<行定勲監督最新作『楓』特別試写会レポート>監督が明かす、“もう一度観るとわかる”演出の秘密
本日12月19日(金)から全国での上映がスタートした行定勲監督の最新作『楓』。
公開に先駆け、12月12日(金)に東京・京橋エドグラン内で特別試写会が開催された。
試写会は、行定監督が約10年にわたって計7作品のブランドムービーを手がけてきたブライダルジュエリー専門店「銀座ダイヤモンドシライシ」が主催し、上映後には行定監督のアフタートークも行われた。聞き手は銀座ダイヤモンドシライシを運営する株式会社NEW ARTの川口玲奈氏(取締役 IT・マーケティング本部ブランドマネージャー)が務めている。
上映後、感動のあまり涙する観客の姿も見られるなか行われたアフタートークでは、映画の原案となったスピッツの名曲『楓』との関係性や、主演俳優たちの役作りに関するエピソード、さらには監督ならではのこだわりが詰まった演出の裏側などが明かされた。
1998年に発表されて以来、長年にわたって愛され続けてきたスピッツの名曲『楓』。同楽曲を原案として生まれた新たなラブストーリーが、行定監督の最新作『楓』だ。
主演を務めるのは福士蒼汰と福原遥。ほかに宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗(Travis Japan)らが物語の鍵を握る人物として出演する。
幸せな生活を送っている須永恵(福士蒼汰)と恋人の木下亜子(福原遥)。だが実は恵はすでに事故で亡くなっており、亜子の前に立っているのは双子の兄・須永涼だった。
真実を告げられないまま恵のフリをして生きる涼は、次第に明るく真っすぐな亜子に惹かれていく。一方で周囲は違和感を覚え始め、さらに亜子自身も打ち明けられない秘密を抱えていた——。
深い喪失感を抱えた2人が、互いに寄り添いながら再生していく姿を描く本作。スピッツの名曲『楓』の世界観をモチーフにした、視点によって見え方が変わる物語と、行定監督ならではの繊細な映像美が見どころとなっている。
◆スピッツ『楓』の“余白”から生まれた物語
特別試写会のアフタートークに登壇した行定監督は、まずは本作の脚本を読んだときの印象を次のように話した。
「真っ先に思い浮かんだのは『世界の中心で、愛をさけぶ』でした。誰かひとりを喪失する物語です。しかし、今作は失ったものを何かで補填するわけではなく、2人がどう立ち直っていくかという、不思議な話になっています」
物語の根幹にある楽曲『楓』について、行定監督は「草野(マサムネ)さんが書く歌詞は、決して押し付けがましくストーリーを想像させたり、テーマを与えたりするものではない」と分析する。
「非常に散文的で、バラバラになっているようなピースがある、余白だらけの歌詞なんです。しかし、なぜか受け取ると、それぞれの中に一つの世界観が浮かんでくる。抽象と具体を繰り返しているところも映画的で、その自由さをこの物語に活かせるといいなと思いました」
行定監督は「映画をただ作ればいいという話ではなく、最後に『楓』が流れるエンドロールで、観客の心の中で何かが一番変わってほしい」と述べ、楽曲があることで、喪失を経験した2人が「もう一度道を歩いて行こう」という希望につながる物語を目指したと語った。
◆「2人で恵の存在を作り上げてる」
本作では、物語の重要な要素として“双子”という設定がある。この設定が、“喪失からの再生”というテーマに深く関わっていると行定監督は明かす。
「この物語は、どうしても(福原演じる)亜子の話に見えがちですが、(福士演じる)涼自身も双子の兄弟を亡くした悲しみの中にいる。その視点で見ると、また心理が違って見えてきます」
撮影中には、主演の福士蒼汰と福原遥との会話の中で、非常に印象的な言葉があったそうだ。
「彼らが『2人で(いなくなった)恵の存在を作り上げてるんだよね』と言ったんです。それを聞いたとき、その通りだな、と。演じている側の感情として、いなくなった彼の存在を2人で成り立たせることで、なんとか立ち直る道を見つけようとしている。その切実さやひたむきさを、俳優たちがしっかり理解し、役を演じていたことがすごく良かった」
◆2度目の鑑賞で注目したい“こだわり”
観客から事前に寄せられた「もう一度観る際に注目すべきポイントは?」という質問に、監督は「見逃していることはないと思うけど」と笑いながら、細部に込めた演出について明かした。
「事故の後遺症で、亜子が斜視になっているシーンがあります。あれはCGで表現しているのですが、なるべくわからないように作りました。一瞬、表情が不思議に見えることで、彼女の葛藤が伝わるといいなと」
さらに、福士の演技にも細かい演出があったという。
「福士くんには“左利きのフリをする”という役を演じてもらいました。冒頭で納豆をかき混ぜるシーンがあるのですが、あえて少しうまくいっていないように、『箸がお椀から一瞬はみ出るようにやって』とお願いしたんです。それが難しいと言われましたが(笑)。そこは見てほしいですね」
◆「銀座ダイヤモンドシライシ」と描き続けたプロポーズ
行定監督は、銀座ダイヤモンドシライシのブランドムービーを約10年にわたり手がけ、これまで7作品を制作してきた。最初はダイヤモンドに興味がなかったものの、CM制作を通じて美しさを感じるようになったという。
CMでは一貫してプロポーズのシーンを描いてきたが、その表現は時代とともに変化させてきた。行定監督はこう語る。
「時代によってプロポーズの形は変わってもいいんじゃないか、という提案をしているつもりです。ステータスとしてではなく、日常の中で誰がダイヤモンドを持っていてもいい。大切なのは、どういう気持ちで渡すかという“感情”です」
汗だくで走り、1秒でも早く彼女に指輪を渡そうとする男性。寝ている彼女のそばに、手紙とともにそっとダイヤモンドを置く男性。特別なことはしなくても、自分たちらしい心地よさの中で想いを伝えるカップル。
行定監督は、ダイヤモンドがそこにあることで輝きを増す、登場人物たちの感情の機微を丁寧に描いてきた。
◆「ラブストーリーには障害が必要」
「ラブストーリーには障害が必要です」と話す行定監督。『楓』の2人が抱える「大切な人がいたからこそ踏み込めない」という障害もまた、映画の物語を深くしている。
直接的な言葉がなくても、観客の想像力に委ねることで、それぞれの愛の形が見えてくる。ブランドムービーで描いてきたテーマは、最新作『楓』にも通底しているようだ。
※映画情報:『楓』
2025年12月19日(金)より全国公開!
映画『楓』
出演:福士蒼汰 福原遥
宮沢氷魚 石井杏奈 宮近海斗
大塚寧々 加藤雅也
監督:行定勲
脚本:髙橋泉
原案・主題歌:スピッツ「楓」(Polydor Records)
音楽:Yaffle
プロデューサー:井手陽子 八尾香澄
製作:映画『楓』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース C&Iエンタテインメント
配給:東映 アスミック・エース
Ⓒ2025 映画『楓』製作委員会
公式サイト:https://kaede-movie.asmik-ace.co.jp
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