃないですか」
今井:「こないんですよ。僕らは体の構造的に右側の骨盤が落ちていて、左側が閉じている。フラットな状態がゼロだとしたら、骨盤が傾いているのはマイナス1。そこにもう1個マイナスしたらダメじゃないですか。最初からマイナスだから、開いてあげてやっとゼロになる、という風に考えています。
自分のマイナスをどうやったらプラマイゼロにして使ってあげられるか。プラス過ぎても負担がくるし、マイナス過ぎても負担がくるので、トータルがゼロになったら何もなかったことになる。だから負担がこないんですよ」
南原:「肘とか肩にも負担がこないんですか?」
今井:「こないですね。背中や肩の後ろが張ったりするのは、ずっと使っているところなのでありますけど、張る場所はだいたい一緒。下半身はほぼ張らないです」
南原:「下半身の反動をもらっているのに、張らないんですか?」
今井:「下半身で出力を出しているわけじゃなくて、出しているのは背筋なので」
南原:「足にはこないんですか? つったり張ったり」
今井:「あんまりないです」
南原:「革命だ。革命」
◆「びっくりするぐらいケガしないんです」
次々に飛び出した今井達也の唯一無二のピッチング理論。さらに、ボールの握り方にまでも秘密があった。
今井:「人差し指と中指でまっすぐ握るのがオーソドックスじゃないですか。僕はボールの真ん中を中指で抑えて、人差し指はほぼ使っていないんですよ。真っ直ぐも変化球も全部中指しか使ってないイメージです」
南原:「噓だ…それはいつから?」
今井:「自主トレに行ってから、3年ぐらい前ですね」
南原:「そんな人初めて聞いた。ずいぶん感覚が変わりました?」
今井:「全然違いますね。人間って小指に力を入れると、腹筋に力が入るようになってるんですよ。中指に力を入れると、背筋に力が入るようになる」
南原:「それでケガしなくなったんですか?」
今井:「本当にびっくりするぐらいケガしないんですよ。2024年は7回くらいまで120球~130球当たり前に投げていたんですけど、肩肘とか体、全然大丈夫なんです」
今井は背中に力を入れて投げるため、ボールを握るのは中指。体の仕組みを理解し、背筋を使えるように、ボールの握り方も工夫していた。
◆「誰かの人生を変えられたらいい」
今井:「僕がやっている理論は野球だけに当てはまるものじゃなくて、スポーツ全部、人間の動きそのものの理論です」
南原:「体を扱う部分に関しては全部っていうことですか? スポーツであろうが音楽であろうが」
今井:「はい。サッカー選手のディフェンスでも、足でいった方が速い人と、先に手を入れた方が速い人がいますよね。『うで体』の人と『あし体』の人では得意なことが違うんですよ」
南原:「試合中もそういうところを見ているんですか?」
今井:「相手バッターの素振りやタイミングの取り方・走り方を見れば、この人『うで体』だな、『あし体』だなとわかってくるので、迷ったら苦手なところに投げています」
南原:「すごい」
今井:「でも指導者が『うで体』の人だと、その人の当たり前は『うで体』の人の投げ方だから、『あし体』のタイプの選手には一生当てはまらないじゃないですか。指導者によって合う・合わないが出てきてしまう。その合わない人をどうしてあげようかっていう…。
うちの2軍に三浦大輝っていうピッチャーがいるんです。育成で入ってきて今年3年目なんですけど、去年、一昨年と全然ダメで、今年のオフから一緒に練習をやり始めて、僕の自主トレを見ていただいている方にも指導してもらったりしました。
本当に彼の人生は変わったなと思います。もちろん野球が上手くなったこともあるんですけど、人間的な成長をすごく感じて、僕はそれがすごく嬉しかったんですよ。そういう選手をもっとチームで増やしていけたらいいし、誰かの人生を変えられたらいいなとは思っています」
南原:「いい目標じゃないですか。ちょっと僕の人生も変わりましたよ」
今井:「本当ですか(笑)」
南原:「キャッチボール、中指でやってみます。今井選手もケガなく頑張ってください」
今井:「頑張ります!」
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)











