トヨタ、タナックがリタイアも…ラトバラは2位浮上【WRC:ラリー・グレートブリテンDAY3結果】
現地時間の10月6日、WRC(FIA世界ラリー選手権)第11戦「ラリー・グレートブリテン」のデイ3が開催された。
土曜日は合計9つのSSが行われ、その結果は以下の通りだ。
1位セバスチャン・オジェ(フォード)、2位は4秒4遅れでヤリ-マティ・ラトバラ(トヨタ)、3位は11秒8遅れでエサペッカ・ラッピ(トヨタ)、4位は13秒5遅れでクレイグ・ブリーン(シトロエン)、5位は34秒1遅れでマッズ・オストベルグ(シトロエン)、6位は36秒5遅れでアンドレアス・ミケルセン(ヒュンダイ)。
チャンピオンシップ争いに大きなドラマが展開する結果となった。
SS16まで着実にリードを築いていたトヨタのオット・タナック。しかし、コース上のくぼみにマシンを落とすと、その後突然車内に水蒸気が溢れ、水温情報の警報ランプが点灯し、すぐにマシンをコース外の安全な場所に止めた。
なんと、穴でマシンをぶつけた衝撃でラジエターが破損、冷却用の水がすべて吹き出してしまったのだ。
ラリー車だけでなく、一般的な乗用車も含め、自動車はエンジン内で燃料を燃焼し、その爆発力を回転エネルギーに変換して自動車を動かす源としている。
爆発を発生するときには当然大きな熱も生じるが、それはエンジン内にあるエンジンオイルによって冷却される。そのエンジンオイルなどを冷却する役目を果たすのがラジエターであり、冷却材として使用しているのがラジエター内の水だ。
人が扇風機の風を涼しく感じるのは、その風によって皮膚上の水分が乾燥するときに熱を奪うからである。すなわち“熱交換”が行われているのだ。
それと同じ理屈で、エンジン熱を奪って熱くなった水が、走行時に風が当たるマシンのフロントに設置されたラジエターを通る間に熱交換が行われ、水の温度が低下。再びエンジン内に送り込まれる。
つまり、ラジエターが物理的に破損して水がすべて放出されてしまうと、エンジンは冷却機能を持たないので、どんどん熱が上昇してエンジン自体を破損してしまう。それを避けるためにタナックはマシンを止めてチェックをし、その後の走行は難しいと判断したのだった。
残り3戦しかないチャンピオンシップにおいて、ここでのリタイアはあまりにも大きい後退だ。コース脇で座り込んだタナックの姿は、ショッキングな映像として全世界に流れた。
タナックはチームの公式リリースを通じて、以下のコメントを発表している。
「ラジエターに何らかのダメージを負い、ストップしなくてはなりませんでした。もし明日再出走できたとしたら、パワーステージで可能な限り多くのポイントを獲得したいのですが、きっと簡単ではないでしょう。なぜなら、パワーステージでは出走順が後方になるからです。それでも、失うものは何もないのでただ全力で挑むのみです」(タナック)
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これによって大きなチャンスを得たのは、現在チャンピオンシップ3位にいるフォードのオジェだ。
オジェは昨日「マシンは良いが、タイムが出ない」とラリー後にコメントしていたが、今日はSS10とSS15でステージトップを取るなど、確実に調子を上げ、ラトバラとラッピを抜いてSS15終了時点で総合2位に。SS16のタナックのトラブルがあると、スライドして総合トップに浮上した。
トップとなったオジェは、ラリー後のインタビューで「今日トップにいるのは少々驚きだよ。トップだったタナックには受け入れられないアクシデントだろう。彼はこの週末誰よりも速かったからね。僕たちはこの週末2位を目指すことにしていたけれど、彼の脱落によって、明日は勝利を目指すよ。ただ、ラトバラがすぐ後ろにいるので、大きなプレッシャーになる。トヨタのマシンは速いからね。以前はこうした状態では、同じマシンでの勝負だったけど、いまはマシンが違う。だからどうなるかな。一応、ラトバラに話をしたんだ。『マニュファクチュアラーズポイントは大事だよ』って。彼はもちろん、そんな話は聞いてくれなかったけどね(笑)」と、早くも最終日に向けて2位のラトバラと心理戦を始めたことを笑いながら明かした。
ラトバラは、SS16走行直後にタナックのリタイアを知ると、SS17ではステージトップに立ち、完全にギアが切り替わったようだ。
SS17ステージ後のインタビューでも「状況が変わった。タナックがリタイアしたことで、僕が勝利の鍵となったからだ。でも、僕たちは同時にマニュファクチュアラーズタイトルを争っている。だから無茶もできない。一番まずいのは、もしポイントが取れなかったらすべての勝利を失ってしまうことだ」と、勝利に向けて走りを切り替えながらも、同時にチームのための走りを忘れないことを誓った。
ラリー・グレートブリテンの最終日は、SS19からSS23までの5つのSSが行われる。そして今回は変則的にSS20がパワーステージとなり、パワーステージでのポイントはSS23まで走りきらないと加算されない。
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SS19は現地時間の7日の午前7時22分にスタート。日本時間では7日の午後3時22分スタートとなる。
ドライバーズチャンピオンシップ、マニュファクチュアラーズタイトルと共に大混戦となっている中、果たしてどんな結果が最後に生まれるのか。最終日も目が離せない。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>