「代表に呼ばれる資格なんてない」板倉滉、サッカー人生最大の屈辱。オランダ移籍に込めた覚悟
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、サッカー日本代表・板倉滉(28歳)を特集した。
カタールワールドカップ以降、日本代表のディフェンダーとして最長出場を続けている板倉。2026年ワールドカップの最終予選でも幾度となくチャンスの芽を摘み、史上最速での本大会出場に大きく貢献した。
そして今年8月、ドイツ・ボルシアMGからオランダ・アヤックスへと移籍。ワールドカップまで1年を切ったタイミングで3年間プレーしたドイツを離れ、新天地に移った理由は何だったのか。移籍を決意した並々ならぬ想いに迫った。
◆新天地オランダで過ごす成長の日々
ヨーロッパ屈指の大都市・オランダのアムステルダム。この町が彼の新天地だ。今年9月下旬、取材に訪れると、板倉は自転車に乗って颯爽と現れた。
「アムステルダムは車だと街中の移動が難しいんですよ。駐車場探したりするのも面倒くさいし、やっぱり自転車の国・オランダだから、街に馴染まないと」と笑顔を見せる。
現状の新たな住まいは、アムステルダムを一望できる高層ホテル。
「なかなか家が決まらなくて、ずっとホテル生活していますね。ここからアムステルダム全部見えるんじゃない? 綺麗ですよね」と話し、オランダでの生活を満喫している様子がうかがえた。
昨シーズンまで3年間プレーしたドイツに別れを告げ、今年8月、移籍先として選んだのはオランダのアヤックス。今年で創設125周年を迎え、リーグ優勝は最多36回。世界最高峰のヨーロッパチャンピオンズリーグ(CL)の常連で、過去4度も制覇している名門だ。
サポーターたちは板倉について、「ディフェンスリーダーになることを期待しています」「我々を優勝に導いてくれると期待しているよ」と大きな期待を寄せる。
板倉は、「ブンデスリーガで3年間戦って、チームの中での居心地も良かったし、試合にも絶対に出られる状況。でもまた新しい場所で新しい選手たちに認められる選手になることに、毎回自分の成長をすごく感じています」と充実感をにじませていた。
17年間アヤックスを取材してきた現地記者も、「板倉はヘディングがとても強いだけでなく、ビルドアップも得意。ボールの扱いが非常に上手です。守備も強い。彼は経験豊富なリーダーです。ディフェンス全体を指揮しています」と高く評価している。
◆「ワールドカップがずっと頭にある」
しかし、移籍に関してひとつの疑問がある。なぜ、今移籍を決断したのか。
ワールドカップまで1年を切ったなか、移籍は多くのリスクを伴う。
1つ目は、出場機会への懸念。確実に試合に出られるチームから、新たに認めてもらう必要がある新チームへ移籍することで、出場機会が減ってしまうのではないか。
2つ目は、リーグのレベル。ドイツ・ブンデスリーガは世界5大リーグのひとつとされている。高いレベルの環境にいたほうがいいのではないか。
いくつかのリスクがあるなかで、板倉は移籍を決断した理由をこう明かした。
「やっぱり常に代表で戦いたいという思いを持っているし、ワールドカップがずっと頭にあるので、そのための移籍だと思っている」
ワールドカップのための移籍。そのために、アヤックスを選んだという。「アヤックスは勝ちを求められるチームで、リーグで言ったら優勝だけを求められるから、それだけのプレッシャーと緊張感はもうすでに感じています」と語った。
板倉のいたドイツのボルシアMGは、ここ3年間は思ったような成績を出せず、苦しいシーズンを過ごしていた。一方、アヤックスは昨シーズンリーグ2位で、常に優勝争いが求められるチーム。このプレッシャーや緊張感の中でプレーする経験こそが、先を見据えるうえで大きなメリットになるという。
◆「間違いなく自分を強くする」チャンピオンズリーグの経験
さらに、オランダ移籍にはもうひとつの大きな理由があった。ヨーロッパチャンピオンズリーグの経験だ。
「今までチャンピオンズリーグを経験したことがない。チャンピオンズリーグはクラブチームの中で一番大きい大会。一番レベルの高い戦いというのは間違いない。やっぱりワールドカップが常に頭の中にあるので、さらに上を目指すとなった時に、こういうところを経験しないといけないなと思っていた。出ないといけないなって」(板倉)
ワールドカップのための成長は、チャンピオンズリーグを経験すること。オランダで常に優勝を争うアヤックスだからこそ、この大舞台に出場できる可能性が高いと感じていた。
つづけて板倉はこうも語る。
「チャンピオンズリーグが入ってくることによって、過密日程になるじゃないですか。試合・リカバリー、試合・リカバリーっていうのがずっと続いていく」
昨シーズンの試合数を比べてみると、ボルシアMGがリーグ戦・カップ戦など合わせて年間計36試合だったのに対し、アヤックスの試合数は年間計54試合。その差はじつに18試合。リーグの順位によって大きく試合数が変わってくる。
「このスケジュール感は間違いなく自分を強くするし、身体もメンタルもタフになる。それはもう間違いなくすでに感じているし、これを1年間続けた時に間違いなくタフになっているという感覚はある」と手ごたえを感じている。
そして9月。板倉は念願のチャンピオンズリーグデビューを果たす。「整列してあのアンセム流れた時、『ああ聞けた』って思いましたね」と喜びを噛みしめた。
試合では、前回大会準優勝のインテル(イタリア)からボールを奪い、そのまま駆け上がってチャンスを演出。身体を張ったディフェンスも見せた。チームは敗れたものの、移籍の目的のひとつを果たした。
「去年準優勝のチームと初戦から戦って、試合の強度は高いなと感じて、『こういうのを求めてきたんだな』って思いました。もちろん負けたのは悔しいし、課題はたくさん残るんですけど、そういう試合を戦っていくことが大事。チャンピオンズリーグやタイトル争いを経験するのは自分にとって必要なこと。それを求めてきているって感じですね」(板倉)
◆「代表に呼ばれる資格なんかない」忘れられない屈辱
およそ1年前、板倉は取材でこんな言葉を残していた。
「やっぱりもっと成長しないといけないなと強く思ったし、あんなプレーしているようじゃ代表に呼ばれる資格なんかない。今までで一番悔しい試合」
それは、2024年2月のアジアカップ準々決勝イラン戦。1対1の同点で迎えた後半終了間際、板倉がペナルティーエリア内でファウルを犯し、PKを与えてしまった。イランがこのPKを決め、日本代表はまさかのベスト8敗退。
試合終了後、板倉は静かにピッチを後にした。
「本当に自分のせいだって今でも思うし、それをあの大舞台でやるのは、自分の実力だと思った。今も忘れちゃいけないし、忘れることはないです。だからこそ、大事な時に自分がチームを救うことができるようにならないといけない」(板倉)
大舞台での挫折が、日本代表への想いを強くしていた。
その悔しさを糧に、新天地でさらなる成長を遂げようとしている。すべては、ワールドカップで最高の景色を見るために。
「アジアカップも含めチームに迷惑をかけたあの経験があったからこそ、僕個人としても間違いなく成長はしていると思う。本当に優勝を目指したいなと思うし、今の自分たちならいけるなと思っています。オランダでタフに戦った1年後が楽しみ。そこにワールドカップが待っているんで」(板倉)
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)