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藤岡弘、地獄大使役の大杉漣さんに感謝。「からだをいたわれよ」というセリフに込めた思い

©テレビ朝日

俳優生命も危ぶまれる大事故から奇跡の復活を遂げ、アクションシーンでスタントを使わず、自らこなすアクション俳優として、テレビ『仮面ライダー』の主人公・本郷猛/仮面ライダー1号役で一躍人気スター俳優になった藤岡弘、さん。

俳優、タレント、武道家、声優、歌手、ナレーター、実業家、ボランティア活動など、幅広い分野で活躍中。2016年には映画『仮面ライダー1号』に主演。45年ぶりに本郷猛役を演じたことも話題に。

(C) 2016「仮面ライダー1号」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

◆世界の悲惨な現状を体験し、心もからだもボロボロだったが…

―仮面ライダー45周年記念映画『仮面ライダー1号』には企画から参加されていたそうですね―

「そうです。うれしかったですね。プロデューサーの方が、『是非やって下さい。僕も藤岡さんの映像を見て育ってきたので、今の藤岡さんの戦い方が見たいんです。そのかわりに企画から入って、自分の思うようにやっていいですから』って、そういうことまで言っていただいて…。表現者としては、心動かされました。

実を伴う経験を積み重ねていた僕としてはこんなチャンスを与えていただくことはもう二度とないだろうって。

45年ぶりにもう一回同じ主演をやるということ、それはものすごいプレッシャーですよ。みんなが失望してがっかりするか、良かったと思うか、どっちかでしょう?(笑)」

―そんなにイメージが変わってないと思いますが―

「いやあ、葛藤がありましたよ。一歩間違えれば、僕の後に登場した多くの後輩仮面ライダーたちを裏切ってしまうかもしれませんから、相当なプレッシャーだったですね。

おまけにそのときは、NHKの大河も決まっていたので、スケジュールも大丈夫なのかなって思いましたし…。いろんなことがありましたけど、石森プロのみなさんも楽しみにしてくれていると言うのを聞いて、皆さんへの恩返しだと思ってね」

―子供のときから見ていた世代にとっては懐かしさと愛、そして歴史を感じました―

「僕の思い出をどこかに入れたかったんですよ。自分の中で忘れることができない思い出と感謝の気持ちをね。ショッカーの皆さんにもずいぶんお世話になりました。自分が昔と同じように動いて、スタントを使わないでやれるだけやってみようと。

昔ショッカーをやっていて旧知の仲だった金田(治)ちゃんが監督だったから、同志と一緒に作るという感じで良かった。すごくやりやすかったですね」

―専用バイクの「サイクロン号」もパワーアップして「ネオサイクロン号」になりました―

「昔、バイクシーンでは大事故もありましたからね。映画の『ネオサイクロン号』は排気量の1800ccの大型バイクで、重量もかなりあったんですけど、45年前の放送当時の感覚よりもずっと軽い感じがしましたね」

―冒頭のアクションシーンからすごかったです―

「あれはこだわったんですよ。世界征服を企んだ悪の秘密結社・ショッカーを壊滅させてから半世紀近い歳月が流れたが、本郷猛(仮面ライダー1号)は世界各地でショッカーの残党と戦い続けている。長年に渡る激闘の日々で改造人間としてのボディに重篤なダメージが蓄積され、からだはボロボロで限界が近づいていることも知っているんですが、いきなり大勢の男たちから襲撃を受けて…というシーンなんですけど、実戦をあそこで見せたいなぁと思って。実は、僕は海外であれと似たような経験があるんですよね。

ボランティア活動をしたりして100カ国以上旅をしてきたんだけど、いろんな修羅場をくぐって来ましたから、生死をさまよったこともあったし…。

あと『藤岡弘、探検隊』で、中央アジア全土、南米全土、アフリカ全土まわったときとかね。色々な経験のなかで、嫌な思い出も結構あるし、現実は本当に怖い。自分の身は自分で守るしかない。それをちょっと冒頭のシーンで体現したんですよ。アクションの相手がプロの有段者ですごい連中だから全部できたんだけどね」

―戦いに身も心も傷つきながら歩んできた歴史が感じられてジーンときました―

「僕の歴史をあそこで見せたかったんです。あれが僕の歴史で、ここまでいろいろと人生の辛酸(しんさん)をなめて生きていて、実体験で世界の悲惨な状況を体験し、心もからだもボロボロなんですよ。

それでプロデューサーにこういう風にしたいとお願いしたら、監督もシナリオライターもわかってくれてね。だから、あそこは本当にリアルなその後の僕なんですよ。決して順風満帆ではなくて、いろいろな体験、経験を踏まえたものなんです」

―1996年に亡くなられた小林昭二さん(おやっさん)も登場して―

「おやっさんにはね、思い出があるんですよ。僕がまだ未熟だった頃に小林さんが『おい弘、ちょっと来い。ここはこうするんだよ』とか『ここはこうした方が良いからやってみろ』って耳元でささやくようにアドバイスをしてくれて、本当にすごくいい先輩だったんですよ。

ああいう熟練の良い先輩が、陰で未熟な僕を支えてくれて、一生懸命立ててくれた。それを忘れることができなくて、僕の感謝の思いを残したかったんです」

―愛を感じるシーンでした―

「そうですか。あとはショッカーをやってくれた方たちの思い出もあってね。大杉漣さんにも感謝です。大杉さん演じる地獄大使に『からだをいたわれよ』って僕が言う最後のシーンも好きでした。あれは僕の本当の思いです。皆さん、もう亡くなられた方が多かったので、それを思いながらあのセリフを言ったんですけど、まさか大杉漣さんがこんなに早く亡くなるとは思いませんでした。胸が痛いです。僕よりずっと若いのに…」

―本当に良い方でしたものね―

「そうですね。本当に良い人でした。心が本当に広い方だったんですよね。大好きな俳優さんでした」

※映画『仮面ライダー1号』
世界各地でショッカーの残党と戦い続けていた本郷猛(仮面ライダー1号)は、かつての師・立花藤兵衛(おやっさん)の孫娘が地獄大使を復活させるための生贄(いけにえ)としてショッカーの残党に狙われていることを知って帰国する。長年に渡る激闘の日々により、己の改造人間としてのボディに重篤なダメージが蓄積され、「限界」が近づいていると知りながら戦いに身を投じることに…。

ボランティア:1995年 ガーナ・ギニア 
(C)SANKIワールドワイド

◆世界各地の被災地や紛争地帯を訪れて

救援ボランティアとしても精力的に活動している藤岡さん。北海道南西沖地震発生時(1993年)には、水や冷凍寿司などの援助物資を持って奥尻島に駆けつけ、「仮面ライダーは実在した」という記事が新聞に掲載。東日本大震災の被災地にも米1トンを送るなどの支援活動を行い、世界各地の被災地や紛争地帯を訪れている。

―ボランティア活動はいつ頃からされているのですか?―

「『仮面ライダー』で本郷猛を演じていた当時、ロケや実演ショーなどで全国各地に行ったんですけど、スタッフと一緒に施設や小児病棟などを訪ねて、病気や障害を持った子どもたちを励ましてきました。子どもたちのヒーローとして、勇気を与えたいと思ったんです。

僕と会った途端、感動のあまり、それまで車椅子生活だった子どもが歩き出したということもありました。本当に多くの出会いと感動がありました」

―国内だけでなく世界各地に行かれていますね―

「世界中を旅して紛争地でのボランティアなどで修羅場を体験し、悲惨な戦場や難民、死にゆく子どもたち…慟哭するような辛い現実を目の当たりにしてきました。生命の危険を感じたことも一度や二度ではありません。

そんな体験を重ねていくなかで、ボランティア活動をすることへの信念と意義を見いだしてきました。そして自分の人生観や価値観がすべてひっくり返る経験をして痛感したのは、世界はサバイバルだということ。

自衛隊、消防隊、警察官、ボランティア…自分を犠牲にして、世のために尽力している人たちはみんなヒーローだと思います。自己犠牲の精神を持って命がけで活動しているその実体験が私の血となり肉となり骨となっているんです」

―現在の活動はどのように―

「今までの体験をふまえ、国境、民族、宗教、イデオロギーなどに関係なく、飢餓、紛争、災害のある所、難民のいる所、政治的、経済的に困難な状況下にある人々(孤児や被災者など)に対し、それら全ての垣根を越えて、支援ができればと、考えを巡らせています。

私には父から受け継いだ武士道精神という『心』と、これまでに習得してきた武道という『技』、そしてそれを実践するための『体』があります。この『心』『技』『体』をもって、私の出来ることをすることが、私に与えられた使命だと思っています。

世界各国の人々と友情を深め、映画や文化交流を通じて国と国との相互理解が深まっていくことを願っているんですけどね」

ボランティア:1995年 ガーナ・ギニア 
(C)SANKIワールドワイド

◆藤岡弘、こだわりのコーヒー道とは…

コーヒー好きで1日に5、6杯は飲むという藤岡さんだが、その抽出方法は独特。使用するのは自ら汲みに行くこともあるほど気に入っている富士山系の自然水。それを沸かしてフィルターを使用し、挽いたコーヒー豆の上から金属のポットに入れたお湯を一滴ずつ丁寧に注ぎ、一杯を抽出するのに数分かかる。

そして「ありがとう、ありがとう。おいしくなってくれ」と声をかけてから、抹茶のように茶せんでかきまわし、十分に空気を含ませるという独自の手法。藤岡さん自身が厳選し、焙煎まで監修したコーヒー「藤岡、珈琲」の販売も手掛けている。

―コーヒーの淹れ方が独特ですね―

「何でも僕はちょっと好きになると夢中になっちゃうんですよ。のめり込んでいくタイプだね。それが長所でもあって短所でもあるんですけどね。

救援物資を届けるために難民キャンプを訪れたとき、コーヒーを振る舞ってくれてね。それでコーヒーが人同士を結びつけることを実感してたどり着いた抽出方法なんです。何事にも感謝する気持ちを持って接すると、心も和やかになります。私自身が和やかになればコーヒーも和やかになるはずですからね」

―コーヒーに茶せんを用いるというのは珍しいですね―

「そうですね。母が茶道の師範をしていたことがあって、私は昔からお茶をたしなんでいたので、海外を訪れる際には茶器を持参してもてなしたりしていたんです。それで、ちょっとした遊び心でコーヒーを茶せんでたてて飲んでみたら、香りも際立つし、まろやかになって思いのほかおいしかったんですよ。

世界各国であたたかいおもてなしを受けていろんなコーヒーの味を知ったことで、自分が求める味がわかってきたということも大きいでしょうね。

『藤岡、珈琲』は、6000m級の山が連なるアンデス地域で獲れたもので、厳しい環境の中で生き抜いた生命力が強い豆を使っています。自分のために淹れるのも良いですが、相手のことを思いながら心をこめて淹れるというのも重要だと思います。やっぱり大切なのは心ですね」

―色々な活動をされていますが、今後の予定は?―

「まだまだ私の夢はいっぱいあります。ボランティア活動にしても全てそれがエネルギーとなって、自分の生きがいとなっているから外せないですね。

そしてハリウッドとの縁もまだ結構深いですし、今もいろんなオファーがあるので、何とか良い形になるように動いていますし、夢がある限りは戦い続けていきたい。映画人として、世界に共通する道徳を内包する武士道の本当のわび、さびを、実(じつ)をもって表現する。今まで表現されていない、日本文化の美しさを感動をもって感じていただける、世界に発信できる映画を表現、製作していきたいと思っています」

子どもの時にテレビで見ていたヒーローはやっぱりヒーローだった。何事にも真摯に取り組み、ブレずに侍道を貫き通す姿がカッコいい。(津島令子)

(C)2016「仮面ライダー1号」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

※DVD『仮面ライダー1号』発売:東映ビデオ
3,700円+税で発売中