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ドラマ『ヒモメン』、完結!―Tシャツ短パンの“ヒモ男”が教えてくれた大切な事

9月8日(土)に最終回が放送された土曜ナイトドラマ『ヒモメン』(テレビ朝日系、毎週土曜日23時15分~)。

©テレビ朝日

最終回について、そしてこのドラマがもたらしたものについて、小劇場特化型メディア「ゲキオシ!」編集長で、ブログなどでの独自のドラマレビューも人気を集めるライター・横川良明さんに寄稿してもらいました。

いや~。まさかこのドラマで泣かされる日が来るとは思わなかった。今までさんざん笑わされてきたけれど、最後はなんかグッと来てしまった。

どこからどう見てもダメダメなんだけど、これだけ周りが力を貸してくれるのは、翔ちゃん(窪田正孝)とゆり子(川口春奈)のカップルにほっとけない魅力があるから。おバカだけどハッピーなふたりの日常を通して、幸せな気持ちを分けてもらえる。そんな7週間だった、と改めて思った。

 

◆最後まで報われなさすぎ!不遇キャラ・池目先生に愛の拍手を

とりあえずは前回のレビューの訂正~。池目先生(勝地涼)が「いい感じのところまで追い上げてきた~」って騒いじゃったけど、すみません、全然追い上げていませんでした。

それどころかかすりもしてねえ。池目先生は最後の最後まで報われないまま。何ならラストシーンは、台詞の途中で切られてた。扱い雑すぎるだろ。でもそんなところまで池目先生らしくて、しばらく勝地涼にはあの花輪くんみたいな髪型のままでいてほしい。

©テレビ朝日

それにしても最終回の池目先生の活躍っぷりはすごかった。

いきなり出てきた最強ライバル・たっちゃん(渡辺大)の前では、池目先生はいなかったも同然。もはや当て馬にすらなってない。ゆり子の運命の相手が胸に七つの傷を持つ男ということで、「恋に破れて胸を痛めた数がちょうどそれぐらい」と名乗りを上げようとしたら、聡子(佐藤仁美)に途中でぶった切られてるし。もう完全にイケメン設定忘れられている。

だけど、そんな愛すべき不遇キャラ・池目先生がいたからこその最終回だった

ゆり子にフラれて傷心の翔ちゃんの前に現れ、胸ぐら掴んで「あ~、ムカつく。お前も、あの幼なじみも、お前にこんなこと言わなきゃいけない自分自身がムカつく」って、あれやだ池目先生カッコいい。

©テレビ朝日

思うに、翔ちゃん&池目先生っていうのはバディとしてはなかなか最高じゃないでしょうか。片や(一応)イケメンのエリート医師。片や無職のヒモ男。バディものはお互いのキャラが両極端であればあるほどいいという黄金の法則にのっとるなら、これ以上ない組み合わせ。このままスピンオフでもう少しふたりのあれやこれやが見ていたい。

行方がわからなくなった翔ちゃんの居場所をゆり子に教えてくれたのも、結局は池目先生だった。「この前、ドライブをしていて偶然見つけました」って絶対偶然じゃない。この変態のことだから、持ち前のストーカースキルを活かして、地の底まで探し回ったに違いない。

そんな躍起になってる池目先生を思うと、笑えるんだか泣けるんだか、おかしな気持ちになってくる。とりあえず池目先生は、幸せになるためにもLINEのアイコンを変えるところから始めてください。

そして、翔ちゃんとゆり子のために奔走してくれたのは池目先生だけじゃなかったところが、また最高だった

あんなにヒモを毛嫌いしていたこのみ(岡田結実)や、今までいいところがまるでなかったゲスな師長(YOU)までサポートしてくれて。

みんなの応援を受けて45階のスイートまで駆け上がる翔ちゃんに、名作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』でボロボロになりながらタワーを登るしんちゃんの姿が甦りました。

こういう一体感とか爽快感っていうのは、やっぱり連ドラならでは。7週かけて描いてきたキャラクターの魅力や関係性が結実した良シーンだったと思う。たっちゃんの台詞じゃないけれど、裏和野病院のチームワークに不覚にも感動させられた最終回でした。

 

◆翔ちゃんが教えてくれた、もっと「楽に生きようよ」ということ

©テレビ朝日

でも何を置いても語っておきたいのは、やっぱり翔ちゃんとゆり子のふたり。

結局翔ちゃんは何ひとつ成長していないし、何でこんなに働きたくないのかという背景は謎のままなんだけど、それでもふたりが幸せならまあいいかと思えちゃうんだから、ドラマの描き方としては大成功だったんじゃないだろうか。

クイズ対決のインチキがバレた翔ちゃんと池目先生に「謝って」と詰め寄りながら、ふたりがしぶしぶ謝った途端、「謝って済む問題じゃない!」ってキレるあたり、ゆり子は超面倒くせえ。でも、何につけてもまっすぐで、ある意味翔ちゃん以上にピュアだったゆり子がとっても可愛かった。

このバカップルを視聴者にきちんと受け入れてもらうには、ゆり子のさじ加減がすごく大事で。変なストレスを抱えることなく、ふたりを応援できたのは、川口春奈がゆり子の喜怒哀楽をイキイキと演じてくれたおかげだ

©テレビ朝日

翔ちゃんに対して怒るときはちゃんと怒る。そして幸せなときは思い切りラブラブになる。このスイッチの切り替えがすごく良くできていたので、ゆり子が可哀相にならずにすんだ。

そして窪田正孝は回を重ねるごとに、どんどん演技も自由になって。ウインクで合図する池目先生に対し、全然ウインクできていないところとか、視聴者にツッコませるスキがたっぷりで、そこがドラマの面白さになってるし、翔ちゃんの憎めなさにつながってるから、窪田正孝の役づくりは本当すごい。

実際のところどんなに自分を愛してくれるヒモよりも、多少性格に難があろうとちゃんと経済力がある人を選びたいのが本音。だけど不思議なことに、あの目尻にいっぱい皺の刻まれた翔ちゃんの笑顔にまた会いたくなっているから、これもう完全に窪田正孝の手の内にハマッてる

©テレビ朝日

また、バツ7のたっちゃんの遍歴を最終的には決して否定しなかったことも気持ち良かった。人はいろいろ失敗するし、傷つけることもある。だけど、それだけでその人のすべてが決まるわけじゃないし、やり直しがきかないわけでもない。あくまで「ゆり子への想い」の強さと深さで負けを認め身を引いた翔ちゃんが、翔ちゃんらしくて素敵だった。

ジェンダーの話題だったり、権力者の理不尽に関するニュースが今の日本には尽きなくて、自分らしく生きるってどういうことだろう、ということを、多くの人が考え直す時期に差しかかっている。

そんな中で、周りの目や常識にまるでとらわれず、自分らしさを貫き通した翔ちゃんは、爽快そのものだった。この『ヒモメン』はコメディとしてたくさんの人を楽しませながら、そうやってほんの少し僕たちの考え方を楽にしてくれたような気がする

©テレビ朝日

気を張りつめすぎなくていい。もっと楽に生きていこうよ。

何だかギスギスしっぱなしの現代社会で、翔ちゃんの生き方は、心をときほぐす人薬だった。頑張らなきゃって肩に力が入りすぎているとき、自分ばかりが犠牲を払っているみたいで不満いっぱいのとき、「楽して生きよう」という翔ちゃんのくしゃくしゃスマイルを思い出してみたい。

きっと幸せは無理して掴みに行くものではなく、いつだってすぐそばにあるのだ。そうTシャツに短パン姿の翔ちゃんが教えてくれた。<文/横川良明>

©テレビ朝日

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