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鍵山優真、競技18年目…親子で直面した大きな壁 父は葛藤「優真の良さを殺してしまった」

鍵山優真、競技18年目…親子で直面した大きな壁 父は葛藤「優真の良さを殺してしまった」

来年2月に開催されるミラノ・コルティナ五輪を控え、五輪シーズンの戦いが盛り上がりを見せているフィギュアスケート・グランプリシリーズ。

11月7日(金)開幕の第4戦日本大会(NHK杯)には、北京五輪銀メダリストの鍵山優真(22歳)が出場する。

コーチである父・正和さんと二人三脚で金メダルを目指す鍵山は、競技18年目にこれまでにない大きな試練に直面していた。

正和さんは今年7月、複雑な胸の内を明かしている。

「去年の彼を見ていると、自分自身すごく反省すべき点がある。本当にスケート好きでやってたのかなって思いが今となっては強いですね。技術を求めすぎるがゆえに、優真の良さを殺してしまった」

親子が直面していた大きな壁。そこには、指導者と父親としての深い迷いと葛藤があった。

◆父と子の18年「お父さんのぶんまでがんばりたい」

「もう早くただの親になりたいです。(もしただの親なら)2人でドライブ行ったり、グランピングやキャンプに行ったりもできる。(今までは)遊びに行くこともできませんでしたから」

親子関係をそう語った正和さん。かつて自身もフィギュアスケーターとして活躍し、2大会連続でオリンピックに出場した名選手だった。

その背中を追いかけるように、息子・優真も3歳からスケートを始め、自然とその魅力に取りつかれていった。

「お父さんに『やってみないか?』って言われて、滑って楽しかったから続けています。(お父さんには)たまに怒られちゃうけど、お父さんみたいになりたいです。世界中の誰よりも強くなって、オリンピックで活躍したい」(優真)

大きな夢を抱き、ジュニアの頃から実績を積み重ねた鍵山。成長の陰には、父が大切にしてきた基礎練習がある。

氷の上の図形をなぞるように滑る「コンパルソリー」。一見地味な練習だが、高い技術が求められる。

「フィギュアスケートの基本動作で、ジャンプやスピンにもつながってくる。トップであればあるほどやらないといけない技術です」(正和)

この基礎練習の積み重ねで、高いスケーティング技術を身に付けていった。

親子二人三脚で歩んだストイックな日々の中で、鍵山は16歳の時にこんな風に夢を語っていた。

「お父さんはオリンピックで表彰台には登れなかったですけど、僕が目標達成してお父さんのぶんまでがんばりたい。数人しか立てないような舞台で優勝することはとても難しいことですけど、オリンピックで優勝してお父さんにも喜んでもらいたい」

息子の夢が大きくなればなるほど、父は厳しく指導に当たった。

「親としてはつらいところもあるんですけど、彼の夢を叶えていくためには甘えてばかりではいけないので、俺も腹をくくらなきゃいけない」(正和)

そんな厳しい指導に息子も応える。

「技術的なことは調整できても、まだメンタル的な調整は自分だけでは難しい。そこは父がいてくれて本当に良かった。ありがたいなと思います」(優真)

たくましく成長した鍵山は、シニアに舞台を移したあとも、父との基礎練習の成果である美しいジャンプとスケーティングで躍動。北京五輪では、日本男子最年少となる18歳で銀メダルを獲得し、父も果たせなかった五輪の表彰台に立った。

◆試練のシーズンで直面した焦り

しかし、そんな親子の前に脅威の存在が現れる。

人類史上初めて4回転アクセルに成功した、アメリカのイリア・マリニン。2023年のグランプリファイナルでは、鍵山より2つ年下ながら圧倒的な差をつけて頂点に立った。

新たなライバルについて、鍵山は「すごく大きな壁になってくるけど、僕も決して負けるわけにはいかない。4回転ももっと増やして互角に戦えるぐらいの力をつけていきたい」と闘志を燃やした。

正和さんも「(4回転増やすのは)必須だと思いますね。追いかけるのではなくて、横に並ぶことを考えると必須です。出遅れは否めないです」と気を引き締めた。

その翌シーズン、鍵山は4回転ジャンプを増やした高難度のプログラムに取り組むようになっていた。さらに、プログラムにはまだ入れていない大技・4回転ルッツへの挑戦もはじめていた。すべては、打倒マリニンのために。

ある日の練習後には、こんな本音を漏らした。

「あらためて自分にしかできないことは何だろうと考えた時、パッと思いつかなくて。マリニン選手にはアクロバティックな技や4回転があるけれど、自分には何かできるのか思いつかなかった。今はそれを見つけようと必死にがんばっています。(マリニンは)唯一無二のスケートをしているけど、自分はまだそういう唯一無二のスケートができていないから」(優真)

唯一無二の武器が自分にはない――。焦りを感じていた。

葛藤を抱えながら挑んだ昨シーズン。グランプリシリーズ2戦目となったフィンランド大会では、4回転ジャンプを3種類4本も組み込んだ自身過去最高難度のプログラムで挑んだ。

しかし、新しく増やした4回転フリップでミスが出ると、立て続けにジャンプを失敗し、今までにないほどの大崩れ。

その後も、シーズンを通して調子は上がらず、グランプリファイナルでマリニンと再び対峙するも、差を縮めることはできなかった。

「マリニン選手に『勝ちたい』と思いすぎたり、『マリニンが4回転たくさんやるから自分も早くルッツまでやらなきゃ』と思いすぎたり、自分と向き合うことができなくなってしまいました」(優真)

「プレッシャーを与えすぎたのかな。マリニン選手を見過ぎていた部分があって、優真の良さを活かす努力をまったくしなかったというか、できていなかった。技術を求めすぎるがゆえに、彼の良さも殺してしまっていた」(正和)

競技18年目にして、親子が最も苦しんだ試練の時だった。

◆あらためて気づいた“唯一無二の武器”

シーズンが終わった今年の春。今までの親子関係にはなかった特別な経験をした。

「国別対抗戦が終わって、そのまま軽井沢に行きました。スケート以外で旅行したことがなかったのですが、優真に『どう?』って聞いたら『行く』って」(正和)

親子2人水入らずで初めての旅行。スケートリンクを離れ、かけがえのない時間を過ごした。

「楽しかったですよ。スケートの話はほとんどしないですね。牧場で動物と触れ合って、ソフトクリームも食べて、満喫してきました」(正和)

すると、旅行を終えた父の心境にある変化が起こる。

「軽井沢から帰ってきた時に、少し話をしました。優真は今シーズンに向けて4回転ルッツを入れる予定でノートに書いて見せてくれたんですけど、軽井沢に行ったおかげなのか、『そこじゃないな』っていう思いがだんだん強くなってきて、とりあえず初心に帰ろうと思ったんです」(正和)

初心に帰ろうと伝えたのは、誰よりも息子の葛藤をわかっていたから。「唯一無二のスケートができていない」。本当にそうなのだろうか…。

正和さんはこう語る。

「いや、あいつは持ってますよ。誰にもできないものを持っています。スケーティングスキルの高さです」

鍵山優真の唯一無二の武器。それこそが、幼い頃から父との基礎練習で磨き上げてきたスケーティング技術。親子は初心に立ち返り、その大切さに気付かされた。

「昨シーズンが終わった時、自分の理想のスケーター像や目標をしっかり父と話し合いました。そこに対してどう練習し、どう過ごしていくかをやっていけたらいいと思います。今はいい関係性で、毎日ストレスなく練習できています」(優真)

いよいよ迎える2度目の五輪シーズン。世界のトップで戦う今だからこそ、原点に立ち返り、丁寧で美しいスケートを追求する。

そして目指すは、悲願の金メダル。

「北京が終わった時から次は金メダルしかないとずっと考えています。僕の目標でもあり、父の目標でもあると思うので、僕が夢を叶えたいです」(優真)

「彼が金メダルを望むのであれば、父親としてもコーチとしても一緒に目指す」(正和)

父と息子の遥かなる挑戦はミラノへと続く。

※放送情報:『フィギュアスケート・グランプリシリーズ2025』アメリカ大会
◆地上波
11月15日(土)深夜3:40~ 男子ショート・ペアショート、テレビ朝日(関東地区)
11月16日(日)午後1:55~ 女子ショート・男子フリー・ペアフリー、テレビ朝日系列
11月17日(月)午後1:55~ 女子フリー、テレビ朝日(関東地区)

◆テレ朝動画
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