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「4回転を入れればいいという時代ではなくなった」GPファイナル“勝負のポイント” 鍵山優真は「一番大きく変わってくる」

グランプリシリーズを勝ち抜いた“トップ6”による世界一決定戦『フィギュアスケートグランプリファイナル』が、12月4日(木)から名古屋で開催される。

日本勢は、男子シングルの鍵山優真、佐藤駿、女子シングルの坂本花織、千葉百音、中井亜美、渡辺倫果、ペアの三浦璃来/木原龍一が出場。男女シングルにとっては、来年2月のミラノ・コルティナ五輪代表の選考対象大会でもある大一番だ。

大会を放送するテレビ朝日では、解説者・町田樹とキャスター・松岡修造のスペシャル対談映像を配信中。グランプリファイナルの展望について語っている。

◆4回転は「跳ぶだけでは勝てない」時代

男子シングルは日本勢2人に加え、イリア・マリニン(アメリカ)、アダム・シャオ イム ファ(フランス)、ミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)、ダニエル・グラスル(イタリア)の外国勢4人が出場する。

そのなかでもっとも優勝に近いポジションにいるのは、グランプリファイナル3連覇の期待がかかる「4回転の神」ことイリア・マリニンだ。

写真:Imagn/ロイター/アフロ

松岡:「男子の試合を見ていて思っていたのですが、4回転ジャンプを跳べる選手はたくさんいても、思ったより点数が出ない。ただ単に4回転を跳ぶだけじゃなく、出来栄え点(GOE)をどれだけ稼げるかが大事だと感じました。その点、マリニン選手や鍵山選手は出来栄えが非常に高いイメージがあります」

町田:「4回転の種類をたくさん持っていて、プログラムにたくさん搭載すれば勝てるかというとそうではない。シリーズ6戦見ていると、4回転の回転不足を取られている選手が多いんですよね。そうなると、せっかく着氷してもマイナスになってしまう。やはりただ跳ぶだけじゃなくて、クオリティが求められる。4回転を入れればいいという時代ではなくなったとしみじみ感じています」

松岡:「今シーズンはオリンピックシーズンですし、確実に勝つことを考え、『ファイナルで全部出す』とマリニン選手は言っています。4回転アクセルも含めてすべての4回転ジャンプにチャレンジすると。これは見ものですね」

町田:「もちろんです。彼にもプライドがあるでしょうし、“クワッドゴット”と自他ともに言っているわけですから、その称号にふさわしい演技を見せるために、今シーズンも攻めてくると推測します。もう点数度外視でやってくるでしょうね。4回転もまだ回転不足が取られていますので、全種類挑戦してクリーンに成功させられたら、正真正銘のクワッドゴットとして世界にその名前が広がるんじゃないでしょうか」

◆外国勢の驚異的な挑戦

松岡:「ほかの外国勢はどうでしょうか?」

町田:「シャイドロフ選手は、昨シーズンの世界選手権でマリニン選手に次ぐ銀メダルを獲得しました。彼の強みは、マリニン選手と同じく高難度の4回転ジャンプをいくつも持っているところです。トリプルアクセル+シングルオイラー+4回転サルコーといった、マリニン選手でもやってないような大技もプログラムに組み込んでいます」

写真:アフロ

町田:「イタリアのグラスル選手も回転不足を取られる確率は高いですが、4回転ルッツや4回転ループなど、難しい4回転ジャンプをもっています。(オリンピックは)イタリア開催ですから、イタリア国民からの期待も大きいでしょう」

写真:Imagn/ロイター/アフロ

松岡:「そして、シャオ イム ファ選手。ちょうどフィンランド大会を見て、すごく嬉しかったんです。昨シーズン苦しんでいるところから、4回転ルッツ含めてどんどん跳んでいって、準優勝。ジャンプだけじゃなくて、彼のプログラムは、ショートの最後のポーズからフリーが始まったり、ストーリーも含めてすごく芸術的なのが、やっぱりフランス選手らしいなと思いました」

写真:日刊スポーツ/アフロ

町田:「ブノワ・リショーさんというフランスの振付師がいらっしゃるんですけれど、シャオ イム ファ選手は彼のミューズというか愛弟子なんです。リショーさんはクラシカルな作品などいろんなものを作るんですが、その中でもとりわけ“コンテンポラリースタイル”を得意としています。関節をカクカク動かしてみたり、いろんなジェスチャーがあったり、ちょっと現代的で、ともすれば解釈が難しい独創的な動きがプログラムにたくさん盛り込まれているので、そこも見どころですね」

◆佐藤駿「迷ったら跳べない」ポジティブの力

そんな強力な外国勢と対峙するのが日本の鍵山と佐藤。ジュニア時代から切磋琢磨してきた2人は、今シーズン、それぞれに大きな成長を遂げていた。

松岡:「まず佐藤駿選手。彼がジュニアグランプリファイナルで優勝したときにインタビューしたのですが、あの頃から思っていたのは、すごくシャイな方。自分をあまり出そうとしませんでした。でも変わりましたね。まずポジティブを出すようになりました。4回転に関しても『迷った時点で跳べないとわかった。すべてポジティブでいく』と。本当に称えたいですよ。よく掴んだなと」

町田:「本当に素晴らしい活躍です。やっぱりポジティブって大事ですよね。アスリートって『今日調子悪いな』とか『疲れているな』とか、ネガティブな不安要素がたくさん湧き出るんです。小さな不安でもそれが積み重なると、絶不調に陥ることもあるので、マインドをポジティブに維持することはものすごく大事だと思います」

写真:アフロ

松岡:「彼も急にそれができたというよりも、プレッシャーがあったり体調が悪くても、逃げずにやりきってきたことでポジティブを掴んだと思うんです。そして今シーズンは、4回転をより増やすのではなく、今の構成で勝負するという感覚でいるようです」

町田:「それがいいでしょうね。僕が佐藤選手のコーチでも同じ構成でいくと思います。彼は4回転ルッツという、アクセルを除けば最高難度の4回転を持っているわけで、それをほぼ100%の確率で着氷させているのはすごいことです。この構成でしっかりと手堅く、そして効率を高めることができれば、ライバルの鍵山選手の上に立てるかもしれない。ここのバトルはすごいことになると思います」

◆鍵山優真の真の強さ「完璧を目指さない」

松岡:「僕はこの6人の選手の中で、勝ち負け関係なくファイナルで一番大きく変わってくる選手は鍵山選手だと見ています。鍵山選手は昨シーズン、マリニン選手に勝つことを意識しすぎて自分を見失いました。だからこそ今シーズンは対自分という形で、北京五輪で銀メダルを取った自分を超えていこうと挑んできました。今までは完璧にやろうとして、ひとつでもミスしたら駄目だと思っていましたが、もうミスしても気にしないという思いで臨んできたんです。

でもフィンランド杯のとき、彼はネガティブな感情にどう対処すればいいかわからなくなっていました。ショートでジャンプをミスして3位に終わった後、フリーに気持ちを切り替えられなかったと言っていたんです。でも、僕はそれが彼の強さだと気づいたんですよ。『できる!』ってポジティブに思うことはできなくても、『自分はこういう弱さを持っているけど、この中で戦ってやろうじゃないか』と悔しさを受け入れたから、フリーで挽回するパワーになった」

町田:「確かにそうかもしれないですね。調子が悪いことや失敗も受け入れて、その状況の中で最善を尽くすマインドになれば、自分の期待や理想に溺れることがない。まず冷静になって、何をすれば一番良い結果が得られるか考える。それが一番大きいです。僕も競技者最後のほうでやっとそういう境地になりました」

松岡:「鍵山選手のコーチで五輪メダリストのカロリーナ・コストナー氏と話すことができたのですが、正直言って感極まってしまいましたよ。トリノ五輪で彼女は国中から注目されて旗手も務めましたが、完璧を目指そう、プレッシャーに勝たなきゃいけないと思い過ぎて、崩れたわけです。そんな彼女が鍵山選手に言ったことは、『完璧を目指しちゃ駄目だ。目指せば目指すほど遠のいていってしまう。大事なのは、今の自分をちゃんと受け入れて、ありのままを出していくこと。勝ち負けじゃない、ベストを尽くすことが人に訴えるし、結果よりもやってきたことをやろう』と」

写真:長田洋平/アフロスポーツ

松岡:「そして、トゥーランドットというフリーの曲もいいですよね。ロンドンに行って特別に作ったそうで、コストナーコーチは音楽を作りながら涙が止まらなかったと言っていました。オリンピックシーズンに向けて、鍵山選手にこれだけぴったりの楽曲はないとね。ジャンプがというよりも、彼の表現やスケートがピタッと音楽にはまってくんですよ、彼の生きざまも含めて。これは素晴らしいフリーだなと思います」

町田:「本当に鍵山選手の伸びやかでダイナミックなスケートに合う音楽ですよね。このプログラムはローリー・ニコルさんとコストナーさんが振り付けているんですが、過去彼らが振り付けた選手たちの面影があるんですよね」

松岡:「どういうところに出てきますか?」

町田:「最後のステップの途中でトントンって駆けるところは、浅田真央さんがやっていたようなセグメント。また、終わりのポジションはデニス・テンさんがカルーソでやっていました。ローリーさんがこれまで振付師としての長いキャリアで培ってきた動きのボキャブラリーが、ふんだんにこのプログラムに投影されているんじゃないかな。当然トゥーランドットを象徴するイナバウアーにも、2006年の荒川静香さんの面影がありますし、過去の先達たちの面影が透けて見えるようなプログラムという印象を受けています。

加えて音楽も、最後の4回転トウループ辺りで合唱が増えていってるんですよ。そういう意味では未完で、おそらくファイナルや全日本選手権、オリンピックのどこかで完成するでしょう。鍵山選手のパフォーマンスもまた、いろいろな失敗や反省を得ながらピースを1個1個はめていって、最後、目標とする舞台で完全なピースになるイメージがあるのではないかと推測しますし、そうであってほしいなと期待しています」

松岡:「グランプリファイナル、名古屋で迎えますけれど、ある意味今シーズンのファイナルはオリンピックです。だからこそこのグランプリファイナルは全員がチャレンジできる、すべてを出せる舞台。鍵山選手に関しては、もう迷いなく行ってほしい。何を掴むかを注目して見てもらいたいと思います」

※番組情報:『グランプリファイナル
◆テレビ朝日系列地上波
12月4日(木)よる11:15~ 男子ショート・ペアショート
12月5日(金)よる11:15~ 女子ショート・ペアフリー
12月6日(土)よる8:00~ 男女フリー
12月7日(日)よる11:15~ エキシビション

◆BS朝日
12月4日(木)午後4:25~ ジュニア男女ショート・ペアショート・男子ショート・アイスダンスリズム
12月5日(金)午後4:25~ ジュニア男女フリー・ペアフリー・女子ショート
12月6日(土)午後5:30~ アイスダンスフリー

◆テレ朝動画
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